あれから一週間経ち、退院後。
活性化治療によって短期間で退院する事が出来た。
入院生活中は本当に暇で、見舞いに来てくれたラウラや何時もの面々との会話くらいしか楽しみが無く、おまけに取り調べと言われて、二~三時間程事情聴取を受けたりもした。
因みに余談だが、更識さんと会長のわだかまりはあの事件の後、俺が寝ていたのとは別の医務室にて、無事解消されたらしい。
めでたしめでたし、だな。
「さぁて、ラウラも待ってることだし、さっさと行くか。今日の飯はなーにっかなー?」
生徒会の仕事を済ませ、ルンルン気分で夕食を食べに食堂に入って行った。
▽
「で?」
「っ・・・」
食堂のカフェテラスエリアで、鈴がジロッと正面の簪を睨む。
因みにそこにいるのは、鈴、簪、だけでなく、箒にセシリア、シャルロットにラウラ、そしてウィリアムと何時もの面々である。
これで一夏も加えれば見事に一学年の専用機持ち全員が揃う事になる。その数、八人。イコール、IS八機。世界でも有数の軍事国家と渡り合える程の戦力である。
・・・どうしてこうなった!?
時を遡る事、5分前━━
食堂に入った俺は、無事ラウラと合流出来たので、さっそく夕食を手に取り、ラウラが確保していた席に向かった。ここまでは良かったのだ。ここまでは。
みんなもいる。という事を伝えられ、女子同士の夕食の邪魔にならないのか?と思いながらも、ラウラに付いて行った結果━━
『冷や汗滲む、旬のサンマ定食~生暖かい風に晒されながら』を食べるはめになったのだ。
「まあまあまあ、鈴。落ち着いて、ね。ほら、簪さん、怯えちゃってるし」
シャルロットが持ち前の優しさで全員を宥めながら席を立つ。
「あ、簪さん。これ、オレンジジュース。どうぞ。喉渇いたでしょ?」
シャルロットは本当に良いやつだなぁ。
そう、染々と思う。
「・・・・・」
怯えた上目遣いでシャルロットを見る簪。そんな視線に対しても、シャルロットはニッコリと微笑んだ。
・・・さっきから俺も異常に喉が渇いている。これが生理現象なのか、はたまた恐怖や緊迫から来るものなのか・・・。
簪はホッとした様な顔をして、オレンジジュースを口にする。
それが二口程喉を通ってから、シャルロットは笑顔のまま簪に訊いた。
「それで、実際どうなのかな?」
ニコッ★
シャルロット、お前もか。
「・・・・・・?」
いまいち質問の意図が分かっていないようだ。
ぎこちなく笑みを返す簪が首を捻っていると、箒とセシリアがテーブルを同時に叩いて立ち上がった。
「だ、だっ、だからだなっ!い、いい、一夏と、だなっ!」
「つつつつっ、付き合ってますの!?」
「ッ━━!?」
いきなりの飛んでもない質問に、簪はぱちくりと瞬きをして一呼吸。その後でボッと真っ赤になった。
「なあ、本当に俺はここにいて良いのか?」
ボソッとラウラに話し掛ける。
「無論だ。夫婦とは共に食事をするものだ」
いや、まだ結婚してないんだけど・・・まあ、それはいい。むしろ誘ってくれて嬉しいくらいだ。
だが━━
「そうじゃなくて、ここで食べる意味は?」
「周りを見てみろ。他に空席があるか?」
言われた通りに辺りを見渡すと、席は全て埋まっている。
「・・・無いな」
ここで尋問シーンを見ながら飯を食うのか・・・。
諦めた顔をするウィリアム。それをよそに、尋問は続く。
「わ、私と一夏は・・・そう言うのじゃ・・・」
「『一夏』ぁ?」
鈴が、ああん?とでも言いそうな顔をする。
怖いって!何だよその顔!ジャパニーズマフィアかよ!!
「うぅ・・・助けてウィリアム・・・」
涙目で助けを求められる。
えぇ・・・俺に対処しろと?
・・・ええい!ままよ!
「ま、まあ一旦落ち着けよ。更識さんはあいつを名前で呼んだだけだろ?そ、それなら普段からみんなも呼んでるじゃないか」
「「「・・・・・」」」
四人からとてつもなく威圧の隠った視線を送られる。
「あ、アハハ・・・ハハ・・・」
冷や汗が滝のように流れる。
「ウィル」
シャルロットに声を掛けられた。
「は、はひ!?」
「お口、チャック♪」
「」
笑顔(黒)でそう言われた。
「い、イエス・ミス!でしゃばってすみませんでした!」
怖い!怖いって!恋する乙女ってマジで怖いよ!
再度、四人の視線が一斉に簪に突き刺さり、少女はしおしおと小さくしぼんでいく。
「それで?結局は一夏とどうなのよ」
鈴が問う。
「そ、それは・・・その・・・ゴニョゴニョ・・・。希望が無い訳じゃ、ないけど・・・。とにかく、そういうのじゃ・・・」
ただでさえ小さい簪の声は、四人のプレッシャーでますますボリュームが絞られていく。最後の方はもう何を言っているのか聞き取れなかったが、顔を赤らめて俯きながら指をいじる仕草を見て俺は確信した。
『ああ、一夏組にまた一人増えたな』━━と。
「・・・・・」
ガラス越しにトントンとつつかれた小動物の様に小さくなる簪を見た俺とラウラ以外の四人は、今度は今度で目の前の簪が可哀想になって、慌てて取り繕い始めた。
「あ、ああっ。更識・・・さん?」
「か、簪で・・・良い・・・」
おどおどと箒が訊いて、同じくらいおどおどと簪が返す。
「じゃ、じゃあ、アタシらも名前呼び捨てで良いから」
「う、うん・・・」
きっぱりと言い放つ鈴に、簪も少しだけはっきりとした声で答える。
「し、しかし、あれですわね。いきなりカフェまで連行とは、エレガントではありませんでしたわね」
「び、びっくり、した・・・」
ぎこちない笑みを浮かべるセシリアに、簪も不器用な笑みを見せる。
「ハァ、やっぱり拉致ったのか・・・」
眉間を押さえてかぶりを振る。
「う、うん・・・突然、連れていかれた・・・」
「・・・おい」
ジト目で四人を見ると、目を反らされた。
「え、えっと。ケーキも食べる?」
「だ、大丈夫・・・」
メニューを差し出したシャルロットを簪は小さく手を横に振って制する。
「せっかくの同学年だ。今度、放課後に実戦訓練でもどうだ?」
「う、うん。ありがとう・・・」
ラウラの誘いに、簪は二回頷きながら答える。
「「「ふう・・・」」」
俺以外の全員が、同時に息をはいた。
それが面白かったのか、少女達はプッと吹き出した。
「なんか、変なの」
シャルロットが切りの良いところでそう言って、簪に手を差し出す。
「これからよろしくね」
「う、うん・・・。こちらこそ・・・」
握手しているふたりを眺めながら、他の四人もうんうんと頷き、俺も安堵の息をはく。
こうして、抱えた問題は一個解決し、一つの絆が増えたのだった。
▽
翌日
「「・・・・・」」
俺達は無言で更衣室で体操服に着替えていた。
今日はこれから身体測定なのである。
「「・・・・・」」
一つ、問題がある。
それは、俺達がなぜか身体測定係りに選ばれているという事だ。
ナ・ゼ・カ・『体位』測定係りだという事だッ!!
「うふふ」
ああ、魔性の生徒会長の笑みが脳裏に浮かぶ。
だって、おい、『体位』ってつまり、スリーサイズだぞ!?何で許可してるんだよ、IS学園!
俺と一夏は1組の教室で、絶望した顔で椅子に座って待っていた。
すると━━。
「ああ、すみません。織斑君、ホーキンス君、ちょっと書類を集めるのに遅れてちゃって」
声を弾ませて教室に入ってきたのは山田先生だった。
「えっ!?山田先生!?という事は・・・」
「も、もしかして、山田先生が測定係ですか!?いやぁ、良かったぁ、やっぱりこのIS学園に良心は残っていたんですね」
神はまだ俺を見放していなかった!
「はいっ。私がバッチリ記録します!」
「「・・・ん?」」
こちらホーキンス。すまないがよく聞こえなかった。もう一度頼む。
「はい?私、記録係ですよ?」
な、な、な・・・
「何考えてるんだぁぁぁぁぁ、この学園ッ!!」
「普通、男である俺達にやらせます!?」
俺達の絶叫も空しく、さっそく1組の女子達がガヤガヤと教室に入ってきた。
「あー、織斑君だ!」
「うそうそっ!?本当にホーキンス君が測定するの?私、昨日、ご飯おかわりしちゃったのに!」
「やっほー、おりむ~、ホー君。へへー、たっちゃんの秘策炸裂だね~」
俺は今すぐにでもあの人にバンカーバスターを投下してやりたい。勿論、弾体には『
「はーい、皆さん、お静かに~。これからする測定ではISスーツの為の厳密な測定ですから、体に余計な物は着けないで下さいねー」
山田先生が楽しそうに告げる。俺達にとっては死刑宣告だった。
「体操服は勿論脱いで、下着姿になって下さい。その後は、出席番号で半分に別れて下さいねー」
山田先生が生徒達に指示を出す中、ウィリアムは━━
ウォーバード隊のみんなへ。
元気にしているか?
そっちが今どうなってるのかは分からないが、元気に過ごしている事を願っているぞ。
俺か?俺はこのIS学園と言う学校に通っている。
同性は一人だけだが、なかなか楽しくやってるよ。
友達も出来たし、先生は良い人ばかりだしな。
・・・うん、良い人、だぞ?ちょっと頭のネジが緩んでいるような人もいるが・・・。
ま、まああれだ。身体に気を付けてな!
現実逃避に走っていた。
「あ、一人ずつ隣のスペーサーに入って脱いで、測定して、服を着る、の流れですから、他の人に下着は見えませんよー」
「山田先生に見えるじゃないですか!?」
俺も隣で必死に首を縦に振り続ける。
「私はホラ、このカーテンの奥にいますから、数字だけ織斑君とホーキンス君に言ってもらえれば大丈夫です」
「なんじゃそりゃあああああ!!」
「どこが大丈夫なんですか!?」
絶望の表情を浮かべながら、抱えた頭を振り回して叫ぶ一夏。
無意識に、ある筈の無い
非常にカオス極まりない光景である。
俺達は、もう、激怒とか、憤怒とか、そういうのじゃなく、完全におかしくなった。
「何を騒いでいるんだ、貴様らは」
「!その声、千冬ね━━ぐえ!」
「ま、まさか、ボス━━うげ!」
「織斑先生だ」
俺達の首筋にキレの良いチョップが炸裂した。
「貴様らは人に任された仕事も満足に出来んのか」
「いや、これは明らかに違う!はめられたんだ!」
「罠だ!これは罠だ!!」
「情けない・・・これが男のセリフか」
「「ぐっ・・・!」」
言ってくれますねぇ・・・!
「『やってやるぜ』くらいがどうして言えん」
━━ラジャー、織斑先生!
「やあってやるぜえええええ!!」
一夏が獣の様な雄叫びを上げる。
やるな、一夏!俺も負けてられないぜ!!
「
一夏に続いて、俺もとても良い発音でそう叫んだ。
「そうか。では精々頑張る事だ」
「えっ?えっ?あれっ?」
「・・・あっ、しまった・・・」
「やるのだろう?」
「は、ぃ・・・」
「・・・イエス・ミス・・・」
ギロリと睨まれてはもう言い返せない。俺達はもう、敵機にロックオンされた哀れな民間機なのだ。
「そんな絶望的な顔をするな、そら、目隠しだ」
「「━━おお!」」
なんという救済アイテム!流石は織斑先生だ!
「ではな」
颯爽と立ち去る織斑先生の背中を見送って、俺達は一糸乱れぬ敬礼をする。
よし、さっそく目隠しをするか・・・
━━ぎゅっ。
「って、スケスケじゃねええかあああああっ!!」
「なぁんじゃこりゃあああああっ!?」
廊下で織斑先生の爆笑が聞こえた。
く、くっそぉ・・・!
「一夏・・・!」
「・・・ああ!」
「「素直に諦めよう・・・」」
▽
二手に別れて同時に交戦開始してから数分としない内に、隣から箒、セシリア、シャルロットの声が聞こえた後、一夏の悲鳴が轟いた。
━━織斑一夏、戦死。彼は最期まで勇敢に戦いました。どうか彼に冥福を・・・。
「・・・はい、二人目の人・・・どうぞ・・・」
なんとか一人目はクリアした。
ふ、ふふ、俺は勝った、俺は勝ったぞ!
・・・残り十八人中の一人目に。
「む?そうか。つ、次は私のば、番だな・・・」
・・・まてよ?次の人って・・・。
「で、では、さっそく頼む・・・」
そう言って測定場所に入ってきたラウラも身体に下着だけの姿だった。
「」
しばらくフリーズする。
・・・ハッ!?いかんいかん!職務を遂行せねば!
「じゃ、じゃあ、行くぞ」
「う、うむ・・・」
ふにゅ。
「・・・くっ!」
ただでさえ、こんな馬鹿げた事はした事が無いのに、相手が相手だけに手が震えて上手く測れない。
「んっ、くっ・・・」
止めろ、そんな煽情的な声を出さないでくれ!
柔らかい感触が手に伝わってくる。
「~~~!ひゃうっ!?」
脳内では警報が鳴り響き、警告ランプがチカッチカッと点滅する。
そして━━
「・・・ブハッ!?」
限界を迎えた俺は鼻から真っ赤な液体を噴き出して、倒れてしまった。
何?ラウラの半裸を見たてめぇが今更どうしただって?いいか?一週間前の出来事をよく思い出して見ろ。その後にこんなの見たらそりゃあ意識しちまって血ぐらい出るわ!
おい、ウブ過ぎとか思った奴は覚えとけよ・・・!
「ガクッ・・・」チーン
ラウラの「衛生兵!衛生兵!」と言う声を最後に俺は意識を失った。