アメリカ合衆国 フォート・アルバート空軍基地
この広大な軍事基地に平時では有り得ない耳障りな警報と銃声が響き渡っていた。
「侵入者だ!至急6-Dエリアに増援を求む!繰り返す、侵入者は6-Dエリアだ!至急増援を送ってくれ!」
「畜生!敵の増援確認!あれは・・・ISだ!」
「迎撃機を上げさせろ!早くっ!」
「何なんだこいつら!?」
その時、一機のヘリが侵入者の前に現れる。
「地上部隊へ、こちらシューター1!頭を下げろ!吹っ飛ばす!」
攻撃ヘリがチェーンガンを侵入者に容赦なく発砲する。
「シューター1より地上部隊。どうだ、見えるか?」
「いや、煙でよく見えない。ちょっと待て、確認する・・・な!?シューター!避けろぉ!!」
チェーンガンをこれでもかと叩き込まれた侵入者は、動じず、上空のヘリにビームライフルを向けて発砲した。
「クソッ!メーデーメーデーメーデー!高度を維持できない!制御不能!シューター1ダウン!シューター1ダウン!」
空飛ぶ戦車は、その尾部を振り回しながら高度を落として行き、地面に破片を撒き散らした。
「・・・攻撃ヘリを撃墜」
そのまま侵入者は、自身に群がる他の兵士や装甲車両をことごとく無力化していく。
「シット!!やりやがったな!も、目的は何だ!?アメリカ軍にこれだけの事をしてただで済むと思うなよ!!」
その兵士は恐怖に煽られながらも、相手に銃を向け精一杯に吠えた。
「この基地に保管された兵器━━“トリニティ”を頂く」
「へ?」
特に返事を期待したわけではない怒号だったが、相手は意外な事にあっさりと喋った。
「と、トリニティを奪うだと!?それにその機体は━━ガハッ!?」
その兵士も無力化されてしまった。
基地はもうほとんど壊滅に近い状態だ。上空では迎撃に上がった筈の戦闘機が次々に撃墜されている。
「クソッ!やられた!こちらホーク6 ベイルアウトする!」
「ホーク6のパラシュート開傘を確認!」
「この数の差でここまで押されるとは・・・!畜生・・・!」
この日、フォート・アルバート空軍基地から、最悪の兵器が強奪された。
▽
「えっ!?一夏の誕生日って今月なの!?」
「お、おう」
寮での夕食、何時もの面々で食事をしていると、シャルロットが大声を上げた。
「い、いつ!?」
「9月27日だよ。ちょっ、ちょっと落ち着けって」
「う、うん」
そう言って椅子にかけ直すシャルロット。
「に、日曜日だよね!?」
今度は身を乗り出して聞く。
「に、日曜日だな」
「そっか・・・うん、そうだよね。うん!」
「へぇ、お前の誕生日は今月だったのか。実は俺の誕生日も今月なんだけどな?日にちは9月17日だが・・・」
正確に言うと、俺が拾われた日だけどな。
「へぇ、そうだったんだ。なんか面白い偶然ね」
鈴が頷きながらそう言う。
「お前はどうしてそういう事を黙っているのだ」
ラウラが俺の顔を見てムスッとした口調で告げる。
「え?いや、特に大したことも無かったんでな」
「お前と言う奴は・・・」
何でそこで呆れるんだよ・・・。
因みに俺は今、海鮮丼の大盛りを食べている。皆の料理も美味そうだが、やはり海鮮は絶品だ。
「なら、9月27日にお二人の誕生パーティーを開くのはどうでしょう?」
「まあ、俺は構わないがウィルはどうする?中学の時の友達が祝ってくれるから俺の家に集まる予定なんだが、来るか?」
「そうだな、俺もご一緒させてもらおうかな」
「よし、それなら時間は4時くらいだな。ほら、当日ってあれがあるだろ?」
「ああ、そう言えばあったな。何だ?“キャノンボール・ファスト”だったっけか?」
そう言うと全員が「そう言えば」という顔をする。
IS高速バトルレース『キャノンボール・ファスト』。それは本来は国際大会として行われるらしいが、IS学園であるここは違う。
市の特別イベントとして催されるそれに生徒達は参加する事になり、専用機部門と訓練機部門に別れている。IS実習となるこのイベントでは、市のISアリーナを使用する。臨海地区に作られたそれはとてつもなくでかく、二万人を収容出来るらしい。
「ん?そう言えば明日からキャノンボール・ファストのための高機動調整を始めるんだよな?あれって具体的には何をするんだ?」
俺は疑問を口にする。
「ふむ、基本的には高機動パッケージのインストールだが、お前のバスター・イーグルには無いだろう」
ラウラがプチトマトを頬張りながら告げる。
「ああ、俺と一夏には無いな」
「その場合は駆動エネルギーの分配調整とか、各スラスターの出力調整とかかなぁ」
白身魚のフライをかじったシャルロットが、言葉を続けた。
「あ、でもウィルは元から高速戦闘がメインだったよな?」
「まぁな。あのデカイエンジンは飾りじゃないぜ?」
「それなら、今度超音速機動について教えてくれよ」
「おう、良いぜ。鷲の名前が伊達じゃない事を教えてやるよ」
サムズアップしながら、ニヤリと笑う。
「ふん、中々良い面構えをするじゃないか。
ニヤリ、俺を眺めてラウラが口端を吊り上げる。
「お褒めにあずかり恐悦至極の極みであります、少佐殿」
ビシリと敬礼をしながらジョークで返す。
すると、さっきまで不機嫌な顔をしていたラウラは、楽しそうに━━けれど、冷徹さを感じさせる瞳で微笑んだ。
ドイツの冷水、ラウラ・ボーデヴィッヒ。涼しげな瞳はツララの様に鋭く、だが綺麗に澄んでいる。
思わず、見惚れてしまう程だ。
「そうだな、久しぶりに全力演習を行うか。明日の放課後、
「了解だ。言っておくが、舐めると痛い目に遭うぞ?」
「ふふん、それはどうかな?私も明日は新式装備の性能を披露してやろう」
そう言って不敵に笑いながら、フォークを回す。その先端にはマカロニが空洞を通る形で刺さっていた。
そこで一夏が思い付いた様に口にする。
「身のある訓練を期待しよう。マカ━━」
「「マカロニだけに」」
「・・・とか言うつもりでしょ」
「・・・なんて言わないよね?」
鈴とシャルロットが先読みして、その寒いギャグを封じる。
「はっはっはっ、そんな馬鹿な」
「一夏、お前・・・」
箒が白い目で彼を見つめる。
「まー、どっかの馬鹿はさておき。アンタ生徒会の貸し出しまだなわけ?」
「ん?なんか今は抽選と調整してるって聞いたぞ」
「ああ、俺達はその調整が終わった後に派遣されるそうだ」
「ふーん・・・」
鈴が何でも無さそうに麻婆豆腐を口に運ぶ。
「ああ、そう言えばみんな部活動に入ったんだって?」
ん?そう言えばつい最近そんな事を耳にしたな。
そう思い、一夏達のやり取りを横目に俺もラウラに訊いてみる。
「ラウラ、お前はどこの部活に入ったんだ?」
「私は茶道部だ」
丁度パスタを食べ終わったところらしい。
「茶道部か。そう言えば、学園祭の時にも言ってたもんなぁ・・・顧問の先生は?」
「教官・・・いや、織斑先生だな」
ああ、あの人か・・・正座を崩したらしばかれそうだな・・・。
「ラウラは長時間の正座とか平気なのか?」
「無論だ。あの程度の痺れなど、拷問に比べれば容易い」
「おいおい、拷問と比べるなよ」
そんな話をしていると
「そう言えば皆は今年の年末年始はどうするんだ?やっぱり帰国するのか?」
一夏がまだ先の話を聞いてきた。
「僕は残るよ」
そう言ったのはシャルロット。
「で、でしたらわたくしも!」
「まあ、帰国しても面白い事無いしね」
セシリア、鈴と続く。
「ウィルはどうするんだ?」
「うーん・・・特に用事は無いから残ると思うぞ?ラウラはどうする?」
「ふむ、お前が残るなら私も日本にいるとしよう」
「そっか。箒は神社の手伝いするのか?夏休みもしてたよな。また終わったら一緒に━━」
「ば、馬鹿者!」
べしっ!と、箒が一夏を叩く。
「いてえ!な、なんだよ!?」
「う、うるさい!軽々しく言うな!」
夏休みにこいつらで何かあったのか?
そんな事を思っていると
「「「また?」」」
セシリア、鈴、シャルロットの三人が聞き返した。
「一夏ぁ!夏休みに何してたか言いなさいよ!」
「一夏さん!箒さんとそのような━━見損ないましたわ!」
「い、一夏?またってどういう事・・・?」
ガタタっと音を立てて三人が立ち上がる。
「わあっ!待て待て!別にやましい事は・・・なあ、箒!なあ!?」
一夏、それ以上は自分の首を締めるだけだぞ?
「何故そこまで否定する・・・」
「え?」
バシッ!と一夏の頭がはたかれた。
「ふん!」
そのまま箒は去って行ってしまった。
「じ、じゃあ、俺も食べ終わったし、部屋に帰━━ぶべっ!」
一夏が立とうとした瞬間、鈴が掴んで無理矢理座らせた。
そして、三人が一斉に一夏に詰め寄る。
「一夏!夏休みに何があったのよ!」
「説明を要求しますわ!」
「ずるいよ、一夏。贔屓だよ」
「ウィル、なんとかしてくれぇ!」
一夏が俺に助けを求めてくる。
だが、俺の本能はこう言っている。
下手な事をすると恐ろしい事になる、と。
「よし、ご馳走様っと!それじゃ、俺は部屋に戻るよ」
そう言って席を立つ。
一夏、許せ。
「待て、私も行く」
そう良いながらラウラが俺の後ろを付いてくる。
なんかアヒルの子供みたいだな。
「ま、待て!待ってくれ!待━━ギャアアアア!!」
一夏の悲鳴をバックに、そう思いながら部屋に向かった。
部屋に向かう途中、電話が鳴る。
架電主は・・・叔父から?
「ラウラ悪い。少し電話に出てくるから先に帰っていてくれ」
そう言い残して、足早にその場を後にした。
『ウィリアム』
「おじさん?何かあったのか?」
『ああ。先日、アメリカのフォート・アルバート空軍基地が襲撃を受けた』
「は!?」
『襲撃者はおそらく亡国機業だろう。IS、そしてターミネーターと遭遇したと言っていた』
「ターミネーター・・・?」
『ISに対抗して男でも乗れる機体を作ろうと試作されていたやつだ。以前に研究所から奪われた機体と見ていいだろう』
「そんなものが・・・。目的は?あの基地に何かがあったのか?」
『あそこにはな、アメリカ軍が試作した超大型爆弾兵器。通称“トリニティ”が三基保管されていたんだ』
「・・・それの威力は?」
『核程ではないが、強力だ』
「・・・・・」
『あれには安全装置としてかなり厳重なセキュリティが掛けられているから、そう直ぐには使えないようになってはいるが、所詮気休め程度だ・・・』
「分かった」
『何か分かればまた連絡する』
「ああ。それじゃあ」
そう言って電話を切る。
「ふぅ・・・」
トリニティの強奪。それに、敵の手に堕ちたターミネーターという機体・・・。奴等の目的は何だ?
そう考えながら、ラウラの待つ自室に向かった。
自室のドアを開ける。
「ただいま。いやぁ悪いな先に行かせ・・・て・・・」
「む?か、帰ってきたか」
・・・はい?
そこには何故か水着の上からエプロンを着た姿のラウラが立っていた。
「ご、ご飯にするか?風呂にするか?それとも・・・わ、私か!?///」
「いや、飯はさっき食ったんだが・・・。って違う!お前はなんて格好をっ!・・・もしかして熱でもあるのか?ちょっとデコ出してみろっ」
ふむ、熱は無いな・・・。
「・・・何でこんな格好を?」
「こ、これが日本の歴史ある文化だと教えてもらったからだ!」
「・・・・・」
軽く腰を曲げて目線を合わし、ラウラの肩に手を置く。
「ラウラ」
「な、何だ!?」
「お前にこの間違った知識を吹き込んだバカはどこの誰だ?」
「さ、更識楯無に教えてもらったのだ。これならば『男を一撃で撃墜できる』と言われて・・・」
「」
会長あんたかっ!絶対にラウラの純粋さで遊んでるだろ!?て言うか撃墜って何の事だよ!
クルリと踵を返す。
「ウィル?どこへ?」
「ちょっと、O・HA・NA・SHIしてくる」
「え?」
そう言って部屋を出て行ってしまった。後ろにとてつもなく禍々しいオーラを携えて。
▽
「ハァ、勘弁して下さいよ・・・」
一夏は自室にて、また楯無の
コンコン
その時、自室のドアがノックされる。
「はいはい、今━━」
バゴォン!!
彼が扉に向かおうとしたその瞬間、とてつもない音と共にドアが蹴破られた。
そして、何者かが入ってくる。
「生徒会長、てめぇゴルァ!!」
ウィリアムだ。
「な、何だ!?ウィル、お前何してんだよ!?」
「会長!あんたラウラになんて事を吹き込んだ!」
「あら、日本の文化を教えてあげただけよ?」
「んなアホな文化あるかっ!」
「あらら、お気に召さなかったかしら?」
「そう言う問題じゃないです!!」
いや、あれはやばかったよ!一瞬クラっときたよ!・・・でもね?風紀乱れるじゃん!?あんた生徒会長だろ!
ベッドでニヤニヤしている彼女にもの凄い形相で詰め寄る。
「良いですか?彼女にあんな事を吹き込まないで下さい!アイツがアホの子みたいな扱いを受けたらどうするんですか!大体ですねぇ━━!?」
「んふふ~♪」
さっきまで気付かなかったが、今彼女は下着の上からYシャツ一枚だけ羽織っている上に、第三ボタン以外全て外した実に際どい格好で、それを態と強調してきたのだ。
一瞬思考が停止しかけた。不覚!
「あは。どうしたのかな~?ん~?」
ニヤニヤしながら、俺を弄んでくる。
「ええい、やかましい!」
「ウィリアム君のえっち~」
「
「うぃ、ウィル・・・?」
「あ゛あ゛ん゛?何だよ一夏。俺は今取り込み中だ!」
「い、いやぁ・・・でも、後ろに・・・」
「はあ?後ろ?後ろに何・・・が・・・」
後ろを振り返る。
そこにはラウラが立っていた。━━般若の様な顔をして。
「ほう・・・私をアホ呼ばわりした挙げ句、その女と逢い引きか?見せ付けてくれるなぁ」
一応あの謎の格好からは着替えている様だ。
「ら、ラウラ?何を言ってるんだ?お前をアホなんて言ってないぞ?大体あれは会長の悪ふざけでだな、俺はその抗議に・・・」
ゆらりゆらりとラウラが歩み寄ってくる。
・・・な、何だ?この気迫!と言うか俺が何をしたって言うんだ!?
彼女の後ろにはマシンガンを両手持ちした黒いウサギの幻影が見える。
「ラウラ、何か勘違いしている様だが俺は何もやましい事はしていないぞ?さっきも言ったが━━」
「続きは部屋でゆっくりと聞こうか。と言うわけでこいつを返してもらうぞ?」
そう言ってウィリアムの腕をガシッと掴んで引きずって行く。
「ラウラ、話を聞いてくれ!お前は絶対に勘違いをしている!って力つよっ!?うわぁぁぁ!!」
そのまま彼は部屋から引きずられて行った。
彼の部屋から声が聞こえてくる。
『ちょっ!ラウラ!?止めろ、話を聞け!』
『聞く耳持たん!!』
『さっきと話が違━━ギャアアアア!』
彼の悲鳴が聞こえた後、不気味な程に静まり返る。
「静かになったな・・・ウィルのやつ、大丈夫か?」
一夏が心配そうに呟く。
すると
「い、一夏ぁ!助けてくれぇ!!」
「うわぁ!?」
ウィリアムが部屋の入り口に這いつくばって上半身だけを出しながら助けを求めてくる。
「どこへ行く?まだ
そこへラウラがやって来て、彼の首根っこを掴む。
「ひぃっ!?い、一夏!一夏ぁ!
ヘルプミィィ!!ノォォォォ!!」
「許せ、ウィル・・・」
助けに行ってやりたくても、恐怖で体が動かないのだ。
彼は必死に抵抗するが、成す術も無くズルズルと引きずって行かれた。
再度、彼の悲痛な声が聞こえてくる。
『イダダダダ!離してくれ!』
『お前には一度、体に教え込まんといかんようだな』
『な、何を・・・!?止めろぉ!イヤァァァァァ!!』
「あら、大丈夫かしらウィリアム君・・・」
流石の楯無も心配な様だ。
「ウィル・・・本当にスマン・・・!」
そう呟く一夏だった。
▽
「」
ラウラからの制裁を受けたウィリアムは完全に伸びてしまっている。
一応ベッドには運んだが、朝まで目覚めないだろう。
「まったく、お前というやつは・・・」
薄暗い部屋で彼のベッドに腰掛け、一人呟く。
先程はつい嫉妬心から、彼を攻撃してしまった。
以前の彼女なら考えられないだろう。初めは“ただ目障りなだけの男”だった。しかし、あの日の出来事を境に、彼女はウィリアムに惚れてしまったのだ。
何度もアプローチを掛けているのに彼はそれに気付かない。なんてもどかしい。
・・・流石にやり過ぎただろうか?
そう思いながら彼を見つめる。
横ではウィリアムが静かに寝息を立てていた。
彼の頭をそっと撫でる。
やや硬質な髪の手触りが気持ち良く、癖になりそうだ。
「っ!わ、私も早く寝よう」
急いで自分のベッドに向かう。しかし、ここで少し思い留まり、振り替えって彼の元に歩み寄る。
そして━━
「ん」
ウィリアムの額にそっとキスをした。
「こ、これぐらいは許せ・・・///」
冷めやらぬ火照りを抱きながら、彼女は床に着いた。