導入(一話)がいらない人用のまとめはあとがきにて
◇
時は平成最後のゴールデンウィーク。元号の改正という事もあってか珍しく久々の長期休暇にありつけた。降って湧いた一〇日もの休暇に胸踊らせながら帰宅してコンビニ飯をかっ食らい唯一と言っても過言ではない趣味であるゲームソフトの山々を前にさてどれから手を付けるべきかと悩みに悩んだ。
実のところ就職してからというもの買うわいいもののプレイする時間を取れず、しかして次々と世に送り出される新作ゲーム達をとりあえず購入してはプレイすることなくパッケージを見ては満足し日に日に積もって行く所謂『積みゲー』の山が複数できていた。とりあえず目についたものから寝る間も惜しんで消化し続けることはや七日。それでも一向に減らない山に流石に買いすぎたと若干の反省をしつつもその顔は実にいい笑顔だった。
「あー。もう後三日か……仕事行きたくないなぁ」
ぽつりとこぼれた独り言とともにため息を吐いて嫌なことを忘れようと気分を変えるべく風呂に入ろうかと立ち上がろうと足腰に力を入れ前かがみになったその時、一瞬目眩がしたような気がして思わず額に手を当てる。しかし本当に一瞬のことでいつもの立ちくらみのそれだろうと自己完結して視界の妨げになる手を退ける。
不意にそのゲームが目に留まった。
タイトルは『千恋*万花』所謂『エロゲー』と呼ばれるカテゴリに属する一八歳未満は購入してはいけない類のソレを引っ張り出すと可愛らしい和装の女性キャラクター達がそこには描かれていた。
「たしか、この手のゲームにしては珍しくハーレムエンドが無かったやつだったっけ? えっと白髪の娘がメインヒロインで緑髪の娘がロリババアだったはず」
ぶつぶつと早口言葉のように矢継ぎ早にどんなストーリーだったかと顎に手を当てて思い出す。
話の大筋はこうだ。
主人公、
そして言い渡されるヒロインとの婚約&同居生活。穂織の地に巣食う祟り神と呼ばれる謎の怪異現象を解き、無事にヒロインと添い遂げるまでがゲームの大まかな流れだ。
ヒロインはサブを入れて六人。巫女、忍者。ロリ。金髪美少女。妹(従妹)。初心な美女。どれも魅力的な女性キャラクターだった。惜しむらくは個別エンド式でこの手のゲームには往々にして全員が何らかの問題を抱えているのだが全てを丸く収めるルートが存在しないことか。
「現代風の作品でハーレムとは言わないけど流石に全部のルートを見るとこの娘がかなり不憫だよなぁ……」
視線の先には緑髪をした少々、いやかなり肌の露出が多い少女の姿を見つめていた。少女の名はムラサメ。主人公がへし折ってしまった神刀『
数百年前に自身を人柱とすることで叢雨丸の管理者となって以降穂織の地を見守っていたのだが主人公やヒロイン達による奮闘により御役御免となり彼女の個別ルート以外ではほぼ出てこないか目覚まし時計代わりの耳年増な
思考を妨げる様に電子音が室内に響いた。自動湯はりの完了通知である。
「って、そんなことより流石に風呂に入らないと臭うな。見つけたのも何かの縁だろうしうろ覚えなところもあるからもう一度やってみても良いかもしれないな」
などと一人暮らし特有の独り言を呟きつつ風呂場へと歩を進め寝巻き兼部屋着のジャージを脱ぎさり体を洗って全身湯船に浸かる。「ふいー」などとまるでおっさんのようなしかし心底心地よさそうな声に年食ったなと自嘲しながらだんだんと重くなってくる瞼とお湯の心地よさにいつしか浴槽に体を預け眠りに落ちる。
◇
眩しい。微睡みの中に射し込む光に背を向けるようにもぞもぞと芋虫のようにゆっくりと動く。
光に背を向けたことで浮上し始めた意識を再び眠りの世界へと自身を誘うべく暗所を求めて
被ったシーツを下げ、瞼を押し上げてあたりを見渡す。そこはおそらく病院だった。夕焼けに染まった室内。白を基調とした壁。同じく白いベッド。
ゆっくりと上体を起こし、室内を注意深く観察する。白い戸棚には瓶詰めにされたなにかが入っており、その近くには木製の机。その隣には乱雑に入れられた本がずらりと並んでいた。
床は光沢を帯びておりつるつるしそうだ。夕日の射し込む窓の向こう側はどうにも見知らぬ地のようだ。少なくともここから見える景色は知らないはずである。どうやら他にベッドは無く個室? のようでかかる費用を考えるとため息を吐きたくなった。
「風呂で溺れて救急搬送……と考えるのが妥当なのかな?」
自身の現状を鑑みるにおそらくそれはあながち間違いではないだろうと当たりをつける。
しかし、一体誰が通報を? とまで考えたところで体に違和感を覚える。癖である考えるときに顎先に手を当てる仕草をした際に自身のそれとは大きくかけ離れたものになっていることに気がついたのだ。
「か、体が縮んでいるっ!?」
まさか。そんなどこぞの高校生探偵の様な妙な薬でも飲まされたのか? と半ば錯乱状態に陥り、一体どうなっているんだと頭を抱えたところで扉が慌ただしく開かれた。
現れたのは白衣に身を包んだ年老いた男性だった。顔はシワで覆われていないところがないのではないかと思うほどに深く刻み込まれた柔和な顔で黒縁のメガネを掛けている。しかし腰は曲がってはおらずまるで老いを感じさせないどこか凄みを感じる。
「目を覚ましたのかい。……よかった。心肺が一度停止した時は
心肺停止? 誰が? 俺が? だからといって体が縮むなんてあり得るのか? 否である。流石に医学に精通していなくともそのくらい理解できる。ぼんやりとした頭では続く医者の長話が右から左へ流ていく。辛うじて
「夢だな」
現実逃避だった。いや、脳があまりの異常さに処理しきれなくなったというのが正解か。眼前で体調はどうだだとか触診をし始める医者に時折生返事を返しつつ夢が覚めるのを待つ。しばらくして問題がないことが確認できたのか医者は目に見えてホッとした様な表情を浮かべ、そうして名を呼んだ。
「将臣くん」と。
導入がいらない人用
平成最後のゴールデンウィーク。
久々に与えられた長期休暇を積みゲー崩しに使う主人公。
寝る間も惜しんでゲーム三昧をした彼だったが徹夜続き故か風呂で眠りに落ちてしまう。
しかし次に目が覚めたときには見知らぬ病室で体が縮んでいた。
医者と思わしき老人(男)は主人公のことを何故か将臣くんと呼んだ。