ラウラを呑み込んだ巨大ISと戦闘を開始してから数分、一夏は何度も敵に斬撃を当てているが、なかなかラウラの救出が出来ない。
あのドロドロした物が傷口を直ぐに塞いでしまうのだ。
「クソッ!駄目だ、アイツ修復が早すぎる!」
一夏が盛大に悪態をつく。
「あぁ、あの液体みたいなのが邪魔だな」
何か方法は無いか・・・?
その時、一つ名案が浮かんだ。
「一夏、後一発だけデカイの行けるか?」
「?あぁ、エネルギーならもう少しだけ残ってる。けど、どうする気だ?物理攻撃がほとんど効かないぞ、アイツ」
「大丈夫だ、まず俺の作戦だが━━」
作戦を説明する。
内容は至って簡単。
一夏が斬ったら傷口が修復する前に俺のISの高速性能を活かして突撃し、一気にラウラを引っ張り出す。
そもそも、相手の攻撃を凌ぎながらラウラの救出すると言うのが一夏にとって負担はデカイし、危険だ。
「危険じゃないか?それ」
「今、一番可能性が高いのがこの方法だ。これ以上時間を食うと今度こそエネルギー切れになる。それにボーデヴィッヒ自身もこのままだと危険だ。やるしかない」
囮役である俺が仕事をしなくなるので確かに危険かもしれないが、早めにケリを着けないと間に合わなくなる。
「・・・よし、分かった。やってみようぜ、ウィル!」
「今度こそ終わらせるぞ!」
もう一度攻撃を開始する。
成功、失敗に関わらず、これがラストチャンスだ。
「うおぉぉおお!!」
一夏が敵の腹部を斬りつける。
斬りつけられた腹部がパックリと裂けた。
「今だ、ウィル!」
一夏が合図しながら、俺との衝突を避けるため横に退避する。
「サンクス、一夏!」
俺はそのまま敵に向かって突撃。
そして━━
▽
いつの間にか、俺はISを展開した状態で倒れていた。
「・・・・・・ん?ここは?」
どうやら機体に大きな損傷は無いようだ。俺はゆっくりと立ち上がる。
その時、頭に強烈な痛みが走った。
「うっ・・・何だ、これ。遺伝子強化?試験管ベビー?何の事だ・・・?」
頭の中を見た事の無い光景や単語がフラッシュする。
「これは・・・!」
辺りを見渡しても、見えるのは黒一色。
「・・・何だったんだ?」
俺は宛もなく歩き続ける。
しばらく歩き続けると、広場?の様な場所に出た。
その広場の真ん中に、一人佇む少女。
ラウラだ。
「おい、こんな所で何をしてるんだ?」
「っ!?」
驚いた様に振り返るラウラ。
「貴様っ、何故ここに!?いや、どうやって入った!」
「知らん。一夏が橋渡しをしてくれて、俺は気が付けばここに居た」
あのISに突撃して、文字通りダイブしたらここに居た。本当の事だ。
「・・・何をしに来た?」
「お前を助け出しに来た。早く出ないと命に関わるかもしれないぞ?」
間髪入れずにそう答える。
「助けるだと?誰がそんなことを頼んだっ・・・!」
「他の誰でもない
「そんな事一言も━━━」
「そうか?確かに口では言ってなくても、お前があのISに呑み込まれる寸前、俺には「助けて」と目で訴えてるように思えたがな」
彼女の眉がピクリと動く。
「・・・貴様に、貴様に私の何が解る!?生まれた時から兵器として育てられ、鍛えられ、ISが出来たら今度は出来損ないのゴミとして扱われた!・・・私は必要な機器と薬剤さえあれば、また
成る程、さっき頭痛の時に見えたのはこの事か。
「・・・それが本音か?」
「っ!」
「確かに、俺にお前の事は解らない。俺はお前じゃないからな。だが、これでハッキリした。お前がここから出たいと、助けて欲しいっていうのは俺でも解る」
「っ!何を根拠に・・・!」
「よく言うぜ、泣きそうな顔してるくせに」
「っ!?」
自分の頬を伝う涙に気付き、それを慌てて拭うラウラ。
「なぁ、別に俺達はお前の事を見捨てる気なら端からそうしてただろ?一夏なんて、お前に目の敵にされてたのに、危険な救出作戦を何度も実行したんだぜ?俺だって態々こんな危険を冒してまでこんな得体の知れない場所には来ないさ」
まぁ、最後のは予想外だけどな。と冗談混じりにそう継ぎ足しながら苦笑した。
ラウラが、その目を大きく見開ける。
「まぁ、あれだ、誰もお前の事を見殺しにしようとは思ってないって事だ。ああ、それともう一つ。これは俺の意見だが、お前や他の奴らが何と言おうが、お前は“ラウラ・ボーデヴィッヒ”その人だ。それ以上でも以下でも無い。お前は人間だ。人間の女の子だ」
最後に締め括る。
「で、話を戻すがどうなんだ?まだここで引き籠っていたいか?」
まあ、嫌だなんて言ったら引きずってでも連れて帰るがな。と冗談めかしながら付け加えた。
ラウラは俯き、肩を震わせる。
「・・・けて」
「ん?」
「助けて・・・!」
そう言ってこちらを見上げてくる彼女の顔は涙や何やらでぐしゃぐしゃだった。
「勿論」
そう言って俺は彼女に手を差し出した。
▽
気が付けばここに居た。暗くて寒い。
自分はこのまま死ぬんだろうか?
そんな事を考える。
だが、私が消えたところで誰も気にしない。どうせ私は
そう思っていると、アイツが立っていた。さっきから「助けに来た」だの何だの言っている。おまけに、私が助けて欲しいと訴えて来た等と言い始める始末だ。
つい、自分の感情をぶちまけてしまった。
こいつが何を根拠にそんな事を言ってるのか分からない。それを指摘すると、「泣きそうな顔してるくせに」と言われた。
そこで自分の頬を流れる何かに気付いた。
何で涙など・・・。
慌てて涙を拭く。
そして、彼は衝撃的な言葉を言い放った。
「お前は人間だ。人間の女の子だ」
そう言ってきたのだ。
・・・にん、げん?私が?
今まで、お前は兵器だと言われ続けた彼女は、ただ自らの存在意義の為だけにひたすら強さを求め続けていた。だがしかし━━
-人間の女の子だ-
この男は私を兵器としてでは無く、『人』として見てくれた。
『まったく!なんだこのザマは!廃棄処分もやむを得ないぞ!』
『いいかね、ラウラ・ボーデヴィッヒ。君は完璧な兵器なのだ。不良品では困る。替えが利くとはいえ、タダではないのだよ』
『お前は人間だ。人間の女の子だ』
心の内で何か溜まりに溜まったモノが崩れて行く気がした。
もし、彼が本当に助けてくれるなら。
もし、ここから出られるなら。
・・・死にたくない。
そう思い始めると、もうどうにも止まらなくなった。
「・・・助けて・・・」
口が勝手に動く。
いや、これが私の本心だ。
涙が決壊したダムのように溢れてくる。
「助けて・・・!」
嗚咽を漏らしながら、精一杯に声を絞り出す。
「勿論」
彼はそう言って、あの
▽
差し出した手を彼女はしっかりと握り返してきた。
「よし!なら早速脱出だ!」
「だが、どうやってここから出るつもりなんだ・・・?」
・・・あっ。
「・・・ヤバいな、どうやって出よう・・・。何かパスワードとかは無いのか?」
「そんなものは無い」
「」
ヤバいヤバい、カッコつけて今更この様とか笑えねぇよ!
頭を抱えながら絶望の表情を浮かべる。
「あ!そうだ!適当に飛んでたら帰れるんじゃないか!?」
焦って滅茶苦茶な事を言い始めるウィリアム。
「ふふっ」
横でラウラが可笑しそうに笑う。
だが、彼はそれに気付かない。
「と、とにかくやってみるしかない!しっかり掴まってろよ?」
俺はラウラを抱き抱えながら、真っ直ぐに飛び続ける。
飛んでから数分と経たない内に、少し先に光が見えた。
「ビンゴ!あれだ・・・!」
▽
ウィルがあのISに呑み込まれてから数分。
あれから、敵は動きを止めたままだ。
・・・遅い、遅すぎる。
「まさか・・・!」
脳裏に最悪の事態が浮かび、一夏が動こうとしたその時、敵の腹部が突然膨らんだかと思うと、中から見覚えのある厳つい顔のISが・・・。
「ウィル!」
彼は腕にラウラを抱いたまま、必死に離脱しようとしているが、あのISの触手の様なものが逃がすまい、と絡んできて抜けられない。
「うおおおお!!」
ゴォォォォォオオオオオ!!
が、ウィリアムは、自分のISに取り付けられたジェットエンジンから青い炎を噴かせながら抵抗し続け、とうとう触手の様なものがブツリと千切れた。
「いっけね!?」
しかし、彼のISは反動で一気に吹っ飛んで行ってしまい、そのまま胴体着陸の様に地面を抉りながら滑走して行く。
パチンコのように飛ばされたウィリアムは、ゴツッと軽く壁にぶつかる事で、ようやく完全に停止した。
ジェットエンジンのタービン回転数が低下して行く音と同時に、あの巨大なISは力が抜けたように崩れて行き、ラウラのレッグバンドへ戻って行く。
「やった・・・!」
一夏の声を皮切りにアリーナに出ている者達から歓声が広がる。
彼は友人の元に歩いて行き、「やったな」と言うと、ウィリアムは「あぁ」と言ってサムズアップしながら返答した。
「そう言えばボーデヴィッヒは!?・・・まったく、気持ち良さそうに眠りやがって。一夏、ぶっ飛ばすのは勘弁してやろうぜ?」
「ああ、そうだな。勘弁してやるか」
彼の腕の中では、ラウラが静かに寝息を起てていた。
▽
ラウラ救出後
「いや、だから一夏はともかく、俺は大丈夫ですって」
「俺も腕ちょっとかすっただけですよ」
「駄目です。一応、検査だけは受けとかないと」
今、俺と一夏は山田先生に医務室に連行されていた。
「さぁ、着きましたよ。入って検査を受けて来て下さい」
「ハァ、分かりましたよ」
そう言いながら、俺達は医務室に入る。
そこには、ラウラがベッドの上に座っていた。
「ラウラ・・・」
「ボーデヴィッヒか」
「ん?あぁ、お前達か・・・」
少し気まずい雰囲気だ・・・。
「・・・織斑一夏。私の勝手な逆恨みで巻き込んでしまって、本当に申し訳無かった・・・」
ラウラが一夏に謝罪する。
まるで、憑き物が取れた様だ。
「いや、もう気にしてないよ。まぁ、何だ。これからよろしくな」
「ああ。よろしく」
なんとか、彼とラウラのわだかまりは解消されたようだ。
「お先に」と言って彼は奥の部屋に進んで行った。
俺とラウラだけが残される。
あの時、彼女の前で恥ずかしいセリフをベラベラと喋った手前、恥ずかしくなってくる。
「ん?その目は・・・」
彼女は眼帯を外している為、左目が露になっていた。
オッドアイと言うのは聞いた事はあるが、ここまで色素が濃いものがあったのか・・・。
「あぁ、これか?これは私とISの適合性向上が目的でナノマシンを移植した証拠だ。その際の事故で左目だけ変色してしまっているがな・・・」
そうか、自然に出来た訳では・・・。
「そうか。だが、俺は綺麗だと思うな」
「綺麗?」
「ああ、まぁ、あれだ、こう、金色の瞳なんて神秘的と言うか、・・・何て表現したら良いかな」
「ふふっ、面白い奴だな」
「ん?そうか?」
「ああ。あれだけ格好を着けた後で盛大に狼狽したり、とかな」
「あれは・・・忘れてくれ。恥ずかしい」
「いや、無理だな。あの言葉に私は救われたんだ。本当に、ありがとう」
「・・・どういたしまして」
面と言われるとやはり恥ずかしい。
余談だが、俺達が来る前に一度、織斑先生が彼女を訪ねて来て、あの空間で俺が言った事と似た事を言われたらしい。
「そう言えば、ボーデヴィッヒ━━」
「ラウラで良い」
「そうか?なら、俺もウィルで良い」
こうして、しばらく二人で談笑していると、気付けば日もだいぶ落ちていた。
俺は早めに検査を終わらせ、ラウラに挨拶してから医務室を後にした。
しばらく歩いていると、食堂で夕食を選んでいる一夏とシャルルを見つけた。
俺も同席するため、食事を選びに行く。
今日は・・・何?ホッケ定食!?旨そうだ・・・。
よし!夕食のメニューはこれで決まりだな!
弾む足取りで料理を注文しに向かった。