「あ゛ぁ゛~。あぢぃ・・・流石ドバイだ・・・」
現在ドバイ観光街。気温約36度。降水量0%
茹だるような暑さだろ。嘘みたいだろ。10月なんだぜ。これで。
俺は軍支給のサングラスを掛け、フラフラとした足取りで歩きながら、元気そうに前を歩くラウラとルーカスを追っていた。
端から見れば変人に見えなくも無い。
二時間前━━
「これがブルジュ・ハリファか・・・生で見るとバカデカイな・・・」
「ああ。IS学園の中央タワーより数倍はあるぞ・・・」
俺とラウラは驚嘆の声を上げながら、828メートル先を見上げる。
あの戦闘の後、無事ドバイ国際空港に到着した俺達は、そのまま手配されていた車に乗って、この世界で最も高い超高層ビル━━『ブルジュ・ハリファ』の根元に立っていた。
「さて、それじゃあ私はこのビルに用事があるから一度失礼するよ。久しい知り合いとの会談があってね」
そう言って、二人のボディーガードと共に歩いて行く。
・・・ん?失礼するってどういう事だ?
「お待ち下さい。念の為、我々も同行した方が良いのでは?」
ラウラの進言は最もだろう。いくらセキュリティの高い屋内とはいえ、何があるか分からないものだ。
先程の襲撃もあったと言うのに、いくら何でも軽すぎる。
「そうですね。彼女の言う通り、自分達も付いて行った方が良いと思います」
「ああ、私なら大丈夫だよ。この二人に付いて来てもらっているからね」
そう言って、横に立っている二人のボディーガードに目を向ける。
「そうだ、二人の紹介がまだだったね。まず右側に立っている彼がアーノルドだ」
そう言うと、黒髪大柄で筋骨隆々、両手にマシンガンやロケットランチャーなどの重火器が似合いそうな人物が前に出てきた。
「初めまして。“アーノルド・メイトリックス”だ。会えて光栄だよ」
自己紹介を終えると、大きな手を差し出してきた。
「こちらこそ光栄です。メイトリックスさん」
俺、ラウラの順番で、その手を握り返す。
「そして、私の左に立っている彼が・・・」
もう一人のボディーガードが前に出てくる。
「“秋山和也”だ。話はよくルーカス君から聞いているよ。よろしく!」
おお、日本人か。
見た目は茶髪の地毛に、日本人の中でも高い部類の身長。
服のせいで遠目では細身に見えるが、それでもガッチリと無駄の無い筋肉が付いている事が窺える体つきだ。
それにしても随分と国際色豊かだ。あのプライベートジェットのパイロット二人はスラヴ系とヒスパニック系の人だろうし、秋山さんは日本人だ。メイトリックスさんはアメリカ人のようだが、それだけこの財閥が世界中から人が集まる程の影響力を持っているという事か。
「ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言って、握手を交わした。
挨拶が一通り終わったのを確認して、リッチモンド氏が再び口を開く。
「二人とは長い付き合いでね。今回の遠出にも付き合ってもらったんだよ。私の護衛は彼らに任せるから、君達は息子と一緒に観光してやってくれ。会談なんてつまらないだろうし、第一こんな所には滅多に来れない珍しい機会だからね」
━━そして今に至る。
メイトリックスさんと秋山さん。両者共にプロであることが窺えるが、それでも心配は拭えない。
・・・良い父親であるのは分かる。分かるんだが、些か危機感に疎いと言うか何と言うか・・・。
「何をしているウィル。はぐれるぞ」
「兄ちゃん、早く早く!」
そんな事を考えながらノロノロと歩く俺を見て、ラウラとルーカスが声を掛けてくる。
「元気過ぎるだろ・・・。はいはい、少し待ってくれ」
そう言いながら、少し早歩きでラウラ達の元へと向かって行った。
正午もとっくに過ぎ、少しずつ日も傾き始めた頃。
「ふむ、これは中々美味いな・・・」
「この“バクラバ”ってクッキーめちゃくちゃ美味いよ!」
ラウラとルーカスは口元に食べカスを付けたまま、直ぐそこの売店で買った物を実に美味しそうに頬張っている。
普通ならここで微笑ましい光景に口元を緩めるところだろう。
「」
ここに、灰のように白くなっている男を除けば。
くっ!確かに予めドバイ国際空港で多めに両替して来たよ!ああ、して来たとも!
・・・でもさぁ━━
━━ど ん だ け 食 う ん だ よ ッ ! !
え?え?ラウラとルーカスめっちゃ食うやん!?怖ッ!食べ盛り怖ッ!
一個一個の金額は大した事はないが、それを繰り返すとどうなるか・・・。
彼女達の満腹メーターに反比例して俺の財布からは紙幣や硬貨に翼が生えて飛んで行く。
「ああ・・・財布が軽く、薄くなっていく・・・ん?」
絶望した顔でラウラ達の後を追いながら、ふと、何の気無しに近くに駐車されていた車のサイドミラーに目を移した。
「・・・あの黒のSUV、さっきも見た車種だな・・・それに、ナンバープレートも意図的に隠してる・・・?」
この手の護衛経験は皆無だが、あのSUVを見た瞬間、俺の脳内に警鐘が鳴り響いた。
明らかに怪しいと思い、急ぎ足でラウラの元に近寄り、耳打ちする。
「ラウラ、どうやら尾行されているようだ。後方に黒のSUV。さっきからずっとだ」
「ああ、そのようだ。私もつい先程確認した。どうやらこちらにバレないよう、この辺りをランダムに周回しているようだ」
「どうする?」
「こちらに危害を加えるにせよ、流石に人前で大胆な行動には出られまい。隙を見て撒くぞ」
成る程、この観光客の波に紛れる作戦か。
確かに、連中も俺達が人混みに隠れたら探すのに骨を折りそうだ。
「了解だ。・・・ルーカス、あっちに上手そうな食い物が売ってるぞ」
「え?マジで!?行く行く!」
「ふふっ、それじゃあウィルに買ってもらうとするか」
「そ れ は 勘 弁 し て 」
そう言いながら、俺達は人混みの中へと消えていった。
先程のやり取りをしながら、尾行を撒いて早数時間。
もうリッチモンド氏も会談を終えているだろう。日も暗くなり、そろそろ門限の時刻も近付いてきていた。
「さて、もうこんな時間だ。そろそろ帰ろう」
腕時計の時刻をルーカスに見せながら、ホテルに帰ろうと促す。
「そうだな。辺りも大分暗くなってきたし、人通りも少なくなってきたぞ」
「えー・・・、まだ面白そうなのが一杯あるのに・・・」
俺とラウラの言葉にルーカスが駄々をこねる。
「ほら、そう言うなよ。あまり遅いとパパに怒られるぞ。後で面白い話を色々聞かせてやるから。な?」
それに、これ以上買い食いをされると俺の財布が今度こそご臨終なさってしまう。
「・・・分かった」
なんとか分かってくれたようだ。
聞き分けが良くて助かる。
「よし、なら帰るか」
そう言って帰路に着こうとしたその時━━
「━━動くな」
「「「っ!!」」」
建物の陰から男が三人現れ、静かにそう告げてきた。
相手は私服。どうやら変装のつもりらしい。
「これが見えるなら、大人しく付いて来てもらおうか」
三人の内の一人が周りに見えないようにしながらサプレッサー付きのピストルをこちらに向けてくる。
暗くなり人の往来が若干少なくなってきたとはいえ、こんな場所では下手に暴れられないと踏んだ俺とラウラは大人しく従う事にした。
━━今だけは。
怯えるルーカスを宥めながら連中の言う事に従って付いて行くと、人気の無い建物の裏に着いた。
「おい、Mこいつらはどうする?」
「必要なのはそこのチビだけだ。残りの二人は始末しよう。放って置くと面倒だ」
「確かにな」
男達はこちらを見ながら今後の方針について話し合っている。
「それじゃ、悪いがお前らには消えてもらうぜ。恨むならこんな終わり方にした神様を恨むんだな」
男の一人がピストルを突き付けながらそう言ってきた。
成る程、俺達を始末する気か。IS持ち相手にピストルなんて━━ん?待てよ・・・。もしかしてこいつら俺達がIS乗りである事を知らないのか?だとしたら・・・!
「へへっ、怯えて一言も喋らねぇや。楽な仕事だぜ。なぁ?F」
「全くだ。チョロ過ぎて逆に心配になってくるよな。おいT」
「あ?」
「さっさと片付けちまおうぜ」
「はいはい、わーってるよ」
相手は見るからに油断しているようであるが、その油断が全てを覆す事になる。
Tと呼ばれた男が一瞬だけ目を離した隙に俺とラウラは目配せし合うと、直ぐ様行動に移した。
「俺達にゃ後で冷えたビールを、お前らには熱い鉛弾を。って・・・な・・・はへ?」
引き金を引こうとした男は斜め上を見上げたまま固まってしまった。
後ろの男達も口をあんぐりと開けたまま唖然としている。
彼らが固まってしまったのも無理も無いだろう。
何故なら、今から殺そうとしていた二人の姿は無く、身体を装甲で覆い、身の丈が少なくとも2~3mはある“鮫”と“ウサギ”が月明かりをバックにこちらを見下ろしていたのだから。
「「「」」」
「・・・ルーカス、少し下がってろ」
「直ぐ終わらせる」
「分かった!」
目を輝かせながら元気に返事をしたルーカスが近くの物陰に隠れたのを確認してから、再度男達に向き直る。
「・・・それで?あんたらには冷えたビールで、俺達には何だって?」
ニヒルな笑みを浮かべながらそう聞き返す。
「━━ハッ!?お、おお、お前ら、まさか・・・!?」
「あ、IS乗りかよ!?」
「」
持っているピストルを取り落としたり、その場で尻餅をついたり、呆然と立ち尽くしたりと、三者三様の反応を見せる男達。
「さて、全部スッキリ
「言っておくが、余計な行動は起こさない方が身の為だぞ」
「「「ひ、ひぃ!?」」」
俺が76mm砲を、ラウラはレールカノンの照準を向けながら、この三人組に洗いざらい白状するように