学園祭当日
「こちらへどうぞお嬢様」
「ご注文はお決まりですか?お嬢様」
執事姿の一夏と俺は接客をしている。
「うっそー。あの織斑君の接客が受けられるの?」
「それだけじゃないわ。あのホーキンス君も注文を受けに来てくれるのよ」
「しかも執事の燕尾服で!」
「写真も撮ってくれるんだって。ツーショットよツーショット!」
1組の前には長蛇の列が出来ている。
忙しい事この上無い。
ふと他所を見ると、鈴と一夏がテーブルに座っている。
すると、鈴が一夏にポッキーを向けた。
まさか、『執事にご褒美セット』を頼んだのか?
「すいませーん。注文良いですか?」
「かしこまりました。お嬢様」
とにかく仕事をこなさないと。
しばらく接客をしていると、見知らぬ女性が一夏にIS関連のセールスをしているのが目に入った。
・・・どうも胡散臭いな。
「ねぇホーキンス君」
「ん?」
「あれ、ちょっと対応してもらっても良いかな?」
「あぁ、分かった。ちょっと行ってくるよ」
クラスメイトの鷹月さんの頼みで、一夏の席に向かう。
「お客様申し訳ございません。次のお嬢様に呼ばれてまして・・・」
営業スマイルでやんわりと断りを入れる。
「すみません。そう言う事ですので・・・」
一夏を連れ戻す。
「ハァ、ウィル、鷹月さんもありがとう。助かったよ。最近、白式に装備をってやたらと多くて」
「あぁ気にするな。あれぐらいどうって事は無いさ」
「織斑君も大変ねぇ。うーん、次休憩に入って良いわよ。構内を色々見てきたら?ホーキンス君もさっきからずっと働き詰めだしリフレッシュしておいでよ」
「え?良いの?」
「流石に男手が二人も消えたらまずいんじゃ?」
「そうねぇ。40分くらいなら平気かな?」
「じゃあお願いしようかな」
「あぁ、なら少しだけ暇を貰うよ」
すると、一夏の左腕にセシリアがまとわり付いた。
「では一夏さん。わたくしと一緒に参りましょう?」
「あぁ!セシリアズルいよ」
「待て!そう言う事なら私も!」
争奪戦が始まる。
「よし、行くぞウィル!」
ラウラも何時の間にか俺の右腕を抱いて、催促して来る。
「分かった分かった。少し待ってくれ」
「時は金なり!早く行くぞ」
そのまま、俺は引きずって行かれた。
▽
「芸術は爆発だ!」
いきなり物騒なことを・・・。
「と言う訳で、美術部では爆弾解体ゲームをやってまーす!」
ここって本当に美術部だよな?
「ああ!ホーキンス君だ!」
「ボーデヴィッヒさんも一緒よ!」
「さあさあ、爆弾解体ゲームをレッツ・スタート!」
そう言って、部長らしき人が目の前に爆弾が置いてくる。
美術部の部長は少々過激な芸術感覚をお持ちの様だ。
「確かここを切って、ここは残して置くんだったよな・・・」
「待てウィル。そこを切ると時間が早まってしまうぞ」
ニッパーで時限式の起爆装置に繋がった導線を切断して行く。
俺が出来るのは戦闘機の計器・装置の極簡易的な応急修理くらいだったのだが、以前にラウラから爆弾処理のイロハを色々と教えてもらったのだ。
流石は特殊部隊隊長。危険物の処理は彼女にお任せ!ってな。
「おお!流石はホーキンス君、もう最終フェイズにはいってるね!」
最終フェイズ。それは『爆弾の最終完全無力化段階』だ。
映画でよく、主人公もしくはヒロインがどっちの線かで迷うアレだ。
切る線によって助かったり、全員お陀仏になったりする、アレだ。
「さて、ラウラ。どっちにする?」
「ふむ・・・ここは赤・・・いや、青だな」
「了解。切るぞ?」
ゲームなのに凄い緊張感だ。
パチンッ
・・・何も起きない。
つまり処理成功だ。
ガックリと項垂れる美術部部長。
「ラウラ、ナイスアシスト」
「お前もな」
ハイタッチする。
二人による共同撃破だ。
解体成功賞として、星が付いたキーホルダーをもらった。
こう言うのも悪くない。
最後に美術部への熱烈な勧誘と写真撮影をせがまれたが・・・。
「ふぅ、なんか喉渇いたし何か飲むか?」
近くの喫茶で一休みする。
「いやぁ、なかなかエキサイティングなゲームだったな」
「まさか爆弾処理の技術がここで活きるとは」
「確かにな。美術部が爆弾解体ゲームとは意外だったが面白かったよ。それにラウラの指示のおかげでクリア出来たしな」
「そ、そうか。これぐらいならまた教えてやる」
腕時計を見て時間を確認する。
「まだ時間はあるな。どこか行きたい所はあるか?たしか茶道部に行きたいとか言ってたよな?」
「む?そうだな。なら茶道部に寄って行っても良いか?」
「よし、なら早く行こうぜ」
「なっ!て、手を握るな!」
そう言って俺の手を振り払ったラウラの顔は心なしか赤い。
たしかに、いきなり手を握るのはデリカシーが無かったな。
「あぁ、悪い悪い」
「い、いや、その・・・なんだ・・・。べ、別にお前がそうしたいのなら・・・」
「?早く行くぞ」
「・・・・・」
「ぐへっ!?」
無言で、ドスッと脇腹に手刀を喰らった。
握るなって言ったのお前なのに・・・。
「はーい。いらっしゃーい。・・・おお!ホーキンス君だ!写真撮っても良い?」
「はあ・・・写真ですか?」
どこに行っても写真をせがまれる。
そんなに需要があるのか?
「茶道部は抹茶の体験教室をやってるのよ。ささ、こっちの部屋へどうぞ」
「おお、畳か。感じ出てるなぁ」
流石IS学園。資金は潤沢にあると言う訳か。
「じゃあ、こちらに正座でとうぞ」
む?正座か・・・出来るか?
言われた通りに、俺とラウラは靴を脱いで畳に正座する。
「しかし、執事とメイドが畳で抹茶ってのも、変な感じだな」
「まったく、一々格好を気にしていると、女々しい奴と思われるぞ?」
「なぁに言ってんだよ。自分こそ織斑先生に爆笑されてた時に居心地悪そうにしてたクセに」
「な!?き、教官は特別だ!」
一度、様子見でやって来た織斑先生はラウラのメイド姿を見て盛大に吹き出した後、しばらくニヤニヤしながら彼女を眺めていたのだ。
その時のラウラの狼狽っぷりは凄かった。
ステルス戦闘機が飛び交う戦場に、プロペラ戦闘機で送り込まれた新兵のような慌てぶりだった。と言う感じだ。
下手な事を言うと、制裁を受けそうなので口は閉じておこう。
「うちはあんまり作法にうるさくないから、気軽に飲んでね」
「はい、ありがとうございます」
着物姿の部長さんがにっこりと微笑みながら、俺達に茶菓子を用意する。
一口頬張ると口の中に白あんの味が広がる。
「ん、美味しいな。これ」
「うう・・・」
ラウラは茶菓子に口をつけずに、にらめっこをしている。
「どうした?」
「こ、これは、どうやって食べれば良いのだ・・・」
ラウラの茶菓子は白あんで作ったウサギで、なかなか愛嬌のある顔立ちだ。
じぃっと彼女を見つめているかのようなそのウサギは、『僕をお食べよ!』と言っているのか、はたまた『お、お情けを・・・』と言っているのか。
ラウラの反応を見る限りでは、前者の方だろう。
どうしたドイツ軍特殊部隊隊長。
「ラウラ」
「な、なんだ!?」
「食べないと抹茶飲めないぞ?」
「う、ううっ・・・!」
俺に促されたラウラが意を決してウサギを一口で頬張る。
・・・成る程、恐らく中途半端に歯形が付いた無惨なウサギを見たくなかったのだろう。
「んぐ。うむ、やはり美味い」
先程までの葛藤はどこへやら。満足そうな顔で茶菓子を味わっていた。
「どうぞ」
俺とラウラの前に抹茶が出される。
「お点前いただきます」
一礼してから茶碗を受け取り、二度回してから口をつける。
抹茶独特の苦味が口に広がり、先程の茶菓子とマッチする。
心地よい喉ごしで、俺もラウラもほぅ・・・と一息ついた。
「結構なお点前で」
お決まりの台詞で締める。
先程軽くレクチャーを受けたので、難なくクリア出来た。
本来ならこの後にまだ色々と作法があるらしいが、今回はあくまで『抹茶をいただく』と言うことに重点を置いた茶道教室のようだった。
「よかったらまた来てねー」
部長さんに見送られ、俺とラウラは茶室を後にした。
「なかなかおもしろかったな」
「うむ。そうだな。やはり日本文化は興味深い」
「そう言えば、お前って日本文化に興味津々だったもんな。前も浴衣を着てみたいとか言ってたし。なかなか似合ってたぞ?」
あの夏祭りの時の事を思い出す。
「そうか。似合っていたか・・・。お、お前は私の浴衣姿をまた見たいか?」
彼女の浴衣姿を想像する。
あれは破壊力が凄まじかったが、実に良かった。
「ふむ・・・そうだな。また見てみたいな」
「そ、そうか!」
彼女が顔を眩しい程輝かせる。
それから自分の反応に気がついたのか、はっとして俺に背中を向ける。
「ま、まぁ、機会があればな」
「あぁ、楽しみにしてるよ。っとそろそろ時間だな」
「うむ。早めにクラスに戻るか」
こうして、俺達の休憩時間が終わった。