朝 私室
眩しい・・・朝か?
重たい瞼をゆっくりと開ける。
「うごっ!?」
のそりと起き上がろうとした矢先、顔に何かが振り下ろされた。
脚?誰の?まさか・・・!
「ん?朝か・・・?」
「ラウラ!?お前また俺の部屋に━━」
すると布団を体に纏ったラウラが立ち上がる。
「ふっふっふ・・・今日は・・・!」
思い切り、纏っているシーツを広げた。
「っ!何を・・・!?」
俺は思わず顔を隠す。
「裸ではないぞ!」
彼女はスク水を着ていた。
ご丁寧に胸には『らうら』と書かれた名札付き。
「何だ?その格好は・・・」
思わず疑問を口にする。
「優秀な副官からのアドバイスだ!」
ドヤ顔でそう告げてくるが、さっぱりだ。
「その副官、どんな思考してるんだよ・・・まったく、大層優秀な副官だことだな」
皮肉を言うも、彼女はそんな事お構い無しに次の言葉を発する。
「今日お前の目覚めを待っていたのは他でも無い、これだ」
そう言いながら、彼女は胸元に手を入れて、一枚の紙を取り出し、渡してきた。
「何だこれ?なになに?夏の終わりに縁日デート?あぁ、これって最近出来たアミューズメントプールのイベントか?へぇ、面白そうだな」
「そうか!行きたいか?」
凄い食い付きで、ラウラが詰め寄って来る。
「縁日広場で浴衣のレンタル?あぁ、浴衣ってあの服の事か・・・」
「浴衣を着てみたいのだ・・・その、お、お前と二人で・・・」
ラウラがモジモジしながら、誘ってくる。
最後の方がボソボソした声で上手く聞き取る事が出来なかったが・・・。
ふむ、浴衣か・・・。
「そうだな、なら行くか。せっかくだから一夏達も誘って━━」
ドスッ!
「いぃっ!?」
俺の真横に軍用ナイフが刺さった。
「ふんっ!」
ラウラは心底不機嫌そうに出て行ってしまった。
「何だ?何を怒ってるんだ?」
取り敢えず、一夏達も誘って来るか・・・。
さて、俺も着替えて・・・あ、そうだ、今日は足りない物を買いに行くんだった。手早く済ませて、買い出しに行くか・・・
▽
食堂
「まったく、アイツは嫁としての自覚が足りん」
ステーキにナイフを入れながら、愚痴を溢す。
「何か遭ったの?ラウラ」
シャルロットが聞き返す。
「いや、何でも無い・・・」
「あ、そうだ!ラウラ、今日時間が有るなら洋服買いに行かない?」
「何を言う。服なら、ちゃんと軍支給の━━」
「いや、それ軍服だから・・・」
シャルロットが苦笑しながら、ラウラを説得する。
「ね?夏休みも終わっちゃうし、行こうよ」
「ふむ、そう言われればそうだな」
「じゃあ、10:00時くらいに出るので良いかな?」
「分かった」
そう言って、二人は手早く朝食を済ませるのであった。
「どうだ?外出用に着替えたぞ」
ドヤ顔のラウラが腰に手を宛て、胸を張りながらシャルロットに告げる。
「結局、制服なんだね・・・」
シャルロットが眉を八の字にして苦笑する。
その時、他の女子生徒の声が聞こえて来た。
「ねぇ、臨海公園の幻のクレープの噂知ってる?」
「知ってる知ってる!好きな人とミックスベリー味を食べると、恋が叶うって!」
・・・恋が叶う、ミックスベリー?
ラウラとシャルロットは互いの思い人の事を思い浮かべながら、同じ事を考えた。
▽
「と、言う事で一夏、みんなに伝えておいてくれないか?」
「分かった、伝えておく」
「じゃ、頼んだぞ」
そう言って俺はモノレールの駅に向かった。
さ、手早く買い出しを済ませよう。
「着いたか。えーっと、まずは・・・」
「え、エクスキューズミー・・・」
覚束無い英語で声を掛けられた。
「はい?」
「え、え~と・・・」
「あぁ、日本語で大丈夫ですよ」
「そ、そうかい?それなら話は早い!すまないが、一つ頼まれてくれないかい?」
「は、はぁ・・・何でしょう?」
「実はね、この近くでヒーローショーをするんだけど、役者の一人から遅刻するって連絡が来てね。君に頼めるかい?」
それで俺に白羽の矢が立ったと・・・。通りすがりに頼むなんて、どれだけ焦ってるんだ?
「頼むよ!バイト代を払うから!」
「まぁ、時間はあるので構いませんよ」
「そ、そうかい。助かるよ!こっちだ。付いて来てくれ!」
ヒーローショーか・・・。少し面白そうだな。
この格好・・・成る程、俺は悪役としての出演か。
「そろそろ時間だけど、行けるかい?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
さぁて、やりますか!
ヒーローショーの内容は王道中の王道。
初めは悪役が優勢だが、観客からの声援でパワーアップしたヒーローにボコられる。と言うものだった。
「いやぁ、今日は助かったよ。さっき、ようやく役者が揃ったから、この後のショーは何とかなるよ」
「それは良かった。お役に立てたようで何よりです」
「あ、そうだ。はい、これバイト代」
「え?あぁ、ありがとうございます」
すっかり忘れていた。
「それじゃあ、今日は本当に助かったよ。ありがとう」
「いえ、こちらこそ。良い経験になりました。それでは」
そう言って、俺は本来の目的に戻った。
▽
「よし、必要な物は揃った。それにしても暑いな・・・近くの店で休むか」
ん?カフェ・アット・クルーズ?なかなか良さそうじゃないか。
そう思って入店する。
店内は冷房が効いていて涼しい。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「あぁ、一人です」
「かしこまりました。あちらの席へどうぞ」
指定された席へと向かう。
「へぇ、良い眺めじゃないか」
さて、メニューは、っと・・・。
ん?アイスカフェラテか、これにしようかな。
「すいません、ウェイターさん」
「はい」
メイド服のウェイターがこちらに近づいてくる。
「このアイスカフェラテを・・・どうかしましたか?」
「え?うぃ、ウィル?」
何故俺の名前を・・・待てよ?さっきから顔をよく見てなかったが、このメイドさんもしかして・・・?
「もしかして、ラウラか?」
「あ、ああ、そうだ。それで、何故お前はここに?」
「いや、俺は買い出しの帰りでな、疲れたからここで━━」
その時、一発の銃声が鳴り響いた。
「全員動くんじゃねぇ!」
っ!?背中のボストンバッグから札束が見え隠れしている・・・。強盗かっ!
「騒ぐなぁ!」
敵は三人、それなりに装備している。
『君達は包囲されている!大人しく投降しなさい!』
外からは警察がスピーカーで投降を呼び掛けている。
「人質を安全に解放したかったら車を用意しろ!勿論、追跡車や発信器なんて着けんじゃねぇぞ!」
リーダーがそう言うと、もう一人がサブマシンガンを外に乱射する。
「へへっ、ビビってやがるぜ!」
店内に悲鳴が響き渡る。
「うるせぇ!静かにしてろ!」
こいつら、完全に俺達を人質と舐めているな。
そう思って睨んでいると、声を掛けられた。
「おい、お前。その窓に歩いて行って、今の状況を外のサツ共に詳しく話せ!」
成る程、そう言う考えか・・・。たしかに、人質が怯えながら状況説明をした方が、相手に対する精神的な揺さぶりもかけられる。
「・・・・・」
ゆっくりと立ち上がる。
「ウィル、何を?」
「え?ウィル!?どうしてここに?」
ラウラとシャルロットに、アイコンタクトで指示をする。
「おら、早くしろ!」
ピストルを向けてくる。
馬鹿な奴だ、自分から武器を近づけてくれるとは。
「おいおい・・・そんなもの向けるな、よっ!」
目にも止まらぬ早さでピストルの銃身を掴んで射線をずらし、そのまま相手の手を捻った後、膝関節の裏を蹴り飛ばして盾の様にして、奪ったピストルを構える。
形勢逆転だ。
「なっ!て、てめぇ!」
まずは、厄介なサブマシンガンからだ。
引き金を引いて、サブマシンガンに当てる。
「ぐっ!し、しまった、銃が!クソッタレ!うぐぅっ!」
腰のピストルに手を掛けるが、空かさずラウラが鳩尾にキックして黙らせた。
俺もそのまま、盾にしている奴の後頭部を殴って倒す。
二人無力化。
「ふざけやがって、このガキ!」
敵が叫びながら発砲する。
しかし、流石はドイツ軍の特殊部隊の隊長。素早い身のこなしで射線から離れた。
「僕を忘れないで欲しい、ね!」
「ぐえぇ・・・!?」
その隙を突いてシャルロットが相手の首に脚蹴りをお見舞いして、無力化した。
「目標2制圧完了。ラウラそっちは?」
「問題無い、目標3制圧完了。ウィル?」
「目標1制圧完了だ」
しかし、リーダーが立ち上がる。簡単にはやられてはくれない様だ。
「ふざけるな・・・こんなガキ共にぃ!!」
ピストルを発砲してくる。
「「「っ!」」」
速やかに散開する。
相当は焦っているようで、単一の目標だけに集中しきっている。
ラウラは、足元に落ちているピストルを器用に蹴り上げて、それを相手の頭に突きつけた。
「遅い、死ね」
「がっ!?」
そのまま発砲すると見せかけ、フェイントで眉間を殴る。
「全制圧、完了」
伏せていた客達が口々にお礼を言ってくる。
「ありがとう、メイドさん執事さん。そこの男の人も」
執事・・・?そう言われれば、シャルロットは何故執事の格好をしてるんだ?
「ラウラ、僕達が代表候補生だと公になると面倒だから、この辺で」
「そうだな。失敬するとしよう」
「ウィルも、早くここを離れよう」
「ハァ、休憩しに来ただけなのにな・・・ん?」
「うっ・・・くそぉ・・・!」
あのリーダー格の男、まだ動くのか!?
「捕まって、ムショ暮らしになるくらいなら・・・」
・・・何をするつもりだ?
「いっそ、全部吹き飛ばしてやらぁ!!」
着ているジャケットを広げると、裏側にプラスチック爆弾が。
自爆する気か!あの量ならここいらが容易に吹っ飛ぶぞ!
クソッ、ここからでは死角で起爆装置が狙えない!
「ラウラ!」
俺はピストルをラウラに投げ渡した。
彼女はそれを鮮やかにキャッチし、そのままシャルロットと共に、起爆装置を撃ち抜く。
全ての手段を潰され、今度こそ敵は観念したようだ。
「「チェックメイト!」」
「まだやる?」
「次はその腕を吹き飛ばす」
お~!なんか格好いいな!
なんて思っていると、悲鳴があがる。
さっき無力化した一人がナイフを持って突っ込んで来た。
狙いはラウラだ。彼女は少し目立ち過ぎた様だ。
「チッ、しつこい!」
今度は俺の見せ場だ!
「死ねぇぇええ!!」
単調な動きだ、相手の体重を逆手に取れば良い。
俺は相手の腕と肩を掴んで脚を引っ掛け、地面に引き倒した。
そして、近くにあったフォークを顔の真横スレスレに勢い良く突き刺す。
ドスッ!
「ひぃっ!?」
「お前の敗けだ、大人しく投降しろ。さもないと・・・!」
スッと目を細めて、木製の床がメキメキと音を立てるように態とフォークを動かす。
「わ、分かった!降参する!降参するっ!」
歓声が上がる。今度こそ終わった様だ。