このストーリーはライブ感で行なわれております。
START
志王町九鳴高校寮――――
鳴麓市志王町にある、九鳴高校寮。外観は古城のような古めかしさがあり、歴史と伝統を感じさせてくれる。四階建てのその建物には数名の学生と寮母が住んでおり、本日に寮に迎える転入生の準備がなされていた。
「これ、此処にあったっけ?
紺のニット帽に長めの茶髪と両耳のピアスが光る、九鳴高校の男子の制服を着た少年・
「よいしょっ………うわっ、重ッ!?なんかサンドバッグ持ってる感覚!重い重い重い!」
壊さないようにそーっと甲冑の腰回りを抱え、通行の邪魔にならないようにエントランス付近の寮に帰ってきた者が名を書く出席簿のような手帳があるカウンターへと持っていこうとすると、両手に大量に砂の詰め込まれた大きな袋を抱えていると、途端に全身が悲鳴を上げる。幼少時に家の独自の武術の流派を習っていた慎太郎、最近はすっかり練習しなくなったのもあり、身体が鈍って言うことを利かないらしい。武術の鍛錬のお陰か、スタミナは十分についていて、簡単にはバテないことに慎太郎は自信があった。もちろん、こうして西洋式の鎧(?)と言う普通に生活していれば博物館や教科書でしか見ることのないようなものを通行の邪魔になるから、と言う理由で運ぶことになると思わなかったが。
「ククク、先ほどから騒がしいようだな、我が同胞よ………。そのように騒いでおっては、マナが汝の周囲を回る鼓動を聞けぬ………。だから汝は未熟者なのだ!」
騒ぎを聞きつけたのはゲルマン系のシルバーブロンドのロングヘアが特徴的な、独特な口調をした九鳴高校の女子の制服を着た少女、レイラ・ラインハルトだった。慎太郎と共に九鳴高校寮に住む、彼女はいわゆる『厨二病』で美少女然とした容姿にもかかわらず、口を開けば飛び出す厨二ワードから周囲から浮き足立ってしまいがちだ。個性的で濃いキャラクターが特徴的な寮の住民の中では、かなり濃い部類に当たる。
「リィちゃんは手伝ってくれよ!これ、重いし中に何入ってるぞ!?」
リィちゃん、というのはレイラのニックネームのようだ。重さに顔を歪める慎太郎にレイラは腕を組んで満面の笑みで返した。
「それは私が家から送らせた、私の纏う大いなる力、
こめかみに左手の人差し指を当て、得意気にレイラは語るものの、慎太郎はそれ以上、鎧を持っていることが出来なくて、ついに鎧を持つ手が限界に達し、鎧を離してしまった。
「ああっ、私の
「配達物くるってんなら、前日に教えとけっての!相川さんがうっかり粗大ゴミに出しちゃったら、どうする気だよ………。てか、お前のだったんかよ!」
相川才華は慎太郎から見て決して悪い人、と言うわけではないが、抜けているところが見られる。例えば掃除をしている際にレイラに届いた、ビニール袋に入れられた甲冑をゴミと間違えて捨ててしまったり、慎太郎の秘蔵の本を隠している場所から掃除のときに隠し場所を自然に探し当て、机の上に置くとか。そんな相川の性格を挙げた後、慎太郎は溜息をついた。
床で頭部が外れてガシャン!と崩れ落ちた鎧を前に、レイラはよろよろと足を震えさせ、ぱたん、とバラバラになった漆黒の騎士の鎧を前に座り込んでしまった。バラバラになった鎧を前に崩れ落ちたレイラは手を震わせ、鎧へと手を伸ばす。今にも泣き出してしまいそうな様子で目に涙を浮かべ、仮面を両手で挟み込み、キッと慎太郎を睨みつける。
「ええい、この茶髪ピアス!汝のせいでこうなったんだぞ!?どうしてくれる!?」
「な………!それはこっちの台詞だ、厨二病胃袋ブラックホール!」
慎太郎とレイラの間に火花が散る。やがて二人はフン、と鼻を鳴らして腕組みをして別方向を向いた。
茶髪ピアスも厨二病胃袋ブラックホールはどちらも二人が互いを罵りあう時に使う蔑称だ。前者は慎太郎の外見的特徴、後者はレイラの特徴と大食いなところから。いずれにせよ、一年間とはいえ互いを理解できなければつけられない通称だ。
「っつかよー、早く転入生の奴を迎えに行かなきゃやばくないか?」
「あっ」
慎太郎の言葉にレイラは前日、相川に頼まれていたことを思い出す。
『明日は此処に新しい人が来るわよ。私はその日、ちょっと用事で迎えにいけないからさ、車がなくて不便かもしれないけど、二人に任せても大丈夫かな?頼まれてくれたら、その日、好きなもの作っちゃおうかなー?あ、忘れたりしたら食事抜きね』
『いえす、まむ!』
事態の重さにレイラが気づいたのは、そんなに時間がかからないことだった。認めたくないことだが、レイラは『茶髪ピアス』の言うとおり大食いであるから、食事抜きは大問題だ。自分が最後まで相川の話を聞いていないことが悪かったが、こればっかりは『茶髪ピアス』に助けを求めざるを得なかった。
「どどどど、どうしたものだ!新たなる同胞が待ちくたびれておるやもしれぬ!」
「落ち着け!今からでも………向かえば間に合う!」
肩と手を同時に震わせ、食事抜きというレイラにとっては死にも等しい罰に怯えて瞳に涙を浮かべる様子は愛らしく映るが、高慢な厨二病口調と言うことで何も感じなかった慎太郎は自らにも降りかかるだろう流れ弾を恐れ、レイラに今からでも駅に間に合う提案をしてみた。
「タクシーのりゃ、いけるんじゃね?」
***
鳴麓市に着いたはいいが、これからどうすればいいか真尋は特にこれと言って決めていなかった。
そういえば、あまり気に留めていなかったことだったが、この島と本土を繋ぐ、『ポートアイランドトレイン』はモノレールではなく、普通に電車だった。バイト先の雇い主、
ラーメンを、あの美味なラーメンと気になっていた、はがくれ丼を奢ってもらえるならば話は別だからだ。
「ああ、腹減ったなぁ………」
現在、午後五時三十分。帰宅時間のためか、辺りではサラリーマンやOLの姿が見受けられる。他には休日の部活動帰りの学生が和気藹々と会話しながら下校している姿が目に付いた。奇妙な経験ゆえ、周りには自然と人が集まらなくて孤立していた。八十稲羽にいた頃でも沖奈まで行ってバイト先を探したが、「人を寄せ付けない雰囲気」と第一印象で言われてしまい、面接は態度はそんなに悪くなかったと思うが、落とされてしまい、八十稲羽で「雑用募集」と張り紙が掲示板にあった染物屋でバイトすることになった。最初はあまり会話はなかったものの、雇い主が気にかけてくれているのか、就業時間以外でも関わりがあって、担任の一ノ瀬や一ノ瀬の友人の花村陽介、里中千枝をはじめとする面々と同じく親睦を深めることが出来た。
新しい土地、新しい出会い、新しい学校。
自分を全くしらない、自分が知らない土地では今度こそ上手くやっていこうと。
「うわあっ!」
「!?」
背後から突然驚かされた。
ちょっと思い出に浸っているとこれだから、油断は出来ない。驚かせてきた本人は紺色のニット帽、派手な茶髪、両耳のピアスからチャラいイメージを第一印象で持たせる。なんとなく見た感じでは真尋と同年代だろう、顔にはまだ幼さが残っている。
「悪ィ、悪ィ。えっと、ウチの寮に今日から来る転入生であってるよな?俺、
「ちょっと、驚かせているではないか。我が同胞よ、それでは新たなる同志を警戒させてしまうだけ。初めまして、同志よ。私はレイラ・ラインハルト。そちらの茶髪ピアスと同じく、九鳴高校で四月から二年生となる」
新たに現れた銀髪の少女はべしっ、と扇子で慎太郎を叩いて慎太郎をたしなめた後、その独特の口調を披露してバサッ、と扇子を開いた。扇子には「いらっしゃーい♪」とある。アニメに影響されたような印象を抱く口調と対照的に、レイラは人懐こいようだ。
「はじめまして、俺は平坂真尋。二人とも二年生と言うと………、同級生か。」
「マジ!?じゃあ、寮で同性の同級生が出来たってわけだ!よろしくな、平坂!」
「ふむ、新たなる同胞は私が歩んだ年代と同じ年代を歩んだ様子………。こちらこそ、宜しく頼むぞ」
慎太郎がにしし、と笑えば、レイラも口元を歪ませる。レイラの口調は容姿も相まって人目を引きやすいが、慎太郎と同じように親しみやすい人物のようだ。
「二人のことは、とりあえず分かったけど、相川って人は来ないのか?」
「あー、相川さんか。あの人は用事があるって言ってたけど、たぶん、俺達が寮に帰って暫くしたら帰ってくるんじゃねえか?」
「同志・才華の創り出す食は実に美味………。まさにこの世の宝!」
『差出人:相川才華
件名:ごめんなさい。
内容:まっひろくん、はじめまして!相川です。ちょっと用事が入ったから、君を迎えに行けそうにない。たぶん、迎えに誰か行くと思うよ』
メール内容を見せると、慎太郎は自らの後頭部で腕を組んで苦笑いをした。自分達が待ち合わせに遅刻したのもあるが、それ以上に何故、自分が知らない相川のメールアドレスを知っているのかが一番気になった慎太郎。その慎太郎と反対に無邪気な様子で熱く語っているレイラ。ボストンバックを背負う真尋を含め、真尋はとりあえず提案してみた。
「とりあえず、何処か場所変えない?」
その後、三人は志王町を見て回った。町に唯一の書店「くろう」、学生割引があるメニューが豊富な定食屋や葉隠れのチェーン店など。特にはがくれのチェーン店の前を通るとき、レイラがふしゅううう、と唸り声を上げていたので慎太郎と引き剥がした後、喫茶店にやってきた。
「一通り回ってみたけど、平坂、なんか質問あるか?あ、俺の恋愛談とか聞く?」
「いや、ラインハルトや須藤の説明が良かったんだろうな。特に質問とかはないよ。あと最後はどうでもいい」
「マヒロマヒロ、特製デミグラスオムライスはどうだろう?」
落ち着くためにやってきた喫茶店で三人はカウンター席に座り、それぞれがメニューを眺め、ときおり、水を口に運ぶ。
キッチンから漂う牛肉の香りやコーヒーの匂いが店内に広がって、食欲をそそる。そして慎太郎はアイスコーヒーとツナマヨサンドイッチを頼み、山盛り特製デミグラスオムライスとオレンジジュースをレイラが頼み、真尋は通常サイズのオムライスとミルクティーを頼んだ。正直、全く統一性がない。なお、レイラは真尋を「平坂」ではなく、「マヒロ」と呼ぶことにしたようだ。慎太郎は我が同胞とか呼ばれてるけど、自分は違うのか、と真尋は一人で疑問におもった。
「いやあ、旨い。ツナマヨ良いなー、マジで。相川さんのサンドイッチには及びませんけどな」
「ん~、やはり、シェフはいい仕事をするな。敬意を表す」
「オイコラ、慎太郎。才華ちゃんと比べるんじゃねえよ、いくら憧れのおねーさんでもだ。レイラちゃんはあれだな、よくわかってらっしゃる」
喫茶店のマスターはグラスを拭きながら、慎太郎の額を弾いた。そして幸せそうに大盛のデミグラスオムライスを頬張るレイラを微笑ましそうに娘を見るように見ていた。どうやら、この二人はこの店の常連のようだ。
「・・・で、見ねえ顔だけど、ボウズはこいつ等の新しい友達ってぇかい?」
「あ、はい。今日からこっちに来ました」
マスターは真尋へと興味を移したようだ。八十稲羽での経験からイカツイからといって、全部が悪い人間ではないと経験している。あのはがくれラーメンや愛家で肉丼を奢ってくれた、巽がまさにそうだったからだ。左眼に縦に走る傷痕や顔立ちがマスターをチンピラと言った類に思わせるが、やけにレイラよりサービスとして牛肉が多いことから歓迎の意思を感じた。
「慎太郎はアレだけどよぉ、仲良くしてやってくれや。キレーなねーちゃんもいるし。ま、志王にようこそ」
最後まで言い終わらずしてマスターは戻って行ったが、いい人そうなのは確かに分かる。ただ、最後に慎太郎の前に紙をたたきつけ、「バイトの日、忘れんなよ」と言い残していったから、慎太郎はこの喫茶店でバイトしているんだ、と知った。
「いい人だろ?」
「ああ」
勘定をして店を出ると、真尋を歓迎するように風が吹きぬけた。
この町が歓迎してくれている。少なくとも、そんな気がする。気のいい同級生もいるし、学校生活が楽しみだ。
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