「おい、ガキ!」
しばらくラルトスとモンスターボール投げ(念力あり)をしていたら、さっき会ったお姉さんがまた声をかけてきた。
「これ、やるよ!」
「えっ!」
やると言って、お姉さんが差し出したのは、羽ペンのような形をしたおもちゃだった。
「え、えーと、何なんですかコレ?」
「【ポケじゃらし】だよ。知らねぇのか?」
「は、はい。初めて見ました」
お姉さんが【ポケじゃらし】と言ったソレには、短い棒の先に羽と小さい鈴が付いている。
「これを、こーゆう風にして……」
お姉さんが自身の手持ちポケモンと思わしきポチエナに向かって膝をつくと、ポケじゃらしの棒を振って羽の部分をなびかせる。
すると、ポチエナは小さい前足でペチペチと羽をはたき始めた。近くにいるラルトスも興味深そうに見つめている。
「こーやってポケモンの気を引いて遊ぶんだよ」
「へぇー」
俺が頷いてる間にも、お姉さんは【ポケじゃらし】を揺らして、ポチエナを遊ばせた。
「ほーれほれ」
「チー!」
ポチエナが羽の部分を叩いて鈴がシャンシャン鳴る。
やがてお姉さんは、ポケじゃらしを高い位置まで上げて、ポチエナを誘うように揺らした。
ポチエナは後ろ足に力を入れて飛び上がり、ポケじゃらしの羽を思いっきり叩いた。
「よーし良いぞぉ、ポチエナぁ!」
「チー!」
お姉さんは笑ってポチエナの頭を撫でた。撫でられているポチエナも、とても嬉しそうだ。
「……はっ!」
しばらくポチエナの頭や背中、顎などを撫でていると、ふとお姉さんは我に返ったように笑みを消して、俺を見た。
「いや、これは……」
「大好きなんですね?」
「なっ!」
図星らしい。
一見、口調が荒く強面なお姉さんだが、どうやら中身は純粋にポケモンが大好きなトレーナーさんみたいだ。
「わ、悪いかよ!」
「いえ、俺もラルトス大好きですし……。それにこうして見ると(ポチエナも)可愛いですし、良いと思いますよ」
「なっ! い、いい、いきなり何いってんだテメぇ!」
お姉さんは顔を真っ赤にして怒声を飛ばしてきたが、少し声が裏返ってるせいでイマイチ迫力がない。
「そ、そんな簡単に可愛いなんて言ってんじゃねぇーよ! それとも何か、ウチをバカにしてんのか!」
「い、いえ、バカにする気なんて全然……。純粋にそう思っただけですよ?」
昨日の【ヤミラミ】みたいに【あくタイプ】のポケモンは、苦手な俺なんだけど、このポチエナは、あんまり怖いと感じない。きっとお姉さんから大切に育てられているからだと思う。
(な、何なんだよ、このガキ! か、可愛いなんて、親以外で初めて言われたぞ!)
なんだろう、怒らせちゃったのかな?
でも、怒ってるにしては、雰囲気に怒気がないし……。
ひょっとして、あんまり自分のポケモンについて誉められたこと無いのかな?
「と、とりあえず、ほら、お前もやってみろよ!」
「あっ、はい」
(照れてる?)お姉さんからポケじゃらしをもらって、俺はお姉さんの真似をして、ラルトスに向けて振った。
「あんまり力入れて持つんじゃねぇぞ。力んで持ってると、触るポケモンだけじゃなくて持ってる自分も怪我しちまうからな」
「なるほど……こうですか?」
「もう少し手の力を抜け……そう、そんな感じだ」
お姉さんのアドバイスを受けながら、俺はポケじゃらしを振る。
「ラルゥ……!」
ゆっくりと誘うようにポケじゃらしを振っていると、ラルトスは揺れている羽を面白そうに見つめて、やがて羽を触ろうと手を前に出した。
「ラル」
「…………両手なんだ」
先ほどのポチエナと違って、ラルトスはピトっと押さえるように羽を両手ではさむ。
「ルぅ……」
「………ほーら」
「ラル!」
ラルトスが手を下ろして、再度ポケじゃらしを振ると、またラルトスは両手で羽を押さえた。
前で両手を合わせるそのポーズは、とても可愛らしい。
「ほらほらー」
右、左、右、左、右、と見せかけて左、左と、ポケじゃらしを動かす。
「ラルラルー!」
俺が誘うようにポケじゃらしを揺らすと、ラルトスはペシペシとはたくようにして羽を触った。ラルトスが羽を揺らすたび、ついている鈴がシャンシャンと鳴る。
「あはは」
「ラルー!」
しばらくそんなやり取りを繰り返していると、だんだん楽しくなってきて、俺とラルトスは自然と笑顔になっていった。
「ラールー、ラル!」
「おーっと! あははは」
最後にラルトスはポケじゃらしを目掛けて飛び掛かってきたので、俺はポケじゃらしを引っ込めてそのままラルトスを受け止めた。
「ラルラルラルぅ!」
「あはははは!」
「……上手いな、お前」
俺達の遊んでる様子を見て、お姉さんは眼をパチクリしていた。
「そう、なんですか?」
「ラルぅ?」
ポケじゃらし自体はじめて使ったし、いつも通りの気持ちで遊んでただけなので、上手いと言われても、いまいちピンと来ない。
「……そ、そのよぉ」
ラルトスと一緒に首を傾げていると、お姉さんは照れ臭そうに顔をそらして、チラチラとこっちを見た。
「撫でてもいいか?」
「えっ?」
撫でる? 俺を?
……なわけないか。ラルトスを、だよね。控えめな動きで分かりにくいけど、手元もラルトスを指してるし……。
「どう、ラルトス?」
俺が訊くと、ラルトスは「ラルゥ……」と少し考えた後に、頭を下げてお姉さんの方にやった。
どうやら、オーケーってことらしい。普段はあまり人に触られるのは好きじゃないんだけど、お姉さんには、さっき助けてもらったからな……。
俺はお姉さんが撫でやすいよう、ラルトスを床に下ろした。
「ラルラル!」
「『バチこい!』だそうです」
「お、おぅ」
お姉さんは膝をついて、ラルトスの頭へ手を伸ばす。そして、優しく手を置いてゆっくりとラルトスの緑色の頭部を撫でた。
初めは恐る恐るって感じだったけど、次第に手慣れたようにスリスリしていた。
「ラルぅ」
(……か、可愛いー!)
可愛いー、とか思ってそうな顔だなぁ……。
さっきポチエナをじゃらしていた時ほどじゃないが、顔がほころんでいる。
「……チェ!」
そんなお姉さんに撫でられているラルトスを、お姉さんのポチエナは、威嚇したような(羨ましそうな)顔で睨んでいた。
「よーしよーし」
「チェ!」
代わりにと思って俺が頭を撫でると、ポチエナは俺の手を払うように頭を振った。
『気安く触んな!』
あっ。この子、メスだ。
飼い主に似て、口調が荒い子だな……。
「あはは。ごめんね、俺じゃダメだよな?」
「……チェ」
苦笑いしながら謝ると、ポチエナは『ふん』と鼻を鳴らす。
そういえば、母さんのエーフィもあんまり頭を撫でられるのは好きじゃなかったなぁ……。
ラルトスやヒトモシの【グループ】と違って、エーフィやポチエナの【グループ】は、あまり頭を撫でられたくないのかな……。
エーフィが撫でて喜んでた場所は、確か……。
「……こうかな?」
「チェ!」
俺は耳の付け根から流れるように顎の下に手を回す。
『テメェまた! 気安く触んじゃねぇってさっき……んッ!』
触れた瞬間、ポチエナはピクッと反応して睨みつけてきたけど、軽く指を立てて撫でると、さっきとは違って気持ち良さそうに眼を細めた。
『んッ、あっ、んんぅ!』
でも、なんだろう……。一見、気持ち良さそうではあるけど、なんだか少しツラそうな……苦しそうな……。
「うーん……やっぱり、俺じゃダメかぁ」
『あっ!』
どうやら同じ【グループ】でも、エーフィとポチエナとじゃ、いろいろ違うみたいだ。
『……なんでやめんだよ!』
「えっ! いや、なんかイヤそうにしてたから……」
『べ、べつにイヤじゃねぇよ! なめんな!』
別になめてるわけじゃないんだけど……。
『い、良いから、撫でたきゃ、その……も、もっと撫でろよな!』
なんだか……可愛いな、この子。
強面な見た目で、さっきまで荒い口調だったのに、今は顔をうつむかせて、ボソボソ言ってて、愛くるしいというか……。
こういうの、なんていうんだっけ?
庇護欲? ギャップ? ツンデレ?
……まぁ、なんでもいいや。
「それじゃあ……よしよーし」
俺はさっきみたいに指を立てて、ポチエナの顎を軽く掻くように撫でた。
『……んっ、んー、んふふ!』
あっ、今度は結構、気持ち良さそう……。
「あはは、可愛いなぁ、お前」
『う、うるせぇ……んぁ!』
まったく、嬉しそうに顔を緩ませたり、強がって怒ったり、また喜んだり、大変だなぁ……。
「ラールー!」
「よーし。良い子だな、お前」
『えへへ、お姉ちゃん、なでるの上手ぅ!』
視線を移すと、ラルトスもお姉さんの腕前にご満悦だった。
……すごいな。
「お姉さんって、【ブリーダー】だったりします? あるいは【コーディネーター】とか?」
「いや、ウチはただの【トレーナー】だ」
お姉さんはラルトスを撫でながら、こっちに見た。
「てか、なんでそう思ったんだよ。アタシなんて、どう見てもそんな柄じゃねぇだろ?」
「いえ、ポケモン大好きみたいですし、ポケモンとのコミュニケーションの取り方も上手だから……それに美人なので」
「なっ……う、うるせぇ!」
怒られた……なんでだろう?
「……ホントのことなのに」
「あぁぁもう、うるせぇうるせぇうるせぇーー!」
俺がボソッと言ったことに反応して、お姉さんは真っ赤な顔で睨みつけてきた。
「やっぱりテメー、アタシのことからかってんだろ!」
「別に、からかってるわけじゃ……!」
「さっきから、か、可愛いとか、美人とか……年上をなめるのもいい加減にしろよな!」
いやホントに本当のことしか言ってないんですけど?
ふと、ここで遠くから何かが迫ってくるような物音が聴こえてきた。
「ん、なんだ?」
「えっ?」
「ラル?」
「チェ?」
全員揃って音のする方へ目を向けると、誰かがこっちに向かって走ってきていた……。
……って、えっ? ヒトミ?
「うぉっと!」
ヒトミは勢い良く俺のところまで走ってくると、俺の腕に抱きつくように身を寄せて、お姉さんを睨んだ。
「わ、私の
「「えっ?」」
ヒトミの発言に、俺とお姉さんは絶句した。
……とりあえず、ちょっと一回、落ち着こうか?
ーーつづく。
第一回キャラクター人気ランキング
-
サイキッカーの カズヤ
-
オカルトマニアの ヒトミ
-
ジムリーダーの フウとラン
-
バトルガールの サヤカ
-
こわいおねえさんの ???