やっぱりポケモンといえば、
バトルと“アレ”の存在ですよね?
「いやー、恥ずかしい所をお見せしたッスねぇ!」
少女は後ろ頭を擦り、照れくさそうに笑う。
彼女が砂浜に降りてから今みたいに話をできるようになるまで、10分くらいかかった。その間、彼女は滝のように涙を流してめちゃくちゃ泣いた。そして、同時に俺の身体をがっしりと掴まえて放さなかった。
途中から、ヒトミとラルトスとヒトモシが彼女の腕を放そうと頑張ってくれていたが、インドアなヒトミと物理的パワーの強くないラルトスとヒトモシでは、彼女の力に勝つことはできなかった。
なんかもう締めつけられ過ぎて、身体が痛い。
跡とかついてないよね……?
「私はバトルガールのサヤカ。危ないところを助けてもらって、ありがとうございますッス。この恩は一生忘れないッス!」
「いや、そんな別に気にしなくても……」
なんか彼女の頑丈さなら、あの岩場から落ちてもケロッとしてそうだ。
まぁでも、怪我もなく無事だったようで、良かった良かった。
「俺はトクサネシティのカズヤ。こっちが同じくトクサネシティのヒトミ」
俺は背後で隠れるように立っているヒトミを示す。俺の服を掴んでることから、ヒトミはいつものように人見知りをしているようだ。フウとランに初めて会った時も、こんな感じだったし……。
「よろしくッス!」
少女……サヤカが眩しいくらいの笑顔で挨拶をすると、ヒトミはビクッと反応して、さらに後ろに下がった。服を掴む力も強くなって、半ば俺の身体を引っ張っている。
そんなヒトミの反応を見て、サヤカは不思議そうな顔をして首を傾げた。
「……彼女さん、どうかしたッスか?」
「あぁ、いつものことだから気にしないで」
「そうッスかぁ……?」
普通ならヒトミの様子が気になる所だろうが、あっさりした性格なのか、サヤカはサラッとした態度で、あまり気に止めなかった。
(……か、彼女!)
なんか急に背中を引っ張っているヒトミの手がゆっくり揺れだした。
大丈夫かな……。
後ろを見ても、ヒトミが背中の方にいるせいで、顔はよく見えないし……。
「そういえば、お二人は先程、ジムにいた方達では?」
「そうだよ」
「ということは、二人はポケモントレーナーッスか!」
サヤカは前のめりになってキラキラした眼で、俺達を見た。
ポケモントレーナーなんて、そんなに珍しいものでもないのに……。
なんで、そんな興奮してるんだ?
「俺はそうだけど、ヒトミは違うよ」
「じゃあ、カズヤっていったッスね、早速バトルするッス!」
そう言って、サヤカは俺を指で示した後、シャドウボクシングのように拳を動かした。
「えっ、なに? バトルって俺達が戦うの?」
「いやだなぁ、ポケモンバトルに決まってるじゃないッスか! 私のポケモンとカズヤのポケモン、どっちが強いか勝負するッス!」
じゃあ、そのシャドウボクシングはいったい何なんだよ……?
***
その後、暇だったし断る理由もなかったので、俺はサヤカの申し出を引き受けた。
そして今、広い砂浜をバトルフィールドにして、俺達は大きく間をあけて、向かい合っている。
ヒトミはヒトモシを抱えて、俺の少し後ろでバトルを観戦するみたいだ。
さっきから少しムスッとしてるのが気になるけど……どうしたんだろ?
「私の手持ちは一体だけッスから、ルールは使用ポケモン一体のシングルバトルにするッス!」
「分かった」
俺の手持ちもラルトスだけだから、ちょうど良い。
サヤカはハーフパンツのポケットからモンスターボールを取り出して起動させた。
「それじゃあ、出てきて! アサナン!」
そう言って、サヤカは勢いよくモンスターボールを投げた。すると投げたボールは弾けるように割れ開き、中から一匹のポケモンが飛び出す。
「アサー!」
そのポケモン、【アナサン】は、そのまま空中で足を組んで「ナン!」と短い鳴き声を上げて地面に腰をつけた。
その瞑想するような体勢は【アサナン】が精神を高めるためによくやるポーズだ。
「おぉ、アサナンだ!」
父さんがチャーレムを持ってることもあって、少しテンションが上がった。それに、なによりもエスパータイプだし!
「それじゃあ、こっちも。ラルトス、頼んだぞ!」
「ラル!」
俺がそばにいたラルトスに指示を出すと、ラルトスは『まかせて!』と頷いて、その場からシュッとジャンプして、フィールドに立った。
「先手は譲るよ」
「おっ、良いッスか! じゃあ遠慮なくいくッス!」
サヤカの意気込みに応えるように、相手のアサナンが立ち上がり、瞑想のポーズから戦う構えに移った。
「アサナン、【きあいパンチ】!」
【きあいパンチ】は、かなりの威力があるが攻撃を出すまで少し時間が掛かる技だ。
そのせいかスクールにいた時には、バトル中この技を指示するトレーナーは少なかったんだけど、今回は俺が先手を譲って相手が攻撃してこないと分かってるから、指示したのかな……?
「アーサー!」
拳に気合いをためて、アサナンはラルトスへ迫る。
「ラルトス、【かげぶんしん】」
「ラル!」
だが、アサナンの【きあいパンチ】はラルトスの身体をすり抜けた。そしてアサナンの周りに次々とラルトスの分身体が現れてアサナンを囲んだ。
「ア、アサぁ!」
アサナンはラルトスの分身体を見て、どれが本物なのか分からず混乱しているようだ。
「惑わされないで、アサナン! 【こころのめ】!」
サヤカの指示に従い、アサナンは目を閉じて、周りの気配を探る。
【こころのめ】は、相手の場所を探知して次の技を必中させる技だ。これで【かげぶんしん】で増えた分身と本物を見分けて、さらに次の技を当てることができる。
聞いた感じでは使い勝手の良さそうな技だけど、こういった技(補助技)は大きなスキを作っていたりもする。
「今だラルトス、【アンコール】!」
「ラル!」
ラルトスは(分身も一緒に)リズムよく両手をパチパチ叩き、アサナンをたきつけた。
『はーい、もう1回っ! もう1回っ!』
『なぬっ?』
アサナンは、一瞬戸惑いを見せたが、次第に何事もないように不自然に落ち着きを取り戻した。
「アサナン、【バレットパンチ】!」
げっ、はがねタイプの技!
危なかった!
「……ナーン」
「ちょっと、アサナン! 何やってるの!」
どうやらサヤカは【アンコール】を知らないらしい。
まぁ、俺も爺ちゃんから聞かされるまで知らなかったし、スクールでも教わらなかったから、不思議ではない。
【アンコール】は相手のポケモンに暗示をかけて直前の技を強制的に出させる技だ。だからアサナンは【バレットパンチ】の指示を聞かず、今も【こころのめ】をやっている。
『あっそーれ、もーぅ1回っ! もーぅ1回っ!』
ラルトスのヤツ、楽しそうだな……。
無邪気なテンションのせいで、バトル中なのに、まるで音楽ライブの観客みたいだ。
「あのラルトスの動き……何かの技ッスね!」
気づいたか……。
まぁ、あのラルトスの様子を見れば、流石に気づくか。
「ラルトス、【めいそう】でパワーを貯めろ!」
「ラル……」
ラルトスに次の指示を出すと、ラルトスの分身体が消えて、本体だけがアサナンの前に残った。そしてラルトスは、さっきまでの楽しそうにしていた手拍子をピタリとやめて、シーンと静かに心を落ち着けた。
「アサナン、しっかり! 【バレットパンチ】!」
【アンコール】の暗示は、技を掛けてからしばらく持続するが、それでも時間が経てば解けていく。
「アサっ! アーサーナン!」
やがて、アサナンは正気を取り戻して、サヤカの指示通りに【バレットパンチ】の構えを取った。
「今だ、【チャームボイス】!」
「ラル!」
アサナンが距離を縮めて、ラルトスに【バレットパンチ】を打とうと飛びかかる。
「ラルラルぅ、ラルーぅ!」
けどアサナンが攻撃するよりも早く、ラルトスが魅惑的な声を響かせた。
ラルトスの【チャームボイス】の音波がアサナンに直撃する。【めいそう】のおかげで威力も高まり、効果は“ばつぐん”だ。
ちなみに、この時のラルトスの言葉だが……。
『チャームぅ、パワーぁ!』
ホント、言葉が分かる者からすれば、そのまんま過ぎて、逆に魅惑の欠片も感じない言葉になっている……いや、確かに可愛いくはあるんだけどさ。
「ア、サ……ナン」
アサナンは膝をついた。
「アサナン! 大丈夫?」
「アーサー!」
『大丈夫です!』と言っているが、その様子から、あまり余裕がないのが分かる。
「頑張ってアサナン、【かわらわり】!」
「アサ!」
「これでトドメだ。ラルトス、【サイコキネシス】!」
「ラル!」
アサナンは手を上げてラルトスに飛び掛かり、対してラルトスは眼を光らせて念力を手に纏った。
「ラールー!」
「アーサー! アサ!」
ラルトスの纏った念力は、【かわらわり】で手を振り落とそうとしていたアサナンに伝播して、空中にいたアサナンを吹き飛ばした。
「あぁ、アサナン!」
叫び声を上げて吹き飛んだアサナンは、そのまま地面に倒れて目を回した。
***
バトルが終わり、サヤカが倒れたアサナンに駆け寄る。
「大丈夫、アサナン?」
「ナーン……」
アサナンは『なんとか……』と弱々しい声で応えるが、体力を消耗してグッタリとしていた。
サヤカは「ゆっくり休んで」と言って、アサナンをモンスターボールに戻した。
「ラールー!」
ラルトスは『勝ったよー』と無邪気に駆け寄ってきた。
「お疲れさま、ラルトス」
「ラルラル、ラールー!」
「おっと!」
『ふふーん』
ラルトスは喜んだ声で鳴き、俺の胸へ飛び込んできた。俺は慌てて抱き止めるが、ラルトスはそのまま甘えるように腕の中に顔を埋めた
「よしよし、よく頑張ったな」
『んー』
そっと頭に手を置いてラルトスを撫でると、ラルトスは満足そうに顔をほころばせた。
「一撃も入れられなかった……悔しい!」
サヤカは目を閉じて、ギュッと拳を強く握った。心なしか目元も潤んでいるように見える……。
俺はゆっくりとサヤカの元へ歩み寄る。
「惜しかったな。まぁ、今回は俺の運が良かったというか……」
「気遣いは無用ッス。私なんて、まだまだ未熟ッスから!」
「いや、そんな卑下しなくても……」
めちゃくちゃヘコんでる……ストイックなんだなぁ。
でも実際、ポケモンの相性への判断も的確だったし、戦略的にも【かげぶんしん】の後に、すぐ【こころのめ】を指示したのは良かったと思う。スクールでは適当に攻撃して片っ端から分身を消して、力業で解決しようとする生徒も少なくなかったからな。
「今回、サヤカの主な敗因は【アンコール】を知らなかったことくらいだし、実戦を積めば、きっと強くなるよ」
「……本当ッスか?」
「うん」
攻撃技が直接的なもの(物理技)ばかりだったのが気になるけど、本当にトレーナーとしてのセンスは悪くないと思う。
「まぁでも、バッチひとつも持ってないトレーナーの言うことだから、あんまり当てにならないし、励みにもならないか……」
「そんな事ないッス! 私より強いのは確かッスし、それに、バッチを持ってないのは私も同じッスから」
そうなんだ……。
そういえば、バトル前にポケモンはアサナンだけって言ってたな……トレーナーとしての経験は、そんなに多くないのか。
そんな事を思っていると、サヤカは顔を上げて「よーし!」と目の色を変えた。
「これからもっと修業して、もっともっと強くなるッス……。カズヤ、次は負けないッスからね!」
「あっ……う、うん」
どうやら元気を取り戻してくれたようだ。
けど、そのファイティングポーズは何なんだ?
「これから、カズヤと私はライバルッス!」
「えっ……お、おぅ!」
サヤカは手を上げて俺に握手を求めてきた。突然のことでビックリしたが、俺は手を伸ばして、その握手に応える。スポーツ選手がよくやる、親指を握り合うヤツだ。
「…………寒っ!」
「ん、どうしたッスか?」
「いや、なんか寒気が……!」
サヤカと握手した瞬間、なんか妙な悪寒が走った。
そういえば、サヤカを助けた時も、微かに感じたけど……。
この感覚は、一体なんだ?
ーーつづく。
はーい、ということで“ライバル”出現です。
えっ?
誰にとってのライバルかって?
それはもう、言わずもがな、ですよね。
今回はイチャラブ成分少なめだったので、次回はもっとイチャラブさせたいと思います!
PS:
技の設定など、あまり自信がありませんので、ポケモンバトルについて感想がございましたら、是非ともお聞きしたくと思います。
(それ以外の感想や評価でも、もちろん構いません)
全国のポケモントレーナーの皆さま方、御感想のほど、よろしくお願いいたします。
PSのPS:
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本作のイチャラブについて、皆さんの感想として当てはまるものを以下から選んで下さい。
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ベタベタしすぎ。引くわぁ……。
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良いぞ、その調子。もっとヤれ!
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まだ足りない。もっとイチャイチャしろ!
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人間は良いから、もっとポケモンを愛でろ!
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イチャラブよりバトルだ!