エスパー少年とオカルト少女   作:ジョン・N

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これからの話

 

 

 

 カロス地方出身のヒトミ。

 ホウエン地方トクサネシティに引っ越してきた彼女は、ゴーストポケモンとオカルトが大好きな女の子だ。

 そんな彼女が、いま一番気になっているのは……。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「ラルー」

「ん、なに?」

「ラルラル、ラルラルラー!」

「えっ、ホント?」

「ラル、ラルぅー……」

 

 『いくよー』と張り切るラルトスに、俺は期待のこもった眼差しを向けた。

 

「ラル!」

「おぉ!」

 

 ラルトスが一鳴きすると、突如、その横にラルトスの分身が現れた。俺は驚いて目を大きくする。形や大きさ、色合いなど、分身体の姿はラルトスの本体と全く見分けがつかない。

 本人が教えてくれたとおり、ラルトスは【かげぶんしん】を覚えたみたいだ。

 

「やったねラルトス!」

「「ラルー!」」

 

 分身と一緒にラルトスは胸を張った。

 

「ラル、ラルラー」

「えっ?」

「ラル!」

「おぉー!」

 

 また鳴き声を上げると、分身が増え、もう2体ラルトスの分身体が目の前に現れた。

 

『『ラルラールー?』』

 

 計4体のラルトスは一列になり、声を合わせて『どれが本物でしょう?』と楽しげに訊いてきた。

 

「あはは。えぇーと……これ」

「ラル!」

 

 4匹のラルトスを流れるように見た後、俺は一番右にいたラルトスを指さした。

 ラルトスは驚いて、思わず鳴き声を洩らす。それと同時に、分身体だったと思われる3体のラルトスが姿を消した。

 残ったのは当然、俺が指で示した本物のラルトスだけだ。

 

「ラルー、ラルラールラル?」

「そんなの見たらすぐに分かるよ」

「ラールー?」

 

 『どうして分かったの?』と少しあたふたした様子で訊ねるラルトスが、なんだか可笑しくて、自然と笑みがこぼれた。

 

「だってラルトスの感情が伝わってきたの、一人だけだったもん」

「ラルラー、ラールー!」

 

 ラルトスの額に指をのせて理由を教えると、ラルトスは『そんなのズルいー!』と、むくれた表情になった。

 

「あははは。少し大人げなかったかな?」

「ラルッ!」

 

 腰に手を当てて怒ったポーズで、ラルトスは『そう!』と大きく鳴いた。

 ……ごめんね?

 

 

 

 

 とある平日の昼間。サイキッカー少年こと俺、カズヤは、特に何をするでもなく、自身の家でラルトスと共に、まったりしていた。

 年齢もそろそろ10歳になろうとしており、トレーナーとして旅立つ日も近い。

 もちろん、狙うはポケモンリーグ制覇だ。トレーナーになるからには、やっぱりチャンピオンに勝ってリーグに名前を残したい。(殿堂入りともいう)

 だから、こんな風にまったりできるのも、あと数ヶ月程度のことだ。今はこのほのぼのとした時間を大切にしておきたい。

 

「カズヤー!」

「ん?」

 

 優しく頭を撫でながら、ラルトスのご機嫌を取っていると、ふと部屋の外から母さんの声が聞こえた。

 

「なにー、母さん」

「ヒトミちゃんが来てるわよー!」

 

 ヒトミが?

 

「なんだろう……。行こう、ラルトス」

「ラル!」

 

 突然の訪問に、俺は疑問を感じながら部屋を出た。

 急いで玄関の戸をあげると、そこにはヒトモシを連れた、暗い紫色の服を着た女の子が一人立っていた。

 ボサボサの長い髪が腰辺りまで伸びていて、初めて会ったときは目元まで伸びていた前髪は、今ではきちんと整えられ、彼女のパッチリとした大きな眼がはっきり見えるようになっている。

 

「こんにちは、ヒトミ」

「うん、こんにちは。カズヤ」

 

 俺が玄関から顔を出すと、ヒトミはニヤリと、その独特な笑みを強めた。

 ヒトミとは初めて会ってから、もうかれこれ2年くらい、ずっと一緒にいる。人見知りな彼女は、はじめは俺とも慣れない言葉で話していたが、毎日遊んだり出掛けたりしているうちに、自然に(素で)話してくれるようになった。

 

「えへへっ!」

「モシモシ!」

 

 ヒトミの足元でヒトモシが笑いながら飛び跳ねる。

 

「ラルー!」

「モシー!」

 

 俺の足元でラルトスが手を振ると、ヒトモシも手を振って応えてくれた。頭上にある青紫の火がゆらゆらと揺れる。

 ラルトスとヒトモシも、俺とヒトミと同じくらい一緒に時間を共にしてきた。タイプの相性が悪いことなど、もはや些細な問題だ。

 

「どうしたのヒトミ、今日は調べものがあるから遊べないって言ってなかった?」

「えぇ。それについてなんだけど、ちょっとカズヤに手伝ってほしくて……」

「俺に?」

 

 ヒトミは、かなりのオカルト好きだ。ゴーストポケモンの次くらいに、怖い話や都市伝説、大昔の神話、ホラースポットや古代の遺跡といったオカルトに関するものが大好きだ。よくそれらについて調べてるみたいだし、古本に書かれた伝承や占いを実験・検証したりもする。

 この前も、奇妙な言い伝えがあるとかで、宇宙センターの近くにある“白い岩”を二人で調べに行った。

 結局なんにも無かったけど……。

 

「別に手伝うのは良いけど、なにするの?」

「……これよ」

 

 そういって、ヒトミは肩にかけていたバックから一冊の本を取り出した。その本は所々傷んでいて、見るからに年季が入っていることが分かる。

 

「ここにヒトモシを使った、とても興味深い“おまじない”が書かれていたの。その確認に付き合ってほしくて」

「おまじない?」

 

 おまじないか……。

 ポケモンの技に【おまじない】ってあるけど、それじゃないよね。普通おまじないってひとりでやるイメージがあるけど、二人でやるおまじないって、なんだろう?

 

「分かった。どうすれば良い?」

「ありがとう。それじゃあ、まずはね……」

「おぉー、これはこれは!」

 

 ヒトミがなにか言おうとした途端、しわがれた声が遮った。声がした方に眼を向けると、そこには甚平のような灰色の服を着た老人と頭にピンク色の大きな真珠をのせたポケモンがいた。

 

「カズヤの友達か?」

「爺ちゃん、おかえり。バネブーも」

「バネブー!」

 

 バネブーは自身のバネのようなしっぽを使って大きく弾んだ。

 やって来たのは、散歩から帰って来たウチの爺ちゃんとバネブーだった。バネブーは爺ちゃんの手持ちだ。歩き回るのが好きで、よく爺ちゃんの散歩について行っている。

 

「それとも彼女かの?」

「ふぇッ…………うぅぅ」

 

 爺ちゃんが変なことを言ったせいで、ヒトミはうつむき、だんまりとしてしまった。前髪が垂れ、目元が隠れてしまっている。

 俺と気軽に話してくれるようになったヒトミだが、だからといって人見知りがなおったわけではない。ヒトミの家族や俺以外と話すときは、極端に口数が少なくなってしまう。こんな変なことを言われたら、なおさらだ。

 

「この子はヒトミ。前に話したでしょ?」

「あー、君が例のヒトミちゃんか……。はじめまして、カズヤの爺ちゃんじゃ」

「……ど、どうも、はじめ、まして」

 

 ヒトミは小さな声で返し、ペコリと頭を下げた。

 

「おや? カズヤが言うには、素直で元気な可愛い女の子と聞いておったんじゃが……人見知りさんなのかのぉ、ヒトミちゃんだけに」

「なっ!」

「爺ちゃん!」

 

 また爺ちゃんが誤解を与えかねないこと(加えてくだらないギャグ)を口走ったので、俺は声を上げて爺ちゃんを睨んだ。

 いや、『素直で元気な可愛い女の子』って言ったのは本当だけどさ……。

 

「……カズヤ、が、わたしを、かわ、いい……って……わ、たし……が、かわいぃ?」

 

 ヒトミは口をぱくぱくと開け、なにやら呟いている。

 何を言っているか気になったが、声が小さくてまったく聞き取れない。

 

「ワッハッハ。若い二人の邪魔をしてはいかんな。行こうバネブー」

「ブー!」

 

 爺ちゃんは大声で笑いながらバネブーと一緒に家の中に入っていった。

 

「たくもう……ごめんね。ウチの爺ちゃんが」

「……別に、平気」

 

 爺ちゃんがいなくなって、ヒトミの口調が元に戻った。うつむいていた顔も前を向き、お互いに眼と眼が合っているのが分かる。

 まだ、ほんのり顔が赤いのが少し気になるけど……大丈夫かな?

 

「それより行こう。ここじゃあ邪魔になるから、いつもの場所で!」

「う、うん、分かったよ」

 

 すごい早口で話すヒトミに、俺は反射的に応えて後を追った。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ヒトミが向かった先は、ヒトミと初めて会った公園だった。

 

「それで何すればいい? ヒトモシを使ったおまじないって聞いたけど……」

「うん、ちょっと待って」

 

 ヒトミはさっき見せてくれた古い本を開き、ペラペラとページをめくる。

 

「古代よりヒトモシやシャンデラの火、あとゴーストポケモンの【おにび】は、様々な儀式に使われたと言われているの」

 

 ページをめくりながらニヤリと笑うヒトミのその姿は、かわいくもあるが、少し不気味だ。

 あと、これは昔からのクセで、本人は全然気づいてないみたいだが、オカルトの話をしている時のヒトミは、少し口調が強くなる。

 

「儀式って? 雨乞いとか?」

「それもあるけど、よくあるのは呪いの儀式ね。古代の戦争では、呪いで相手の君主を殺すことも少なくなかったらしいから……」

「……前から思ってたけど、ヒトミってサラッと怖いこと言うよね?」

 

 しかも、ニヤッと笑いながら……。

 もう慣れたから良いけどね。

 

「でも安心して。今からやるのは、人を呪い殺したりする類いのものじゃないから」

「……あぁ、うん、それなら安心だ」

 

 安心……していいのかな?

 

「ふふふっ。今からやるのは……そうね、言うなれば『厄除けのおまじない』よ」

 

 ヒトミはページをめくる手を止め、最終確認といった感じで開いたページを軽く流し読みした。

 読み終えると「よし、不備はないわ」と言ってパタンと本を閉じ、手招きしてヒトモシを自身の近くに呼ぶ。

 

「ヒトモシの火は、ヒトカゲのしっぽの火とかと違って、周りにいる生き物の生命力を吸い取って燃えていると言われているの」

 

 またサラッと怖いことを……。

 

「……そうなの?」

「モシモシー」

 

 俺が顔を向けて訊ねると、ヒトミのヒトモシは『そうらしいぞ』と笑いながら応えた。その頭にはいつもと変わらず、青紫の火が灯っている。

 どうやら本人(ヒトじゃないけど)には自覚がないらしい。

 

「えぇ。だからヒトモシの火は、触っても火傷したりしないわ」

 

 ヒトミはその場でしゃがみ込み、ヒトモシの火に触れるように頭を撫でながら「えへへっ」と笑った。

 いつも見ている光景だが、改めて見ると少し異様、いや、不思議な光景だ。

 ……可愛いんだけどね?

 やがてヒトミはヒトモシの頭から手を離し、撫でた手を「ほらね」と俺に見せる。その手は火傷することもなく、相変わらず、ほっそりとした白い手のままだ。

 火傷しないのは良いけど、大丈夫なの?

 血行が悪くなったりしてない?

 

「大昔の人たちは、こういうゴーストポケモン達が出す火に神秘を感じて、儀式や祭事に用いてきたの。一説には、その火の中に身を置いて霊界への扉を開いていたという話もあるわ」

「……うへぇ」

 

 “身を置いて”って、生け贄のことじゃないよね?

 そう考えた俺は、思わず顔を歪ませた。

 

「この本にはヒトモシの火を使って災いを払う方法が書かれてたわ。ある霊能力者は、この方法で人やポケモンに憑いた悪いゴーストポケモンや幽霊を払っていたらしいの」

「へぇ、それはスゴい……」

 

 スゴいけど、ゴーストポケモンって人にとり憑くの?

 あっ、でもゲンガーとか人の影に潜むとかいうし、無くはないか……。

 幽霊は……。

 …………ちょっと、よく分からない。というか知りたくない。

 というのも、前にヒトミと一緒に『あなたは違う……』ってタイトルのホラー映画を見てからというもの、俺は幽霊に関する話が、ちょっと……いや正直、かなり苦手になった。

 ヒトミが言うには、現実に幽霊は確かに存在していて、場合によっては周りに影響を与えてくるらしいけど……。

 ホント、勘弁してほしいなぁ。

 

「ちなみに、これをすれば一時的に霊界に行くこともできるって話もあるわ」

「そうなんだ。なんだか怖いから、できればそれは遠慮したいなぁ。あははは」

「そう? 私としてはこっちの話の方がとても興味があるけど……」

 

 ヒトミはニヤリと笑いながら、本を仕舞った。

 

「それじゃあ早速、やってみましょう」

「お、おぉー」

「ラルー」

「モシー」

 

 ヒトミに応えるように、俺、ラルトス、ヒトモシは揃って腕を上げる。

 

「それで、具体的に何をするの?」

「そんなに大したことはしないわ。“身体の一部”をヒトモシの火で燃やすだけだから」

「えっ……!」

「今回は髪の毛でやってみようと思うわ」

 

 あ、あぁ、良かった。それなら大丈夫……。

 

「……はぁ、ビックリした」

「ひょっとしてカズヤ、私が腕や足を燃やそうとでも考えてると思った?」

「えっ、あ、えーと……あははは」

 

 ヒトミは目を細め、疑うような眼でジトーっと俺を睨む。

 その眼と合わせないように顔をそらしながら、俺は苦笑いした。

 やがて、ヒトミの放つオーラに負け、俺は申し訳ないと顔をうつむかせた。

 

「そ、その、ちょっとだけ……」

「むぅ、そんなことしないわよ!」

 

 まぁ、その、別に本気でそう思ったんじゃないよ。

 でも、今までしてきた話が話だったし……。

 

「“身体の一部を燃やす”っていうのは、ヒトモシに目に見える形で生命力を与えるってことなの。だから極端な話、生命が生み出したものなら、なんでも良いの。髪の毛一本だろうが爪の先だろうがね」

 

 ヒトミは手櫛で髪を掻くように髪を撫で、自分の髪の中から1本髪の毛を抜き取った。

 

「……カズヤのも1本もらえる?」

「あ、うん」

 

 俺の髪の毛を受けとると、ヒトミは自分のものと結び合わせた。細くて見えにくいが、その結び目は綺麗に纏まっていて、まるでリボンのようだ。

 

「ヒトモシ」

「モシモシ!」

 

 ヒトミは結んだ髪の毛をヒトモシの青紫色の火の中へやる。すると、一瞬だけヒトモシの頭の火が勢いをまして燃え上がり、髪に燃え移った。

 だが不思議なことに、ヒトミの指にはまったく燃え移っていない。

 

「ホントに熱くないの?」

「えぇ、まったく」

 

 ヒトミは火の玉状に燃える青紫の火を手のひらにのせて、何事もないように応えた。

 やがて火が消え、結んだ髪の毛は姿を消した。

 

「はい、これで終わり。これで厄は去って、きっと今夜は霊界へ行く夢が見られるわ。ふふふふっ」

「……あは、あはははぁ」

 

 うっとりとした表情で笑うヒトミに合わせて笑ってみたが、顔が引きつって苦笑いになってしまった。

 

「ラルラルー?」

「モシ!」

 

 横ではラルトスが『触っていい?』とヒトモシに訊ねていた。一連のこと見ていて、ラルトスもヒトモシの火に興味を持ったらしい。ヒトモシは『いいぞ!』と、ラルトスに向かって頭を下げる。

 せっかくなので、俺もラルトスと一緒にヒトモシの頭を撫でてみる。

 

「……ホントに熱くないんだねぇ」

「ラルぅ……」

 

 青紫の火に触れても、なんの感触もなくすり抜ける。なのにどうして、さっきモノを燃やせることができたんだろう……本当に不思議だ。

 しかし、ここでふと俺の中で一つの疑問が浮かんだ。

 

「ねぇ、このおまじないって俺がいなくても、ヒトミだけで出来たんじゃない?」

 

 俺が訊ねると、ヒトミの身体がピクッと反応した。心なしか表情も硬くなっている。

 

「そ、それは、やるなら一人より二人の方が良いというか……ほら、実験や検証ではサンプルが多い方が良いって言うでしょ? それに、カズヤはもうすぐトレーナーとして旅立つわけだから厄払いしておくのも良いと思うの!」

「……ふーん。まぁ、そうかもね」

 

 早口になってるのが、かなり気になるけど……。

 

「モシ、モシモシ!」

「へぇー」

「モシモシモシ、モシモシ、モシモー!」

「えっ、うそ?」

「なっ、ヒトモシ! それは言っちゃダメぇ! なに言ってるか分からないけど!」

 

 俺が頭を撫でていると、いきなりヒトモシがとんでもないことを口にした。そのことを聞いて俺は驚き、ヒトミは焦りだした。滅多に表情(特に目元とか)を変えないヒトミがここまで取り乱すのは、かなり珍しい。

 ヒトミは急いでヒトモシを抱き上げ、俺から少し距離をとった。

 

「うぅ……」

 

 顔をうつむかせるヒトミは、こっちにチラチラと目を向ける。少しだけ見えたが、顔が“マトマのみ”みたいに赤くなっていた。

 

「……ヒトモシ、なんて言ったの?」

 

 なんと言って良いか、あるいは本当に言ってしまっても良いものかと悩むが、ヒトミが弱々しくも「答えて」と言うので、俺はヒトモシの言ったありのままを教えることにした。

 

「『このおまじないは昨日の夜、御主人が見つけたんだ。なんでも、ボクの火を使って“人間の男女がずっと一緒にいられますようにっていう御願いを叶えるおまじない”らしいよ!』……だって」

「……かぁぁ」

 

 ヒトミは更に顔を赤くした。あともう少ししたら、頭から蒸気でも出てくるんじゃないだろうか?

 

「ぁ、ぅ……」

「まぁ、その……あははは」

 

 真っ赤になって固まっているヒトミに、どう反応していいのか分からず、俺は困ったように笑う。

 ヒトミのことばかり気にしていたが、たぶん俺の顔もかなり赤くなっているだろう。顔が火照っているように感じるし、心なしか胸もドキドキ鳴っている。

 

「ラルぅ?」

 

 ラルトスが心配そうな声で鳴き、俺を見上げた。

 俺は「大丈夫だよ」とラルトスだけに聞こえるように返したが、感情をキャッチできるラルトスはあまり信じていないようだ。

 

「……と、とりあえずヒトミ、ヒトモシを放してあげて」

「えっ! あ、あぁーーごめんね、ヒトモシ!」

 

 言われてはじめて気が付いたようで、ヒトミは自身の腕の中でペチペチと暴れていたヒトモシを地面に下した。

 ヒトミの腕の絞めつけから解放されたヒトモシは、「モシモシ、モシー!」と怒った顔で鳴く。ヒトモシの『なにすんだよ御主人!』と言う気持ちは分からないでもないが、ヒトミの行動も当然だと思う。

 だけどポケモンたちには、まだその辺のデリケートなことは分からないらしい。

 

「……うぅ」

 

 まだヒトミは顔を赤くして、こっちをチラチラ見ている。

 

「それで、何でこんなことを?」

 

 単刀直入に話をふると、ヒトミはピタリと動きを止め、さらに顔を下に向かせた。もはや彼女の顔は、垂れ下がった髪でほとんど見えない。

 

「……だ、だって後少ししたら、カズヤ、ポケモントレーナーとして旅に出ちゃうでしょ?」

 

 俺は「……うん」とゆっくり頷いた。

 

「カズヤが旅に出ちゃったら、当然、会うことも少なくなるだろうし……もしかしたら、そのまま会えなくなるかもしれないし……そんなのイヤだから……」

 

 ヒトミはポツリポツリと自身の本音をこぼしていく。髪で隠れた顔から表情を読み取ることはできないが、彼女の声や言葉、動きの一つ一つから彼女の気持ちが伝わってきた。

 

「……そっか」

 

 ヒトミの言葉を聞いて、俺もうつむき気味になる。

 さっきから顔が熱くて仕方ない。内心でも必死に平静を保とうとしているが、ヒトミが俺と別れるのがイヤって思ってくれてることが嬉しかったり、会えなくなるかもしれないって言ったことが悲しかったり、その気持ちの真意は何かとか、いろいろなことを感じたり考えたりして、心の中がぐちゃぐちゃだ。

 

「……え、えーと、その……ありがとう、ね?」

「えっ!」

 

 ヒトミは驚いた様子を見せ、顔を上げた。

 

「おまじないの嘘ホントはさておき、ヒトミがそう思ってくれてるのは、めちゃくちゃ嬉しい」

「えっ! な、なんで……どうして……!」

 

 俺が心に思った気持ちを素直に口にすると、ヒトミは理解できないといった顔で、オロオロしはじめた。

 

「だって私、カズヤをダマすようなことして……」

「ううん。それは気にしてないよ」

「でも……」

「ホントに気にしてない。俺もヒトミとは別れたくないから、ずっと一緒にいられるなら、その方が良い」

「えっ!」

 

 ヒトミは顔を赤く染めたまま、ポカンと口を開いた。

 

「あ、あの、それって……!」

「あははっ」

 

 どういうこと、と訊きたそうな表情をするヒトミだが、俺は誤魔化すように笑った。

 ほとんどヒトミへの気持ちを話してしまったようなものだが、やっぱり“全部”を口にするのは、まだ恥ずかしい。

 

「ねぇ、前にヒトミ言ってたよね。“おくりびやま”に行ってみたいって! あと、ホウエン地方のどこかにある“そらのはしら”とか、“マボロシじま”とかにも行きたいって……!」

「う、うん……覚えてたんだ」

 

 意外そうな顔つきをするヒトミに、俺は「まぁーね」と頷く。

 

「だからさ、ヒトミも一緒に旅に出ようよ!」

「えっ!」

「俺はジムバッチを集めてリーグに出るため、ヒトミは各地の伝承とかを研究するために、一緒にホウエン地方を冒険しようよ」

 

 俺が「どうかな?」と訊ねると、ヒトミは「う、うーん」と思い悩むようにうつむいた。

 

「その提案は、とても嬉しいけど……いいの? 迷惑じゃ、ない?」

「迷惑じゃないよ。これまでだって、ずっとヒトミのオカルトを手伝ってきたんだ。“おくりびやま”に行くくらい、どうってことないよ!」

「ホント? 幽霊とかいっぱい出るかもよ?」

 

 えっ!

 

「……それは、まぁ、頑張る」

 

 幽霊への恐怖心、克服しなきゃ……。

 

「幽霊は苦手だけど、それでも……俺は、ずっとヒトミと一緒にいたいからさ……」

「そ、そっか……えへへ」

 

 ヒトミはにっこりと笑った。その笑顔はいつもの独特な笑い方ではなく、とても幸せそうな明るい笑顔だった。

 

「だから、一緒に行こう!」

「……うん!」

 

 嬉しそうに笑みを浮かべながら、ヒトミは深く頷いた。

 

「えへへ、やったー!」

「わッ!」

 

 突然、ヒトミの顔が近づいてきて、心地好い香りが流れた。急な勢いに押され、後ろに倒れそうになったが、なんとか耐えることができた。

 あまりにも突然だったため、俺はヒトミが抱きついてきたことに気づけなかった。ヒトミは俺の後ろに腕を回し、体を俺に密着させる。

 1秒か、それとも1分だったろうか、どれくらいだったかは分からないけど、ヒトミの体温を感じて、やっとヒトミとの距離がないことに俺は気づく。

 

「……えっ、あッ!」

 

 ポカポカとしたぬくもりの次に感じたのは、甘い香りと首筋をくすぐるヒトミの吐息、胸元にある柔らかい感触…………。

 

「ヒトミ……は、はずかしいよ」

「あっ、ごめんね」

 

 ヒトミは俺の肩に手をおき、距離をあける。

 

「つい嬉しくて……イヤ、だった?」

「う、ううん。イヤじゃないよ」

 

 お互いに恥ずかしくなり、俺とヒトミは揃ってうつむいた。

 

「ラルラ、ラルラルー」

「モシモシー、モシっ!」

 

 足元では、ラルトスとヒトモシが『カズヤ、お顔真っ赤』『うれしそうだな御主人!』と、俺とヒトミの顔をそれぞれ見上げていた。

 

「……えへへへ」

 

 恥ずかしそうに頬を染めがらも、ヒトミは嬉しそうに笑う。その表情やしぐさは、いままでに見たこと無いくらいに、可愛いものだった。

 

「……あははは」

 

 そんなヒトミの笑顔を見ているうちに、自然と俺の顔からも笑みがこぼれた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 カロス地方出身、オカルトマニアのヒトミ。

 彼女は一人の友達と共に、旅に出ることを決めた。

 その旅を通して、これから彼女はたくさんの友達(ポケモン)と出会うだろう。

 そんなヒトミとカズヤの旅は、これから始まる。

 

 

 






この作品では、評価、感想など、積極的に受け付けております。
よろしくお願い致します。

本作は短編なので本腰入れて書きはしませんが、今後ちょくちょく投稿していこうかなと思っています。

以下のポケモンの中から、直感で選んでください。

  • ケーシィ
  • ゴース
  • ニャスパー
  • ミミッキュ
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