「はー・・・。今日も疲れた」
ついに大会前日となった今日は、アリーナ使用時間ギリギリまで使って一夏の特訓に付き合った。
『いいか、高速機動時に重要なのは冷静な判断力とそれを実行する行動力だ』
『回避、迎撃、防御を瞬時に判断するんだよな。前よりはマシになったと思うんだが』
『ああ、かなり良くなってきている。だが、それで満足するのはマズイ。超音速の場合、一つのミスで自分が空を飛んでいられるか地面や壁に脳髄混じりのイチゴジャムをぶち撒けるかが左右される事もある』
『表現が怖すぎる・・・』
『本当になりたくなかったら、練習あるのみだな』
『お、おう!』
二時間ぶっ続けは流石にきつかったなぁ・・・
疲れた体を引きずって自室に戻った俺は、直ぐ様シャワーを浴びる。
暑い水流が汗を洗い流していくにつれ、俺の疲労した意識は次第にクリアーになっていった。
「ふう・・・」
シャワーから上がって服を着る。脱衣場を出ると、ラウラが立っていた。
「ん?帰って来てたのか。どうしたんだ?ラウラ?」
「いや・・・なんだ・・・、一緒に夕食でもどうかと思ってな・・・」
ラウラにしては珍しく、どうにも滑舌が悪い。
その態度も、どこか落ち着き無さそうにモジモジとしていた。
「・・・ん?あれ?なんか随分と可愛い格好をしてるな」
「!!」
「その服、初めて見るなぁ。どうしたんだ?」
ラウラの格好はロング丈のワンピースだった。
細身に良く似合うスレンダーなシルエットのそれは、黒色が銀髪と対比して映えている。
腰にさりげなく巻いている紐ベルトがワンポイントになっていて、俺の視線を引いた。
「こ、これはだなっ!しゃ、シャルロットと先日買ったものだっ!」
「ほう。よく似合ってるじゃないか。そうしてるとどこかのお嬢様みたいだな」
「お、おじょっ・・・!?」
「さてと、それじゃあ腹も減ったし飯でも食いに行くか」
「・・・お嬢様・・・お嬢様・・・」
「ラウラ?大丈夫か?」
「!?な、何でもない!ゆ、夕食だったな!で、では行くとしよう!」
ギクシャクと動き始めた手足は、右手と右足が同時に前に出ていた。
「ほ、本当に大丈夫か?」
「え、ええい!うるさいうるさい!」
ドスッと脇腹に手刀を喰らう。・・・何故だ?
「お前のせいだぞ・・・お前のせいだからな!」
「うわ!待て、やめろ!・・・ったく、仕方無いな!」
俺は手刀乱舞しているラウラの手を取り、軽く足を払う。
「っ!?」
ラウラの小柄な体がフワリと浮く。その隙に、俺は床の上に体を滑り込ませてラウラを抱きかかえた。
「なっ、なっ、なっ・・・!」
「大人しくしろよ、まったく」
「う、うむ・・・」
丁度お姫様抱っこのような格好になったラウラは、暴れるのをやめて俺の腕の中で小さく頷く。
・・・なんか、あのトーナメント戦の時の事を思い出すなぁ。
ひとまず手刀乱舞は止まったが、降りる気は無いようなので、俺はそのままラウラを抱いて食堂に向かった。
「きゃあああっ!?なになに、なんでお姫様抱っこ!?」
「ボーデヴィッヒさん、いいなー」
「私も!次、私も!」
「ああっ!なんかお似合いな感じが余計腹立つ!」
・・・しまった。食堂に入った瞬間見つかった。
て言うか、よくここに来るまでに誰とも遭遇しなかったな。
いや、今はそんな事を考えている暇は無い。押し掛けてきている女子をどうにかしなくては。
「・・・・・」
「ラウラ、下ろすぞ?」
「あ、ああ・・・」
凄く残念そうな声色で返事をするラウラを、ゆっくりと床に下ろす。
それにしても、軽いなぁ。しっかり食べてるのか?
「「「ホーキンス君!」」」
「失礼、そのようなサービスはしていないもんでな」
「なんでよー」
「ラウラだけずるい!」
「同室までしてるのに!」
「そーだそーだ!」
「ハッ!?まさか、もうそう言う関係に!?」
雲行きが怪しくなってきたので、なんとか女子一同を宥めて席へと返す。そんなやり取りに10分近くかかってしまった。
「はぁ、毎度の事ながら騒々しい・・・女三人よれば何とやら、だな・・・」
「・・・・・」
俺に触られていた二の腕を抱くように、ラウラは桜色の頬を染めながら腕を組む。
「なあ、ラウラは何を食べるんだ?俺はカキフライ定食にしようと思うんだが」
「・・・・・」
「おーい、ラウラ。ラウラってば」
「な、なんだ!?」
「おおう、いや、何を食べるんだって」
「そ、そうだな!フルーツサラダとチョコぷ・・・」
「チョコ?」
「い、いや!何でも無い!言い間違えだ!」
「あ、もしかしてチョコぷりんか?あれ、美味いよな」
「・・・・・」
「でも、意外だな、ラウラはそう言うのあまり食べないのかと思ってたよ」
「ま、前にシャルロットから貰ったのがおいしかったからな・・・」
「そうか。じゃあ今日も我慢せずに食べろよ」
「う、うむ・・・」
というわけで、俺とラウラはそれぞれの夕食を取ってテーブルにつく。
ふむ、やっぱり上手いな。何が美味いってカキの独特の苦味と旨味エキスが噛む度にジュワッと溢れてくるのが最高だ。
「それにしてもラウラ、夕食それだけで足りるのか?」
「前に一夏がその方が健康だと言っていたからな・・・」
「ああ、言ってたな。でもそれってダイエットする時の話だろ?無理にする必要は無いんじゃないか?ラウラ、軽いし」
「か、軽いだと!?」
「待て待て!怒るな!良いじゃないか、軽くて!」
「それは・・・そうだが。むぅ・・・」
納得いかないといった感じで、ラウラはフルーツサラダに手を戻す。
ワンピース姿でサラダを食べている姿は、まるでCMか映画のワンシーンのようだ。
う、ちょっと見とれてしまった・・・。
「何だ?」
「い、いや、何でも無いぞ?」
「そうか」
「「・・・・・」」
二人は無言で食事に戻る。
俺もラウラも、この無言のやり取りを嫌ってはいない。
むしろ、騒々しい学園生活と一線を画する事が出来て落ち着くくらいだ。
「ウィル」
「ん?」
珍しく、ラウラから声をかけてきた。
食事の手を止めて、顔を上げる。
「いよいよ、明日だな」
「キャノンボール・ファストか。頑張らないとな」
「言っておくが、負けんぞ?」
「ふっ、それはこちらの台詞だ」
それだけ言って、また俺とラウラは食事を再開する。
初めての高速機動における公式戦とあって、俺は緊張と同時に未知への期待に胸を膨らませた。