「二人共、ちゃんと着たー?」
「「・・・・・」」
「開けるわよ」
「開けてから言わないで下さいよ!」
「着替え中だったらどうするんですか・・・」
「なんだ、ちゃんと着てるじゃない。おねーさんがっかり」
「・・・何でですか」
「まったく・・・」
第四アリーナの更衣室。普段はISスーツの着替え場所として使われる所に、俺達はいた。
一夏の服装は・・・まぁ、シンデレラの演目通り王子様だ。
「はい、王冠」
「はぁ・・・」
一方、俺の格好は・・・
「何故、俺は兵士の格好を?」
しかも、中世の騎士じゃなくて凄く現代風の装備だ。
見た目は頭から順に、茶色のミリタリーキャップ。サングラスにヘッドセット。胴体は丈夫なデザート迷彩の服の上から、これまた茶色のボディーアーマー(ナイフ付き)。背中には小さなリュックが取り付けられている。そして、デザート迷彩のコンバットパンツにコンバットブーツ(ここにもナイフ付き)。
ご丁寧にニーパッドまで着いている。
要するにゴテゴテの戦闘服で身を固めている。
・・・なんかどこぞの工兵の格好みたいだな。
「それは勿論。王子様を守る兵士もそれなりの装備じゃないとね。あ、はい、これ」
ガショッ
・・・なんかアサルトライフルを手渡されたんだけど。
「どんだけ物騒なシンデレラですか・・・」
ほら見て?一夏が凄い顔でこっち見てるよ?
「安心して。本物じゃないから」
「本物だったら本気でヤバイですよ!」
「むぅ・・・さっきから二人共嬉しそうじゃないわね。シンデレラ役の方が良かった?」
「イヤですよ!」
「俺にそんな趣味は有りません!」
まったく、困った人だ。
「さて、そろそろ始まるわよ」
さっき一度覗いたんだが、アリーナいっぱいに作られたセットはかなり豪勢だった。観客は勿論満席で、時節聞こえる歓声は更衣室まで届いている。
「あのー、台本とか一度も見てないんですけど」
「それに、今から台詞なんて見ても間に合いませんよ?」
「大丈夫。基本的にこっちからアナウンスするし、その通りに進めてくれれば良いわ。あ、台詞はアドリブでお願いね」
・・・いやぁな予感がする。本当に大丈夫か?
俺達は言い知れぬ不安を抱きながら、舞台袖に移動する。
「さあ、幕開けよ!」
ブザーが鳴り、照明が落ちる。
くそぅっ!こうなったら全力でやってやる!
ジャコンッ!
ライフルのコッキングレバーを引く。
幕が上がって、アリーナのライトが点灯した。
『昔々あるところに、シンデレラと言う少女がいました』
ふぅ・・・出だしは普通のようだ。それにしても、シンデレラ役は誰なんだ?
そんな事を考えながら、俺は一夏と共に舞踏会エリアへ向かう。
・・・明らかにこの格好は場違いだろ。
美形王子を警護する現代風な格好の兵士なんてシュール過ぎる。
『否、それはもはや名前ではない。幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰塵を纏う事さえいとわぬ地上最強の兵士達。彼女らを呼ぶにふさわしい称号・・・それが
・・・は?おいおい、シンデレラってそんな最強のソルジャーだったっけか?しかも彼女ら?
『今宵もまた、血に飢えたシンデレラ達の夜が始まる。王子の冠に隠された隣国の軍事機密と彼の護衛が持つ最新兵器の始動キーを狙い、舞踏会という名の死地に少女達が舞い踊る!』
「は、はぁっ!?」
「うっそだろ、おい!?て言うかこの鍵ただの飾りじゃ無いのかよ!?」
俺達はどうやら、腹を空かせたライオン。いや、凶暴な
「もらったあぁぁぁ!」
いきなりの叫び声と共に現れたのは、美しいシンデレラ・ドレスを身に纏った鈴だ。
「のわっ!?」
「よこしなさいよ!」
鈴が手裏剣の様な物を一夏に投げる。
「し、死んだらどうすんだよ!?」
「死なない程度に殺すわよ!」
「意味が分からん!」
うん、俺も意味が分からん。
『あ、因みに王子が危険に晒されると、護衛は自責の念によって体に電流が走ります。ああ、なんという忠誠心!!』
「え?アバババババババ!?!?」
バリバリという音と共に体を電流が駆け巡る。
あのシンデレラから自分の身を守りつつ、護衛対象も守る。何の鬼畜ゲームだよ・・・!?
「ウィル!」
一夏が心配して駆け寄って来る。
が、今度は一夏の頭付近を一筋の赤い光が狙う。
これは・・・レーザーサイト!?
「一夏、伏せろ!」
「え?」
次の瞬間、彼の真横が吹っ飛んだ。
音が無かったからサプレッサーを着けているのか?
スナイパーと言ったらセシリアしか思い付かない。
「スナイパーだ!そこに隠れろ!」
「お、おう!」
「クソッ!」
そのままウィリアムはライフルをスナイパーのいるであろう所に向けてバースト射撃をする。
「チッ!逃げられたか・・・大丈夫か?」
「ああ、なんとかな。お前は?」
「最高の気分だよ畜生。あの生徒会長め、アイツらに何を吹き込んだんだ?」
「とにかく、どうにかしないと俺達ヤバいよな?」
「ああ、しばらく何処かに隠れ━━」
バチッ!
足下に着弾した。
「クソッ、しつこい!」
そのまま俺達は舞台の表に追い出されると、拍手と声援が掛かる。
「は、はは・・・どうも」
一夏が律儀に挨拶している間も、俺は銃を構えたまま周囲を警戒する。
「っ!?」
レーザーサイトが一夏を狙っている。
俺は直ぐ様、彼の頭を下に押し込み、伏せさせる。
そのまま、牽制射をしながら走ってステージを移動した。
「逃がさん!」
今度は刀を装備した箒が現れた。
「くっ!エネミーコンタクト!一夏、逃げろ!」
銃を撃ちながら後退する。
「一夏!」
防弾シールドを持ったシャルロットが現れ、一夏の前に出る。
シャルロットは味方なのか?なら助かる!
しかし、ここで最大の脅威と遭遇する。
タクティカルナイフを両手に逆手持ちしたラウラが飛び掛かって来たのだ。
「うおぉっ!?」
慌てて飛び退く。
クソッ!戦うお姫様(近接格闘仕様)ってか?冗談じゃない!
ドレス似合ってるぞ、コンチクショウ!!
綺麗なドレスを着たお姫様に襲われるなんて、ツイてるのかツイてないのか・・・。
「大丈夫か!?」
「一夏、止まるな!走り続けろ!・・・また後で落ち合おう!」
シャルロットが味方なら安心だろう。
「一夏。ウィルもそう言ってるし、早く」
後背にサムズアップしながら彼を見送る。
「・・・話は済んだか?」
「ああ、今終わったよ」
「なら、お前の持つキーを渡してもらおうか」
「・・・え?ああ、それくらいなら別に━━」
これを渡したら俺は解放されるのか?それなら安いもんだ。身構えて損したぜ。
『王子様にとって国とは全て。その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます』
「ぎゃあああああっ!?」
遠くで一夏の悲鳴が聞こえる。
あぁ、これ渡したら俺も同じ事になるパターンだわ。
「━━・・・やっぱり勘弁してくれ」
「そうか、ならば仕方あるまいっ!」
ラウラが肉薄してきた。
「うおっ!?あ、あぶねぇな!」
・・・この距離ではライフルは逆に邪魔になるか。
ライフルのマガジンを外し、薬室内の弾も排莢する。
そして最後にライフル本体を捨て、ナイフに切り替える。
「全力で行かせてもらう!」
俺に電流を浴びて喜ぶ性癖は無い!
「面白い。受けて立とう」
片や自身にこれ以上ペナルティーを課せられない為。片や意中の男との同室同居権を得る為。
「「っ!!」」
観客席から物凄い歓声が響く中、現役軍人同士のナイフファイトが始まった。