空軍パイロットのIS転生記   作:Su-57 アクーラ機

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第78話

「こ、これは・・・!」

 

衣装ケースを漁って見つけたのは、ピッチリとした黒いスニーキングスーツと年季の入った灰色のバンダナだ。

腰にはピストル、左の胸にはナイフがそれぞれホルスターに入っており、ベルトには手榴弾が一つ。

どこぞの『蛇』のような格好だった。

 

「おお、なんか懐かしいな」

 

そう言ったのは一夏だ。

彼は剣道着に面と竹刀を装備している。

 

「ウィル、なかなか似合ってるじゃないか!」

 

「ありがとよ!一夏も様になってるじゃないか!良いセンスだ!」

 

「行くぞ!」

 

「おう!」

 

次の扉の前に立ち、ノブを捻る。

 

「・・・ん?簪、変装しているのにドアが開かないぞ?」

 

ドアがビクともしない。

まさか、また何かしらのロックが掛かったのか?

 

『恐らく二人は暴れ過ぎたみたい。これ以上の異物流入を防ぐ為に制限されてる』

 

「確かにかなり派手な事はしたが、どうやって入れば良いんだ?」

 

「このままじゃあ助けに行けないぞ」

 

『・・・一人で行くしかない』

 

「一人で、か・・・」

 

二人でも少し手間取るような事もあったのに、一人だけで行くとなるとかなり骨が折れそうだ。

 

「悩んでも仕方無い、そっちからではどうにもならないんだろ?」

 

『残念ながら・・・』

 

「なら答えは一つだ。一夏、俺はこっちを行く」

 

「なら俺はこのドアだな!」

 

「成功を」

 

「そっちもな」

 

拳と拳を軽く当てる。

 

『気を付けて、この二つはかなり厄介だから』

 

「「了解!」」

 

二人はそれぞれのドアへ向かって駆け出した。

 

 

私の名前はラウラボーデヴィッヒ。

ドイツ軍所属、IS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長で現在は━━

 

『ワールド・パージ、完了』

 

━━現在は、新婚二ヶ月目の『嫁』を愛する『新郎』だ。

愛の巣は二人の出し合った金で買った一軒家。二人には広い気もするが、将来を思えばどうと言う事はない。

 

「ふむ・・・」

 

私はリビングのテーブルで、新聞を広げて朝食を待つ。

 

「やはり中東情勢が変わってきているな・・・」

 

「ラウラ、どうした?」

 

「む?いや、ちょっとな」

 

そう言って嫁はミルク多めのコーヒーを私の前に置く。

━━良く出来た『嫁』だ。

うんうんと心の中で頷く。

因みに嫁の名前はウィリアム・ホーキンスと言う。

愛称はウィルだ。

 

「ラウラ、オムレツが出来たぞ」

 

中身はふわとろ、愛情たっぷりオムレツを受け取って、私は改めてウィルを見る。

あのパイロットスーツも良く映えるが、エプロン姿も様になっている、自慢の嫁だ。

 

「あー、ウィル。実はだな・・・」

 

コホン、と咳払いをして話を切り出す。

 

「しばらく、特別休暇が出たのだ。だからだな、その・・・」

 

「つまり、お前と二人っきりでいられるって事か」

 

「う、うむ・・・」

 

私が少し照れて頷いたのに対して、ウィルも、ふふ、と笑う。

 

「実は俺も空軍から長期休暇を貰ってたんだが・・・そう言う事なら、さっそくこいつを使わないとな?」

 

「う!そ、それは・・・」

 

結婚記念日に一人五枚ずつ交換した『何でもおねだり券』だった。

見覚えのある自分の手書きの字に、ますます恥ずかしさが募る。

な、何を『おねだり』する気だ、ウィルめ・・・。

前は『ゴスロリ』の格好をさせられた。

今度は何だ?な、ナースか?

 

『ラウラ、俺だけの癒しの天使・・・』

 

め、メイドか?

 

『ご主人様って、いってごらん・・・』

 

それともバニーか!?

 

『可愛いウサギちゃん、俺だけのラウラ・・・』

 

・・・・・。

 

「ラウラ?おい、ラウラ」

 

「━━ハッ!?な、何だ?」

 

「鼻血出てるぞ」

 

そう言ってハンカチでゴシゴシと私の顔を拭くウィル。

 

「じ、自分で出来るっ。馬鹿者っ!」

 

「はいはい」

 

「『はい』は一回だ!」

 

「そんな事よりラウラ、あーん」

 

・・・パクっ。

わああ、ウィルのオムレツ、ふわっふわのとろっとろ~♪

━━などと幸福感に浸っている場合ではない!

 

「ウィル!」

 

「うん」

 

「な、な、何をおねだりする気だ!?」

 

思わず立ち上がった私を、ウィルが笑顔でたしなめる。

 

「まあまあ、落ち着けよ。指揮官たるもの焦りは禁物、だろ?」

 

「う、うむ・・・そうだなっ」

 

取り敢えず座り直す。そしてトーストをかじって、サラダを頬張り、コーヒーを一口。

 

「裸エプロン、かな」

 

━━ブフゥっ!!

 

「げほっげほげほっ!・・・な、何?」

 

「ラウラに裸エプロンしてほしいなって言う、おねだりだ」

 

は、裸エプロンだと!?

 

「ば、ば、馬鹿者!そんなハレンチな・・・!」

 

テーブルに乗り出してウィルに詰め寄る。

帰ってきたのは、額へのキスだった。

 

チュッ。

 

「あっ・・・」

 

「頼むよ、ラウラ」

 

「う・・・、うむ・・・」

 

 

 

「こっ、これで良いのかっ・・・!?」

 

声にいまいち迫力が無い私は、おずおずとリビングに姿をさらす。

身に纏っているのは眼帯とエプロンだけ。恥ずかしい事この上ない。

ギュウッと前垂れを引っ張って少しでも肌を隠そうとするが、ウィルの遠慮の無い視線は私の体を執拗に愛撫する。

 

「ううっ・・・」

 

「可愛いぞ、ラウラ」

 

「ええい、うるさいうるさいっ!」

 

私の羞恥心を煽るように、ウィルはとびきり優しい声で言う。

 

「それじゃあ、せっかくエプロンを着てるんだから料理でもするか」

 

「な、何っ!?」

 

「その方がラウラの可愛いさがグッと増すぞ」

 

「ぬぐぐっ・・・!」

 

ウィルに可愛いと言われれば私は逆らえない。

そんな自らの愚かしさが、小ささが、憎くて・・・愛おしい。

私は・・・弱い女だ。

それは悔しいけれど、認めてしまえば嬉しさに変わる。

 

「お、おかしな事をしたら・・・許さないぞ」

 

「おかしな事?」

 

「だ、だからっ!その、だな・・・え、えっちな事とか・・・ええい!言わせるな!」

 

ベシン!とウィルの腹を叩いて、私はキッチンへと向かう。

 

「いたた・・・。ラウラ」

 

「何だ?」

 

「似合ってるぞ」

 

耳元でそっと囁かれる。

私はカーッと頭が沸騰して、渾身の裏拳をウィルにお見舞いする。

けれど、ウィルはその拳を柔らかく手で受け流して、こともあろうか私の体を後ろからギュッと抱きしめてきた。

 

「ラウラは可愛いなあ」

 

「こ、こらっ!やめろ、馬鹿っ!・・・あっ!」

 

エプロンの上から胸を撫でられる。

敏感なそこが反応を示すと、ウィルは甘く淫らに囁いてきた。

 

「・・・今日は一日中しようか」

 

「な、何をだっ?」

 

「分かっているんだろ?」

 

チュッと肩にキスを刻まれる。

わ、わわ、わたっ、わたしっ、私はっ━━

頭がクラクラとする。

ああ、だがしかし、だがしかし。

流されてしまうのも・・・良いかもしれん・・・。

ポワッと桃源郷を思い描いていると、バンッ!!と勢い良くドアが蹴り開けられた。

 

「「っ!?」」

 

開け放たれたドアから何者かがゆっくりと侵入してくる。

 

「待たせたな!!」

 

全身をスニーキングスーツで覆い、額にバンダナを巻いた男だった。

 

「な、何者だ、貴様!」

 

手に届く場所にあった出刃包丁を男に向けて投擲する。

 

「うおおっ!?」

 

男は慌てて飛び退き、投げた包丁は後ろの壁にドスッ!と刺さった。

 

「あ、アホ!殺す気かっ!?」

 

「当然だ。私とウィルの邪魔をする者は死んでもらう!」

 

ウィルの抱擁から抜け出して、私は身を低くして目の前の男に迫る。

 

「はっ!」

 

「っ!」

 

必殺の踵落としがスーツの胸部プレートの隙間に鋭く刺さる。

ミシリと、相手の骨が軋む感触がした。

 

「グゥッ!」

 

ガクリと膝をつく男。私は壁から出刃包丁を強引に引き抜くと、素早くそれを首筋に当てた。

 

「終わりだ。死ね」

 

「頑張れ、ラウラ」

 

いきなり後ろからウィルの声援が飛んできて、ドキッとしてしまう。

 

「あ、当たり前だっ。もう決着は━━」

 

「てめぇは・・・ラウラに戦わせて優雅に観賞かよ!!次は何だ?ポップコーンでも必要か!?」

 

男が強引に立ち上がる。

私は慌てて包丁を引くようにして男を斬るが、手応えが浅い。

 

「退いてろ、ラウラ!」

 

「頑張れ、ラウラ」

 

二つの声が、ウィルの声が、前と後ろから聞こえる。

わ、私、私は・・・!

戸惑う私を退けて、男はピストルとナイフを取り出す。

 

「このっ!!」

 

「頑張れ、ラウラ」

 

ウィルの胸部に目掛けて数発発砲し、止めにザシュッ!と首を掻き斬る。

完全に動脈を斬られた筈なのに、・・・血が一滴も出ていない。

それどころか、まるで壊れたラジオのように同じセリフを繰り返すだけだった。

 

「頑張れ、ラウラ」

 

繰り返し、繰り返し。

 

「頑張れ、ラウラ。頑張れ、ラウラ」

 

何時までも、繰り返し。

 

「頑張れ、ラウラ。頑張れ、ラウラ。頑張れ、ラウラ。頑張れ、ラウラ。頑張れ、ラウラ。頑張れ、ラウラ。頑張れ、ラウラ」

 

『頑張れ』がやがて『戦え』に聞こえてくる。

わ、私は、私は、戦う為に、生まれてっ・・・。

 

「ふ、ざ、けんなよ・・・!この野郎っ!!」

 

男はウィルを壁に叩き付け、そのまま口内にピストルを押し込み、三発の銃弾を撃ち込んだ。

それでもまだ、言葉は続く。

 

「がんば・・・れ、らう・・・ら。たたか・・・え、たたかって・・・殺し・・・て・・・殺さ・・・れ・・・て・・・」

 

あ、あ、あっ━━。

 

「うわああああっ!!い、いや・・・だ。嫌だ・・・嫌だ!私は、戦う機械じゃ・・・」

 

「お・・・まえ、は・・・兵器・・・」

 

ピンッ!カラカランッ

男が手榴弾の安全装置を外す。

 

「ただ・・・殺す・・・事、しか・・・価値は━━」

 

「いい加減黙れ・・・!」

 

底冷えするような声でそう言った後、ウィルの口に手榴弾を捩じ込み、隣の部屋へ蹴り飛ばした。

 

━━ボンッ!

隣の部屋で爆発が起きる。

 

Get out of sight. Fucking bastard(視界から消え失せろ。クソ野郎)

 

そう吐き捨てるように言った後、こちらに駆け寄って来た。

 

「ラウラ!」

 

男が、着けていたバンダナを取る。

そこには見慣れた顔があった。

 

「大丈夫だ、ラウラ。お前はお前だ。政府や誰かの道具なんかじゃない。かけがえの無いお前なんだ。無理に戦う必要は無いんだ」

 

「あぁ・・・、ウィル・・・」

 

その温もりに抱きしめられて、私は気を失った。

 

 

「よっと・・・」

 

森に帰ってきた俺は、抱きかかえていたラウラをそっと草原に寝かせる。

穏やかな吐息は優しい眠りに包まれている証拠だろう。ラウラに異常は見当たらない。

 

「ふ、まるで眠り姫だな」

 

つん、とその鼻に触れる。

 

「可愛い顔して寝てるぜ・・・」

 

そうしていると、一夏と箒が帰ってきた。

 

「おう、一夏か。お疲れさん。箒も無事そうで何よりだ」

 

「う、うむ。心配を掛けたな」

 

「みんなが無事なら万々歳だ。気にするな」

 

「ウィルもお疲れ。そっちも成功したみたいだな」

 

「ああ、なんとかな」

 

「しっかし、何でどれもこれも俺が出てくるんだ?」

 

「何でだろうな?ラウラの世界では俺がいたぞ」

 

偽者の自分とはいえ、まさか口に手榴弾を押し込んで爆破する時が来るとはな・・・。一夏の気分がよぉーく分かったよ。

 

「お答えしましょう」

 

ガサッと茂みから頭を出したのは、案の定、簪だった。

 

「そ、その登場が流行ってるのか・・・?」

 

「び、ビックリするから止めてくれ・・・」

 

「うん・・・」

 

コクンと頷いて、何時もの調子に戻った簪は茂みからガサガサと出てくる。

 

「こんなに葉っぱを付けて・・・しょうがないな」

 

一夏が一枚一枚手で葉っぱを取っていると、簪は顔を赤くして俯いた。

 

「それで、ラウラ達に対する攻撃の正体は分かったのか?」

 

俺は簪に質問する。

 

「はい。恐らく、敵は・・・対象者の精神に直接アクセスして・・・その心の奥底に秘めた願望・・・渇望・・・そして、記憶などを夢として混同して見せることで外界と遮断、精神に何らかの影響を与えるという攻撃です・・・。その意図は━━」

 

と、言葉を続ける簪を遮って、ラウラがガバッと起き上がった。

 

「な、な、何を言うか、貴様!あ、ああ、あんな事が私の望みだと!?い、い、いい加減な事を!」

 

「が、願望・・・!」

 

ラウラの横では箒が顔を真っ赤にして震えていた。

 

「わ、わわ、私はっ・・・!」

 

俺は面白いくらいに狼狽しているラウラに、プッと吹き出してから乱れた髪を直してやる。

 

「よう、眠り姫。よく眠れたか?」

 

「ひっ、ひひひっ、姫っ、だと!?う、ううう、ウィルっ、貴様っ・・・!」

 

「グェッ!?」

 

飛び掛かって首を絞めてきた。

 

「ら、ラウラっ。絞まってる、首絞まってるって。ギブ、ギブぅ・・・!」

 

ラウラの腕を必死にタップする。

 

「な、何が幸せな結婚だ!穏やかな家庭だ!子供は三人だ!いや、いずれは、その、結婚とかは・・・。

~~~!!わ、私は━━」

 

「ラウラ」

 

ストップ、と背中側にいるラウラの頭を優しく撫でる。

 

「帰って休め。な?」

 

「う、うむ・・・」

 

サラサラとした髪を撫でる度、指に伝わってくる感触が心地良い。

 

「箒、お前も帰って休んどけよ」

 

一夏が箒に帰るよう、促す。

 

「そ、そうだな。そうさせてもらおう・・・」

 

そうして、ラウラと箒も森の外に歩いて行った。

 

「さて、一応全員救出した訳だが、本命のシステムの復興がまだなんだよな?」

 

「うん、まだ元凶を・・・絶っていない・・・」

 

「ならそれを片付けて終わりだ」

 

「そうだな。さっさと片付けようぜ!」

 

「でも、一夏のISも・・・さっき大きなダメージが・・・」

 

「そんな・・・」

 

「・・・簪、俺のISはどうなんだ?」

 

「ウィリアムのISは・・・まだ大丈夫・・・」

 

一夏のISは箒の世界で自身の偽者と戦い、かなり消耗していた。

ウィリアムのISも少なからずダメージを受けていたのだが、現時点で最も戦う事が出来るのは彼だけだった。

 

「なら決まりだ。俺が行ってくるよ。これ以上放って置くとまずいんだろう?」

 

そう言って新たに現れたドアの前に立つ。

 

「元凶を見つけ出して、それを叩けば良いのか?」

 

「それで当ってる・・・けど、気を付けて・・・」

 

「ウィル、頑張れよ」

 

「おう!」

 

そう言って、俺はドアをくぐった。

 

 

「ん?ここは・・・」

 

見渡すと、その広大な敷地には長大な滑走路が何本も走り、その傍らには格納庫が並んでいた。

後ろを振り返ると、兵舎らしき建物ときれいな白塗りの大きな建物が遠くに建っている。

忘れようの無い景色だった。

 

「フォート・グースメリア 陸空共同基地・・・」

 

俺の所属している軍事基地だ。

自分の姿を見ると、全身がフライトスーツに包まれており、左肩には部隊章、左胸には自身の名前と階級章に『Akula(アクーラ)』のTACネーム(非公式愛称)が刻印されたプレート。右肩には国籍ワッペン、右胸には搭乗機のワッペンが縫い付けられていた。

 

「この格好は・・・!」

 

「ホーキンス中佐」

 

唖然としていると、突然声を掛けられた。

 

「が、ガッツ!?」

 

「どうしたんですか?幽霊でも見たような顔をして・・・」

 

「ああ、いや、スマン。不意に声を掛けられて驚いただけだ」

 

「そうですか。あ、そうだ。中佐、こんな所で何をしてるんですか?今日はスクランブル当番でウォーバード隊は全員アラートハンガーで待機でしょう」

 

「!しまった、こんな所で油売ってるのを見つかったらコットス将軍にドヤされちまう!」

 

そうだそうだ。今日はスクランブル当番なのをすっかり忘れてた。

しかし、何だ?このモヤモヤは・・・。何か他に忘れているような気がするが思い出せない。

 

「中佐、早く行きますよ。こんな所にいたら私まで滑走路往復走をさせられます」

 

「そ、そうだな」

 

そう言って、俺とガッツは待機ハンガーに向かった。

道中、ふと周りの建物を見ると、色々な飾りつけがされているのが目に入った。

ん、そう言えば今日は基地の創立パーティーをするんだったよな。

待てよ・・・?パーティー?いったい誰と?・・・そう!頼もしい仲間達と!

そうだよ!何でこんな大切な事を忘れてたんだ?まさか、この歳でもう物忘れか!?

 

『ワールド・パージ、完了』

 

ああ・・・とうとう幻聴まで・・・。検査、受けようかな・・・。

一人で落ち込みながら、アラートハンガーへと向かう。

 

「ふぅ、着いたか」

 

「まったく、この基地は無駄にデカ過ぎるんですよ」

 

「空軍と陸軍の共同だからな。仕方無いさ」

 

そこには、ウォーバード隊の搭乗機がズラリと並んでいた。

その中でも一際目立つのが━━

 

「相変わらず、中佐の機体は厳ついですねぇ・・・」

 

「何だよ、別に良いじゃねえか」

 

「まあ、『シャークマウスの下は安全地帯』だなんて言われるぐらい、仲間内からは象徴になってますからね」

 

ガッツが頷きながら、納得したように話す。

 

「あ、そう言えば!今日のパーティーにはコットス将軍のご令嬢も来るそうですよ!」

 

興奮気味に告げてきた。

 

「へぇ、あの鬼将軍のご令嬢か」

 

「な・ん・で・も・!スーパー美人なんだとかっ!」

 

「おいガッツ。お前既婚者だろ、鼻息荒くして言うんじゃねえ。嫁さんにチクるぞ?」

 

「げぇっ!?そ、それは勘弁して下さいよ・・・」

 

「まったく・・・それより、あまり酒を飲みすぎるなよ?」

 

「勿論!酒瓶4本だけにしておきます!」

 

「飲みすぎだ。この酒豪め」

 

「ウィル!!」

 

二人で談笑していると、突然誰かに自分の愛称を呼ばれた。

 

「「?」」

 

振り返ると、目の前には銀髪を腰まで伸ばし、左目を眼帯で覆った少女が立っていた。

 

 

ラウラはウィリアムに「帰って休め」と言われ、箒達と共に森を抜けようとしている最中、妙な胸騒ぎを覚えた。

 

「何なんだ?この嫌な予感は・・・」

 

一人静かに、そう呟く。

 

『あいつを助けてやってくれ!』

 

「?箒、何か言ったか?」

 

「いや、一言も話していないが?」

 

『お嬢ちゃん!このままじゃあいつが・・・ウィルがヤバい!助けてやってくれ!』

 

「っ!!」

 

そこからの行動は早かった。

箒達の制止の声を聞かずに元来た道を疾走し、開かれたドアに飛び込むと、その先には広大な軍事基地が広がっていた。

 

「これが、ウィルの夢の中なのか?」

 

随分と現実味のある景色だ。本当にただの夢なのか?これはまるで・・・

 

「記憶・・・?」

 

しかし、これだけ大規模な基地なら私でも知っている筈だ。

 

「ウィル、お前は・・・」

 

とにかく、ウィルを捜すのが先決だ!

私は滑走路に繋がる誘導路の脇を走り続けた。

 

 

「勿論!酒瓶4本だけにしておきます!」

 

「飲みすぎだ。この酒豪め」

 

 

声が聞こえた!

一人は聞いた事の無い声。もう一人は━━

 

「ウィル!!」

 

ありったけの声で彼の名前を呼んだ。

 

「「?」」

 

その声に反応して、こちらに振り向く人影。

私の目に映ったのは、パイロットスーツを着込んだ二人の壮年の男だった。

 

 

「おいおい、今日は基地の見学会なんてあったか?」

 

ガッツに聞いてみる。

 

「さあ?私はそんな事は聞いておりませんが・・・」

 

取り敢えず名前を聞いてみるか。

 

「君、名前は?どこから来たんだい?」

 

「なっ!?私だ!ラウラだ!ラウラ・ボーデヴィッヒだ!」

 

・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ?どこかで・・・。

 

「おいガッツ。俺の知り合いにボーデヴィッヒのファミリーネームの子持ちはいたか?」

 

「私が中佐の知り合い一人ひとりを知ってるわけないですよ・・・」

 

ふむ、とするとこの娘は誰なんだ?

どうも喉の奥で引っ掛かるような妙な感覚がする。

 

「・・・中佐?ウィルがか?」

 

ラウラという娘が聞き返してきた。

 

「え?ああ。ほら、見ての通り空軍の中佐だよ。・・・と言っても威張る程じゃないけどね」

 

少しひざを曲げて、黒と黄色の階級章を見せる。

と言っても、階級章を見せても分かるか?あれ、結構見分けが難しいんだよなぁ・・・。

 

「・・・あ、中佐。もしかしたらこの娘はパーティーの時間を間違えて来ちゃったんじゃないですか?」

 

「アッハハハ!成る程な。それなら有り得そうだ。君、ラウラちゃん・・・で良いかな?今はまだ午前中だ。パーティーまでは時間があるから建物の中で休んでいると良い。誰か迎えを寄越そう」

 

そう言って近付き、手を差し出す。

 

「本当に・・・私が分からない、のか・・・?」

 

その問いに、俺は腕を組んで唸りながら記憶を遡る。

 

「うーん・・・。すまないが俺は━━」

 

突然、女の子が右手を突き出してきた。

 

「ならこれはどうだ!見覚えがあるだろう!?」

 

その手首にはウサギの柄が彫られたブレスレットがキラリと光っていた。

 

「ん?これは・・・」

 

どこかで買って誰かにプレゼントしたような・・・。しかし、そんな店に俺がいつ寄った?それに誰と?いつこの娘にあげた?

頭の中を色々な光景がフラッシュバックする。

 

な、何だ?この光景は━━

 

『ワールド・パージ、異常発生。異物混入。排除開始』

 

━━ズキッ!

 

「ぐっ!・・・あ、頭がぁ・・・!」

 

ヨタヨタッとふらつく。

激痛の中、女の子がナイフを抜いてガッツを睨むのが見えた。

何事だ?と思い、ぼやける視界の中ガッツに視線を向けると━━

 

「命令遂行。異物の排除を開始」

 

無表情のガッツが立っていた。

 

「ガッツ?お前、何を・・・」

 

「強引だが・・・許せっ!」

 

━━パシィンッ!

 

「っ!?」

 

いきなり左頬を平手打ちされた。

はたかれた部位がヒリヒリする。今鏡の前に立てば、キレイな紅葉を見ることが出来るだろう。

 

「ウィル、目を覚ませ!!」

 

「いってぇ・・・ラウラ(・・・)、いきなり何を・・・ハッ!!」

 

今の彼女の行動で、モヤに覆われていた部分が一気にクリアになった。

そうか・・・そうか!俺もまんまと騙されてたのか!

 

「・・・やってくれたな」

 

そう言って、ISを展開する。

 

「ウィル、正気に戻ったのか?」

 

「ああ、おかげ様でな・・・!」

 

ニセガッツと対峙する。

 

「俺の部下に成り済ました代償は高くつくぞ!」

 

言うや否や、俺は30mm機銃を撃ちまくった。

バララララララララッ!!

機銃弾の直撃を受けて、バラバラになるどころか、一瞬で粉煙のように霧散していくニセガッツ。

それと同時に、ガッツだった物から、赤い球体が逃げるように飛んで行く。

それを見て、俺は直感で感じ取った。

 

「あれがコアか・・・!」

 

『QAAM RDY』

 

飛んで逃げようとするコアをロックオンする。

 

「逃がさん!Fox3 ファイア!」

 

発射されたミサイルはコアを追い掛け、そして跡形も無く消し飛ばした。

それと同時に基地がグニャリと曲がり、崩壊し始める。

 

「ウィル!」

 

「ラウラ、掴まれ!」

 

俺はラウラを抱きかかえたまま、ドアに向かって飛翔した。

 

 

電脳世界から帰ると、既に学園のシステムは復旧していた。

俺は報告として、先の学園上空での戦闘、そして『トリニティ』が使用された事を詳細に織斑先生と生徒会長に話した。

トリニティの爆発は先生達も確認しており(まあ、あれだけの水柱が立てば気付くか)、後で捕らえた二人のパイロットを尋問するそうだ。

これでようやく騒ぎは治まった。

・・・とはいかなかった。

 

 

「あぁ・・・眠い・・・今ならどこででも寝れる自信があるぜ・・・」

 

数時間に及ぶ報告を済ませ、重たい体を引きずりながら自室へと向かう。

 

「た、ただいま・・・眠い、死ぬ・・・」

 

そう言ってベッドに倒れ込む。

意識が微睡み始めた頃、ラウラが静かに口を開いた。

 

「ウィル、訊きたい事がある」

 

「んあ?何だ?」

 

随分と真面目な声だな。

 

「・・・ウィル・・・ウィルは、何者なんだ?」

 

「へ?」

 

突拍子も無い質問に間抜けな声が漏れる。

 

「ウィルが閉じ込められていたあの世界。あれは・・・願望などではなく、いつかの記憶ではないのか?」

 

「っ!!」

 

その言葉を聞いて、眠気はどこかへ飛んでしまった。

 

「あれ程の大規模な基地でありながら、そんなものは今まで見た事も聞いた事も無い。少なくとも、あんな基地はどこにも建設されていなかった筈だ。・・・勿論、お前が作り出した幻という可能性を第一に疑ったが、あの世界でのお前の言動を見ているうちに確信へと変わった。普段のお前は、何かを隠している。と」

 

「・・・・・」

 

流石、特殊部隊の隊長を任されているだけあって勘が鋭い上に状況整理も素早い。

 

「頼む。話してくれないか?」

 

もう言い逃れは出来んか。

これが年貢の納め時っていうやつなのか?・・・信じる信じないに関係無く、話さないと解放してはくれなさそうだ。

俺はゆっくりと口を開いた。

 

「・・・・・・ラウラ、もし『異世界』が存在するって言ったら、お前は信じるか?」

 

「異世界・・・?」

 

「そうだ。・・・俺はこことは違う世界でも空軍に所属していたんだ。階級は中佐で、所属する隊は『ウォーバード隊』その部隊長を任されていてな。ある日、以前から睨み合いが続いていた軍事大国が宣戦を布告。戦争が始まったんだ」

 

遠い目をして語るウィリアム。

 

 

 

『緊急ニュースをお伝えします!本日、○○公国が我が国に対し、宣戦を布告しました!繰り返します━━━』

 

 

『クソッ!ビッグバード2が火を吹いてるぞっ!』

 

 

『嘘でもはったりでも良い!アクーラが来ていると言えっ!!』

 

 

『今さら迎撃とはな、遅いぞノロマ共!』

 

 

『対空システムオフライン!!』

 

 

『滑走路上の全機に告ぐ!炎上中のタンカーは操縦不能。緊急着陸を敢行する為、離陸待機中の機体は可能な限り散開せよ!』

 

 

 

「戦況は泥沼化していき、痺れを切らした敵は主力を結集。臨海首都への直接攻撃に踏み切ったんだ。こちらも出せるだけの戦力を投入して敵を迎え撃ったが、その最中、俺は対空砲火の直撃を受けて脱出不能に陥ってしまってな、最後の手段として敵の旗艦へ体当たりをして・・・」

 

「・・・死んだと思ったらここに飛ばされた。と?」

 

「そうだ。死んだ後、神を名乗る人物によってな・・・」

 

「・・・では、あの電脳世界は?」

 

「戦争が始まる半年前。俺が所属していた基地だ」

 

「その記憶が夢として現れたという事か」

 

「ああ、恐らく。・・・すまなかった。騙すつもりは無かったんだ。言っても信じられるような話じゃなかったからな・・・」

 

ラウラがスッと立ち上がり、こちらに歩み寄ってきた。

これは・・・一発は覚悟した方が良いかもな・・・。

そう思い、静かに歯を食い縛り、目を瞑る。

 

━━ギュッ

 

「・・・え?」

 

唐突に感じる温かい感触。

ラウラに抱きしめられたのだ。

 

「異世界だの転生だの、私にはよく分からん。経験した者がお前以外にいないからな。だが、その結果、私はウィルに出会う事が出来た。その神には感謝しなければな」

 

そう言って微笑み掛けてきた。

 

「・・・あんな馬鹿げた話を信じてくれるのか?」

 

「信じるも何も、お前はそんなくだらん嘘を吐くのか?」

 

「そんなことはしない、が・・・」

 

「ならそれで良い。そんな顔をするな」

 

「っ・・・あり、がとう・・・」

 

彼女のおかげで、心の奥のつっかえが一気に溶けて無くなった気がした。

 

 

 

「そ、そろそろ寝よう。明日が休みでも、あまり遅すぎると織斑先生にドヤされる」

 

さっきまでラウラに抱きしめられていた俺は、今になって唐突に恥ずかしくなってきた。

 

「そうだな。今日はもう寝るとしよう。私も疲れた・・・」

 

「それじゃあ、お休み」

 

そう言って、スタンドのランプを消す。

 

「ああ、お休み・・・」

 

俺は幸せ者だな。

そう思いながら、俺は寝床に入って静かに瞼を閉じた。

 

━━今から寝れない夜が始まるとも知らずに。

 

意識が途切れるのを待つように静かにしていると、ゴソゴソとラウラのベッドから音が聞こえた。

ん?ラウラのやつどうしたんだ?

 

「ウィル・・・」

 

目を開けて、声の方を見ると、暗闇の中でラウラがモジモジと立っていた。

 

「どうしたんだ?何かあったのか?」

 

「いや、その、こ、ここ、今晩は一緒に寝ても良いか?」

 

「・・・は?一緒にって、このベッドでか?どうしてまた・・・」

 

「そ、その、あの電脳世界での事が頭から離れなくてな・・・。だ、ダメか?」

 

しおらしい態度に加え、捨てられた仔犬のような目で見てくる。

まあ、あんな心を抉るような出来事があった後だしな。

 

「・・・仕方無い。どうぞ」

 

ベッドのスペースを空ける。

ギシッと、二人分の重さでベッドが軋む音がした。

さて、今度こそお休━━

 

━━ギュッ

 

「・・・・・」

 

背中越しに抱きしめられた。

 

「おいおい、どうしたんだ?」

 

しかし、返って来たのは静かな寝息だった。

 

「眠ったのか・・・お休み」

 

そう言って、再び瞼を閉じた。

 

「スゥ・・・スゥ・・・」

 

「・・・・・」

 

「スゥ・・・スゥ・・・」

 

「・・・・・」

 

だ、ダメだ!寝れんッ・・・!!

 

 

背中に柔らかい感触と寝息が当たり、ウィリアムは寝れない夜を過ごす事になった。

 

 

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