「ついに・・・この日が来てしまったか・・・」
どんよりとした声で一夏に話し掛ける。
「・・・ああ」
俺達は鬱屈した気分で、とある部屋へと向かっていた。
調理実習室。読んで字のごとく、調理を実習する部屋である。IS学園とはいえ、一応は高校なので、勿論普通のカリキュラムもあるのだ。
しかし、調理するだけなら問題は無い。
問題は━━
「ふふ、今日こそ!このセシリア・オルコットの真の実力を見せる時ですわ!」
こうなった彼女は誰にも止められない。
因みに、実習班は鈴と簪を抜いた何時ものメンバーである。
さて、誰が犠牲になるのやら。
そう思っていると、実習室に到着した。
「はい、それでは授業を始めます。今日は肉じゃがを作っていきましょう」
そう言ってくるのは、家庭科担当の“鈴木咲良”先生だ。
俺達はハァと溜め息を溢し、互いに頷き合ってから、料理を開始した。
「・・・色がパッとしませんわね・・・」
「わあ!?待って待って、セシリア!」
「うーん・・・ここはこうした方が・・・」
「なっ!?待てセシリア!そんな物を入れたら・・・遅かったか・・・」
「い、一夏!今すぐにセシリアを止めるんだ!」
「お、おう!セシリア、ストップ!ストップだ!」
「ああ・・・私の選んだジャガイモが無惨に・・・」
「ラウラ、同情するよ・・・」
「出来ましたわ!!」
「「「・・・・・」」」
激闘の末、とうとう最凶の
「さあ、記念すべき一番目はどなたかしら?」
誰も目を合わせようとしない。
「一夏さんは?」
「お、俺は後で良いかなー?って」
「何故ですの!?ではラウラさん、いかがですか?」
「なっ!?」
偶然、セシリアの横にいたラウラに矛先が向いた。
「遠慮は要りませんのよ?さあ!さあ!」
「わ、私は・・・」
くっ!このままではラウラが・・・!
「ま、待て!それなら俺が食う!」
やってやる!やってやるぞ!!
「ウィルぅ・・・」
救世主を見るような目を向けてきたので、その視線に無言のサムズアップで返す。
この時、ウィリアムとセシリア以外の四人は思った。
か、カッコいい・・・!
「あら、ウィリアムさんが一人目ですのね!」
「あ、ああ」
「さあ!このセシリア・オルコットの渾身の力作をご賞味あれ!」
そう言って、皿に盛られた紫色をした肉じゃがを目の前に置かれる。
・・・ああ、俺死んだな。
そう思って肉じゃがに視線を落とした。
「腹を括るか・・・」
「・・・どういう意味ですの?」
俺は目の前の肉じゃがと対峙する。
まるで、この肉じゃがに、「食え!臆病者!食え!!」と言われている様な錯覚を覚えた。
「・・・神よ、俺の地獄への門出に栄光を!!」
パクっと一口食べ、咀嚼する。
「・・・っ!?」
ま、不味いなんて生易しいものじゃない・・・!これは・・・!?
「くそ、手が震えてやがる・・・!」
それでも必死に食べ続ける。
「ただの試食だ。たかが肉じゃがだ。やられても死ぬだけだ・・・!」
襲い来る吐き気を覆い隠しながら、箸を進める。
「ウィル、もういい!箸を止めるんだ!」
ラウラが必死に制止の声を掛けてきた。
「フゥ、フゥ、フゥ。だ、ダメだ。ここで手を止めたら、お前や他のみんなに被害が・・・ウッ!?」
意識が朦朧としてきた。
「頑張るんだウィル!諦めるなウィル!」
今にも昇天しそうな俺に、一夏が励ましの声を掛ける。
「へへ、良い声だぜ・・・」
ウィリアムはゆっくりと天井を仰いだ。
「うぃ、ウィル?どうしたんだ!?おい!」
一夏が肩を掴んで揺さぶる。
「一夏、少し通してくれ」
そう言って、ラウラがウィリアムの片目の瞼を指で軽く押し拡げて覗き込んだ。
「・・・ダメだ、瞳孔が開き切ってはないから命に別状は無いが、完全に気を失っている・・・」
「あら、あまりの美味しさに失神してしまったのかしら」
「せ、セシリア?お前ちゃんと味見はしたのか?」
一夏が恐る恐る聞く。
「味見?していませんわ。だって、食べて頂く方よりも先に料理を口にするなんて失礼ではなくって?」
「「「」」」
しかし、セシリアの
「こんな所で寝てはいけませんわね。・・・そうですわ!」
何かを閃いたセシリアは、どこから取り出したか分からない調味料で何かを作り始めた。
「出来ましたわ!!セシリア・オルコット特製、『目覚ましドリンク』!」
そう言って高々と掲げるコップの中には、血の様に真っ赤な液体がなみなみと入っていた。
「せ、セシリア?それは・・・?」
「この目覚ましドリンクを飲めば、スッキリ爽快!気持ち良く目覚めること間違い無しですわ!安心して下さい。既に実証済みです!」
シャルロットの問いに、ドヤ顔で答える。
「そ、そっか・・・実証済みなら安心・・・かな?」
「さあ、箒さん、この洗濯バサミでウィリアムさんの鼻を押さえて下さい。一夏さんは、この漏斗をウィリアムさんの口に」
『実証済み』の言葉を信じた二人は言われた通りに行動する。
「いきますわよ・・・えい!」
力無く開いたウィリアムの口にドリンクが入っていき、全て流し切った。
「「「・・・・・」」」
しばらく観察する。
「っ!?!?」
ウィリアムがカッ!と目を見開いた。
「~~~~!!
ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」
「「「!?」」」
「辛゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
飛んでもない悲鳴と共に跳ね起きると、そのままドタドタと走って行き、近くにあった水の張った流し場に頭をドボンッ!と突っ込んで再び動かなくなった。
ウィリアムの悲鳴と奇行を見た生徒達は固まっている。先生ですら、注意するどころか目を点にしていた。
「ウィル、起きろ!目を覚ませ!」
そう言ってラウラがウィリアムの頭を流し場から引っ張り出し、彼の頬をペチペチと叩く。
「反動が強すぎるのがネックですわね・・・」
この日、一夏達は戦慄し、セシリアにはどんな犠牲を払ってでも料理はさせるな。というルールが出来た。
死を降り注ぐ肉じゃが・・・冗談じゃない!
ラウラに救助されたウィリアムは全ての元凶に向かって、そう心の中で叫んだ。