仮面異聞禄ペルソナ   作:ふくつのこころ

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主人公、ペルソナに目覚める


You're myself,I'm yourself

「……それで、仁藤。新しく来た奴なんだが……」

 

食後、それぞれが寮に備え付けの風呂に入浴した後、すっかり静まり返ったラウンジで桐谷はテーピングの包帯を巻きなおしている仁藤の姿を見つけると、今日新しく入ってきた同居人の少年についての感想を尋ねた。総合格闘部に所属する、仁藤統は『相手の強さ』を測定する力を持っている。

それが仁藤や桐谷の持つ共通の“力”による影響かは定かではないが、仁藤は面構えと雰囲気から対象の力量の推測が可能だ。

漫画やゲームのように対象の強さを数値化・文字化できることを桐谷と仁藤はその能力を『分析能力(アナライズ)』、と呼んでいる。

 

「平坂のことか?さぁな。まだ“覚醒”をしていないってのもあるが、アイツの能力値がどうも見れないんだよ。まるでモザイクがかかっているように」

 

「モザイク、だと……?私には分析能力がないから気づかなかったが、もしかして一般人は皆そうじゃないのか?」

 

慎太郎に平坂真尋を紹介された際、こっそり仁藤は真尋の能力値を数値化した数字を測ろうと分析能力を使用していた。力に目覚めた、桐谷のものと自分のものは数値化が出来たが真尋のものは図れなかった。

仁藤の分析能力は同じ力を持つ者同士でならば数値化が出来るし、なんの力も宿さない一般人のものもちゃんと数値化されて現れる。この旧・九鳴高校寮は他の一般生徒が誰もいない。一般生徒がおらず、小数人数が固まっている寮はこの寮の他に月光館学園の巌戸台寮が上げられる。かつて、そこで学生時代を過ごした現在の桐条グループの総帥とその仲間達が所属していた、“力”を持つ者が住まう戦線基地の役割も果たしていた。

 

「いや、そうじゃないんだ。実を言うと見えるようになったのは一般人に対してなんだ。ラインハルトや須藤にも試してみたんだが、ちゃんと二人が内在している能力も見えた」

 

「二人のペルソナ能力か」

 

桐谷は自らの胸に手を当てる。そこに内在する“力”ーーペルソナを確認するように。

ペルソナとはユング心理学における単語である。人間関係における人間が被っているものとされ、

男性的な側面をアニマ、女性的な側面をアニムスと言う。

人間は様々な仮面を被っている、という説で説明を簡略すると家庭における自分、学校や職場における自分、友人の前の自分、恋人の前での自分など。人は幾千幾万の仮面(ペルソナ)を持っている。

仁藤や桐谷はそのうちの一つを己を護り、困難へと立ち向かう為の心の鎧、すなわち敵と戦う力として人類が“作り出した”伝承から生まれた悪魔や神の姿をとった、もう一人の己を使役する。

一般的にはペルソナは一人一体というのが基本だが、ペルソナを付け替えられるワイルドのペルソナ使いや精神面による成長によってペルソナが変化するケースもあるようだが。

 

「……で、平坂は?」

「ああ、アイツならコンビニに行った。今週分の雑誌を買ってなかったんだとさ」

「つくづく食えん奴だな……」

 

桐谷は溜息をついた。仁藤は相変わらずの様子で包帯を巻くのに夢中だ。我流の拳法をはじめとする武術はペルソナに目覚めたことで更に動きに磨きがかかり、俊敏さや反射神経も上昇している。敵と戦うことに楽しみさえ覚えている、格闘家の同級生に呆れながらも桐谷は自分の部屋へと帰っていった。

 

(ええっ!?なんの話だ!?ペルソナとか、力とか。リィちゃんの名前と俺が出てきてたけど、一体なんのことだ!?)

 

傍ら、須藤慎太郎は三階の階段の近くで『聞こえて』いた。男子の部屋がある三階からラウンジを僅かに見渡せるほど距離は近くないが、慎太郎には会話内容が聞こえていた。やがて慎太郎が桐谷や仁藤の会話の意味を咀嚼して考える以前に桐谷が階段を登る音が聞こえた時、慎太郎はそさくさと部屋に戻っていった。

 

「……?なにか落ちたの?」

 

わずかにカサカサッ、と聞こえた音に桐谷が反応するも上の階の男子の部屋がある三階のようなので特に気にとめないことにした。仁藤や慎太郎、そして平坂真尋が暮らすようになったフロアには自販機と何故かレイラの鎧甲冑が鎮座している。おおかた、兜がずれたんだろう、と桐谷は自分に言い聞かせて『さとみんず・ルーム☆』に戻った。

『さとみんず・ルーム☆』に。

 

一方、コンビニエンスストア・『フィフステン』ーー

 

雑誌コーナーで今週号の週刊漫画雑誌を真尋は眺めていた。普段は週初めに購入するのが常だが、今週は引越しの用意もあって購入できていなかったのもあり、自然とページを捲る手も進む。雑誌の名称自体もローカル誌ではなく、メジャーな国民的漫画が連載されているものだ。時刻が九時以降を回っていることもあってか、店内は客がまばらで駐車場には一般的に派手な服装やピアスが特徴的な若者達が集結して屯している。

良くも悪くも目立たない真尋の容姿では喧嘩をふっかけられることはなくとも、絡まれる可能性はないわけではない。

真尋の偏見からしてみたら、彼らは集団でしか強がることができない者たちだ、と捉えている。最も、それを口に出すほど愚かではなかったが。

 

早く帰らねばいけない、と思いつつもページを進める手が止まらず、未成年閲覧禁止コーナーへと興味を抱いてしまう。どうせ、彼らがいるのだから今、店の中を出るのは得策ではない。店内の中は少なくとも安全である。店内で揉め事を起こせば店員や他の客が通報するだろうし、彼ら自身もまた困った事態になるから知らない振り知らない振り、と気に留めない振りを続けた。

夜空に浮かぶ、大きな月は妖しく輝き独特の雰囲気を演出している。今夜は丁度満月だが、その大きさは尋常ではない。誰もいつもの月との『変化』に気付いていない様子だが、コンビニの駐車場で屯する若者たちや人通りの少ない道路ではお構い無しにトラックや残業帰りのサラリーマンが乗っているであろう車やタクシーが行き交う。

 

「さて、と。そろそろ帰ろうか」

 

お目当ての雑誌と高校生御用達の紙パックのミルクティー、それに菓子パンを一つを摘まんでレジへと持っていく。「いらっしゃいませー」との業務的台詞を店員が述べ、財布から千円を取り出して釣銭を貰う。レシートを雑に畳んで財布の釣銭を入れるポケットに直し、首から提げられた真っ白なタロットカードを揺らしながら店内を後にする。

ネックレス代わりに提げられた、白いタロットカードに店員の表情が一瞬曇ったように見えた。真尋ほどの年齢ならばアクセサリー自体をつけるのは珍しくないが、『何も描かれていないタロットカード』をアクセサリー代わりにするのは不審に思ったんだろう。

否、店員には表面が真っ白なタロットカードさえ見えている(、、、、、)かは定かではないが。

 

立ち読みを続けていると、すっかり時間を経つのを忘れてしまうようで、それは前に居た土地でも変わらないことだった。隣の沖奈市にある書店で加工のされていない、週刊誌を学校帰りに寄って立ち読みをしていると時間が経つのが早く感じられる。

外の空気は四月であっても未だ肌寒さは残り、右手に提げたビニール袋の中の紙パックのミルクティーと週刊誌の重さがちょうどいい。形も大きさも全く違う両者の重さは二度読みをするべく、自然と足が早くなっていていく。

 

そのとき、風の『波』が吹きぬけた。

 

波と言う表現は海やSF小説における、時間が過ぎ去っていく表現に使われて風ならば『吹く』という表現が正しいだろうが、真尋が体感した『波』は浜に押し寄せる海の波と表現してもおかしくなかった。後ろを振り向くと、そこは先ほど歩いてきた道とは全く違っていた。舗装された道路には血がこびりついており、アスファルトには信じられないことに、くっきりと獣の爪跡がある。

 

「どこだ?此処は……」

 

様変わりした妙な世界の第一印象は『汚された楽園』。建物はそのままに夜空に瞬く火星が明るく輝き、真尋の居る位置からでも十分に星空を見上げることが出来る。獣の爪痕はところどころにまばらにあり、ここら一帯が獣が生息しているサバンナのようだった。人工島といえど、建物や住宅地が立ち並ぶ近隣の様子を相川の車の車内から見えていた真尋にとっては信じられない光景だったし、テレビで見る『サバンナ』と幾分イメージが違っていたけれど、咄嗟に頭の中で映し出された光景はテレビ番組でよく見るそれと同じだったのである。

 

「アレは……?」

 

真尋の目に飛び込んできたのは、紛れもなく大きな四足歩行の獣。両手両足には鋭い爪があり、足は歩くのに特化しているのか巨体を引き摺るようにして闊歩している様は百獣の王、ライオンを思わせる。進化の過程で人間は牙や爪や毛皮、それに他の動物が持ちうる力を持たない代わりに道具を手にし火を制した。今、人類が存在できるのはタロットのはじまりのカードの“愚者”のように探究心を持っていたからだ。

それが良いも悪いにもかかわらず、人間は何かを求め謎を探求し、疑問を持つことでそれに対処する方法を探ってきた。

そんな人間が獣と変わらなかった時代から本能に存在する、潜在的恐怖。ただそれだけが真尋の身体を動かすには十分だった。

 

なりふり構わず走り出すのに時間はかからず、“獣”は己から逃れようと走り出す獲物に気がつくのにそう時間はかからなかった。突然、一人だけ放り出された異世界。この妙な感覚は“メガネの集団”に助けられる前に似ているが、今はその“メガネの集団”はこの世界にはいない。

自分で何とかしなければならないのだ、この獣から逃れて生き抜く方法を考えて。

 

「……わけわからねえ、アレ、昔見たやつと似てるじゃんか……!」

 

路地裏に隠れ、真尋は“獣”をやり過ごそうと考えた。あの身体つきや巨体から動きが鈍いだろうと判断したが、記憶(、、)を辿っていくと“異世界の敵”と気配が酷似している箇所がある。

 

例えば現実離れした容姿。

例えば現実離れした形。

例えば現実離れしたカラーリング。

 

けばけばしいとも派手とも表現できる、その“獣”は獣の概念をピッタリと当てはめた物だった。獰猛な牙が見え、その鋭さや大きさは普通の人間ならば一瞬で貫かれるほど鋭いもの、爪もまた同じであの足で殴られようものならば身体を真っ二つに引き裂かれてもおかしくない。

ふと、このまま自分があの“獣”をやり過ごせなかった可能性を考えた。木の枝のように身体をへし折られ、熟れたトマトのように血の滴る内臓を飛び出させて怪物の餌食となる姿を。

自分がこのまま逃れたところで追ってこないと限らず、むしろ後を追ってきて獲物が集まっている九鳴高校寮はどうなる?

 

ーーグオオオオンッッ!

 

巨大な満月に向かって怪物が遠吠えを上げると、辺り一面に風の『波』が押し寄せ、建物を横にスパンッ!と切裂く。広範囲攻撃ができる『波』は真尋が隠れている、建物と建物がある路地裏の両脇を切裂いて怪物の視界を大きく広げる。獲物を求めて周囲の見晴らしを良くしようと遠吠えをあげた怪物は、小さな人間(エモノ)を見つけて唾液を零す。

腹をすかせた肉食動物のように猛り狂った怪物は態勢を起こし、力を溜める。

周辺一体の建物を破壊しはじめ、開いた更地となったところで獲物をズタズタに引き裂いて果汁のように滴る血を味わう為。

 

「隠れる場所を全部ブッ壊す気か!?……ん?」

 

手元に怪物を叩くには良い武器はないものか、と地面を探っていると硬いものに触れた。指先に触れるとカシャン、と音を立てて自らの存在を真尋に示すように“ソレ”はーー武器が真尋の中にあった。

古代のコロッセオで使われていそうな、古びた両刃剣が手に握られており、剣なんて使ったことがなかった真尋の脳内にその使い方が流れ込む。路地裏から出て跳躍すると、視界には怪物の顔が目の前にある。怪物は今の今まで逃げ回っていた獲物が小さな牙を片手に立ち向かってくる、という事態を想定していなかったものの、巨大な鈍器のような右手を振るい、古びた両刃剣を持つ真尋の攻撃をガードする。

 

ーーグオォォォォン…!

 

 

『チャージ』

 

 

怪物は力を溜め、一本しかだけの牙を持つ真尋の前に仁王立ちし、大きく息を吸い込む。

カチャリ、と両刃剣を構えなおすも斬撃攻撃は怪物にガードされた時のように効いていないようだ。

手元にある武器は古びた両刃剣のみ。

他は生まれ持った肉体のみで巨大な足と一歩が大きい怪物相手では逃げ出すにも苦労するだろう、動きが鈍いと言っても怪物の一歩イコール、真尋が走る速度だから。

 

「なんだ?両刃剣が吸い込まれて……!?」

 

武器を求めていたときに現れた、古びた両刃剣が首から提げたフリータロットへと吸い込まれていく。通常ならば真尋の肉体ごと貫きそうな刃はフリータロットへと吸い込まれていき、青白い光を放って足元に魔方陣を生み出す。

 

ーーウォォォォォォン!

 

獲物から発せられた青白い光は怪物をたじろかせるには十分な働きをした。これまでも怪物は『異世界』に迷い込んできた人間を食してきたが、小さな牙を持った人間のように歯向かってきた者は居るものの、青白い光を放つものは居なかったからだ。

 

【我は汝…汝は我…】

 

 

脳裏に響く、よく知る(、、)誰かの声。

 

【汝、なにゆえ我が力を求めるか?】

 

イメージは容易だ、なんせ、幼少の記憶と彼らに対する憧れは消えないのだから。

 

「俺は……」

 

『スピンナックル』

 

怪物が力を溜め終え、周囲を轟かせて風が唸り声を上げるとともに振りかぶる大きな拳。全体的な強化を行われた、その拳の威力は風圧だけで数トンはありそうな乗用車を吹き飛ばす。たじろぐことも回避することもせず、ただ脳裏に聞こえる『声』の問いに長年の間に考え続けてきた答えを述べようと。

 

「力を寄越せッ!俺はまだ此処で死ぬわけにはいかないんだ!生き残る為の力を!それも、ただの力じゃダメだ!あんな奴すらも切り伏せられる、強き力をッッ!」

 

クールの中に秘めた、熱くも貪欲な思い。力に対する飽くなき欲望、他に確認した限りではほかの人間の確認が出来ない異世界で戸惑うことなく怪物に突然現れた、古びた両刃剣で立ち向かえたのも『経験』という力があったからこそ。

自分(真尋)の答えに満足したのか、その声色の前に小さな笑みを浮かべたような気がした。

 

【よかろう、汝が願いを聞き入れた。我は汝…汝は我…。我は汝の心の海より出し者…!】

 

世界の時間が緩慢になったように感じられる。その場から動かない、愚かな獲物を葬り去ろうと迫る巨大な拳を前にしてーー

 

「ペ」

「ル」

「ソ」

「ナ」

 

一文字一文字ずつ、感情を力に、言霊を形に、心を剣に。

勢いよく首のタロットカードを留める、金具を引き千切って叩き割る。

 

【不死を求めし原初の英雄、ギルガメッシュ也!】

 

顕現した真尋の“ペルソナ”は上半身は全裸で左手に篭手をはめ、肩には裾がボロボロなマントのようなものがかけられており、下半身を覆うのは上半身と対照的に防具をつけており、無骨なデザインであっても、世界最古の英雄らしい気品を放っている。篭手がはめられた左手は真尋が握っていたものと同じ両刃剣を持っている。

時は再び動き出し、ペルソナ“ギルガメッシュ”は怪物の拳による攻撃“ソニックパンチ”を両手で両刃剣を受け止め、弾き飛ばす。

ギルガメッシュを操る真尋は、怪物から己を護る(ペルソナ)の使い方を本能のうちに習得していた。

 

【?/チャージ、スピンナックル、ラクンダ】

 

脳内に映像は怪物自身のステータスと使える技のようなものか。名称不明とのことだが、今の状況でこれだけでも情報は十分だ。拳を弾き飛ばした後はギルガメッシュに抱えてもらい、できるだけ距離を取りながらも、あまり真尋が使っても効果がなかった剣はギルガメッシュが使うと先ほどの苦労はなんだったのか、と疑問に思えるほどに強い威力を発した。

大きさは怪物の四分の一ほどしかないものの、ギルガメッシュは真尋より巨大である。

真尋の全身の二倍はある大きさの岩石のような拳を振り回し、ギルガメッシュに叩きつける。

 

『ラクンダ』

 

全身から力が抜けるのを感じる。浮かんできた単語はきっと、この現象を表す単語なのだろう。

ギルガメッシュを通して受けるダメージは予想通りのもので、フィードバックによる痛みが真尋を襲う。

少なくともギルガメッシュに目覚めたからダメージはこれで収まったのであって、もしもギルガメッシュに目覚めなかったら?

きっと、自分は路上の血溜まりのようになっていた。

 

右手で自分を抱えさせ、ギルガメッシュに剣を抜かせる。篭手をしている手が左手がギルガメッシュの利き手のようで、その先に力を収束させ、怪物の弱点を探ろうと意識を集中させる。

 

【Error!表示不可能】

 

映像となって現れたのは怪物の弱点を探り当てる為の検索結果。それ以上の詳しいデータが浮かんで来ないとなると、ギルガメッシュ自体がこのような分析能力を持っていないのか、それとも苦手とするのかのどちらかだ。

はじめに浮かんできた名称欄のクエスチョンマークと技名らしい、カタカナ言葉はチュートリアル戦闘特有のオマケといったところか。

 

「ブッた斬れッ!」

 

右手をあげると、ギルガメッシュもまた両刃剣を握る左手を上げる。自分の動きとギルガメッシュの動きが連動しているのを感じながら、その剣を力いっぱいに振り下ろす。

月光を浴び、ギラリと牙のように輝くギルガメッシュの両刃剣は怪物の『スピンナックル』とぶつかり合って………。

 

一方、九鳴高校寮では仁藤統の分析能力が展開されている異世界において“見知らぬペルソナ反応”を嗅ぎつけた。

 

 




この怪物のイメージはモンハンのラージャンをイメージして書いてみました。
スーパーサイヤ人のように黄金色に輝きませんけど。
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