始まりの話
ホウエン地方トクサネシティ。本島から少し離れた平坦な島にポツンとある街だが、宇宙センターがあるお陰か、けっこう都会の街だ。ジムもあるため、ポケモントレーナーの往来も多い。
そのジムがエスパータイプを専門にしているためか、この街に住む人達も、心なしかエスパータイプのポケモンを持つ人が多い気がする。
ウチの家族もそうだ。母さんはサーナイトとエーフィを持っているし、父さんもチャーレムを持ってる。爺ちゃんなんて本人そのものが“サイキッカー”で、手持ちすべてがエスパータイプのポケモンだ。
まったく迷惑この上ない……。
この世界で、サイキッカー、いわゆる超能力を持つ人間は、そう珍しくない。トクサネジムのトレーナーにも超能力を持つエスパータイプ使いのトレーナーが何人かいると聞く。
俺、カズヤもそうだ。爺ちゃん譲りなのか、俺自身も超能力を持っている。具体的にはテレキネシスとマインドコントロールとかだ。赤ん坊の頃は見境なく物を動かしたりして、母さん達も(主に爺ちゃんが)手をやいたみたいだが、自我がしっかりし始めた時を境に、コントロールできるようになった。いまではレベルの低いエスパータイプのポケモン並みに超能力を使えるようになった。
だが、その影響なのか、あるいは代償というのか、現在の年齢が7歳にも関わらず、精神年齢はそれ以上にまで成長してしまった。これが良いことなのか悪いことなのかは分からないが、とりあえずポジティブに受け止めて「皆より少し早く大人になれた」と考えてる。
そんな少し大人びたサイキッカーの俺、カズヤ。今日は手持ちのラルトスと一緒に、公園へ遊びに来ている。ちなみに、このラルトスは今年の誕生日に母さんがくれたポケモンだ。母さんのサーナイトの子供というわけではないけど、まだ小さな子供のラルトスだ。最近【ねんりき】を覚えたばかりで、自分のモンスターボールを使って俺とキャッチボールをするのがマイブームらしい。
「いくよー、ラルトス」
「ラルぅ!」
俺も自身のテレキネシスを使ってラルトスにモンスターボールを渡す。ラルトスは【ねんりき】で飛んできたモンスターボールをキャッチすると、「ラルぅ、ラルぅ」と鳴きながら、自身の周りをゆらゆらと浮遊させる。
まだ少し安定して浮かせることに慣れていないみたい。
「大丈夫?」
「ラル!」
手元はおぼつかないが、ラルトスは『うん!』とはっきりとした返事をする。やがてモンスターボールが一点に固定して浮遊するようになると、ラルトスが胸を張るポーズを取ってこっちに顔を向けた。
「ラル!」
「はははっ。うん、うまいうまい。上手になったね」
「ラールー!」
ほめられて嬉しいらしく、ラルトスは明るい声で鳴いた。そして今度は、ラルトスが【ねんりき】で浮いたモンスターボールを俺の方へ飛ばす。俺はその飛んでくるボールに手をかざすようにして、テレキネシスでコントロールするよう意識を飛ばした。
ラルトスの念力のコントロールから外れたボールは、今度は俺の放つ念にコントロールされ、宙に浮く。ラルトスが【ねんりき】で浮かせたモンスターボールは上下をしっかりと固定して浮遊するが、俺のテレキネシスで浮いたモンスターボールは、まるで無重力中にあるみたいに浮遊している。同じ超能力でも、ポケモンと人間とでは微妙に何かが違うらしい。
俺はジャグリングのように自身の周りにボールを浮遊させた後、再度ラルトスに渡した。すると今度はラルトスが俺の真似をして、ジャグリングのようにボールを操った後、ボールを返す。
そんな不思議なキャッチボールをしばらくした後、やがて俺は自身の手で、飛んできたモンスターボールを掴んだ。
「……ラルトス」
「ラル?」
『なに?』と訊くように、ラルトスは顔を傾けた。
「ごめん、ちょっと休憩。疲れた」
「ラールー」
額から出てきた汗をぬぐい、俺はモンスターボールを懐に仕舞った。ラルトスはもうちょっとやりたかったらしく少し不満げだ。
サイキッカーといっても流石に精神力はエスパーポケモンにはかなわない。
大人になれば少しは長く使えるようになるかな?
「ラルラルぅ」
「ん?」
「ラルラぁ、ラルラルぅ」
「うん。良いけど、公園からは出ないでね」
ラルトスは「ラルぅ!」と元気に返事をすると、中央にある噴水がある水場へ駆け出した。
どうやら、まだ遊び足りないらしい。
「……ふぅぅ」
水場の水をバシャバシャやっているラルトスを確認して、俺は辺りに休める場所がないか探した。
すると、近くにベンチが3つ並んでいた。右端のベンチには身なりの良い老夫婦が座っており、仲良くおしゃべりしている。左端のベンチにはケッキングがぐったりと寝そべって昼寝をしていた。
そして、中央のベンチには女の子が一人ポツンと座っている。女の子は全身真っ黒な服で少しボッサリとした髪をしていた。少し暗い雰囲気ではあるが、別にイヤな感じはしない。
俺は、女の子が座っているベンチの空いている部分に座ろうと、足を進めた。
「……あの」
俺が声をかけると女の子はピクッと反応して、こっちに目を向けた。目を向けたといっても、目元が前髪で隠れているため、目が合っているかは分からない。
「そこ、座ってもいいかな?」
「……ぁ……ん」
なにかあたふたとしているようだが、やがて女の子はコクっと頷いた。
「ありがとう」
お礼を言うと俺は女の子の横に腰かけた。ベンチは子供の俺にとっては少し大きく、脚が少しぷらーんとしてしまう。
「はぁぁ」
俺はベンチにもたれてラルトスを見た。ラルトスは水場にいたアメタマやウパーと一緒に楽しく遊んでいた。
「………」
「…………ん?」
そうやって、しばらくポケモンたちの様子を眺めていると、ふと横にいる女の子がチラチラとこっちを見ているのに気づいた。
俺は女の子に目を向けるが、すると女の子はすぐに顔をそらした。
なんだろうと不思議に思いながら俺は前を向く。だが、また少しすると女の子はチラチラとこっちを見始めた。
「……えっと、なにかな?」
その視線に耐えかねた俺は、女の子を見ながら首を傾ける。
「ん……」
「うん」
「……ぃ」
「う、うん?」
なにかを言いたいってことはひしひしと伝わってくるが、女の子は小さな声を洩らせど一向に言葉を口にしない。
「………」
「………」
言葉が出るのを待っていると、最終的に女の子は黙ってしまった。
どうしたものかと軽く頭を抱えた末、俺は仕方ないと思いながら、自身の超能力を頼ることにした。
ホントはやりたくないが、仕方ない。
俺は俯いている女の子を見ながら、彼女の頭の中を探ろうと意識を飛ばす。
すると、俺の頭の中に彼女の意識が流れ込んできた。
(どうしようどうしようどうしよう黙っちゃった。ひょっとして怒らせた? 私のせい? やっぱり知らない人をジロジロ見るのは失礼だった。早く謝った方が……でもでも今ここで私が謝ったらかえって変……うぅぅ……というより、そもそもこれって私が悪いのかな? 確かにこんな雰囲気になったのは、私がジロジロ見ちゃったのが原因だけど……でも、いきなり知らない男の子が横に座ったら誰だって見ちゃうものだし……うん、そう。だから私は悪くない……あーでも、だからってこのままじゃ、ずっと気まずいままだし……うぇーん、助けてヒトモシぃ!)
「………」
静かな様子とは逆に、内面はかなり騒がしかった。
よく見たら顔も少し赤いし……まぁ、典型的な人見知りさんだ。
あと、ヒトモシって誰だろ?
「……えーっと、その、ごめんね。邪魔だったかな?」
「ぇ……!」
俺は頭の中を探るのをやめ、女の子に話しかけた。
「ひょっとして、実は友達がここに座ってたけど、言えなくて『うん』っていちゃった、とか?」
「………」
女の子は無言でゆっくりと首を横に振った。
「そ……」
「……うん」
「ち、が……」
「……うん」
女の子が一生懸命なにかを伝えようとしているのは分かるんだけど、残念ながら、どれも言葉になっていない。
「モシ!」
「うわぁ!」
もう一度頭の中を探ってしまおうか、と悩んでいると、突然、俺と女の子の間に陰が過った。
「モシモシー!」
「このポケモンは……?」
鳴き声を聴いて視線を下ろすと、一匹のポケモンがいた。短くて大きい蝋燭のような形をしている。
そのポケモンは俺と女の子の間のベンチの上に立って、俺をジーっと見ていた。
「えへっ」
そして突然、俺と同じくポケモンを見た女の子が、声を出してニヤリと笑った。
「えへへへへっ……この子、私のヒトモシ……」
女の子は笑いながら、そのポケモン、ヒトモシを両手で抱え上げる。さっきの言葉が出てこなかった態度はどこへ行ったのか、女の子が口にした言葉はハッキリとしたものだった。
急に態度が変わったことに少し驚いた俺だけど、今なら普通にお話ができるかもしれないと、考えを切り替えた。
「へぇ、ヒトモシっていうんだ。初めて見たなぁ」
「この子と私、カロスから来た。ヒトモシは
「そうなんだ。そのヒトモシは君のポケモン?」
「うん、こっちに来る前にイッシュにいるお婆ちゃんからもらった。えへへっ」
「そうなんだ」
女の子はニヤニヤ笑いながら、ヒトモシをぎゅっと抱いた。
「そういえば君、名前は?」
「……ヒトミ」
「そっか。俺はカズヤ。よろしくね、ヒトミ」
「……うん。えへへへっ」
ヒトミは、またニヤリと笑った。奇妙とまでは言わないが、なんというか、独特だ。少し変わってる……俺が言ってはいけないな。
「……あなたは?」
「ん?」
「あなたの、ポケモンは、いないの?」
「ううん、いるよ。ほら、あそこ」
俺は「ラルトスー!」と、水場で遊んでいたラルトスに声をかけて、ラルトスを呼び戻した。
自分が呼ばれたことに気づいたラルトスは、よちよちと俺の元まで走ってくる。足元まで来てくれたラルトスを、俺はヒトミと同じように抱き上げた。
「ラル?」
『だれ?』とラルトスはヒトミを見ながら顔を傾けた。
「かわいい子。はじめて見た」
「そうなんだ。このトクサネシティではそんなに珍しくないって聞くけどね」
「……でも、ゴーストタイプじゃなさそう」
「うん、ラルトスはエスパータイプとフェアリータイプだよ」
「……残念」
「あははは……」
ラルトスの姿を一通り観察しきったヒトミは、抱き上げていたヒトモシを地面に下ろした。
合わせて俺もラルトスを地面に下ろす。
「モシ!」
「ラル! ラルラルラー!」
揃って地面に足をつけて早々、ヒトモシはラルトスに声をかけた。いきなり近づいてきたヒトモシにビックリしたラルトスは、慌てて俺の背後に逃げ隠れる。そして、足元から顔を出すようにしてヒトモシの様子をうかがった。
後で気づいたことだが、ラルトスにとってゴーストタイプはかなり相性が悪い。
俺は怖がるラルトスをなだめつつ、ゆっくりとヒトモシの前にやった。ヒトモシに敵意が無いことが分かると、やがてラルトスは自分からゆっくりと前に出て、ヒトモシとコミュニケーションをはかりに行く。
「ラルぅ……ラルラル!」
「モシモシ!」
俺とヒトミはその様子をそばで眺めていた。やがて、ラルトスとヒトモシは互いにじゃれあいだし、仲良く遊びだした。
「ヒトミはゴーストタイプのポケモンが好きなの?」
「うん、大好き。えへへへへっ」
本当に大好きなんだろう。今までに無いくらいニヤけてヒトミは笑った。
「……あなたは、どう?」
「うーん……ウチってエスパータイプな家系だから、ゴーストタイプはあんまり……」
「そう……」
「あぁー、だからって嫌いってわけじゃないから!」
見るからにどんよりとして肩を落とすヒトミに、焦りを覚えた俺は、慌てて言葉を返す。
「え、えっと、その……ゴーストタイプにも好きなポケモンはいるっていうか……あっ、ほら、カゲボウズとか、かわいいよね!」
「……うん、カゲボウズは良いポケモン」
「だ、だよねぇ。あはは……」
カゲボウズという名前を聞いた途端、陰気な空気が散ってヒトミは、またニヤリとした笑みを取り戻した。
「うん。進化したジュペッタが可愛い。えへへっ」
「ポイントはそこなんだ……あはは」
ヒトミのニヤニヤ笑いに合わせるように俺は口を引きつらせて苦笑いした。
それからしばらく、俺とヒトミはおしゃべりを続けた。
お互いの好きな食べ物やポケモン、将来なりたいものや行ってみたい場所、俺がサイキッカーであること、ヒトミが少しだけ霊能力が使えることなど、色々なことをたくさん話した。
ヒトミとの会話は楽しくて、気がついたら辺りはオレンジ色に染まり、公園の木の上には夕日がのっていた。
「日が暮れてきたね。そろそろ帰らないと」
「……うん」
俺とヒトミはポケモン達を連れて公園の入口まで一緒に歩き、外で足を止める。別れ際、ヒトミは不安そうに顔をうつむかせ、俺の方へ眼を向けた。
「……また、会える?」
「もちろん。また明日も遊ぼうよ」
「……うん! えへっ、えへへへへっ」
コクッと大きく頷いて、ヒトミは笑った。独特な笑い方はそのままに、その笑顔は今までにないほど明るかった。
「ラルラル!」
「モシモシ!」
お互いのポケモン達も、俺たちの足元で『また遊ぼう!』とハイタッチをした。
「じゃあ、またね!」
「うん。また明日」
俺たちは手を振って別れを告げ、俺はラルトスと共に、ヒトミはヒトモシと共に、それぞれ帰路についた。
***
ホウエン地方トクサネシティ出身、サイキッカー少年のカズヤ。
その仲間のポケモン、ラルトス。
カロス地方出身、オカルトマニア少女のヒトミ。
その仲間のポケモン、ヒトモシ。
やがて、二人はそれぞれの夢を叶えるため、旅に出る。
これは、その始まりの物語である。
アベンジャーズ エンドゲームと名探偵ピカチュウを見たら、なんか思いつきまして、暇つぶしに書いたら意外にも書き切ってしまった。
リクエストが多ければ続く……かも?
以下のポケモンの中から、直感で選んでください。
-
ケーシィ
-
ゴース
-
ニャスパー
-
ミミッキュ