一夏と簪の初コンタクトから数日後の夜 一夏の部屋
「うーん・・・何で怒ったんだろう・・・」
「そりゃあ、お前が彼女の癇に触れたからだろう・・・」
彼女は未だに打ち解けてくれないそうで、今は一夏の部屋で相談を受けている。
「あ。そっか。あいつの専用機、まだ実戦で使える状態じゃないのか」
一夏がポンッと手を打つ。
「あ。そっか。じゃねぇよ。お前もしかして彼女の専用機の話をしたのか?」
「あ、ああ。つい口が滑ってな」
「ハァ、仲良くなりに行ったのに喧嘩売ってきてどうすんだよ・・・」
思わず眉間を押さえる。
こうなった経緯は、一夏が簪とタッグを組むために話し掛けたは良いものの、彼女が最も気にしている事━━専用機の話に触れてしまったから。らしい。その結果、見事右頬に一発のビンタを受けたそうだ。
「でも、それなら2年の整備科に手伝ってもらえば良いのにな・・・」
そう言って一夏がIS学園の概要案内書を取り出す。
「確かに、その方が圧倒的に効率的だ」
コンコン
「はーい。どちら様ですか?」
「私よ」
12時の方角にバンディット!
「二人とも、今失礼な事を考えたでしょう?」
「さ、さあ?自分にはよく分かりませんねぇ?」
「ハハハ。そんな事無いですよ、楯無さん」
「んー。まあ良いわ。シュークリーム買ってきたから、一緒に食べましょう?」
「あ、はい。どうぞ」
一夏が会長をテーブルにつれて行く。
会長はふと机の上に置かれたままの案内書に目をやった。
「あ、一夏君。もしかして整備科に協力してもらうの?」
「あ、いや。俺じゃなくて簪さんの専用機の事で頼もうかなと」
「うーん、それはちょっと難しいんじゃないかしら」
そう言いながら、ベッドに掛ける会長。
「どうしてですか?一人でやるよりも効率的かとおもうのですが・・・」
「簪ちゃん、多分一人で機体を組み上げるつもりなのよ」
「「え?」」
一人で組み立てるって・・・プラモじゃないんだぞ?
「私がそうしてたから、多分意識しちゃってるのね。気にしなくていいのに」
「会長・・・あの機体、一人で組み立てたんですか!?」
横では一夏が絶句している。
「え?うん。まあ、七割方出来てたから出来たんだけど」
うわぁ・・・篠ノ乃博士の再来とまでは行かんが、飛んでもない天才がいたもんだ・・・。
「でも、私は結構薫子ちゃんに意見もらってたからね。それに、虚ちゃんもいたし」
「えっ?あの二人って整備科なんですか?」
「それは俺も初めて知ったな・・・」
「そうよ。3年主席と2年のエース」
ま、マジかよ・・・虚さんはともかく黛さんはただの新聞部部員かと思っていた。
シュークリームを取り出す会長を見て、慌てて紅茶の用意を始める一夏。俺も皿を並べる。
「それで、どう?簪ちゃんの様子」
「えーと、叩かれました」
俺も横でウンウンと頷く。
「えっ?」
驚いた顔をする会長。
「あの子、そういう非生産的な行動にはエネルギー使いたがらない筈なんだけど・・・」
「はぁ」
まあ、見た感じ物静かそうな娘だったもんな。
「お尻でも触ったの?」
「そんな訳無いでしょう!」
「じゃあ胸?」
「だから!どうしてセクハラ方向なんですか!」
ハァ、また始まったか・・・。
「んもう、しょうがないなぁ。言ってくれればおねーさんが触らせてあげるのに」
「わー!何脱ごうとしてるんですか!お、お、怒りますよ!?」
「うふふ、冗談冗談♪」
そう言って悪戯っぽい顔をする会長。
「いや、本当に良かった。後少しでここに織斑先生を呼ぶところでしたよ」
会長の顔が引きつる。
「じ、冗談に決まってるじゃない。ア、アハハ・・・」
生徒会長でも織斑先生は怖いのか。ふむ、良い情報を手に入れたぞ。
「はい、お茶どうぞ。パックのやつですけど」
「一夏君が入れてくれたのなら世界一美味しいわよ」
「またそういう嘘を・・・」
「うん、嘘」
まったくこの人は・・・。
「しかし、あの簪ちゃんがねぇ・・・一夏君、脈有りなんじゃない?」
「ええ?殴られたのにまた会いに行くんですか?」
「今度は殴るじゃ済まないのでは?」
「女の子は押しに弱いのよ」
はい、ダウトォ!絶対嘘に決まってる!
一夏が考える素振りをする。どうやら脳内でシミュレートしている様だ。
せっかくだし、俺もやってみよう。会って間もない間柄で、一回殴られてからもう一回会いに行ったらという最低ラインの設定で。
相手はラウラだ。
『・・・知っているか?人間は首を切断しても10分近く生きていられるという事を』
黒光りするナイフをショキショキと磨ぐラウラ。
『へ、へぇ。聞いた事あるな~。そ、そう言えばギロチンが廃止されたのもそれが理由だったよな~』
『貴様で試してやろうかっ!』
『ノォォォォォ!!』
「」
ダメだ!俺が消される未来しか見えない!
「楯無さんの嘘吐き!」
「そうよ?」
「なにを開き直ってるんですか!?」
「とにかく、簪ちゃんとちゃんと組んであげてね。後、機体の開発も手伝ってあげなさい」
「命令ですか・・・」
「命令されるの好きでしょ?」
「何でですか!」
「やん。怒らないでよ、嘘よ嘘♪」
「「・・・・・」」
「んー。お茶、ごちそうさま。それじゃあまたね」
言うだけ言って(嘘ばっかだけど)会長は帰って行った。
「取り敢えずシュークリームを食べようぜ?」
「そうだな、疲れた時は甘い食い物が一番だ」
パクリ。・・・モグモグ・・・モグ?
「「ブゥゥゥゥ!!」」
「アハハハ!引っ掛かったわね、カスタードは激辛マスタードとハバネロに本わさびマシマシにしておいたわ!」
ドアの隙間から満面の笑みを見せている。
「楯無さん!」
「会長!」
「きゃー」
バタンとドアを閉じて逃げる。
「くそぅ楯無さんめ・・・!み、水~!」
「一夏!塩撒いとけ、塩!畜生、舌が・・・!」
あまりの辛さにしばらく悶絶する二人であった。
▽
一夏が簪と出会ってから、一週間が経過した。
「なあ、俺と組んでくれって」
「絶対、イヤ・・・」
毎日この調子で、一夏が簪に付きまとっているという噂はあっという間に広まった。
それにこの噂、質が悪い事に、その内容に尾びれがついてしまっているのだ。
━━セシリア・オルコットの場合。
「一夏さん・・・わたくしと組まなかった事を後悔させてあげますわ。ふ、ふふ、ふふふふ!」
ビット四基と《スターライトmkⅢ》による。一斉射撃によってターゲットの全てを的確に撃墜する。
「震えなさい!わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
━━凰鈴音の場合。
ズドン!鈴は最大出力の《龍咆》を放つ。
盛大に地面が爆ぜて、アリーナに巨大な穴が開いた。
「見てなさいよ一夏・・・泣いて許しを請うても許さないんだから!」
タッグマッチで一夏をフルボッコにする為、本国の装備担当者に無理難題な依頼を押し付けた鈴はグググッ・・・と握り拳を作る。
その瞳は闘志でメラメラと燃えていた。
━━シャルロット・デュノアの場合。
シャルロットの両手には長大な59口径重機関銃《デザート・フォックス》が握られており、ターゲットを次々と粉々にして行く。
ガキン!弾切れと同時に、シャルロットは銃を捨ててその手にアサルトブレードを一対呼び出した。
最高速のまま突っ込んで行き、ターゲットを切り刻んでいき、最後にブレードをクロスして投擲。
残り一つのターゲットに見事命中させた。
「僕は強敵だよ、一夏」
ニコッ。その天使の微笑みは、だがしかし絶対零度の冷気を放っていた。
そして、もう一人、篠ノ乃箒はと言うと━━。
完全に弛みきった顔で訓練していた。
何でも、黛先輩の依頼を聞いて、一夏と二人きりで写真撮影に行き、その帰りに夕食をした。と言う、謂わばデートをしてきたらしい。
この前に一夏から聞いた。本人はデートという概念はこれっぽっちも無かった様だが・・・。
とにかく、箒を除く三人は殺気MAXだ。
「こえぇよ。何だよあの滲み出るオーラ。すげぇ禍々しいんたけど・・・」
「どうした?ウィル」
ラウラが話し掛けてきた。
「い、いや何でも無い。まったく、やる気満々で殺る気満々だな・・・」
そう言いながら、新しい装備、76mm砲の射撃訓練を再開する。
IS用に手を加えられたそれは、元は艦載用だが、若干スケールダウンして、小型・軽量化されている。
巨大なドラム弾倉は持てないので、マガジン式となっており、上から嵌め込むタイプだ。
トリガーを引く。
ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!とテンポ良く砲弾が発射され、ターゲットを粉々に砕いて行く。
「ふぅ、凄い反動だな・・・」
スケールダウンしているとはいえ、毎分100発近い速度で76mmの弾を連射するのだから、その反動はとてつもないものだ。
砲身の先からはボタボタと冷却水が滴っていた。
本砲は主兵装の30mm機銃と同じく、砲身の冷却には冷却水を用いている。
まったく、あの脳筋准将め、飛んでもない火器を寄越してくれたな。て言うか何であれを作れたんだ?まさか兵器開発部も既に
心の中でそう考えながら訓練を続けるのだった。