月曜日、俺は鬱屈した気分で柔道場の脇にいた。
というのも、今日からついに始まってしまったからである。『生徒会執行部・織斑一夏、ウィリアム・ホーキンス貸し出しキャンペーン』が。
「はぁぁぁ~」
因みに一夏はテニス部へ貸し出されている。
そして、俺がダウンな気持ちでいる理由。それは今目の前で勝手に行われている『ウィリアム・ホーキンスの個人指導権獲得トーナメント』のせいだった。
・・・そもそも俺は一応マネージャーなのでは?
「はぁぁぁっ!」
「負けないわよ!」
「ボーデヴィッヒさんが言っていた格闘術を『二人きり』で教えてもらうんだから!」
尚、本人の意志は無視である。
・・・ラウラ、なんて事をしてくれたんだ。
今この場にいない元凶に心の中で抗議する。
そもそも、俺はそんなに強くないんだが・・・。そう言うのはラウラに聞いた方が良いだろうに・・・。
そんな事を思っていると、決着が付いたようだ。
勝者以外の娘達が凄く泣きそうな顔でこっちを見てくる。
あぁ、頼むからそんな顔で俺を見ないでくれ・・・これじゃあ俺が泣かしたみたいじゃないか。
結局、交渉の末、一人ひとりに教える事になった。
皆めっちゃ目がキラキラしてる・・・。
「「「ご指導よろしくお願いします!」」」
おおう、凄いやる気だな。
「えーっと、まず相手が━━」
柔道やってる人にCQCとか教える必要あるのか?と疑問に思うウィリアムであった。
▽
翌日
「「えええええ~っ!?」」
朝、食堂に叫び声がこだまする。
「しゃ、シャル!鈴!静かにしろって!」
「だ、だ、だって!だってぇ!」
「一夏ぁ!説明しなさいよ!」
「まあまあ、二人共落ち着けよ」
俺が二人を宥めるも効果は無し。
シャルロットは瞳を潤ませながら、鈴は目をつり上げながら彼に詰め寄る。
「「今朝セシリアが部屋の中からパジャマで出てきたってどういう事!?」」
この二人、絶対に誤解してるよな?
実は俺は既に一夏から事の経緯を聞いている。
しかし、弁護する隙が無いのだ。
「どういう事も何も、そういう事ですわ」
フフン、といった調子でセシリアが髪をさらっと横に流す。
セシリアよせ!これ以上火にガソリンを注ぐな!
しかし、彼女は尚も自慢気に話を続ける。
「一組の男女が一夜を過ごしたのですわ。つまり、そういう事でしてよ」
「そ、そんなぁ!」
「一夏ぁ!」
更にヒートアップする二人。
「ギャー!待て待て!昨日、セシリアにマッサージをしたんだ!そしたら途中で寝ちゃったから、部屋に泊めただけだ!」
俺が言う前に、彼が自ら消火したようだ。
二人も落ち着いてイスに座り直す。
「なんだぁ・・・」
「ま、どーせそんな事だろうと思ったわよ」
鈴さんや、どの口が言うのかね・・・。
そのまま朝食の続きに戻る。
「・・・何も正直に言う必要はありませんのに・・・」
セシリアが不機嫌そうに呟く。
「ん?何だ、セシリア?」
「何でもありませんわ!」
ぷいっとそっぽを向くセシリア。
わけが分からない。というような顔をしていた一夏だが、突如ビクリとした後、恐る恐る振り返る。
「一夏?どうしたんだ?・・・っ!?」
「・・・・・」
そこには腕を組み、仁王立ちした箒がいた。
「一夏・・・お前という奴は・・・!寮の規則を破ったのか!」
「ま、待て箒!話せば分かる!」
「ええい、うるさい!お前がそのつもりなら・・・い、いいだろう!わ、私が泊まって見張っておいてやる!」
箒が赤くなりながら、そう告げる。
「ええっ!ずるい!それなら僕も!」
「一夏!それなら幼なじみのアタシが泊まってあげるわよ!」
再度、出火する。
「騒がしいな、何事だ?」
そこへラウラも合流する。
「ああ、ラウラ。さっき起きたのか?」
「そうだ。だが、なぜ起こしてくれなかったのだ?」
「まだ時間はあったし、起こしたら悪いと思ってな?」
「別に起こしてくれても構わないぞ?」
「そうか、なら次からはそうするよ」
そんな話を横に一夏達は更にヒートアップしていく。
「ハァ、まったく。いい加減に落ち着いたらどうだ?規則違反なんだろ?」
「ラウラと同居してるアンタが何言ってんのよ!」
空かさず鈴にツッコまれる。
「ウグッ!し、仕方無いだろう!?生徒会長が勝手に取り決めて、それで決定したんだから!」
生徒会長の力強すぎだろ!あれじゃあ職権乱用と同じじゃねぇか!
「ウィル、この期に及んで何を言っている。あの勝負で勝ったのは私だ。故にあれは生徒会公認の特権なのだ!」
とうとう七人全員がギャー!ギャー!と喚き始めた。
「朝から何をバカ騒ぎしている」
「ん?げぇっ!暴力装━━ハッ!?」
ビシッ!と、空気が凍り付いた音を聞いた気がする。
組んだ腕の上でトントンと指を動かしているのは、漆黒のスーツがこの上なく似合う女性。織斑千冬先生だった。
「この馬鹿たれどもが」
スパパーンっと五人の頭を叩く織斑先生。因みに一夏には拳骨を、俺には拳骨の後に頭頂部をグリグリと捻られた。
・・・わあ、すげえ痛い。
「オルコット」
「は、はいっ!?」
「反省文の提出を忘れるな」
「は、はぃ・・・」
「それと織斑」
「な、なんでしょうか?」
「お前には懲罰部屋三日をくれてやる。嬉しいだろう」
「あ、ありがとうございます・・・」
「最後にホーキンス」
「はひっ!?」
「お前は放課後にグラウンドに集合しろ。みっちりと近接戦闘を鍛えてやる。ありがたく思え」
「い、イエス・ミス。恐縮です・・・」
くそぅっ!余計な事を口走ったばかりに・・・!
「さて!いつまでも朝食をダラダラと食べるな!さっさと食って教室へ行け!以上!」
食堂が慌ただしくなる。
俺もコーンスープをズズズっとすすった。
あれぇ?何で甘い筈のスープが塩辛いんだ?
これが涙の味ってやつだろうか。
そんな馬鹿な事を考えていると、今度は出席簿で頭を叩かれた。