エスパー少年とオカルト少女   作:ジョン・N

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お久しぶりです。




10. おどろかすの話

 

 

 

 

「ふぅぅ……やっと陸にあがれたなぁ!」

 

 お姉さんは港に着くと、まず最初に腕を大きく上にあげて、背中をぐぅーと伸ばした。

 

「そんで、アンタらはこれからどこに行くんだ?」

「俺達はミシロタウンを目指すので、まずはトウカシティに行こうと思ってます」

「そっか。じゃあ、ウチとはこれでお別れだな」

 

 お別れ、ということは……。

 どうやらお姉さんは【トウカのもり】をぬけて、カナズミシティを目指すようだ。

 

「じゃあな、まだどこかで会うかも知れねぇけど」

「はい。その時は是非、バトルしましょう!」

 

 俺の提案に、お姉さんは「おぅ」と力強く答えてくれた。

 今回は船の中ということもあり、バトルはできなかったけど、一人のトレーナーとしてお姉さんがどんなバトルをするのか興味があった。

 そんな風にバトルの約束をした後、お姉さんは「またな!」と手を振って、パートナーのポチエナと一緒に去っていった。

 

「……あっ、そういえばお姉さんの名前、聞いてなかった」

 

 まぁいいか。次会ったときに聞こう。

 

「さて、それじゃあ俺達も行こっか」

「……う、うん」

 

 ヒトミは頷いて返事をしてくれたが、俺が顔を向けるとゆっくり顔をそらした。

 

 

 船で気絶して目を覚ましてからというもの、ヒトミはずっとこんな感じだ。

 一応会話はしてくれるが、俺と顔をあわせると、真っ赤にしてそらしてしまう。

 

 その反応の原因には、とーーっても心当たりがあるし、なんなら俺もヒトミを見る度に顔が赤くなっている……と思う。

 けど、いつまでもそんな調子ではいけないから、俺はなるべく平常心を心掛けることにした。

 

 俺がいつも通りに接していれば、そのうちヒトミの調子も元に戻ってくれるだろう。

 

「陽が暮れる前までには着くと思うから……」

「……う、うん」

 

 べ、別に、告白チックなことを言ったせいで、キモいとか思われて嫌われたりしたわけじゃ、ない……よね?

 

「ラルラル」

「モシモシ」

 

 アイコンタクトで訊ねると、ラルトスとヒトモシから『ないない』と揃って呆れたような反応をされた。

 

 

 

 

 そんなこんなで、俺達はトウカシティを目指して歩き出した。

 俺達が船を降りた港からトウカシティまでは、104番道路を2時間ほど歩く必要がある。

 その間、ヒトミはぴったりと引っ付くように俺の後ろを歩き、時折、俺が後ろを向くとタイミングを合わせたみたいに顔をそらしていた。

 

「ずっと島とか海の上とかだったから、こういう林の中を歩くのって、なんだか新鮮だよねぇ?」

「……うん」

「ほらあそこ、【キノココ】がいるよ! あっ、あっちで【アゲハント】の群れが飛んでる!」

「……うん」

「もう一時間くらい歩いたかな……大丈夫ヒトミ、疲れてない?」

「……うん」

「…………あぁー、えーと」

 

 いつものように話しかけてみたけど、こういう時に限って話題が続かない。

 

「ラルル―ラールー」

「モシモシモシモシッシー」

 

 俺が話題のネタを考えてる最中、俺とヒトミの間を、ラルトスとヒトモシが歌を歌いながら手を繋いで歩く。

 ふたりが楽しげにしてくれるおかげで、良い感じに雰囲気が保たれて、気まずくならないでいられるから、けっこう助かってる。

 

「……ん?」

「ラル?」

「モシ?」

 

 ふと、道の先の茂みの中から見慣れない影が飛び出してきた。

 

「ど、どうしたのカズヤ?」

「いや、あれ」

 

 俺が指で示した道の先、そこには黄色い何かが落ちていた。形は何かのポケモンみたいだが、その色は薄汚れている。

 

「あれは……ピカチュウの、ぬいぐるみ?」

 

 よく見ると、その何かはピカチュウのようであったが、その目や口は実物ではなく、落書きみたいに布に書かれているものだ。しっぽも木の棒でできている。

 

「ミッキュ!」

 

 俺たちの存在に気がついたのか、そのぬいぐるみ(?)は鳴き声をあげてこっちを見た。

 その瞬間、俺たちはそのぬいぐるみ(?)が何なのか理解した。

 

「えっ! あれって!」

「ミミッキュ!」

 

 ばけのかわポケモンの【ミミッキュ】。アローラ地方に多く生息するポケモンだ。タイプはゴーストとフェアリー。ピカチュウを模した布を被った姿をしていて、その生態についてはいまだ謎が多いと言われている。

 

「ねぇカズヤ、あれミミッキュだよね、ミミッキュ!」

「う、うん!」

 

 いままでのオドオドした言動はどこへ行ったのか、ヒトミは嬉々として俺の腕を取って目の前のミミッキュを指さした。

 でも、まぁ、その気持ちも分かる。

 たしか、ヒトミが一番に仲間にしたいポケモンが【ミミッキュ】だったはずだ。

 

「けど、なんでこんなところに【ミミッキュ】が……」

 

 【ミミッキュ】はアローラ地方を中心に生息しているポケモンだ。その他の地方で生息が確認されないわけではないが、こんな野道で姿を見せるのはとても珍しい……というか、不自然すぎる。

 しかも見たところ、周りにトレーナーらしき人はいない。どうやら目の前のミミッキュは、野生のポケモンのようだ。

 

「キューーっ!」

 

 警戒してるのか、ミミッキュは俺たちを見ながら、低い声を響かせている。

 

「……えへへ!」

 

 ヒトミは強張ったような笑みを浮かべながら、ゆっくりとミミッキュに近づいていく。

 

 その様子は……まぁ、何というか……危ない人の言動のように見える。

 

『来ないデ!』

 

 ミミッキュは身体をビクビク震わせながら「キュ!」と後退りした。

 

「えへへ。大丈夫よ、怖くないわ!」

「……怖いよぉ」

 

 愛でようとしているのか、あるいは捕まえようとしているのか、ヒトミは手を前に出してワキワキと指を動かしている。

 アレじゃあ、ミミッキュが怯えるのも無理はない。

 

『近寄るナ、人間! それ以上こっちに来タラ……』

「あっマズッ!」

 

 ミミッキュは身構え、戦闘態勢に入った。

 俺は急いでヒトミに駆け寄り、腕を引いて守ろうと抱き寄せた。

 

「キュゥゥゥッ!」

 

 布のピカチュウの腹部に当たる所にある目をギラリと光らせながら影のような黒い手を広げて、ミミッキュは俺たちに襲い掛かってきた。

 

「ウッ!」

 

 その不気味な姿に、俺の心臓は大きく高鳴った。

 

 ミミッキュは肌寒いオーラを俺たちに向けている。けど、そこから俺たちに攻撃してくるわけでもなく、黒い手を広げたまま動きを止めていた。

 

「キュゥゥッ! キュゥゥッ!」

「ふふっ、フフフフっ……これがミミッキュの【おどろかす】なのね!」

 

 ヒトミは平然と……いや、むしろ恍惚といった感じで眼を輝かせている。

 

 少しは驚こうよ?

 

「可愛いぃ……ね、カズヤ!」

「えっ、あぁうん……“効果ばつぐん”って感じだよね?」

 

 咄嗟に口では同意(?)してみたけど、正直な感想を言えば、『めちゃくちゃビックリした!』の一言だ。

 

 近くにいたラルトスとヒトモシも、お互い抱き合って怯えている。

 【おどろかす】はバトル中でもたまに怯んで動けなることがある技だ。いきなり仕掛けられたら、そりゃあこんな反応にもなるさ……。

 

 俺も身体的なリアクションとしては、ラルトスたちと“同じ”だし……。

 

 えっ、“同じ”?

 

「……ん?」

 

 一生懸命、威嚇しているミミッキュから視線をゆっくり移動させると、真横にヒトミの顔があった。

 ヒトミはキラキラした眼でミミッキュを見ているため、いまの状況が分かってない。

 俺はそーっとヒトミに回していた腕を引っ込めて、後ろにさがってヒトミと距離をとった。

 

「どうしたの、カズヤ?」

「う、ううん、何でもないよ!」

 

 ヒトミはキョトンとした顔で俺を見上げる。

 カワイッ……じゃなくて、俺は慌てて両手を振って誤魔化した。

 

『ちか、ヅク……ナ……!』

 

 ここで突然、威嚇していたミミッキュが、ネジが切れたようにバタンと倒れた。

 

「「えっ!」」

 

 俺達は揃って驚き、そのままミミッキュに駆け寄る。ヒトミはミミッキュを優しく抱き上げると、ミミッキュの顔(?)の部分に触れた。

 

「……熱がある」

「風邪?」

「多分……」

 

 ミミッキュはヒトミの腕の中でグッタリしている。顔色は分からないけど、布の中から漏れる息づかいも荒い。

 今まで俺達を脅かしていたのがウソみたいだ。

 

「はやくポケモンセンターに……!」

「うん。じゃあ急いでトウカシティに行こう!」

「ラルラル!」

「モシッモシシー!」

 

 ミミッキュのため、俺達はトウカシティのポケモンセンターへ走った。

 

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 






Twitter はじめました。

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