ナイフファイトが始まってから、数分。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・これは・・・なかなか・・・キツイな・・・」
何でドレス姿であんなに機敏なんだよ・・・。
ラウラは自身の小柄さを活かして、ずはしっこく攻撃を仕掛けてくる。おまけに彼女は今眼帯を外しているのだ。
どんだけ本気なんだよ・・・。
更には楯無がステージのギミックを操作して妨害までしてくる。
「よく耐えた方だ。だが、これで決めさせてもらう!」
「っ!?しまった・・・!」
ベルト通しにナイフが引っ掛かり、そのまま腰に付いていた鍵が外れて飛んで行ってしまう。
慌てて取りに行こうとしたその時
「何だ?地響きが・・・」
『さあ!ただいまからフリーエントリー組の参加です!皆さん頑張って下さい!』
「・・・ジーザス・・・」
地響きの正体はざっと見ても数十人以上のシンデレラだった。
それが今も増え続けており、向こうでは一夏が追い詰められている。
「そいつを・・・よこせぇぇぇ!!」
血走った目で催促してくる。
「ヒャッハー!鍵を奪えぇぇぇ!!」
何時からここは世紀末になった!?
「その鍵で・・・私は・・・私を!!」
どこの人狼部隊隊長だよ!!
て言うかその鍵で何をするつもりですかねぇ!?
「これが観客参加型演劇か・・・!」
やむを得ん!もし持ってない事がばれたら何をされるか分かったものじゃない。脱出だ!
俺は腰からスモークグレネードを手に取り、それを足元に落とす。
「クッ!スモークか!ウィル、大人しく降参しろ!」
よし、今だっ!
目眩ましをした後、俺はセットの隙間からまんまと脱出に成功した。
▽
なんとか舞台から脱出した俺は宛も無く歩いていた。
「ハァ、しばらくここら辺に隠れとくか・・・」
そう言って近くの物陰に隠れようとした時、更衣室の方から音が聞こえた。
音のする方向に近付くにつれ、それが戦闘の真っ最中である事に気付く。
一夏と、もう一人聞いた事の無い人間の声が・・・。
「これはヤバそうだな・・・!」
俺はISを展開して更衣室の壁に大孔を開け、強引に突入した。
「おい一夏!大丈夫か!?」
「ウィルか?何でここに・・・?」
「説明は後だ。それよりこの状況は?」
「ああ、そいつがいきなり襲って来たんだ」
彼の指差す先を見る。
「ああ?何だてめぇ。いや、もう一匹いた男のIS乗りかぁ」
蜘蛛の様なISに乗った女が醜悪な笑みを浮かべる。
また趣味の悪いISを・・・。あれか?悪役は皆悪趣味なのか?しかもこいつさっきのIS装備のセールスウーマン(偽)じゃないか。
「そう言うお前は誰なんだ?」
「ああん?知らねえのかよ、傭兵会社『亡国機業』が一人、“サベージ”様って言えば分かるかぁ!?」
「サベージ・・・『野蛮』ねぇ・・・確かにお前にはお似合いの名前だな?」
鼻で嗤いながら、そう返す。
「・・・んだとてめぇ!?」
どうやらお怒りの様だ。
「おいおい、自分で名乗った名前だろ?それに怒ると小皺が増えるぜ?おぉっと失礼。これ以上増える小皺なんて無いか?」
「っ!!死にやがれぇ!!」
八本の脚から実弾射撃を行ってくる。
操縦は上手い様だが、頭に血が昇って狙いがぶれている。
昔、一度だけ無人都市の狭いジャンクションでVTOL機能をフル活用して戦った事があるが、その時に酷似していた。それに、生徒会長の特訓の恩恵も有るのだろう。故に回避する事など造作も無い。
狭い場所である事を逆手に取って、アメンボの様にスイスイとロッカー等の遮蔽物間を移動しながら攻撃する。
「お前らを餌付けしているクソ共の正体を知りたいもんだ」
「チッ!ちょこまかと五月蝿いハエがぁ!」
手にマシンガンを構築して撃ってきた。
「ハエと言われるより、鮫の方がしっくり来るね!ほらどうした?
無線で煽り散らす。
「クソがっ!魚なら大人しく水の中泳いでりゃ良いんだよぉ!」
敵がエネルギー状の網を放って来た。
「おっと!」
近くのロッカーを蹴り飛ばし、囮にする。
今のは少し危なかったな・・・。あんなのを何発も飛ばされたら流石にキツイ。
「チッ!ウゼぇガキだ!絶対に殺してやる!その後はてめぇもだ!」
俺と一夏に殺害宣言をしてくる。
「あら、それは止めて欲しいわね。私のお気に入りに手を出されると困るの」
場にそぐわな楽しげな声。見ると、ドアの前に生徒会長が立っていた。その手には何時もの扇子が握られている。
「てめぇ、いつの間に入った?・・・まあ良い、見られたからにはお前から殺す!」
「楯無さん!!」
「会長!?そこは危険です、退避を!!」
身を翻し、彼女に襲い掛かるサベージ。その八本の装甲脚が襲い掛かる。
「私はこの学園の生徒達、その長。故に、その様に振る舞うのよ」
「はぁ?何言ってやがんだ、てめぇ!」
刹那、サベージの装甲脚が生徒会長の全身を貫いた。
「楯無さん!!楯無さんを・・・よくも、てめぇ!」
「貴様っ・・・!」
「・・・・・」
しかし、楯無は余裕の表情を崩さない。
「あ?何だお前・・・?手応えが無いだと・・・?」
「うふふ」
にこりと楯無が微笑む。そして、次の瞬間にはその姿が崩壊した。パシャっと音を立てて拡散する。
「!?こいつは・・・水か?」
「ご名答。水で作った偽物よ」
余裕たっぷりの声がサベージの後ろから聞こえた。
ギクリとして振り向くサベージを、楯無がランスでなぎ払う。
「くっ・・・!」
「あら、浅かったわ。そのIS、なかなかの機動性を持ってるのね」
「何なんだよ、てめぇはよぉ!」
「更識楯無。そして、IS『ミステリアス・レイディ』よ。覚えておいてね」
何なんだ?あの機体。今まで見たことも聞いた事も無いぞ?
まるで水を刃物や装甲にしている様だ。
「けっ!今ここで殺してやらぁ!」
「うふふ。三流悪役の名言みたい。これなら私が勝つのは必然ね」
そう言って八本脚+二本の腕を持つ敵IS『アラクネ』に対して一本のランスでそれらを全て凌ぎきる。
「くそっ!ガキが、調子づくなぁ!」
今度は射撃メインの攻撃を行ってくるも、全て水のヴェールに受け止められる。
「ただの水じゃねぇなぁっ!?」
「あら、鋭い。この水はISエネルギーを伝達するナノマシンによって制御しているのよ。凄いでしょ?」
喋りながらも、その手は止まらず、相手の攻撃を完全に封殺していた。
「何なんだよ、てめぇは!?」
「二回も自己紹介しないわよ、面倒だから」
「うるせぇ!」
完全に頭に血が昇っているサベージの反応をどこ吹く風で、相手の攻撃を潰していった。
「ところで知ってる?この学園の生徒会長というのは、最強の称号だというのを」
「知るかぁ!」
そう言いながら、サベージの猛攻が始まる。
「これはさすがに重いわねぇ」
「一夏!援護するぞ!」
「おう!」
「二人共。
「・・・!分かりました」
彼女の意図を察して待機する。
「ウィル、どういう意味だ!?」
「落ち着け。彼女なら大丈夫だ。それより━━」
彼女の作戦の内容を一夏に説明する。
「━━と言う作戦なんだ」
「成る程!分かった。手筈はそれで良いんだな?」
「ああ」
ズドォンッ!
サベージの周りが爆発した。
「すげぇ・・・まるで燃料気化爆弾みたいだな・・・」
彼女が何をしたかと言うと、ISから伝達されたエネルギーを霧を構成するナノマシンが一斉に熱に転換し、対象を爆破したのだ。
「ぐ・・・がはっ・・・。まだ・・・まだだ!」
尚も立ち上がろうとするサベージ。
「いいえ、もう終わりよ。━━ね、二人共?」
サベージは嫌な予感がして、後ろを振り向く。そこで見たのは、頭上で30mm機銃をこちらに向けているウィリアム。そして、雪片弐型を最大出力で構えた一夏だった。
「発射!」
バラララララララッ!!
長大な砲身から火花と気化した冷却水を撒き散らしながら30mmの砲弾が発射され、アラクネ本体や装甲脚、その回りの床、壁に無数の大穴を開けた。
トリガーを戻す。
見ると、相手のISはもう鉄屑も同然だった。
この状態ではもうまともには動けまい。
「よし!やれ、一夏!」
「喰らえぇぇぇ!!」
「ぐぅぅぅっ!」
八本の装甲脚でそれを受け止めるが、力押しでそれごと切り裂かれた。
「「おらぁ!!」」
「ぐえぇっ!?」
スラスター・フルブーストとアフターバーナー全開で突進した二人のキックが決まり、サベージはそのISと共に壁に叩き付けられた。
「!二人共、その女を拘束して!」
「は、はい!」
「了解!」
「く、くそ・・・ここまでか・・・!」
サベージのISが本体から離れる。
するとそれは光を放ち始める。
「何!?」
「クソッ!マズイぞ・・・こりゃマズイ!」
光を放ち始めたそれは、数秒後に大爆発を起こした。
俺は大急ぎで距離をとる。一夏は偶然、生徒会長が近くにいたおかげでなんとか水のヴェールで守られた様だ。
「二人共、大丈夫?」
「ふぅ・・・生きてます」
「え、ええ、まあ・・・。あ!あの女は!?」
「逃げられたわ。ISのコアも、おそらく自爆直前に取り出しているわね。装備と装甲だけを爆発させたみたい。まったく、無茶をするわね。失敗すれば自分だって危なかったでしょうに。それにしても派手にやったわねぇ・・・」
会長が更衣室を見渡す。
そこには無数の弾痕と俺が飛び回った時のノズルからの排熱等で焼け焦げた床。そして、使い物にならなくなったロッカーが見える。
確かに、これは酷いな。
「そ、そうですね。あの・・・ところで、そろそろ・・・」
「ん?」
「は、離してもらえると嬉しいんですが・・・」
一夏を庇った会長は、爆発を背中で受ける様に覆い被さっていた。
つまり、彼は今、胸に顔を埋めている様な態勢なのだ。
一夏め・・・羨ま━━ゲフンゲフン!けしからん!!
「やん。一夏君のえっち」
「い、いや、そう言う訳では・・・」
「あー、言い訳なんて男らしくないなぁ。おねーさんのおっぱい、どうだった?」
ハァ、また始まったよ・・・。
「・・・・・」
「だんまりはひどいなぁ」
「え、いや、その・・・や、柔らかかったです・・・けど・・・」
「一夏君」
「は、はい」
「えっち」
彼は諦めた様にがっくりと項垂れる。
「ところで、これなーんだ?」
そう言って彼女は指で何かをくるくると回して弄ぶ。
「・・・?王冠ですけど」
「うん、そう。これをゲットした人が織斑君と同じ部屋で暮らせるっていうアイテム。実はホーキンス君の鍵も同じ条件だったんだけどね」
「はぁ!?・・・ま、まさか、それであんなに女子が必死に!?」
「それが理由だったのか・・・」
「うん」
「何を考えているんですか・・・。大体、俺と暮らして楽しいわけ無いでしょう」
「そうですよ。あんな鍵一つで死にかけたんですよ?」
「まあまあ、もう終わったんだし。ま、なんにしても、ゲットしたのは、わ・た・し」
一夏の顔がひきつる。
「当分の間、よろしくね。一夏君♪」
・・・あ、一夏が全てを諦めた様な顔をして背中から倒れた。
まあ、頑張れよ!
俺の鍵はどっかに飛んでったけど、あの乱戦じゃあ見つからないだろう。
▽
「クソがッ!あのガキ共だけは絶対に私の手でぶっ殺してやる・・・!」
辛くも脱出に成功したサベージは、今日交戦した学生の情報資料を見ながら怒り心頭といった感じでテーブルに拳を叩き付けた。
「特に━━」
ドスッと資料の顔写真にナイフを突き刺す。
「あの鮫野郎だけは絶対にな・・・!!」
今更ですが、ウィリアムの30mm機銃は『Gsh-30-1』をモデルにしています。