第六アリーナ
「はい、それでは皆さーん。今日は高速機動についての授業をしますよー」
1組担任、山田真耶先生の声が第六アリーナに響き渡る。
「この第六アリーナでは中央タワーと繋がっていて、高速機動実習が可能であることは先週言いましたね?それじゃあ、まずは専用機持ちの皆さんに実演をしてもらいましょう!」
山田先生がそう言ってババッと手を向ける先には、セシリアと一夏、俺がいた。
「まずは高速機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備したオルコットさん!」
通常時はサイド・バインダーに装備している4基の射撃ビット、それに腰部に連結したミサイルビット、それら計6基を全て推進力に回しているのがこのパッケージの特徴らしい。
それぞれの砲口を封印して腰部に連結することでハイスピード&ハイモビリティを実現しているとの事だ。
一見するとそれらは青いスカートの様に見える。
「それと、通常装備ですが、スラスターに全出力を調整して仮想高機動装備にした織斑君!」
一夏の白式はパッケージこそ無いものの、元の機動力が高い為、そこまで問題では無いようだ。
「そして、同じく通常装備ですが、高速・高機動戦に特化しているホーキンス君!この三人に一周してきてもらいましょう!」
因みに今回は空気抵抗を減らす為に、主翼下のハードポイントは全て外している。
がんばれーと応援の声が聞こえる。
一夏とセシリアが軽く手を挙げて答え、俺もAPUを作動させながらサムズアップした。
それにしても、この
「よし、準備完了だ」
ゆっくりと機体を上昇させる。
相変わらず音が凄い様で、耳を軽く抑えている女子達もいた。
スマンな、これがジェットエンジンなんだ。
所定の位地に着く。
「では、・・・3・2・1・ゴー!」
山田先生のフラッグで、俺達は一気に飛翔、そして加速する。やはり始めは二人の方が初速では俺より勝っている様だ。
しばらくすると自身の周りに円錐状の雲が出来るのが見えた。音速を超えたのだ。だが、この機体の推力は中々のもので、最高速度は
更に速度を上げていく。
「お先に失礼するぞ」
「「!?」」
そのまま一夏とセシリアを追い抜き、学園のモニュメントでもある中央タワーの外周へと進んでいく。
しかし、速いだけが良いことばかりではない。
速度がある分、急旋回が出来ないのだ。
「フッ!」
身体を傾けながら背部のエアブレーキを展開しつつ、ベクタードノズルも使って旋回する。
俺が速度を下げて急旋回をしていると、二人が追いついてきた。
「なんとか追いつけましたわ・・・」
「やっぱウィルのISは速いなぁ、自信無くなってきたぜ・・・」
「ふふん、本番が楽しみでしょうがないな」
そのまま俺達は並走状態でアリーナ地表へと向かった。
「はいっ。お疲れ様でした!三人とも凄く優秀でしたよ~」
山田先生が嬉しそうな顔で俺達を褒める。
教え子が優秀なのがそんなに嬉しいのか、ぴょんぴょんと飛び上がるたびに豊満なバストが重たげに弾んでいた。
まったく、もう少し自覚してほしいものだな・・・正直目のやり場に困る。
「おい、ウィル。おい!」
「うおっ!?な、なんだ、ラウラ?」
「お前も、その・・・なんだ・・・。む、胸は大きい方が良いのか?」
「なっ!?ち、違うぞラウラ!俺にやましい気持ちは一切無いぞ!?」
「ふ、ふん!そうか。・・・そ、それなら、別にいい・・・」
「う、うん?」
「な、何でも無い!━━ええい、こっちを見るな!」
IS展開状態のラウラが腕で薙ぎ払う。そうすると、例のAICが発動して俺は間抜けなポーズのままロックされた。
り、理不尽・・・!話し掛けてきたのはそっちだろ!?
そんなやり取りをしていると、織斑先生が手を叩いて全員を注目させる。
「いいか。今年は異例の1年生参加だが、やる以上は各自結果を出すように。キャノンボール・ファストでの経験は必ず活きてくるだろう。それでは訓練機組の選出を行うので、各自割り振られた機体に乗り込め。ボヤボヤするな。開始!」
毎年の恒例であるこの大会は本来、整備課が登場する2年生からのイベントだ。しかし、今年は予期せぬ出来事に加えて専用機持ちが多い事から、1年生の時点で参加する事になった。
訓練機部門はクラス対抗戦になるため、例によって景品が出るらしい。
「よーし、勝つぞ~」
「お姉様に良いとこ見せなきゃ!」
「勝ったらデザート無料券!これは本気にならざるを得ないわね!」
気合いMAXの女子一同に触発されてか、教師一同も指導に余念が無い。特に山田先生は今日も元気に、非常に目のやり場に困るISスーツを着て指導している。
やはり男にはあまりにも刺激が強すぎる。
なんて考えていると、件の山田先生が俺の所にやって来た。
「ホーキンス君、さっきの実演すばらしかったですよ。特に超音速下での旋回は難しいのに、あの機体操縦は凄いです!」
「ありがとうございます」
ここで、前世は空軍中佐です!なんて言ったらどんな反応をするんだろうか・・・。
そんな馬鹿馬鹿しい事を考えていると、織斑先生がやって来た。
「ホーキンス」
「は、はいっ」
ドスッ!と、首にチョップ。おかしいな、装甲越しなのに何故か痛い。
「訓練中にボーッとするとは、随分と余裕そうだな?」
「す、すいません・・・」
「まったく・・・本番で無様に墜ちるなよ?」
そう言って去って行った。
俺もISのバイザーにスペックデータを投影して、念入りに確認していく。
「・・・ふむ、やっぱりハードポイントを外している分、武装はベイの中にしか搭載出来ないしな・・・
「ウィル」
搭載兵装を選んでいると、一夏がこちらに歩いてきた。
「ん?一夏か。そっちは完了したのか?」
「まあ、少し相談し合っただけだからな」
「俺は武装をどうするか迷っていたんだよ」
まあ、機銃は安定の主兵装として持っておくか。
「ウィル、そこにいたのか」
俺の姿を見つけたラウラが歩み寄ってくる。その横にはシャルロットもいる。
俺はISを展開したまま、仲良し二人組の方に首を向ける。
「二人とも、調子はどうだ?」
「今しがた増設スラスターの量子変換を終えたところだ。これから調整に入ろうと思ってな」
「うん、ラウラの言う通りだよ」
確かに、言われてみると、二人ともISスーツ姿にヘッドギアだけを部分展開した状態だ。
シャルロットのヘアバンドの様なギア、ラウラのウサギミミの様なヘッドパーツはそれぞれ何かのコスプレのようだ。そう言う俺はどうなんだ?って話なんだが。
インストールされたデータを読み込んでいるらしく、二人のヘッドギアは時節ピクピクッと揺れる。
ラウラのなんて本当に動物にしか見えないな・・・。
なんだか心がくすぐったくざわめいた。
「ちょっと見せてもらっても良いか?」
一夏が二人に聞く。
「そうだな、俺も上手い奴の操縦を見ておきたい」
「うん、もちろん。ラウラと一周してくるよ。映像を回してあげるね。チャンネルは304で」
「お、助かる。ウィルの言う通り、上級者の操縦は見ておきたいしな。相手の視点をモニタリング出来るのって良いよなぁ。ほんと、助かる機能だ」
「304だな?了解。助かるよ」
「ウィル、私の視点も見せてやろう。チャンネルは305だ」
「そいつはありがたい。でもラウラの視点移動ってなかなかレベルが高いからなぁ、正直ついていけるかどうか・・・」
「馬鹿者。精進しろ」
「分かってるよ。しっかりと勉強させて頂きます、ラウラ教官」
「ふ、ふんっ。何が教官だっ」
そうは言いつつも、満更ではないようにラウラが頬を染める。
どうやら照れているらしい。
さてと、チャンネルを繋いでっと・・・。
「二人とも、準備オッケー?」
「ああ、バッチリだ。・・・って、ライブで自分の顔が見えるのってやっぱおかしな気分になるな」
「え!?い、いやその、別に一夏ばっかり見ているわけじゃ・・・」
真っ赤になりながら、ブンブンと手を振って否定するシャルロット。
「シャルロット、お前は一体何の話をしているんだ・・・?」
そんな光景を横目に呆れていると、ラウラが先にIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を展開して浮遊する。
「先に行くぞ」
「あ、待ってよ!ラウラってばぁ!」
一歩遅れでシャルロットもまたIS『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』を展開する。
二人は危なげ無い機体制御で第六アリーナのコースを駆け、中央タワー外周へと上昇していった。
「おお・・・巧いもんだな」
成る程、加速方法は置いておくとして、減速のタイミングが絶妙な具合だな。参考になる。
「一夏、ウィル、どうだった?」
少しして、二人が帰ってきた。
「おう、お帰り。流石に巧いよな。シャルもラウラも」
「ああ、特に減速時の機動はかなり参考になったよ」
「このくらいは基本だ。珍しい事など何も無い」
「流石代表候補生。良いセンスしてるぜ」
「そう言うウィルだって凄い機動出来るだろう?」
「ハハ、まあな」
もちろん、(元)プロですから。
それでもロケットを装備している相手に勝てるかは分からないが・・・。
「そうだ。ウィル、後で高機動戦闘の模擬戦の相手してくれないか?」
「ん?ああ、良いぜ」
「じゃあ、よろしく頼む。って、そう言えばウィルの武器ってその機銃だけなのか?」
右手の機銃を指差す一夏。
「ふふん、弓矢ならたっぷりと」
ウェポンベイを開放して見せる。
中にはミサイルが片方に四発ずつ格納されていた。
「うわぁ、すげえ武装・・・」
「これでもフルじゃないからな?」
「マジかよ・・・」
「じゃあ、始めるか。一夏準備は良いか?」
「おう、何時でも始められるぜ」
一夏が白式を呼び出し、展開する。
「一夏、カウントはお前に任せる」
「分かった。・・・3・2・1・ゴー!」
「「!」」
しばらく出力全開で加速し、一夏を追い抜く。
「さっきより動きがよくなってるな」
「まあ、さっきシャルとラウラの機動を見たからな」
「成る程、凄い吸収力だ」
そろそろカーブ地点か・・・よし、今だ!
ブレーキを展開して半ば後ろを向いた態勢になりながら、アフターバーナーを焚く。
よし、さっきよりも小さい半径で方向転換できた!
しかし、ここで追いついてきた一夏からビームが発射される。
「おっと!射撃のセンスも上達してきたみたいだな!」
後ろに機銃を撃って牽制しながら、一夏に称賛の声を掛ける。
「そりゃあどうも、楯無さんの特訓のおかげだな」
狙いが少しずつ正確になってきた。
「これは厄介だな・・・」
ベイを開放してミサイルを発射。放たれたそれは、ある程度進むと180度旋回して一夏の方に吸い込まれて行った。
「え!?」
ドォンッ!
ミサイルは一夏に命中。そのまま彼はバランスを崩し、コースアウト。地表に落下した。
「ぐえっ!」
一夏のもとに降り立つ。
「お疲れ。立てるか?」
「ああ、なんとかな。まさかミサイルがあんな風に飛んでくるとはなぁ・・・」
「あれは高機動空対空ミサイルの性能でな、それに俺の機体の後方レーダーを併せたらあんな風に出来るのさ」
「嘘だろ・・・死角無しかよ」
それでも当てにくいけどな・・・。
あれは一夏が丁度良い感じに直線上に飛んでいたからだ。
「けど、一夏のISもスペック高い上にお前自身の能力も上昇してきてるぞ?良ければ高機動戦闘の練習に付き合おうか?」
「おう、ぜひ頼むぜ!」
そう言って、二人で小一時間ほど機体の調整を行うのだった。