船がムロタウンの港に入ったのは、陽が沈みかけて空がオレンジ色になるくらいの頃だった。
ムロタウンは“タウン”というだけあってトクサネシティと比べると、やや小さな街だった。けど、街中にはとても活気があり、豊かな情景が広がっていた。
風景を眺めたのもつかの間、俺とヒトミはポケモンセンターへと向かい、一晩宿をとった。
そして翌日、諸々の準備を済ませた後、俺達はポケモンセンターを出た。
「よーし、行くぞー!」
「ラールー!」
俺の気合い入れに合わせて、ラルトスも手を上げる。
ジム戦に向けて、彼女の調子も万全のようだ。
「って、ヒトミ……何してるの?」
「……今日の占い」
「へぇ」
俺とラルトスの後ろで、ヒトミは布越しに持ったモンスターボールを、片手でかざしながら見つめている。前にもたまにやっていたモンスターボールを水晶玉のように使った占いだ。
ボールの艶を見るようなヒトミの顔は、知らない人が見たら不気味と取られるくらい笑っている。そんな彼女の空気に合わせているのか、彼女の足元でヒトモシも影のある笑みを浮かべていた。
「…………むぅ」
やがて占いが終わり、ヒトミは歪んだ笑みを引っ込め、不服そうに固く口を結んだ。
「どうだった?」
ヒトミの表情から、あまり良くない結果だと察したが、一応訊いてみる。
「カズヤと私にとって、“良くないこと”が起こるみたいだわ……!」
「良くないことって……ひょっとしてジム戦に敗けるとか?」
「そこまでは分からない。けど好ましくない因果律が見えるのは確か……。私の占いから言えるのは、今日、ジムへ行くのはオススメできないってことくらい……」
「……そっか」
縁起悪いなぁ……。
まぁでも、もし今日ジム戦で敗けたからって二度と挑戦できなくなる訳じゃないし……。
「でも、大丈夫……」
「えっ?」
途端、ヒトミは【でんこうせっか】でも使ったのかというくらい素早く距離をつめて、俺の頭の後ろへ手を回した。
「ちょ、なにを!」
「じっとしてて」
抵抗する隙さえ与えず、ヒトミはグッと身を引き寄せて俺の頭と自分の頭をピタッと合わせた。
お互いの額が触れ合い、まるで口づけでもするかのような距離だ。
なんだか少し甘い匂いもする……気がする。
「Ilvey, yhveme, yanmealwytogthr, candoevryiftwo ...」
ヒトミは目を閉じて、呪文のような言葉を優しく透き通った声で呟いていく。
耳でヒトミの声を聴き、顔に吐息が触れて、額で体温も感じる。俺は、その間、心臓がバクバク鳴りっぱなしだった。
「twlvesfrevr……よし」
呪文が終わり、ヒトミはまっすぐ俺の顔を見た。
「え、えぇーと……」
「おまじない」
ヒトミはニヤリと笑い、さっきの占いでしていたような笑みを浮かべた。
「これで、大丈夫よ!」
「そ、そうなんだ……」
口ではそう言ったが、もう何が大丈夫か分からない。まだ心臓がドキドキしてるし、顔が【だいばくはつ】しそう……。
「あ、ありがとう」
「うん!」
俺が礼を言うと、ヒトミの歪んだ笑顔が、【パールル】の真珠のようにキラキラした純粋なものになった。
「えへへ!」
「…………可愛い」
俺は顔を背けて口元を手で覆い、ボソリと呟いた。
なんかもう、縁起が悪いとか、どうでも良いかも……。
今ので俄然やる気でた!
「そ、それじゃあ、行こう!」
俺は真っ赤になっているであろう顔を隠すように、ヒトミより少しだけ前を歩きながらムロジムへ向かった。
『カズヤ、顔赤いよ。大丈夫? 風邪ひいた?』
「ううん、大丈夫……ありがとね」
「ラルルゥ!」
途中、ラルトスに心配されたりしたが、その良い感じの優しさと純粋さに和み、俺はなんとか平常心を取り戻すことができた。
ポケモンセンターからムロジムまでは、そんなに時間は掛からなかった。
「……ここがムロジムか」
俺とヒトミは並んでジムの前に立ち、建物の外観を見上げる。
「同じジムでもフウ達のジムとは、違った雰囲気だな」
「そうね」
同じホウエン地方のジムだからなのか形とかは一緒だけど、ジムのシンボルとか色合いとかが少し違う。そして、なによりも感じるオーラというか、風格が少し違っていた。
「頼んだぞ、ラルトス!」
「ラルラール!」
俺は頭の上に乗ったラルトスは『まかせて!』とやる気を示していた。
俺は足を進めてそのまま自動ドアをくぐる。ヒトミもヒトモシを抱えて俺に続く形で中に入った。
「えぇー!」
二人で中に入った途端、なにやら高い声が中に響いた。
すると奥の方で、その声を上げたと思わしき少女とメガネをかけたジムの人らしき女性がなにやら話をしていた。
「ジム戦できないって、どうしてッスかぁ!」
「あいにく今日はジムリーダーが不在でして……」
えっ、ホントに……?
「明日なら問題なく挑戦いただけるんですけど……」
「うぅぅ……そうッスか。じゃあ出直してくるッス」
オレンジ色のトレーニングウェアを着た青髪ポニーテールの少女は、見るからにガッカリした様子で、ジムを出ていった。
会話から考えて、どうやら今の彼女もポケモントレーナーで、俺と同じくムロジムへ挑戦しに来たみたいだが、どうやら今日はジムリーダーの不在のためジム戦はできないらしい。
確認のため、俺は少女と話をしていたメガネの女性のもとへ行き、ジム戦について訊ねた。
「えーっと……今日はジム戦できないんですか?」
「えぇ、ジムリーダーのトウキさんが別件で不在なの。今日中には帰ってこられないと思うわ」
「分かりました。じゃあ、明日また来ます」
「ごめんなさいね」
事務員さん(あるいは秘書かな?)らしき人は申し訳なさそうにお辞儀をして俺達がジムを出ていくのを見送っていた。
「……はぁ」
「……ラルぅ」
「残念だったわね」
「モシモシ」
ジムを出て、ジムの人が誰も見てないのを確認して、俺とラルトスは深い溜め息を吐き、肩を落とした。
ヒトミが占いで言ってた“良くないこと”とは、この事だったのかな……。
「まぁ、仕方ないさ。気持ちを切り替えて、明日、がんばろう。な、ラルトス」
「……ラールー!」
ラルトスは俯いていた顔をあげて、元気よく返事をした。その返事をしてくれたことへの感謝に、ラルトスの頭を撫でると、ラルトスは『えへへ!』と口元を緩めて喜んだ。
「この後、どうする?」
「暇になっちゃったね」
まさか一日暇になるなんて……。
敗けてジム戦が長引くのは想定してたけど、暇になるのは考えてなかった。
修業するのも良いけど、エスパータイプの修業は精神的なトレーニングが主で、日々の積み重ねが成果となり、一日しっかりやったからといって実力がのびるものではない。それに、トレーニング自体は今朝の日課でやっている。
さて、どうしたものか……。
「海岸でも歩いてみようか?」
***
俺の提案で、俺達はムロタウン周辺の海岸にやって来た。トクサネシティも海で囲まれていたが、街の風景と同じく、ここの海岸もトクサネシティの海岸とは違った趣がある。
「同じ海でも、場所が変われば雰囲気も変わるなぁ」
「そうね」
俺はラルトスを頭に乗せ、ヒトミはヒトモシを腕で抱えている。いつものように並んで歩き、俺達はほのぼのとした時間を過ごしていた。
今いる場所は、ムロタウンの住宅街から少し離れている海岸で、ちょうど崖のように海から突き出ている岩場とまっさらな砂場が交わる場所だ。
岩場の上を歩くのは危険だろうが、やや離れた砂場から見上げると自然の壮大さが感じられる。波が岩へ打ち付ける光景は、なんだかドラマチックにすら見える。
「……あれ?」
海岸の風景を眺めていると、ふとヒトミが何かを見つけて首を傾げた。
「どうしたの?」
「いえ……あそこ」
ヒトミの指先に沿って目線を動かすと、岩場の上に人影が見えた。
「あの子って……」
「あぁ、たしかジムにいた……!」
「ラルぅ!」
「モシモシ!」
よく見ると人影の正体は、さきほどムロジムですれ違ったへそ出しトレーニングウェアの少女だった。
俺が洩らした言葉に、ラルトスとヒトモシも肯定する意の鳴き声を上げた。
「ヤッ! トォ! ハァ!」
少女はここからでも聞こえるほど大きな声を出して、断崖絶壁の上で、格闘技の型稽古をしていた。
「危ないなぁ、あの子……」
とても迫力のある稽古姿だが、俺が率直に思ったことは、ソレだった。
もし足でも踏み外そうものなら、即、海へドボンだ。落ち方が悪ければ、命にかかわる。
そんなことを思っていた時だった……。
「フッ、ハッ、あーっとととドァ!」
「「なっ!」」
少女はバランスを取るのに失敗して崖から落ちた。
「ラルトス、崖下の砂場にテレポート!」
「ラル!」
ラルトスの技を使い、俺は崖の近くに瞬間移動した。そして直後、『テレキネシス』を使って落下する少女へ念力を纏わせた。
「アァァァ、ヤバいヤバいヤバい、ヤバいィィッスぅぅ!」
少女は絶叫しながら落下している。
「クッ!」
『テレキネシス』によって落下速度は遅くできたが、このままでは海に落ちる!
落下地点の水深がどれくらいか分からないが、浅かったら危険だ。
「ラルトス、サイコキネシス!」
「ラル、ラぁぁルぅぅぅぅ!」
流石に俺の『テレキネシス』に人を受け止めるだけの精神力はまだ無いので、俺はラルトスに【サイコキネシス】で少女を浮遊させて砂場の上まで運んでもらった。
ラルトスも【テレポート】を使った直後、すぐに【サイコキネシス】は使えないので、良い感じの時間稼ぎができた。
「えっ!」
砂場に軽い尻もちをつく形で落ちた彼女は、目をパチクリとさせていた。
表情から察するに、突然のことで何が起こったか分からない、といった感じだろう。
「大丈夫ですか?」
俺は彼女の様子を伺うように歩み寄る。
『テレキネシス』と【サイコキネシス】で受け止めたとはいえ、どこか怪我でもしていたら大変だ。
少女はポカンとした顔で、こっちを見た。
「あの、どこか怪我とかしなかったですか?」
「…………うぅ」
あまりにも反応がなかったので、再度問いかけたら、突然、少女は眼が潤ませ始め、震えた声をつまらせた。
「うぐっ……ふ、ふぇぇぇ!」
「ぐふッ!」
小さな嗚咽をこぼし、ついに、貯まっていた涙が溢れ、少女は泣き出してしまった。
それだけならまだ良かったのだが、少女は泣き出すだけでなく、助けでも求めるように腕を回して俺に抱き付いてきた。
「死ぬかと思ったァァァ、チョー怖かったッスぅぅ!」
「わかった! わかったから! はなしてェ!」
この子、見た目通りというかなんというか、抱きしめる力が強い。
率直にいって、かなり苦しい!
背中を軽く叩いたり(タップアウト)したけど、彼女は気づいてくれていないようで、しばらくの間、少女は俺を締めつけながらワンワン泣いた。
この時、なんとなく背中に冷たいものを感じた気がしたんだけど、あれは何だったんだろう……?
ーーつづく。
『っす』口調の女の子は人気がないと聞きました。
なんででしょう?
作者としては(リアルな話はさておき)可愛いと思うんだけどなぁ……。
本作のイチャラブについて、皆さんの感想として当てはまるものを以下から選んで下さい。
-
ベタベタしすぎ。引くわぁ……。
-
良いぞ、その調子。もっとヤれ!
-
まだ足りない。もっとイチャイチャしろ!
-
人間は良いから、もっとポケモンを愛でろ!
-
イチャラブよりバトルだ!