仮面異聞禄ペルソナ   作:ふくつのこころ

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ペルソナ3であったかもしれない、理不尽。


猿山の大将

「いやぁ、やっぱり自販機の菓子パンは旨いわー」

 

「うむ。チョコクッキーメロンパンは美味である」

 

「お、おう……」

 

食堂の裏にある菓子パンが売っている自販機前にて、真尋は慎太郎やレイラの菓子パンを頬張る様子は先ほどの剣幕が消えた様子だとか、それぞれが購入した菓子パンに舌鼓を打っている。

言ってみれば食堂で起こした騒ぎの後、普通にその張本人がその場に残って食事をしているのと同じで剣幕や怒りや上級生を殴り飛ばした様子も見えず、ただ仲の良い二人が菓子パンを食べている隣で『猛烈!激辛カレーパン』の袋からカレーパンを出し、全く進んでいないので二人はカレーパンに視線を集中させる。

 

「いや、食べるけど?」

 

「「チッ!」」

 

「あー、本当に仁藤先輩クソだわ」

 

カレーパンを分けてもらえなかったことや、あんぱんを食べ終えた慎太郎は袋の包みを仁藤に対する恨みを込め、ゴミ箱に丸めて投げ捨てた。飛距離はそこそこであったことや、軽い素材を使っているのでゴミ箱から外れるかと思いきや、見事に必中した。「お見事」とレイラと共に賞賛すると両手を挙げて賞賛を受け、表情は終始ニヤニヤしていた。褒めて伸びるタイプ、というより褒めたら増長するタイプだった。

 

「さっきの仁藤先輩見た感想だけどよ、お前にはどう見えた?平坂」

 

「まるで来るタイミングを読んでた様だった」

 

「そうだろう?」

 

レイラが真尋と慎太郎ら二人の会話する様子を眺め、場所を変えるように促すと昼休みで無人になっている中庭へと向かった。ちょうどベンチは空いていて三人が座るには丁度良い。私服着用が認められているとはいえ、ゴスロリドレスでシルバーブロンドのレイラ、茶髪ピアスにニット帽の慎太郎、制服を着崩している真尋の三人が座るには丁度良い場所だった。

左端には慎太郎、中央には真尋、右端にはレイラ。

真尋を挟み、両サイドには嫌でも目立つ二つがいて真尋を逃さないといった様子である。真尋本人には逃れるつもりは毛頭ないのだが。

 

「あれが仁藤統の恐ろしいところだ。まるで、なんらかの守護霊が憑いてる(、、、、)みてえにタイミングを読んできやがる。お前、この学校に不良グループ見たか?」

 

「いや、見てないな。まさか仁藤先輩が纏めてるとか言わないよな?」

 

「それがそうなんだよ。仁藤統、俺の家の道場に通ってるってお前も聞いたろ?」

 

「ああ。昨日だっけか?ボソッと言ったのを聞いたし」

 

「よく覚えてんじゃねえか。あの人、圧倒的なカリスマだけで生徒会長にも道場の門下生を纏めたんだぜ?」

 

須藤慎太郎の語る、仁藤統(ニトウオサム)はこうだ。

道場に入門した際に既にその頭角をメキメキと現し、その実力は師範代を勤める慎太郎の父親に並ぶものになった。それで門下生が何人かかっても仁藤には敵わず、ちゃんとしたカタがある上でまるで横スクロール格闘ゲームのようになぎ倒していくのだ。それでいて成績優秀、人望もあって短所となるところは何処にもない。普通ならば仁藤の長所を恨み、仁藤の弱みを探そうとするものが現れるが仁藤にはソレがなかった。人間誰しも他人に対する僻みがあるもので、好意を抱いて接していても僅かながら存在する。仁藤統に対しては門下生からのそれがなく、疑問に思ったところ、仁藤は師範代で慎太郎の父親に対して言い放ったという。

 

『明日の試合、先生が勝ったらお話しますよ。もちろん、勝ったらの話ですけどね?』

 

異常なまでに爽やかに笑う仁藤に慎太郎の父親は格闘家としての本能からか、それとも一つの武術を極めた戦士としての本能からか。たかが自分の人生の半分も生きていないような、門下生の仁藤に恐怖を覚えたという。そして翌日に行なわれた、門下生全員で行なわれる模擬戦。師範代との模擬戦は門下生全員の前で行なわれ、これからの精進の為に、という理由で行なわれたそうだ。これは歴史あるもので慎太郎の家の道場の流派が代々伝わる我流流派とのことで師範代と門下生のうちで一番優秀な者と行なって目で見て盗むためらしい。

結果は師範代の慎太郎の父親が勝利したが、その夜に慎太郎の父親は異常に気づいた。模擬戦の中で足に皹を入れられていたことに。仁藤は技術面が高く、一撃の重さの割にフットワークが軽いことから回避行動が容易に出来る。そのおかげでボクシングの学生部門の大会やらに出場しているとのこと。これは父親が母親に慎太郎が寝静まったのを確認した上で話したらしいが、肝心の息子には聞かれていたようだ。

 

「つまり、そんな見えないところで反則技をするスポーツマンシップもクソもないヤツに俺たちは呼び出されたんだな!」

 

「いや、もっと焦るべきだろう!休日のスパーリングの相手しろ、って言われたら死ぬぞ!?格闘家はその肉体、ボディが凶器なんだから。……なんかされたら訴えに行けばいいか」

 

「ラインハルトの口調が普通になってるけど、まぁいいか」

 

話を聞いている限りでは仁藤は真尋の中で大きなキャラクター付けがされた。

当初は大食漢で面倒見が良さそうな先輩、というのに加えて種族:外道と脳内でチロリロリン♪と新規データを更新しました!とテロップが浮かびそうだった。

午後の授業よりもまずは寮に帰ったときが苦痛だなぁ、と話を聞いていないようで聞いていたレイラには感心しつつ、そのまま三人は教室へと戻った。昼間の食堂でのやり取りが既にクラス中に広がっていたのか、三人を見る視線は痛々しい。事情を察した教師も三年が悪いと分かってくれているようで、特にお咎めの言葉はなく、滞りなく授業は進行した。慎太郎が壁まで上級生を吹っ飛ばしたせいで殴られたくない、とクラスメイトが関わるのをやめたからだろうか。学校と言う小さなコミュニティは噂が広がるのも早く、それは八十神高校でも変わらなかった。向こうは小さな地方都市というのもあり、学校でなくとも噂はすぐに広まるが。

 

一日の授業が終わり、三人は心を引き締めて寮へと真っ直ぐ帰った。志王町が学園都市で学生が多いこともあって上級生をワンパンした、と尾ひれがついて慎太郎に不快な視線を送る主婦や学生に慎太郎が絡む前に真尋は気を回して出来るだけ周囲に気をとらせないように自分から話題を振りつつ、心労が絶えなかった。

やっと寮に辿り着いた時は昼間に聞いた、仁藤の裏面を聞いた上での先輩からの呼び出し。

瞬時に人体の骨に罅を入れられる、と言えば特殊な能力を使ってでしかできないはずだ。人間は百パーセントの力を出せば身体にガタが来るので、普段はリミッターをかけてそれを押さえつけている、と聞いたことがある。寮に入るとソファの真ん中を仁藤と桐谷が陣取り、うっすらと仁藤の隣にはギルガメッシュと同質の存在(ペルソナ)が確認でき、桐谷の隣にも同様の者が見える。

 

「ああ、帰って来たのか。では、突然だけどな、お前らに話がある」

 

「……なぁんか、妙な気配がするんすけどねえ?俺ら以外に寮に人はいないんじゃなかったんすか?」

 

「!?」

 

寮内から三人に向けて発せられる殺気は尋常なものではなかった。実家が道場と言うのもあり、殺気を相手が持っているかどうかについては熟練な慎太郎は仁藤が切り出す前に三人に向けて階段のほうやキッチンの方から漂ってくる殺気に敏感に反応した。後頭部に手を回し、非常にリラックスな姿勢をとれるのはブラフなのか、それとも本当に余裕を持って接しているのか。

武術は彼より劣るとはいえ、真尋にはペルソナがある。いざという時に備え、ペルソナを発動できるように構えていると不安そうなレイラが真尋の制服の裾を掴む。

 

「ほう、察しがいいな。さすがは道場の師範代の息子、しごきが違う。桐谷、頼むぞ?」

 

「了解だ」

 

仁藤が桐谷に会釈すると、桐谷は足元から青白い光を放って魔方陣を作りだす。慎太郎やレイラは足元に視線が集中するものの、真尋のみが動じずに平静を保っていたのを仁藤は見逃さなかった。完全に魔方陣が作り出されたのを確認すると仁藤はパチン、と人差し指を鳴らす。

すると桐谷の「女王」を思わせるドレスを纏い、蛇の下半身を持つペルソナ「ヘル」が顕現し、漆黒の空間が一面を包んでゆく。

既に夕方で空はオレンジ色に塗りつぶされたような明るさはとっくになくなり、真っ暗な夜空とわずかな街灯が怪しく輝いてラウンジから見える地面にはギルガメッシュが覚醒した晩に真尋が見た光景と同じものが広がっている。

 

「これは桐谷のペルソナ、ヘルの副次能力「インスタント・ミラージュ」。この寮はどうやら特別らしいんだが、ヘルが造り出した暗黒世界では既に覚醒済みのペルソナ使いしか歩き回れない」

 

仁藤が立ち上がり、真尋らのまわりを一巡する。仁藤のまわりも青白く輝き、仁藤からゴーグルつきのヘルメットに大柄な古代の戦士のようなペルソナ、「ヘイムダル」が現れる。目の前の現実離れした光景に慎太郎は腰を抜かすものの、レイラは目を輝かせている。「ペルソナ」だとか「副次能力」だとか、漫画やアニメのような単語に胸を躍らせているようだ。

 

「伊原、西園寺」

 

「はい」

 

「ハッ!」

 

仁藤に呼ばれた、寮の住人であろう生徒二人が顔を見せる。一人は大柄な女子生徒で一人は掴みどころのない笑みを称えた同級生のようだった。しかし、昼間やクラスでは見かけなかったことから別のクラスに所属しているんだろう。

伊原と呼ばれた女子生徒は威勢の良い掛け声で鎧を纏った戦乙女の姿をとるペルソナ「ヴァルキリー」を召喚し、西園寺と呼ばれた男子生徒はあわてて鎧にマントにグングニルを持つ眼帯のペルソナ「オーディン」を召喚する。ヴァルキリーは仁藤や桐谷と同じ力を感じるものの、西園寺と呼ばれた生徒からは力の底が知れない。もっと別のものを抱えているような、形容できない何かがある。

 

「平坂、お前が昨日の深夜にコンビ二の帰りにペルソナに目覚めたのは知っている。俺たちのペルソナの法則上、北欧神話だろうから、お前も俺たちの仲間だろう」

 

「(ほうれみろ、来たよ善人気取りの仁藤節♪ペルソナとか副次能力とかなんだってんだよ、って話だよな。現実と創作世界の区別もついてねえんじゃえねえの?)」

 

「さぁ、ペルソナを出してみろ、平坂」

 

面白半分に笑いながらペルソナをリアルなCGと割り切ってケラケラ笑う慎太郎に静かにレイラは突っ込み、背中を引っぱたく。受身を取る隙もなく引っぱたかれたことで、痛みに苦しむ慎太郎が悶えている姿を見て心配し声をかけようと思うが、真尋の持つペルソナの神話的分類が北欧神話であると断言されたこと、それとどんな能力を使用したかは知らないがプライバシーも何もない仁藤の口振りや『これは既に決定事項』だと割り切られたことに真尋は怒りを催し、立ち上がった。

 

『見せてやろうぞ……!眼前の無知なる者に原初の英雄、このギルガメッシュの力を……!』

 

フリータロットが身体に透き通るようにして吸い込まれていったことで目覚めた力、ギルガメッシュ。詳しいことを聞いてみようと一日を過ごし、そして仁藤による妨害。約束の時間よりわざと遅く来ることで苛立ちを示そうと思ったが、その後に聞いた慎太郎の仁藤がやらかしたこと。人から聞いたことを丸呑みにするつもりはないが、勝手に決め付けられていることは真尋にとっては大嫌いで決め付ける人間も嫌いだった。此方に拒否権を設けるつもりのない仁藤サイドのペルソナ使いの人数は圧倒的なものの、こういう組織は頭をたたいてから逃げるのが定石。この寮であった不祥事を学校サイドに伝え、三人で別の寮に変わることが出来れば幸い。

 

「来いッ!ギルガメッシュ!」

 

「なにっ!?」

 

青白い光と共に左腕につけられた篭手と古びた両刃剣を持ったペルソナ、ギルガメッシュが現れる。

真尋も同じものが呼び出せたことに慎太郎は尻餅をつくも、レイラは変わらず創作でしかなかった世界が自分の目の前(リアル)である喜びを体感していた。真尋の制服の上着の裾から手を離し、恍惚とした表情で両頬の上に手をあてている。異常な光景と異常な友人(レイラ)。異常な連中の中でまともな感性を持ったものが自分しかいないと分かれば人は次第に狂気に落ちてゆくだろう。

 

「仁藤先輩、勘が外れてましたね……」

 

「あ、この賭け俺の勝ちですね♪」

 

「はぁ……。なにが俺の勘は冴えてる、だ」

 

ペルソナを召喚している仁藤サイドの桐谷、西園寺、伊原はそれぞれ三者三様の感想を漏らした。そこで慎太郎は状況を理解する。彼らの余裕を。力ある者はたいてい余裕を見せる。それは他者には、弱者と見下した者には負けないという絶対の自信であったり、見下した者が反撃してくると考えない理不尽さからだった。桐谷、伊原、西園寺の三人は三人とも同じ答えで仁藤の側についている。仁藤をからかうような口調でいても仁藤を反対する様子はない。

誰も、(ペルソナ)による脅迫を三人に対して行なっていると気づいていない様子。

 

「いや、そういうこともあるんだろう!素晴らしいことだ、平坂、歓迎しよう!そのペルソナからは秘めた潜在能力を感じる!俺のように場数を踏めばきっと強くなれるだろう!我々はお前を歓迎するぞ!」

 

仁藤は桐谷らの言葉に機嫌を悪くするどころか、むしろ意見を肯定した。仁藤は此方の話を聞くつもりは毛頭ない。此方の言葉に同意する前提で話を進めている。慎太郎から真尋が話を聞いた上での今の印象は仁藤(コイツ)は人から否定される前提の可能性(パターン)を全く踏まえていない。諸手をあげて歓迎する様子を見せようとも、こちらの選択肢は「はいorYes」の二択のようでいて、よく見れば答えは一つしかない。

 

「断る」

 

「ほう、それはどういう理由だ?」

 

ニッコリと微笑んでソファに仁藤は座りなおすも、背後からペルソナの『視界』を通して感じる奇襲攻撃。ギルガメッシュのその両刃剣で受け止め、攻撃を受け流すと奇襲攻撃を仕掛けた張本人は伊原と伊原のペルソナ、ヴァルキリーだった。奇襲が失敗したことに伊原は舌打ちをするも、ギルガメッシュに目覚めたことで運動神経も強化され、ペルソナの視点を通してだとか反射神経はペルソナ使いとなったお陰で冴えている。ペルソナに目覚める前ならば昼間の慎太郎があの状態になった際、喧嘩になればすぐにノックアウトされるだろう。

 

「平坂、その力は……!?」

 

「詳しくは後でだ!誰の差し金か分からないが、西園寺と桐谷先輩に気をつけろ。ペルソナ使いは俺たちの中では今のところ、俺しかいない!」

 

「それって、俺も目覚める可能性がーー「オラァ、隙ありぃぃぃぃ!」

 

ギルガメッシュを剣のように振るう真尋の姿に慎太郎は自分もペルソナを使えるんじゃないか、と期待の眼差しを送る。が、隙を狙って西園寺のペルソナのオーディンがオーディンの伝承で持つとされる槍、グングニルを構えて慎太郎の急所を狙って突撃する。グングニルの伝承での効果は絶対必中とされ、持ち主の手に戻る。西園寺がグングニルを投げる構えを取ると、ペルソナで強化された脚力で接近し、古びた両刃剣でグングニルを封じる。

 

『グングニルを投擲!/Error』

 

「なるほど、語る言葉を持たないのか。いいだろう、全力を以って痛みつけてやろう!」

 

『ヘイムダル、チャージを使用/ペルソナ・ヘイムダルと仁藤統による攻撃力上昇!』

 

仁藤が力を溜める構えを取ると、ヘイムダルも同じく力を溜める構えを取り、特異なリズムで呼吸を繰り返す。

真尋は西園寺と伊原を相手取り、ペルソナ同士ではギルガメッシュの両刃剣がオーディンのグングニルを押さえて空いた篭手のつけていない手がヴァルキリーの頭部を押さえつける。ペルソナ使い同士の戦闘では伊原は槍術を心得ているようで、その大柄な身体でも軽い身のこなしで掃除箱にあったモップを軸に回転し、回し蹴りを入れようとする。回避速度や反射時間のコンマ一秒を読んでいたのか、手痛い蹴りが炸裂する。背中ががら空きで気にする時間がなく、その背中に向けて西園寺がタックルを食らわす。ペルソナ使いとなったことで上昇した運動神経や勢いをつけたことで威力は増し、ペルソナ・ギルガメッシュによる牽制が揺らぐ。その僅かな隙を突いて身を崩した真尋に向けてヘイムダルの小山のような拳が振り下ろされるーー!

 

『ヘイムダル、ゴッドハンドを使用→Target Rock On!』

 

「ハハハハハ!俺に逆らうからだ!俺に逆らうから、そんな目に遭うんだよ。生意気なんだよ、平坂ァ!」

 

ヘイムダルのスキル、“ゴッドハンド”は周囲に気を遣ってーー否、寮が倒壊するのを恐れての低出力だったものの、真尋を守ろうと衝撃を“ゴッドハンド”を押さえる為のクッションとなったギルガメッシュにダメージを与え、フィードバックが身を崩した真尋を襲う。

 

「う……、グァアアアッ!」

 

「這いつくばれ、この畜生めが!この俺に楯突いてただで済むと思ってんじゃねえぞ?そうだなぁ、そこの思考(ココ)がオカシイヤツはひん剥いてやろうかぁ~~?」

 

倒れ伏した真尋の腹部に土で汚れたシューズによる蹴りは真尋の制服を汚し、ヘイムダルのスキル“チャージ”によって上昇した攻撃力も加わり、内臓破壊を増幅させる。吐血した真尋の血で仁藤の靴は汚れ、それを拭うように足でグリグリと汚れをふき取ろうとする。俊敏な動きでまるで疾風(かぜ)のように早く移動し、ヘルの持つ獲物から出現させた刃で首を宛がったレイラを指差し、仁藤はこめかみを軽くとんとんと叩く。

 

「てめぇ……っ、ついに本性現しやがったな!?うちの門下生にも同じことしてやがったのか!?」

 

「ハッ、どうだか。そうそう、いいのか?須藤。接近戦ではお前は俺に勝てないんだぜ?」

 

ギルガメッシュの剣による不意打ちをヘイムダルの拳が受け止め、振り払うと昼間の慎太郎がレイラにジュース入りの紙コップを投げつけた上級生にしたように壁へと吹き飛ばされる。オーディンのペルソナ使い、西園寺はおろおろとしていて状況をよく理解できていない。レイラに這わされた、伊原と桐谷の指はやがてレイラのドレスのボタンへと触れる。口を押さえられ、声を出せないレイラは瞳に涙を浮かべーー

 

『汝、何を為すが為に力を求める?』

 

『汝、何ゆえ力を求める者となるか?』

 

瞳を閉じたレイラと慎太郎の脳内に語りかける、それはもう一つの自分(こえ)

 

「(俺は……!)」

 

「(私は……!)」

 

緩慢する時の流れと共に一人は疾走し、友を仲間を救うべく。

緩慢する時の流れとともに一人は拘束され、二人の友人を守るために願う。

 

「「(あんッの大馬鹿野郎を助ける力を、護る力を!)」」

 

『『汝らが願い、聞き入れたり……!』』

 

レイラと慎太郎の中から外へと放出される、もう一人の自身(ペルソナ)

自分たちを護る為に己の身を犠牲にし、あの外道生徒会長に踏みつけられているボロボロの愚者(フール)に力を貸すため。

 

『オレ様は神が造りし獣人にしてギルガメッシュの戦友にして相棒、エンキドゥ!』

 

疾走中の慎太郎から顕現した、見上げるほどに巨大な屈強な肉体を持つ腰巻だけを纏った唯一の武器の巨大な棍棒を肩に担ぐ獣人(エンキドゥ)

 

『わたくしは冥府が女王にしてイシュタルの姉妹……、名はエレキシュガルと申します』

 

レイラの服を弄る桐谷や伊原を払いのけ、そして吹き飛ばして顕現し(あらわれ)た黒いローブにロッドを持った魔女風貌の女(エレキシュガル)

 

『オレ様はオレ様の現し身が為に力を振るい、牙となろう!』

 

獣人(エンキドゥ)はその巨大な棍棒を振り回しながら、火球を放つ。放たれた火球は小さく頼りないものの、ヘイムダルに直撃してその身体が僅かの炎にして一気に燃え上がる。

 

『弱者の剣と也、盾となろうとした者よ……。我が力をお貸ししましょう!』

 

魔女風貌の女(エレキシュガル)がロッドを振るうと桐谷と伊原に向け、“闇”から伸びた手が彼ら二人の動きを止める。

 

「おい、立てるか?平坂」

 

「あ、ああ……」

 

「凄い、これが仮面舞踏会……!先ほどの厄なんぞ、忘れてしまいそうだ。見せてやろうぞ、我らが(ペルソナ)を!」

 

怒涛のペルソナ覚醒に加え、ヘイムダルに魔法によるものなのか慎太郎のエンキドゥによる火球を吐き出す攻撃でダメージを与えたがヘイムダルは予想以上に脆かった。

ギルガメッシュがエンキドゥにより立ち上がると、エンキドゥからは『HUNGEDMAN(刑死者)』の文字が浮かび上がり、エレキシュガルからは『DEATH(死神)』の文字が浮かび上がっている。

どれもタロットカードだったはずだ。

“闇”によって移動し、ボタンを外されたドレスを隠すように移動しながら真尋の隣に立つレイラ。

ノリノリな様子に心配して損したかな?と首をかしげると、四対三と一気に先ほどの状況から巻き返した。

ギルガメッシュにはまだ慣れず、レベルはまだあの四人には及ばないだろうが、ペルソナに目覚めた仲間が二人いる。レイラのエレキシュガルの“闇”に関連する能力は強力無比だろう

さぁ、第二ラウンドだ。

 

「ここから、巻き上げよう!」

 

「OK!」

 

「我が仮面の力、とくと思い知るが良い!」

 

2021年。

 

一年を共にする仲間と共に、平坂真尋は謎の異界や立ち塞がるペルソナ使いに立ち向かうこととなる。

 

 

 

 




怒涛のペルソナ覚醒ラッシュ。




仁藤サイドと神話的繋がりが皆無なのは敵対するためなので。過去作見てても3や4では仲間には神話的繋がりはありますが、女神異聞録にはありませんし。

ネタバレ:犯人はヤス
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