犬吠埼紅葉は勇者である   作:仙儒

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続いちまったゼ☆


現状把握

 最初にやらかした感はあるけど、皆が歓迎してくれた。

 

 エヌルタの灰油と王律権ダムキナも使ったが、正直使う必要性を感じなかった。

 

 今回は、敵さんの数が多かったおかげか、初戦…、それもチュートリアル戦闘に近い形なのにも関わらず”痛哭の幻奏(フェイルノート)”(正確には、その原型)が使えたので良しとする。

 

 まさかのネギを片手に敵を切り捨てるとか頭の可笑しい光景を見せずに済んだ。

 

 マジであのネギ何なの?

 

 風の大剣よりも純粋なランクでは全然上で、オリジナルの干将・莫耶とタメ張れるとか色々とぶっ飛んだ性能を誇っているからな~。

 

 そもそも、宝具扱いになっている時点でおかしいんだけどさ……。

 

 本当なら、もっと高ランク宝具で一掃したいところだが、戦闘が始まる前に、その戦いが有利になる高ランク宝具1つ(その戦いごとに変化する)に加えて、敵の強さ+ワンランク上の宝具までしか使えない。

 

 相手のレベルに合わせるという中々な舐めプ仕様になっていたりする。

 

 乖離剣エアとか転生してから2回しか使えてないんだけど。

 

 そのどちらも全力である天の理バージョンではなく、地の理バージョンである。

 

 まぁ、それにおいては抑止力的な何かが関与しているのだと思う。

 

 詳しいことはわからないけど……。

 

 それは置いといて、

 

 いや~、戦いの後の園子ズと銀、夏凛の興奮度合いが凄まじかった。

 

 流石は勇者部が誇る脳筋武闘派集団である。女子力(物理)は伊達ではない。

 

 ……俺の知ってる女子力とは違うけど。

 

 その光景に苦笑いしている風と友奈。お前たちも大概脳筋だからな? と、思わずに言葉にしてしまいそうなのをグッとこらえる、俺紳士。

 

 

 その後、大赦本庁に招集され、春信(夏凛の兄)をパシリにした。

 

 こっちの世界では割かしおとなしめだけど、夏凛のことを聞いてくる辺りシスコンは健在であると言えよう。

 

 俺のいた世界だとシスコンを拗らせすぎてヤバい奴だったからな。

 

 夏凛からバレンタインに義理チョコ貰ったら、包丁片手に犬吠埼グループの警備部精鋭を倒して俺のとこまで来たのはマジで驚いた。

 

 返り討ちにしたけど。で、豚箱にぶち込まれたのを札束で積んで助けた。

 

 あれ? 何で被害者の俺が金だしてんの? と言う疑問は無視。

 

 一応、それらしい理由としては警備部精鋭たちが全員何故か無傷で気絶していただけだったのと、俺が起訴しなかったからだが。

 

 後日、夏凛が土下座して謝ってきたのには流石の俺も焦った。

 

 次の日から、廃人状態で「夏凛…、夏凛」と譫言を口にしているとの目撃情報が春信ラブの人物から、聞いてもいないのに届けられた。

 その後、余りにも、春信ラブ(安芸)がうるさいため、渋々夏凛と春信の仲を取り持ったんだよな。

 

 ……、春信が暴走する原因を知っているために静観できなかったと言うのも大きな一因だ。

 

 夏凛と春信の両親は基本、夏凛に興味が無く、それよりも大赦で出世街道をアクセルベタ踏みで爆走しまくる春信のみを見ていた。より正確には春信の座っている椅子を見ていた訳だが。権力に目がくらむを体現したような状態であった。

 

 それには春信自身も気が付いてはいたが、昔はそんなことは無かったと言うのと、春信が義理堅い性格をしているからと言うので良好な関係が成り立っていた。

 春信に捨てられないようにごますりとご機嫌取りをしているのだから当然と言えるが。結果として、態々ご機嫌取りをする必要のない夏凛にはその皺寄せが行く。

 

 原作では誕生日を友達に祝って貰うと言う行為が初めてだと戸惑いながらも、どこか嬉しそうにしていたのが印象に残っている。ボッチ極めてるな、と失礼なこと思ったりしたが、まさか誕生日を祝ってもらうこと自体が初めての体験だったのを知った時は殴り込みに行こうかと本気で考えた。

 夏凛と出会ったのは偶々だったけど、原作よりもかなり早い段階で出会えたのは感謝してる。

 

 そりゃ捻くれもするよ。むしろ良くこの程度で済んだなと思う。

 

 春信は全力でぶん殴っといたけど。避けられているのはわかっていたし、距離感がつかめないと泣き言もらすとか、シスコンの風上にも置けない。

 

 全力で殴り合い(おはなし)した結果、色々と吹っ切れて変態にグレードアップしてしまったのはこの際置いておく。

 

 問題は、どこからかそれを二人の両親が聞きつけたらしく俺にもごますりを始めたことだ。

 

 酷い言い方をするならば、夏凛をプレゼントすると言う方向で話を持ち掛けてきた。

 

 今まで見向きもしなかったくせに、原石になりえると掌を返したのだ。

 

 俺は、大赦トップを張る御三家の一つ。犬吠埼家の長男。大赦の中での地位は不動のもの。加えて、四国の経済を支える犬吠埼グループの長としての地位もある。

 

 夏凛が俺に嫁げば、両方に大きな影響力とコネを持つことができる。嫁がないまでも手付き…、つまり愛人になれば庇護下に入ることも夢ではない。

 

 そうなれば、そのコネで犬吠埼グループの重席に身を置くことも可能だと考えるだろう。

 

 ほぼ、Noリスクでハイリターン。末恐ろしいのは「愛人でも良いんじゃないかしら? 今時、結婚だけが愛の形では無いわ。それにあの娘、顔は良いし、将来美人になるのは間違い無し」を前面に出して俺に娘を売り込んでいることだ。

 

 何としても俺を逃さない執念を感じた。

 

 信じられるか? これ、実の親がやってるんだぜ?

 

 今時、三流ドラマでももっとましな台本書くぞと言いたくなる。

 

 それに、俺は身内びいきは多分にするが、無価値を重席に座らせる程甘くは無い。

 

 そこら辺、俺は驚くほどシビアだったりする。

 

 後先考えないなら全権力を使って徹底的に潰し、縁を切らせてから夏凛を犬吠埼家の次女として引き取る事も考えたが、どうあがいても春信巻き込まれるし。最終的に春信の下に戻って落ち着くのが目に見えているのでしないけど。

 

 俺の父さん達に、それとなく事情を説明して、夏凛がうなずけば引き取る事を約束させた。流石に、同情を禁じえなかったらしい。

 ただ、それについては父さんたちが比較的あっさり頷いたけど、樹と風がギャン泣きして大変だった。どうも、俺に捨てられると思ったらしい。何処をどう捉えたらその答えに辿り着くのか疑問だが、俺の言動に対しては二人の感情の振れ幅は両極端なのを思い出す。

 

 完全な余談ではあるが、偶々ギャン泣きを聞きつけた父さんが入って来て、「樹と風を捨てるような事をすれば、紅葉を捨てるから安心しなさい」と遠まわしに父さんはお前たち二人の味方だぞとアピールしたが、樹も風も言葉通りに捉えたらしく、「「お兄ちゃんを捨てちゃダメ!」」と俺を全力で庇い、暫くの間二人に相手にされなくて枕を濡らしたらしい。娘を持つお父さんは大変だ。

 

 

 

 

 思考の海から上がる。俺が居ないと言うことは、夏凛は原作状態であるということだ。…、取り敢えず、気にかけて置こう。

 

 だが、今は風と樹が優先だ。

 

 幾つか簡単な質問をして、現状の犬吠埼家の事を整理する。この世界の皆が俺のことを知らない様子からして、原作通りの普通の家柄かと思ったら、俺の居た世界と殆ど変わらないらしい。御三家で財界の柱。

 変な所で世界の修正力的な何かが全力で仕事しているのに舌打ちしたくなるが我慢だ。

 元居た世界では俺がいたから何の問題も無かったが、此方では風が長女で家長だ。そこら辺がどうなっているのかが気になる。

 

 どうやら、風と樹の現状は大赦が後ろ盾になっているらしい。思わずに「乃木家どうした!」と春信に掴みかかってしまったが、気にしてる暇は無い。

 

 必然的に犬吠埼グループの実権の殆どが、大赦が手にしている事となる。幾らそう遠くない内に大赦が組織として崩壊するのは知っていても、生き残りが実権を持ち逃げする可能性は大いにあるし、今まで後ろ盾になってやったんだから席を用意しろとたかりに来る事も十分にあり得る。

 

 ゆゆゆいの設定は一種の夢時空。

 

 結論から言うと、ここでどう頑張った所で、本当に変えてあげたい現実の二人の環境に何ら影響を与えられないことだ。

 それに一番腹が立つ。

 

 おそらく、現実にこちらで過ごした日々の記憶は持って帰れないのだろうから。

 

 ならば、せめてこの世界ではそんなしがらみは無くしてやれよ! 夢の中でも世知辛いとかそれ何て嫌がらせだ!

 

 とにかく、パシリは使ってこそのパシリだ。

 

 俺の精神安定上の都合で春信には胃を痛めて貰おう。犬吠埼の権力や財は無くなったが、勇者としての肩書は未だにある。

 その為、衣食住に困ることは無く、こちらの我儘は大抵通される。

 

 余りにもうるさいようだったら、王の財宝の中にあった秘蔵の胃薬に勇者部の現状報告と言う名目で、夏凛の写真でも送ればおそらく黙るだろう。

 

 今後の方針は勇者部のメンバーの相手をしつつ、ニートになることに決定。

 

 自重なんてシナイを座右の銘としよう。

 

 

 

 そう言えば、戦っている時に出てくる馬鹿でかい神樹見て思い付いたことがある。

 

 一種の夢時空であり、本来存在しないはずの俺を呼べたのだから、理論上できるはず。

 

 試して見るだけ試してみるか。

 

 王の財宝の中の幾つかの道具を使えるかどうかを確認して、無意識に唇が吊り上がる。

 別にできなきゃできないでしょうがない。ダメもとでチャレンジしてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が住む場所は大赦が用意した寮になるのだが、それを蹴って合宿という名のご褒美で勇者部が泊まった旅館を活動拠点にすることにした。

 寮に入らなかった理由は、ニート生活がエンジョイ出来ないからと下らない理由なのだ。

 本当は手頃な貸家でも借りたかったのだが、こちらの世界では身分証明が出来ない。

 

 頼めば手配はしてくれるだろうが、時間がかかるし余り探りを入れられるのもいい気分ではない。

 

 とある少女の転校手続きやその他諸々を春信に丸投げし、灰色の髪の少女を寮に送り届けて早々に退去した。

 

 今頃、寮にいる小学生組と仲良くやっているころだろうと、立ち止まりニヤけそうになる顔に力を入れる。

 

 中学生の園子と美森の反応が楽しみだ。きっと感動的なものだろう。

 

「何か良いことあったんですか? 紅葉さん?」

 

「ん? いや、ちょっとな……、‼」

 

「? どうしたんですか?」

 

 

「いつからそこに⁉」

 

「? いつもどこでも紅葉さんの傍にいますよ」

 

 何それ怖い。

 

 なぜか寮に置いてきたはずの銀がいる。噓だろ、幾ら考え事をしていたとは言え、付けられていれば気が付く。プロでないこいつが付けていれば余計に、だ。

 もしかして、銀気配遮断のスキル持ってない?

 

 それから、色々な方法で巻こうとはしたのだが、ようやく巻けたと思ったところで銀が出て来る。

 終いには「これは運命です!」なんて言い出す始末。何が目的か聞いてみたら、老け薬が欲しいというので、渡してズラかった。

 

 

 無駄に細心の注意を払い、目的の場所へとたどり着いた。

 

 流石に巻けただろうと胸を撫でおろし、旅館の受付で手続きを終えようとしている時に受付の人に「そちらの方は?」と言われたので首を傾げる。俺一人の筈だが?

 

「妻の銀です。新婚旅行で来たんです」

 

 ……、旅館の人に自己紹介は不要。

 

 そして、勝手に変な設定付け足さないで!

 

 旅館の方も「まぁ、そうなんですか! おめでとうございます!」何て盛り上がって、誤解を解くのがめんどくなり、そのまま二人分の名前を書き込んでお願いした。

 

「では、郡様。精一杯おもてなしさせていただきますね」

 

「はい、お世話になります」

 

 銀が部屋まで案内をする旅館の仲居さんと何やら楽しそうに世間話に花を咲かせている。

 

 仲居さん。信じられるかい? そいつ本当は中学生なんだぜ?

 

 普段とは全く正反対の落ち着いた雰囲気を醸し出す銀を見ながらそんなことを考える。

 

 因みに、郡は母親の旧姓。西暦でも引き取った千景の旧姓でもある。四国では犬吠埼の名は大き過ぎるので使えない。咄嗟に思い付いたのがこの姓だった。

 

 

 

「紅葉さん、背中流しますね!」

 

「いいから、女湯に帰れ」

 

 この際、どうやって男湯に来たのかは気にしないこととする。

 銀の頭を鷲掴みにして、覗き防止の柵の向こうに投げ飛ばす。まるで漫画のように綺麗な弧を描き女湯の方に帰っていった光景を見て、やはりギャグ補正はいかなる場所、世界においても最強の補正であると認識する。

 

 ちょっと荒業すぎた影響からか、頭のネジを落としてきたらしい。

 

 元の世界では付かず離れずの距離があったが、今はその距離は無い。

 

 何だか勢いよく振られる犬の尻尾が見えた気がするが、きっと疲れているんだろう。今日一日で戦闘に加え、俺の居た世界の銀を呼び出すのに馬鹿みたいに魔力使ったし。

 精神的ショックも大きかった。

 

 他に客人がいなかったから良いものの…、全く。

 

 意外と胸があったな。

 

 

 部屋に戻ってくると、お約束と言うか、布団はくっつけられていた。

 

 テンションが天元突破して妄想の世界へ旅立っていたが、今は戻って来てソワソワいる銀。

 

 それを横目で眺めながら、電気を消して布団に入り込む。

 

「銀、一つ聞いて良いか?」

 

「何ですか? 何でも聞いて下さい。()()には敵いませんが夏凛よりはありますし、形には自信があります!」

 

 いや、美森はメガロポリスだからしょうがない。

 

 夏凛は同年代の子の中では大きい方ではあるはずだけど…、って今はどうでもいい。

 

「じゃぁ、遠慮なく。銀は今何年生(いくつ)?」

 

「………………」

 

 その沈黙はどっちのものかな? どちらにしてもすぐに返答が返ってこない辺りお察しではあるけれど。

 

 銀の様子がおかしかった理由はこれか。

 

 神樹を通して、俺の居た世界に縁を繋ぎ、銀を呼び出した。神樹が協力的な反応をしてくれなければ、もっと時間がかかっていたはずだ。

 

 そして、現れた銀は俺を見て名前を言ったから間違いなく俺が存在した世界線の銀であるとは認識した。勇者部で見た小学生の銀よりも大きかったので多分成功はしたのだろうと思って確認はしなかった。

 

 この銀の中での認識と俺の認識が同じかどうかはわからない。

 その可能性は微塵も考えてなかったわ。

 

 むしろ、俺の認識と同じだと言う可能性の方が少ないわけで…。

 

 たられば…、イフの話をすればそれこそきりがない。

 

 悪いことをしたとは思う。でも、そればかりは俺には何もできない。

 

 俺はマーリンタイプのクズらしい。良かれと思ってやったことが裏目に出て皆を傷つけるとか…。

 

 呼んでしまって、尚且つ、春信に手続きさせてしまったので合わせないようにはいかないんだよな~。

 それに、もう春信が風にメール送ってるだろうし。

 

 はぁ、とため息をついて目を閉じる。

 

 今日だけは、抱きついて涙を流している大きな銀を抱きしめて眠ろう。




主人公も大概脳筋。

因みに主人公の居た世界では、皆、全体的に原作より脳筋よりです。
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