六日後 空港
「流石は日本の玄関口。凄い人集りだな・・・」
あまりの人の多さに思わず呆気にとられる。
織斑先生に車で空港まで送ってもらった俺達は依頼主であるリッチモンド氏の元へと歩いていた。
「それで、依頼主のいる場所はどこだ?」
「ふむ、渡されたメモによるとこの広場を出た先にある道を右折した個人用格納庫だな」
うっわぁ・・・格納庫まで持ってんのかよ・・・。いや、プライベートジェットを所有してるんだから格納庫くらい持ってるか?
「オーケーだ、早く行こう。だんだん混んできたしな」
「そうだな。遅刻なんてしたら目も当てられん」
そう言って、俺達は人海を掻き分けて行き、目的地である個人用格納庫に到着した。
「ここか。かなり広いな、輸送機が余裕で入る程じゃないか?」
驚嘆の声を漏らしながら、格納庫を見渡す。
「お?やぁやぁ、待っていたよ!今回はご足労ありがとう。君達に依頼させてもらったアラン・リッチモンドだ」
格納庫の広さに驚いていると、高そうなスーツを着た男性が満面の笑みで自己紹介をしながら歩み寄ってきた。
「初めまして。IS学園から参りました。ウィリアム・ホーキンスです」
「同じく、ラウラ・ボーデヴィッヒです」
「おお・・・!やはり頼りになりそうだ。今回はよろしく頼むよ」
そう言って手を差し出してきた。
「こちらこそ」
差し出された手を握り、握手を交わす。
すると、リッチモンド氏は俺の手を両手で包み込むように握り、軽く数回振った後、ポケットから何かを取り出した。
「ところで二人共。早速で悪いんだが・・・記念撮影、良いかな?」
「「・・・はい?」」
き、記念撮影?
予想外の申し出に俺達は困惑してしまう。
リッチモンド氏の両手を見ると、そこにはデジタルカメラが握られていた。
「ルーカス。こっちへおいで」
三脚にカメラを設置しながら、彼は自分の飛行機に向かって手招きをする。
「「?」」
手招きをしている方角へ顔を向けると、飛行機の中から人影が小走りでやって来た。
「これは私の息子の“ルーカス”だ。ぜひ仲良くしてやってくれ」
「初めまして、ルーカスです!」
見た感じ小学4~5年生くらい。元気の良い少年だ。
「おう、よろしくな。ルーカス」
「ささっ!二人共。ISを出してここに並んでくれるかな?」
キラキラした瞳と弾む声色で催促してくるリッチモンド氏を見て若干引きながら、ISを展開して彼とルーカスの後ろに立つ。
「ああ、ボーデヴィッヒ君。もう少し真ん中へ」
「こ、こうでしょうか?」
「そうそう、バッチリだ!おっと、ホーキンス君。すまないがその鮫の顔がよく写るようにしてくれないか?」
「り、了解です」
ほんの少しだけ斜めの方向へ顔を向ける。
その視線の先。彼の自家用機の側では、ボディーガードやパイロット達が苦笑しながらその光景を見守っていた。
「よし、完璧だ!はい、笑って笑って!」
カシャッ!
フラッシュの後、リッチモンド氏は小走りでカメラの元へと向かう。
どうやら上手く撮れたようで、満足そうな顔をしてカメラの液晶を眺めていた。
「なあなあ、兄ちゃん。質問良い?」
お?好奇心旺盛な少年だな。
「良いよ。どんな事が訊きたいんだい?」
ラウラやリッチモンド氏が微笑ましそうに眺めている中、俺はルーカスと目線を合わせる為に姿勢を屈める。
「それじゃあ━━」
━━この後、ウィリアムは止めど無く投げ掛けられる質問の波状攻撃に戸惑いながらも、必死に各個撃破していくのであった。
「つ、疲れた・・・」
「兄ちゃん兄ちゃん。次!次の質問!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・」
俺の疲れなど露知らず、ルーカスは何問目か分からない次の質問を投げ掛けようとしてくる。
おい、ラウラ。笑ってる暇があるなら助けてくれよ・・・。
「こら、ルーカス。あまりホーキンス君を困らせるんじゃない。ほら、そろそろ時間だから飛行機の中に戻っていなさい」
そう言いながら近づいてきたリッチモンド氏は、ルーカスを近くのボディーガードに預け、こちらに向き直った。
「いやぁ、すまない。あの子は大の飛行機好きなんだが、以前キャノンボール・ファストを観戦してからはすっかり君に夢中になってしまって『会って話がしてみたい』としつこくてね。そこで今回の護衛の件を思い付いて依頼させてもらったんだよ。まあ、本音を言うと私も一度会ってみたかったんだが」
そう言って頭を掻き「本当にすまないね」と言いながら苦笑する。
成る程。確かに相棒の見た目はまんま戦闘機だからな。あんなに興奮していたのはそれが理由か・・・なんとも男の子らしい好みじゃないか。
「いえいえ、元気な息子さんじゃないですか」
「そう言ってくれると助かるよ。それじゃあ私も機内に戻らせてもらうよ。何かあればそこにいる整備の者に言ってくれ」
「分かりました」
「それじゃあ、よろしく頼むよ」
そう言って、リッチモンド氏も飛行機の方へと帰って行った。
「さて、俺も準備を済ませるか。ラウラ、どうだ?」
「こちらは問題無しだ。ウィルは?」
「ああ。給油が完了次第直ぐに飛べるぞ」
そう返しながら、整備員達にISの給油口へ燃料を給油してもらう。
因みに今回は距離が距離だけに、内装タンクでは足りないので、
ガゴッという接続音の後、外部モーターが低い唸り声を上げ、燃料を注入し始めた。
「給油完了です!」
整備員の一人がサムズアップし、他の者がポンプと外部モーターを重そうに引っ張って行く。
「了解。給油感謝します」
そう言って俺もサムズアップを返した後、自身の周りから人が離れたのを確認してからいつもの手順でジェットエンジンを作動させた。
▽
「レーダーに反応無し。静かで平和なもんだ」
空港を離陸した俺達は、もうすっかり暗くなった夜の空を警戒中だ。
リッチモンド氏のプライベートジェットを中心に、左にラウラ、右に俺が展開するような形で飛行している。
一寸先も見えず、レーダーと計器だけが頼りの真っ暗闇だが、プライベートジェットからの灯火や、バスター・イーグルの航行灯、編隊灯などが放つ光によって、幻想的な雰囲気を作り出していた。
「確かに不審な影は見えないが・・・。あまり気を抜くんじゃないぞ」
「平和なもんだ」と言う俺の発言に、ラウラが戒めるように注意してくる。
「おいおい、心外だな。確かにお喋りはしていたが、気を抜いた覚えは一切無いぞ?」
そんな事を言っている内に、視線の先に夜の都市をきらびやかに照らす灯りが見え始めた。
「お?見えてきたな。香港だ」
リッチモンド氏の飛行機が滑走路へのアプローチに入るの見て、俺達も徐々に高度を下げて行いった。
着陸した後、3時間程休憩してからドバイへ直行する予定だ。
あれから、特になにごとも無く時間は過ぎ、香港を発ってから約四時間後の午前7:25頃。
天候は快晴。太陽が眩しいくらいだ。
「香港を出て、ドバイまでもう半分を切ったな。砂漠がよく見えるようになってきた」
下に広がる黄色い地表を見たり、時折飛行機の窓から手を振ってくるルーカスに手を振り返したりしながら、ラウラに話し掛ける。
「そうだな。大分日差しもきつくなってきたぞ」
「日焼けには十分注意しろよ?特にお前の肌は強い日差しに弱そうだからな」
ハッハッハッ、と笑いながら注意喚起する。
「大丈夫だ。シャルロットから日焼け止めを借りてきているからな」
ラウラのやつ、実は案外ノリノリなんじゃないのか?
「そいつは用意周到なこった。っと、もう少しでアラビア海に出るな。この調子だと何の問題も無く着けそうだ」
「ウィル、無闇矢鱈にそう言うフラグを立てるな」
「フラグ?それがどうした?」
俺の問いに、ラウラが自慢気に応答してくる。
「前にクラリッサから聞いた。先程のウィルのような発言は、後に面倒な事が起きる予兆だとな」
「ああ・・・。それって映画とかでよく見る、『俺生きて帰ったら~~』みたいなやつか」
そう言った奴に限って、後で壮絶な死が待っている事が多い。所謂死亡フラグと言うやつだ。
「けどなぁ・・・フラグなんてもんをおっ立てたからって、そう簡単に未来が変わる訳ないだろ。そう言うのは映画の中だけだ。まったく、日本のサブカルだけじゃなく、妙な知識まで━━っ!?」
「どうしたんだ?・・・ウィル?」
突然黙りコクった俺を不審に思い、心配そうに声を掛けてくるラウラ。
「・・・どうやらその副官殿は本当に優秀な人物のようだ。今度菓子折りを持って謝りに行かないとな」
「ウィル?」
冗談混じりにそう話すウィリアムだが、その声はいつもより低く、視線はレーダー上に映る二つの光点を睨んでいた。
「遠距離にレーダー反応。数二つ。
「何っ!?」
ラウラが驚くのも無理は無いだろう。
ウィリアムは自身のISの強力なレーダーによって機影を確認出来たが、それ以外のISにそのような装置は搭載されていない。つまり、バスター・イーグルとその他のISでは探知距離が格段に違うのだ。
「パイロット。今日この時間帯にこの空域を航空機が通る予定は?」
無線でリッチモンド氏の飛行機のパイロットに確認を取る。
「いや、航行表にそんな事は書かれていなかった筈だが・・・」
・・・こいつはいよいよ怪しくなってきたぞ。
普通、民間の旅客機にもIFFは搭載されているものだ。それなのに、連中にはその反応が無い。
それに加え、航行表に記されていない筈の航空機。しかもそれが二機ときた。こうも偶然が連続するか?
「ラウラ、確認と無線による通告を行ってくる。
目的は不明だが、もし相手が敵で、こちらを抜けて来られた場合、彼らを守る術が無くなってしまうからだ。
「了解した」
ラウラの返事を聞いた後、俺は武器システムに火を入れる。
どうやら周りの異常に気付いたのか、ルーカスが窓から心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫だ。任せとけ」
そう呟いてサムズアップした後、主翼から丁度燃料が空になったドロップタンクを投棄する。
パージされたタンクが光の粒子となって拡張領域に戻ったのを確認してから、俺は右に旋回して反応のある方角へと飛んでいった。
さて、そろそろ無線通告を行うか・・・。
「航行中の不明機に告ぐ。こちらは━━っ・・・不明機より
直後、ミサイルの接近警報が鳴り響いた。
「チッ、アクティブホーミング!!」
ミサイルを回避する為、チャフとフレアを同時に放出する。
フレアが熱探知ミサイルを撹乱するのに対して、チャフはアルミニウム片などを撒いて、敵のレーダーや
飛来したミサイルはチャフによって目を潰され、明後日の方角へと飛んでいった。
「回避出来たか。随分と金の掛かるご挨拶だな」
改めて、撃ってきた方角を睨む。
そこには以前に見た事がある白色の機体が飛翔していた。
「あれは・・・ターミネーターか・・・」
そう。以前IS学園が襲撃された日に交戦した無人機だ。
「まさかまたこいつらと戦う事になるとは・・・。
アクーラ、
直ぐ様急旋回し、1機目の後ろを取って照準を合わせる。
相手は俺を振り切ろうと、その場で人型へと変形して空気抵抗を増やし、急減速の姿勢を取る。
またあの減速機動かっ!・・・だが!
「同じ手が通用するかっ!」
以前の経験を活かして、相手の未来位置に機銃を発砲する。
ドカドカドカッ!と、白く小柄な機体の至る所に拳が丸々入るほどの被弾孔をいくつも開けられた無人機は、空中に大輪の花を咲かせた。
「おやすみ!」
エアインテークに破片が入らぬよう、爆煙を避けながら次の目標を見据え、襲い掛かる。
「逃がさないぞ・・・!」
敵は機械的で無機質な機動を繰り返しながらこちらを引き剥がそうと三次元に飛び回り、後ろに腕を伸ばして機銃を発砲してくる。
━━が、しかし
「敵機捕捉・・・発射」
飛んでくる砲弾をヒラリと回避したウィリアムは、目の前の無人機にお返しの機銃弾をお見舞いした。
ドンッ!!
尾部を孔だらけにされた無人機は、燃料タンクに火が回ったのか、大きな爆発と共に機体後部が脱落し、破片を撒き散らしながら墜ちていった。
「よし、仕留めた!」
しかし、喜ぶのはまだ早い。
「ん?・・・おいおい・・・!!」
脱落したのは後部だけで、機首の辺りはまだ原型を保ったまま高速で吹っ飛んでいたのだ。
しかも、軽くなった上、先程の爆風でさらに加速がついている。
「まずい、その進行方向の先には・・・!」
無人機の機能は停止しているので、攻撃される心配は無いが、高速で突っ込んでくる飛来物は、例え中身が爆発物でなくとも十分な威力を持つ。
ミサイルは?・・・ダメだッ!今からでは間に合わない。なら機銃は?・・・これもダメだ。外れたらその先にいる彼らに直撃する可能性があるし、民間規格の機体なら一瞬で火だるまだ。となるとこちらでの対処は難しい。
「ラウラ、問題発生だ!無人機の一つが残骸のままそっちに突っ込んでいる。お前から見て2時の方角だっ!このままだとその飛行機に当たるかもしれん。撃ち落としてくれ!」
彼女に、無線で早口に状況説明をする。
「確認した。ウィル、直ぐそこから退避しろ。砲撃で残骸を破壊する」
返ってきたのは、実に頼もしい返事だった。
「任せた!」
そう言って、俺は急ぎその場を離れる。
直後、一筋の青白い光が残骸へと伸び、それを跡形も無く粉砕した。
「目標の完全破壊を確認」
「こっちでも確認した。ラウラ、グッドキル!助かったよ」
レーダーの精度を若干下げ、代わりに探知範囲を上昇させる設定にしながらラウラに称賛の言葉を贈る。
今のところレーダーに反応は無い。どうやら、さっきの2機だけだったようだ。
俺はレーダーの反応に逐一目を光らせながら、ラウラ達の元へと戻っていった。