次の日
「いてて、昨日は酷い目にあったな・・・」
「ふんっ!お、お前が悪いのだ!」
「えぇ・・・」
俺はお前の事を心配して抗議しに行っただけなのに・・・。
「なぁ、機嫌直してくれよ・・・」
「・・・・・」
プイッと頬を膨らませたまま、そっぽを向く。心なしか顔が赤い様だが、それ程までに怒らせたのか・・・。
何か良い方法は・・・そうだ!
「なら、今週末にどっか出掛けないか?パフェが美味い店があるらしくてな、この前チラシで見つけたんだよ。奢るぞ?」
ラウラがピクリとする。
「・・・パフェだけか?」
「ウグッ!わ、分かった、好きなだけ奢ってやる」
一応、財布の中身は多めに持っている。
「ふふん、それなら行ってやろう」
ラウラの声が弾む。
なんとか彼女の機嫌は直ったようだ。
「早く行かないと朝食に間に合わんぞ?」
「あいよ。直ぐに行く」
俺達は食堂に向かって行った。
▽
・・・遅い。
集合場所に約束の40分前に到着したラウラは、ウィリアムの到着を待つ。
腕時計を確認する。
約束の時間まで、まだ35分程ある。
す、少し早く来すぎたようだな・・・。いや、軍人たる者、常に余裕を持って行動をしなければっ!
などと、自分を無理矢理納得させていると、見るからに『遊び人』といった風体の男が二人いた。
「ねえねえ、カーノジョ♪」
「今日ヒマ?どっか遊びに行こうよ~」
女尊男卑の風潮の現代でも、容姿があれば権力者=女性に愛される。俗に言うホストやアイドルなどは以前にも増して可愛がられるようになったのである。
そうなると、勘違いをした一部の男はこうして誘ってくるのだ。
「私は他の者と待ち合わせをしている。貴様らに構う暇は無い」
「えー?いいじゃん、いいんじゃーん、遊びに行こうよ」
「俺、車向こうに駐めてるからさぁ。どっかパーっと遠く行こうよ!」
「ふん、下らん。行くなら二人で行け」
拒絶100%、冷たくゴミを見る目で睨まれて、二人の男が若干たじろぐ。
出来ることなら、ISのレールカノンで吹き飛ばしてやりたいところだ。
ハァ、コイツらの相手をするのが面等だ・・・。
男達をどういう風に排除するかを想像して、五回ほど虐殺をイメージする。
そんなラウラの表情を見て『脈アリ』に見えたらしい男の一人が、その肩に手を置こうとする。
「っ!!」
「いでででてで!?」
瞬間、ラウラは触れる手前で身をかわし、その手をねじ上げる。
所謂
「馴れ馴れしく触るな。その鼻につく香水の臭いが移る」
「な、な、ななっ・・・!?」
「て、てめぇ!なにしや━━」
混乱しながらも、相方を助けようと掴み掛かろうとしたチャラ男Bが、横からもう一人の人物にCQCを叩き込まれて地面に倒れ伏したのは、まだ言葉を言い終える前だった。
「おい、俺の連れに何をしているんだ?」
「ウィルか!」
「ああ、待たせたな」
そこに颯爽と現れたウィルが、悪の魔の手から自分を守ってくれた!
・・・と言うのは言い過ぎだが、ラウラの瞳には彼の横顔がキラキラして見えたのだ。
ふふっ、やはり私の目に狂いは無かったか。
ボーッと彼に見とれているラウラが、掴んだままだったチャラ男Aの肩をグイイッと更にねじる。
「うっぎゃあああああああ!!」
脱臼のカキョッという小気味の良い音と、男の悲鳴が駅前にこだました。
う、うわぁ・・・相手の方が悪いとはいえ、流石に同情するぜ。
ウィリアムは額に冷や汗を一筋流していた。
そのまま二人のチャラ男を派出所に突き出し、朝の騒動は収まった。
「ふぅ、一件落着っと。スマンな遅くなって」
俺は彼女に向き直り、謝る。
「ま、まあ、許してやる。さっきの件もあるしな、一応礼は言っておこう・・・」
「え?ああ、あれぐらいお安いご用さ。気にするな」
言い方はあれだが、ラウラはさっきの事を恩義に感じている様だった。
あれぐらいは当然の事なんだが、こうまで感謝されるとかなり恥ずかしい。
「「・・・・・」」
案の定、会話が止まってしまった。
き、気まずい・・・!
「そ、そうだ!早速その店に向かうか」
「む、そ、そうだな。そうしよう」
俺達はスイーツ店のある方向に向かって歩き始めた。
▽
な、何だこのバカ高い値段のパフェは・・・!?
俺達は今、そのスイーツ店にいる。
スイーツ店ではあるが、サンドイッチなどの軽食も頼める様で、俺はそれを注文したのだが、メニュー表を見た時に絶句した。
こんなパフェで千円札が三枚も飛んで行くのか・・・。
俺が頭を抱えている正面では、ラウラが嬉しそうにパフェを頬張っている。
そして、その他にもスイーツが・・・。
まあ、たまにはこういった出費も良いか。
「ウィル」
「ん?何だ?」
「あ、あーん・・・」
「え?」
突然、ラウラが自分のパフェをスプーンで掬って差し出してきた。
「は、早くしろ・・・」
「あ、ああ。・・・うん、美味いな」
そして、猛烈に甘い・・・。よくこんなのをペロリと食えるもんだ。
「ん?ラウラ。少しじっとしてろ」
「?」
俺は紙ナプキンを一枚手に取り、ラウラの口元をそっと拭った。
「っ!?」
「ここにクリームが付いてたぞ?」
「い、言ってくれれば自分で拭く!」
「そ、そうか。悪いな」
「あ、いや、そういうわけではなくてだな・・・あ、ありがとう・・・」
ラウラはカーっと赤くなって俯く。
この前の学園祭の時もそうだったが、俺にはデリカシーが欠けているな。反省しよう。
そう思いながら、自分の食事を平らげた。
「さて、まだまだ時間はあるし、どうしようか」
店を出た俺達は特に宛もなく公園をブラブラしている。
ベチョッ
「ん?何か腰辺りに冷たい感触が・・・」
「どうした?ウィル」
腰の違和感に気付いて振り返るとそこには7歳くらいの女の子が立っていた。
先程から、アイスを片手に走り回っていた子だ。
「あ、アイスがぁ・・・」
女の子の目にジワリと涙が浮かぶ。
「えぇ・・・?ら、ラウラどうすれば良いんだ?」
「わ、私に言われても・・・」
二人して狼狽する。
「き、君、怪我は無いかい?」
腰を折りながら出来るだけ優しい声を掛けるが、女の子の目はどんどん潤んでいく。
「す、すいません!大丈夫ですか!?」
慌てていると、女の子の母親らしき人物が事態に気付いて駆け寄って来た。
「ほら、ちゃんと謝りなさい」
「ご、ごめんなさい・・・」
目尻に涙を溜めながら謝られると凄く気まずい・・・。
「いえいえ、お気になさらず。ごめんよ君、次からはちゃんと気を付けてな?」
そう言って100円玉を三枚女の子に手渡した。
「ほら、これでもう一回アイスを買ってもらうと良い」
「わぁ・・・!ありがとう、お兄ちゃん!」
「こんな事まで・・・本当にご迷惑を・・・」
母親が申し訳なさそうにペコペコと頭を下げてくる。
「気にしないで下さい。こちらも公園のド真ん中で立ち止まっていた非がありますから。それでは」
そう言ってその場を後にした。
「ずいぶんと子供の扱いが上手いな」
ラウラが、そう言いながら目を細めて微笑む。
「茶化すなよ。俺だってかなり慌てたんだからな・・・」
そのまま宛もなく歩き続ける。
「お?ゲームセンターか・・・少し入ってみても?」
「そうだな、私も興味がある」
そう言ってゲームセンターに入って行く。
中には多種多様なゲーム機が置かれているが、真っ先に目に映ったのが
「フライト・コンバット?面白そうだな」
そう言ってゲーム機に向かって行くウィリアムはまるで子供の様なはしゃぎようだった。
ゲーム機は操縦用のスティックとスロットル。そして足下にはラダーペダルまで備わった超本格仕様だ。
俺は夢中でゲームに食い付く。まるで童心に還ったような気分だ。
「ふむ、巧いものだな」
「まあな。正直、戦闘機の操縦に関してはかなり自信があるな」
「そうか。なら私と対戦してみないか?」
ラウラがニヤリと笑いながら聞いてくる。
「ふふん、この俺に勝負を挑むとはな・・・。良いぜ、相手になってやるよ」
数分後
「うおっ!?あっぶねぇ。ラウラお前、操縦巧いなぁ」
「一応ドイツで一通りの訓練は受けたからな」
ドヤ顔でそう告げてくる。
えぇ・・・まさか戦闘機の操縦まで訓練内容に入ってたのかよ・・・。
「成る程・・・どうやら俺はお前を見くびっていた様、だっ!」
「なっ!?」
俺はラウラに後ろを取られた瞬間にお得意のコブラを行い、そのまま攻守交代。
今度は俺が追う番になる。
「っしゃあ!撃墜!」
「くっ!負けた・・・!」
ふぅ、なんとか勝てた。これで俺の個人的なプライドは守りきれたな。
「どこでそんな技術を?」
ぎ、ギクッ!
飛んでもない質問をされたぞ!?調子に乗りすぎたか・・・!
「そ、それはぁ・・・お、俺の地元にも似たようなゲームがあってな、ハ、ハハハ・・・。ほ、他のゲームも回ってみようぜ?な?」
「・・・そうだな」
どこか腑に落ちない。と言った顔で渋々この話を切り止めてくれた。
その後も、UFOキャッチャーやゾンビシューティング等々、しばらくゲームセンターで過ごした。
・・・あの喋る太鼓のゲーム、なかなか面白かったな。
▽
日もだいぶ傾いて来た頃、俺達は帰路についていた。
「いやぁ、なかなか楽しかった。今日は満足出来たか?・・・ラウラ?」
返事が無いので、気になって振り返ると、ラウラは、小物屋のショーウィンドーの中の物を興味深そうに見ていた。
「この中に気になるのがあるのか?」
「っ!?い、いや、別に・・・」
「ふむ、ちょっと入ってみるか」
そう行って店に入る。
「お、おい。私は・・・」
「まあまあ、そう言うなって。どれが欲しいんだ?」
「いや、必要なら自分で買━━」
「良いんだよ。今日一日、楽しませてもらった礼だと思ってくれ」
「・・・・・・な、ならこれを・・・」
そう言って差し出したのは、ウサギの柄が彫られたブレスレットだ。
「これが良いのか?」
ラウラがコクリと頷く。
「よし。すいません、これください」
「はい、かしこまりました。お会計は━━」
値段はまあ、そこそこと言ったところだった。
今度こそ帰路につく。
「ウィル、今日はありがとう」
「え?いやいや、楽しませてもらったのはこっちだよ」
ラウラは先程買ったブレスレットが入った箱を大事そうにもっている。
そんなに嬉しそうなら、買った甲斐があったというものだ。
「・・・また誘ってくれるか?」
「勿論」
「そうか・・・!」
彼女の顔がパァッと明るくなる。
この笑顔を見れるだけでも価値有りどころかお釣りがくるな。
そう思い、俺も顔を綻ばせるのだった。