???
「此処は……」
「お初にお目にかかる」
真尋が目を覚ますと、そこは不思議な空間だった。そこにいるのは肩幅の広い仮面の男で真尋に手を差し伸べてくれ、立ち上がらせてくれた。その空間は何処と表現するのも困難でただそこに『在る』としか言えない場所なのである。自身のペルソナ、ギルガメッシュと生徒会戦で顕現させた【太陽】ネルガルの力強さも感じることが出来る。ここは見知らぬ空間、何処だというのだろうか?
改めて男の仮面を見てみると、その雰囲気もあいまって何者か正確に把握することは出来ない。まるで昔から知っているような気もするし、自分自身のような気もする。果てには誰か理解できないとまで来た。なんとも言えない心情が心を包み込む。肩幅の広い男は手を翳し、何も無い空間にスライドさせると真尋の後ろの椅子が現れた。
その椅子に真尋に座るように言った男―――フィレモンは平坂真尋と言う少年の秘めたポテンシャルをその『目』を通して覗く。
【旅人・0】ギルガメッシュ。
副次能力:王の蔵。
【太陽】ネルガル。
副次能力:不明。
「あんたは……?」
「改めて、私はフィレモン。平坂真尋君、君がこの世界に何故迷い込んだか分かるかね?」
「僕が迷い込んだ理由……?」
改めて尋ねられると、生徒会戦で見た光景が思い出される。仁藤統のペルソナ・ヘイムダル、西園寺のペルソナ・酒呑童子、ペルソナ・ヘルにオーディン。そして頼もしい仲間となったラインハルトと須藤のそれぞれのペルソナ・エレキシュガルにエンキドゥ。
そして落ち着いて考えてみると、あの炎上した場所で自分の意識が事切れたのを思い出した。ペルソナ・ネルガルのあまりにも強力な火力は今の真尋の魂のレベルに見合っていなかったようで、ネルガルの持つ“荒々しい側面”にまだ振り回されていたことを自覚する。
「そうだ、僕はあの場所で……」
「どうやら思い出すことが出来たようだね。既に君はベルベットルームに客人として招かれたようだし、私からは与えられる者は少ないだろう。実際にペルソナも呼べているようだ」
「どうして、ベルベットルームを……?」
「それはまた今度だ、お客人。さぁ、目覚めの時間だ。友の元に向かうといい」
徐々に覚醒してゆく意識、フィレモンの力によるものだろうが真尋の今の魂ノ力では抗えそうに無かった。
ミラージュ・ワールド―――
ミラージュ・ワールドはあの覚醒した夜、ペルソナ・ヘルの能力によって見た光景とどこか似ている。似ている、とあくまでそのものといえないのはミラージュ・ワールド自体に来るのがはじめてであったからだ。レイラとの通信は途切れ、目の前にいるのは雷神トールを従える土屋とトールの戦車を引くタングリョーストとタングリスニのペルソナが従えているペルソナ、いわゆる副次ペルソナと言うべき存在。
土屋のペルソナ能力は未知だ。行方不明の真尋のペルソナ能力や西園寺のペルソナ能力のように一人で数体以上持ち合わせているタイプのペルソナ使いなのか、それとも山羊を含めて一体なのか。いずれにせよ、武術の心得がある慎太郎はむやみに手を出すわけには行かなかった。
自分の武術を嗜む
「来ないのか?このミラージュ・ワールドであれば、僕らは羽を広げるようにしてのびのびと戦うことが出来る。お前のペルソナは物理スキルで押してくるタイプだろう?どうして使わないんだ?ペルソナの基礎スペックだけで攻撃してきても僕のトールは倒せない。君のより強いからね」
「おいおい、こんなところで戦えるわけねーだろ!?」
「甘いな、君は……。さっきの五月蝿いやつらと別な意味で面倒なタイプだ。ほら出しな、君のスタンドを。おおかた、タロットカードの人間の人生を示した前半の方、アルカニストかなにかだろ?」
「アルカニスト?……確かに俺とレイラちゃんは一体しか使えねえが……」
以前、レイラのペルソナ・エレキシュガルのアナライズ能力『魔眼』は他の媒体に移すことが出来るという。スマートフォンにレイラのアナライズ風景を映してもらうと、そこにはアルカナ【死神】とあった。名前的に人間の人生に関わるアルカナとやらには関係していないような気がするが、慎太郎はタロットカードにまつわる知識が無かったので分からなかった。
「それがアルカニストさ。僕も君たちと不服ながらも同じなのだけれど、ワイルドと言うペルソナを複数付け替えることが出来る能力もちでもない限り複数持つことは出来ない。本来、ペルソナは一人一体。なんたって自分自身の仮面だ、そんなものがポンポンあってたまるかって話だよ」
「話しながら会話って器用さんか……!」
土屋はトールに命ずると、スキルではないもののミョルニルで慎太郎が繰り出したペルソナ・エンキドゥの攻撃を防いだ。なんらかの力が働いているんだろうが、即座に盾代わりにできるほどの大きさへと変え、ダメージを半減させたところをみると相当レベルが高いか反射スキルか耐性を持っているに違いない。
先ほどのスキルの使用から慎太郎は予想すべきだった、警戒すべきだった。しかし、それは無理なことだった。慎太郎は武術を嗜んでいるのに対し、土屋は武術を嗜んでおらず、外見はひ弱そうな男子学生だ。本人の強さとペルソナの強さがイコールであった生徒会(一部を除く)との戦い以降はミラージュ・ワールドが発生すればミラージュ・ワールドでレイラと修行するのを除けば自主鍛錬しかしていなかったのもあり、対人戦闘、それも能力の扱いが上手いペルソナ使いと戦うことを予想できていなかった。
「それは須藤も同じだろ?面倒臭いな、その軽い口調。どうにかならないか?」
「コミュニケーションは大事って倣わなかったか?どぅーゆーあんだーすたん?」
「……うっぜぇ。トール、特大のを決めるよ」
土屋の宣言にトールが従うと、タングリスニとタングリョーストが収束していく。トールの武器、ミョルニルにエネルギーが溜まっていく。流石にあの一撃を魔法攻撃に対して特に耐性を持たないエンキドゥでは相性が悪いだろう。これこそ、土屋の奥の手ともいえる魔法攻撃スキル“降雷”だ。
エネルギーを収束し、それを一気にミョルニルを叩きつけることで溜めたエネルギーを放出するところに衝撃を加えて更なる威力を生み出すのが目的だ。とっさにエンキドゥにガードさせるが、魔法反射のスキル・マカラカーンを使えるレイラがこの場にいないのであってはどれほど軽減できるか分からない。
「チェンジ!」
勇猛な声が聞こえる。
しかし、テンションはさほど高くない。
慎太郎は声がしたほうに顔を向ける、そこにいたのは久方ぶりに見た顔。
「火力で押し上げろ、ギルガメッシュ!」
ペルソナ・ギルガメッシュがその手にある剣を使って放たれた雷を剣の切っ先でとどめている。ギルガメッシュのスキルにそんなものがあったのか覚えていないが、ペルソナを変える能力を持つ彼のことだ。
きっと可能なのだろう。
「誰?」
「お前は……!」
「やぁ、久しぶり」
煙が晴れると、そこにギルガメッシュを従えるいなくなってからしばらく経つ同級生の姿がある。
名は平坂真尋、
「帰ってきたよ、須藤」
ワイルド能力を持つ、ペルソナ使いで学生だ。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
当時はペルソナの「仮面」と「本当の自分」のテーマに強く惹かれて書き始めましたが、 途中から自分の内面と向き合うのが辛くなり、筆が止まってしまいました。
それでも「帰還」まで書けたのは、応援してくれた皆さんのおかげです。 未回収の伏線や、描ききれなかった部分はたくさんありますが、これが私の「仮面異聞録ペルソナ」の一つの形だと思っています。
いつか気が向いたら、リブートやサイドストーリーを書くかもしれませんが、 今のところはここで区切りとさせてください。
2013〜2016、そして2026年現在まで読んでくれてありがとう。