仮面異聞禄ペルソナ   作:ふくつのこころ

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今回にて第一章終了。

WILD(替わる者)。
Arcanist(同一能力者)。
Clown(道化)。

そして、JOKER



Joker

 悠久の中、どれほどの時間が経っただろうか。

“皇帝”ヘイムダル、“女帝”ヘル、“剛毅”ヴァルキリー、“刑死者”エンキドゥ、“死神”エレキシュガル、“愚者”オーディン、“皇帝”酒吞童子、そしてギルガメッシュ。登場したペルソナは土壇場で覚醒したレイラと慎太郎を含めても、こちら側は三体だけでペルソナ使いと経験の面を敵と比べれば、差が空きすぎている。

 まどろみの中、そこは寮内でもなければ出発前に見た夢の世界でもない、不思議な世界だった。

青い青年、“イゴール”との邂逅をした際に渡されたフリータロットは一枚だけだった。彼は何も言わなかった、ペルソナを付け替えることのできる能力を持つ者について。言及しなかったのでなく、言及しようとしなかったのではないかと。知っていて言わないのと知らずに言わないのとでは意味が変わってくる。“イゴール”が言わなかったせいで新しく出来た友人が命を落とすというのならば、許されたことではない。

 

「予想できなかった、というべきだろうね。ようこそ、ベルベットルームへ。無事にペルソナを覚醒できたようでなによりだ。さて、今、お客人の運命は佳境にある。己の仮面に振り回される“道化(クラウン)”によって、君と君の仲間たちは運命を終えてしまうかもしれない」

 

「な……ッ!?」

 

“イゴール”が指を鳴らせば、ぐったりとしている慎太郎とレイラが現れた。触れようと手を伸ばせば、彼らの身体がぼやけているのが分かり、ノイズが入ったように身体が映像のようにぼやける。

彼らをこの場に出現させた“イゴール”の思惑は分からないが、こうして手を伸ばしても冗談や軽口を慎太郎が飛ばさなかったり、尊大な態度は取るものの、優しさを見せるレイラもいない。

怒りのあまり、ギルガメッシュをけしかけようにも手にはギルガメッシュの錆び付いた剣があり、柄の部分しかなく、握ってしまえば砂となり消えて行った。

 

「今のお客人は弱い。敵に向けた剣すら、一時の感情に左右されて錆びつかせて刃を失う。このまま、戻ったとしても、お客人は“皇帝(EMPEROR)”のアルカナ、酒吞童子を呼び寄せた道化のように人に振り回されるペルソナ使いではない。お客人にとって力とは護るべきものを護る、“切り札”」

 

「切り、札……」

 

“イゴール”がテーブルに両肘をついて前かがみになって語る、言葉の一つ一つが沸き水のように真尋の心へと染み入る。ファーストコンタクトの第一印象は最悪だったものの、こうして相対すれば“イゴール”がいかに熟練者であるのかを認識しなおされた。トランプを切り、綺麗に広げれば、予備で紛失したカードの為に使われる、白紙のそれをスライドさせて真尋の前にやってきた。

 トランプで言うジョーカー、ウノでいうワイルドカードは何にでもなれる最強のカードだが、“イゴール”の言うジョーカーとはそれのことではないだろうか。

 

「君は可能性の芽を選ぶことができるようだ。だからこそ、君はこの力を引き出せる」

 

“イゴール”が宙をスライドさせれば、真尋の心の中から一枚のカードが現れる。それは、獣のような怪物との戦闘後に見たカードに聞いた優しい慈しむような声。そのカードに刻まれた、デザインはあのときの怪物そのもので凶悪で獰猛そうな様子は酒吞童子と相対できそうだ。パワータイプというよりもほとんど万能タイプなギルガメッシュと違い、一辺偏倒の純粋なパワータイプならば太刀打ちできるだろう。

 

「これは……」

 

――さぁ、戻るといい

 

 優しい声と共に真尋は意識がよりハッキリしてゆく。手にカードを握ったまま、その手の上にさらにギルガメッシュが重ねたことで力が満たされるのは、仮面(じぶん)もまた新たな希望を見出したことを祝福してくれているのだろう。そして、この力で必ず友人二人を救うのだと。

 

そのカードに刻まれた、アルカナは『TheSUN』。

 

               ※

 

「ネルガル!」

 

『ほう?起きたのか、クソガキ!』

 

 目を覚まし、倒れているレイラと慎太郎はきっと酒吞童子によって意識を失っているんだろう。

ボロボロな理由は回復スキルを持たない三人は回復をする手段がなく、仮に誰かが出来たにしろ、覚醒してからすぐなら先に覚醒していた仁藤らの動きを完全に読めるわけではないのだ。

 だからこそ、新しいペルソナ・ネルガルを顕現させることが出来る。ネルガルの能力は酒吞童子には割れていないおかげもあり、ギルガメッシュを出さずにネルガルを呼ぶ。

 

『余は大いなる太陽にして万象を焼き尽くす者、ネルガル。半身よ、万象を我が炎で焼き尽くそうぞ!』

 

髑髏の連なった首飾りに禍々しい装備、錫杖を持った姿は魔術師に似ている。

太陽のアルカナのペルソナ・ネルガル。

火炎を手首を包む篭手と足首を包むグリーヴからして火炎を操るペルソナなのだろう、そこに立っているだけで高温が発せられている。気を少しでも抜けば倒れてしまいそうだが、それをこらえて仁王立ちする。

レイラも、慎太郎にも暴走した仮面ごときに殺させてたまるものか。

 

「……お久、須藤とラインハルト」

 

「ヒーローは遅れて登場、ってところか?」

 

「流石は我が同胞」

 

 気を失っていたらしい、その二人はネルガルの熱気に当てられて目を覚ましたようだ。寮内は壁が溶け、すっかり建物としての役割を持っていない。寮を此処まで荒らしていてよかったのか、と思うが後輩を虐めた生徒会として学校に告発すれば、取り上げるかどうかはさておき、まずはあの暴走した仮面を抑えつけるのが先だ。ネルガルには回復スキルは持っていないのか、と思ったときにはレイラと慎太郎の傷は癒えたが、まだ動きには至らないようだ。

 

『なるほど!そのような強化もあるというのだな?面白いことをする小僧だ、火炎をも従えるとは』

 

『ほう?言ってくれるではないか、蛮族が。余は貴様のように人間をないがしろにするものを憎むぞ、人間は貴様の玩具ではないのだ。人間とは脆弱であるが為、我らを頼る。我が半身よ、その燃え滾る心を忘れるでないぞ。その心こそ余を動かすに十分な力を与え、半身に太陽を司る者としての力を振るわせよう』

 

酒吞童子がペルソナ使い・西園寺を吸収していき、その実態はよりはっきりと映る。ペルソナが本体を乗っ取ると言うのを見れば、まさしく“イゴール”の言うとおりに仮面に踊らされている道化(クラウン)との表現が正しいだろう。

半身(ネルガル)の言葉に頷き、火炎を両手足首の各所に集中させる絵を浮かべる。炎とは生命の象徴、命の灯だとか命の灯が消えた、という表現があるように生命と炎は切っても切り離せないものだ。人間はプロメテウスの火に代表されるように、爪も牙も毛皮もない“裸の猿”であった身から火を操ることによって、火をその手で使えるように起こせるようになったことで外敵と戦う牙とし皮として使えている。

 

「焼き尽くせ!ネルガル!」

 

『我が半身よ、あい分かった』

 

 真尋の命に従うように、黒い太陽は鬼の大将と刃をぶつける。火炎と金棒、どちらが強いかは明白だが、その勢いに押されないように炎がブーストしてネルガルの力を増幅させてスピードを上げている。酒吞童子の金棒はネルガルの炎を振り払おうと必死に振り回すものの、『太陽』そのものであるネルガルには通用せず、あくまでなけなしの攻撃はネルガルに余裕を作る。その余裕を狙い、ネルガルの鎧を剥がそうと火炎に触れようとするが、それがかえって鬼の大将に傷をつけ、寮内に炎が広がると仁藤がなにか騒いでいる。

 

「ギルガメッシュ!」

 

朽ちたはずの両刃剣は直り、ペルソナ・ギルガメッシュは慎太郎とレイラを抱えて外へと飛び出した。レイラがこちらに手を伸ばしているものの、この轟音によって掻き消される。それほどに大きな炎となると、流石に消防隊も出動するほどだろうが、警察が駆けつけない辺り、やはり狂っている。

 ふと、酒吞童子が空けた壁の穴から見える幻想的な世界(ミラージュ・ワールド)はペルソナに目覚めた、あの晩のようだ。

 

「業火の中、こうして普通に話せるのはペルソナが起こした炎だからかな……。それとも、あの日、あの異世界に入ったことが原因で耐性が出来ているかもしれない。いらないけど」

 

ーーけど、それで憧れていた者になれるなら。

 

 ギルガメッシュが同級生二人を助け出した後、残された剣はギルガメッシュからの餞別だろう。よろよろと起き上がった仁藤のストレートは重く、まるで満身創痍には見えない。こちらがおきたときからチャンスを狙っていたんだろうが、あからさまな殺意は見え見えで挌闘家である以上、一般人に振るうのは許されないだろうに、こうも平然と振るうのは誰の干渉もない(せかい)であること、世界(ばしょ)であるからか。

デタラメに飛んでくる重い一撃やキック、その全てはネルガルとギルガメッシュの維持の為の精神力を削って、立っている今でもまともに攻撃が来る予測方向を見れば、避けられないほどではない。

 一流の挌闘者の攻撃の方角が分かるのもまた異常だろうが、弱っているなら別の話だ。特撮でヒーローがやられても子供に倒された宇宙人がいるほどだから、ペルソナと言う能力で底上げされた武闘家が傷だらけならば、簡単に剣の一撃は届く。武器のない相手に対して武器を振り回すのはヒーローがすることではなさそうだが、レイラへの侮辱、慎太郎を貶めた仁藤を甚振るのに抵抗はなかった。

より怪我の酷い腹部に蹴りを入れ、仁藤が態勢を崩したところを狙い、ギルガメッシュのものと同じ剣をダーツのように投げ刺す。

 射的や投擲は得意ではなかったが、仮称として“ペルソナ補正”と呼べる力によって上手く命中し、串刺しになった仁藤は地面に倒れ伏す。あとはネルガルが酒吞童子を倒し、この炎の中を抜け出ていくまでに時間がかかるかどうかだ。

 

『“災禍の審判”!』

 

『金剛発破!』

 

 広範囲に向けて放たれる、酒吞童子の物理攻撃。それを掻き消そうと放たれる、ネルガルの髑髏を模した炎は打ち消しあって、すでに真尋が精神力を振り絞っていたのもあり、ネルガルの姿が薄れる。膝を崩し、動けなくなっていた真尋と対照的にペルソナ使いを乗っ取っていた酒吞童子は西園寺の精神力をエネルギータンクとして使い、自らが現界できる制限の境を取り払ったようだ。

あくまでも精神体のまま、しかも同時二体召喚ということもあってか、真尋の身体は既にボロボロだ。ネルガルが口惜しそうに姿を霧散させれば、離れた地で二人を降ろしたギルガメッシュもまた姿にノイズが入る。

 ギルガメッシュを所持するが故に得た、ギルガメッシュの剣と似たものを作り出し、ギルガメッシュと同じ剣を振るえるとだけの能力は無事らしく、ペルソナを使えなくなった真尋の手にはまだ剣の感触はーーない。仁藤の腹に突き刺さったままの剣を引き寄せようと離れた位置からなぞるようにして掴めば、剣が手元に戻る。

 建物の崩壊が始まり、真尋の視界には逆位置の皇帝のアルカナのペルソナ・酒吞童子の姿が見える。

 もう一つの影が視界に入る……もう一つの影?西園寺も伊原も倒したはず、ならば一体、何者と言うのか。

 

「『殺してやる!殺してやるぞ、クソガキィィィィ!』」

 

「……来いよ、刺し違えてやる」

 

建物の梁が落ち、剣を弱弱しく握り、ありったけの力を込めて駆け出せば、酒吞童子の顔面を突き刺し、仮面が割れるようにして倒れ落ちようとした西園寺を救い、それから、より攻撃性が増した仁藤の拳が入る前に鳩尾に靴底を叩き込み、西園寺を引き摺りながら、飛び出したところでーー建物は崩れ落ちた。

 

「「平坂(マヒロ)ーッ!」」

 

焼け落ちるのを目撃したレイラと慎太郎は気がついたときに別のペルソナを西園寺のように呼び寄せ、そして酒吞童子という強力なペルソナと仁藤に向かっていった出会ったばかりの友人の名を叫ぶ。

感謝と後悔を胸に秘めて。

 

 

 




平坂ァァァァァ!
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