空軍パイロットのIS転生記   作:Su-57 アクーラ機

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第83話

現在時刻午前7:30分。

 

 

「ハァ~、あづいぃ・・・」

 

デルゥ基地正門では、こんな暑い砂丘の中であるにも関わらず、分厚い装備を纏った亡国機業の兵士達が車や建物の影で休んでいた。

 

「それ以上言うな、余計暑くなる」

 

「暑いもんは暑いんだ、仕方ねぇだろ?何が楽しくてこんなフライパンみてぇな砂丘で突っ立っとかなきゃいけねぇんだよ」

 

「確かになぁ。ったく!俺達が暑い中立ってる間、非番の奴らはキンキンに冷えた水と冷房の効いた仮兵舎を満喫してるんだぜ、きっと。扇風機の一台くらい寄越せってんだ!」

 

「あづいぃ・・・」

 

「まったく、ブラックだぜ・・・。新しい職でも探そうかな」

 

「あづいぃ・・・」

 

「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛もう!!うるせぇっ!!少し黙ってろっ!!」

 

暑さで疲れと苛つきの溜まった兵士達はそれぞれ愚痴を叩き合う。

 

「おい、いい加減車から降りろよ。俺達にも冷房を浴びさせてくれ」

 

「えぇ~、10分で100ドルな?」

 

「・・・100円じゃダメか?」

 

「ドルに換算したら、雑に見積もっても0が二つほど足りねぇだろ」

 

「チェッ、ケチケチすんなよ。お前ら散々浴びただろ!こっちは暑くておかしくなりそうなんだ!」

 

そんな事を言って騒いでいると、近くに停めてある八輪式IFV(歩兵戦闘車両)のハッチの一つから、戦車帽を被った兵士が顔を覗かせた。

 

「なぁに言ってやがる。俺達なんてずっと冷房の無い装甲車の中だぞ?ハッチを閉めたらそれこそ地獄だ・・・」

 

「おまけにこの暑さと砂のせいで機器冷却用の装置まで壊れたんだよ。おい、自動照準装置はどうだ?」

 

もう一つのハッチから鼻の頭に(たま)のような汗をかいたガンナー(砲手)の兵士が下を覗き込むようにして、修理中の仲間に訊く。

 

「・・・ダメだな、冷却装置がイカれたせいでこっちまで被害を被ってる。まぁ、そろそろオーバーホールしなきゃいけない車体なんだ、良い機会だぜ」

 

「おいおい、今日の分はどうすんだよ。直るのか?」

 

「さぁ?今やってるところだ。このオンボロがっ・・・!」

 

そう言いながら、手を油まみれにした兵士が、ガンッと装甲車の頑強なホイールを蹴飛ばした。

 

「整備の奴を呼んで来た方が早くないか?」

 

「じゃ、頼んだ」

 

「げぇ!?お、俺はガンナー席の担当だからいざと言う時の為に持ち場は離れらねぇな・・・あ、アハハ・・・」

 

「なら俺だって操縦担当なんだが?」

 

「と、見ての通りだ。突っ立ってるだけのお前らなんざ良い方さ。後、そこの四駆に籠ってる連中は引き摺り降ろせ、おサボりは禁止だ。あぁ、水筒どこ置いたっけな・・・」

 

そう言いながら蒸し風呂の中に戻って行ってしまった。

 

「なぁ、俺達って結構な貧乏クジ引いたよな?」

 

「そんなクジ欲しくもねぇ・・・これで誰か倒れても労災は下りないんだろ?」

 

「やっぱり別の職を探すか・・・」

 

「まぁ、良いじゃねえか。もうすぐしたら交代だ」

 

「もうすぐっていつの話だよ。・・・だあっ!畜生っ!煙草でも吸わねぇとやってられん!えぇと、ライターはどこに・・・チッ、オイル切れか。おい、火貸してくれ」

 

「ああ、少し待ってろ。今出して・・・ん?」

 

「おい、早くライターを・・・どうした?」

 

「いや、向こうで妙な砂煙が上がっててな」

 

兵士が指差す方角、そこには確かに砂煙が上がっていた。この辺りではちょっとした風が砂塵を撒き散らす事はよくある。

だが、明らかにおかしな点が一つ。とてつもない速度でこちらに向かって来ていたのだ。

まさか、侵入者か・・・?

 

「おい、お前の双眼鏡貸せ」

 

そう言って、双眼鏡を引ったくるように手に取って、それを両目に宛がう。

どうせ、備品狙いの馬鹿共だろう。車に数発当てたらビビって引き返すさ。ま、ストレス発散には丁度━━っ!?

 

「な、なあっ!?」

 

「「「っ!?」」」

 

彼が何を見たのか。

双眼鏡の二枚のガラスの先には、真っ黒なISを駆る銀髪の少女。そして、その横を飛ぶ灰色の全身装甲で矢じりのような見た目と鮫面の大柄なISが砂煙を派手に上げながら迫っていたのだ。

 

「お、おい!あれってシャークマウスじゃねーか!?」

 

「シャークマウスって言ったら・・・サベージがギャーギャー騒いでいた野郎か!?」

 

「おい、横の黒いのはドイツの・・・!?」

 

「何でこんな所に!?いや、待てよ・・・まさか昨日ここから離陸したターミネーター二機を墜としたのって!?」

 

「くっ!鮫だろうがドイツの候補生だろうが、邪魔するならここで撃ち墜とせば良いだけの話だ!おい、装甲車!車載機銃でズタズタにしてやれ!!」

 

「い、今エンジンを始動中だ!砲撃ポイントに移るまで待ってくれ!ここからではガンナーが上手く狙えない!」

 

「はぁ!?何で先にエンジンを点けてなかったんだよ!」

 

「冷却装置が壊れたって言ったろ!?こんな所で点けっぱなしにしてみろ、エンジンが燃えちまうぞっ!!」

 

焦りと混乱から来る苛立ちを同僚にぶつけたら、至極真っ当な反論が返ってくる。

 

「下らん喧嘩は後にしろ!装甲車、エンジンは後回しで良いからその場で砲撃しろ!」

 

「り、了解。砲搭左37゜旋回!」

 

装甲車の砲搭が低い動作音を上げながらゆっくりと左に旋回し、目標に向けて発砲を始める。

 

「やはり場所が悪い上に照準装置が逝ってるせいで上手く当たらない・・・!」

 

「構わん、一発でも急所に当たれば良い。当たらなかったとしても牽制にはなる。撃ちまくれ!」

 

兵士達はライフルをフルオートで、装甲車は役に立たなくなった照準装置を手動照準で穴埋めしながら、当たる当たらないに関わらず一心不乱に乱発する。

 

「畜生っ!こんな仕事なら行かなきゃ良かった!」

 

「いいから無駄口じゃなく敵を叩けっ!!おい、今直ぐに携行式地対空ミサイル(スティンガー)を持って━━」

 

「ひ、光った!?全員伏せろっ!」

 

一人の兵士が敵からの攻撃を報せた次の瞬間、飛んできた無数の砲弾が兵士達から少し離れた所にあった武器庫を吹き飛ばした。

ほんの少し遅れてから、耳元をハチが飛ぶような音が聞こえてくる。

 

「武器庫の中にはスティンガーが・・・これじゃまともに応戦出来ない・・・!」

 

燃え盛る武器庫だった瓦礫を前に、蒼い顔をして立ち竦む兵士。

 

「たかがミサイル数発が何だ!どうせ当たらなくて給料から引かれるだけだ!」

 

「よ、よし!エンジンが掛かった!」

 

「本当か!?ならさっさと砲撃ポイントに移るぞ!鮫野郎め・・・いつまでも飛ばせておくかっ!」

 

そう言って、装甲車のガンナーが25mm砲の照準を空を優々と飛ぶ忌々しい鮫に定めて━━

 

バギィ!!ゴギギギ、ギ、ギ・・・!

 

「うわっ!?」

 

突然、12.8tもある車体が大きく傾き、狙いがぶれた。

 

「な、何だ!?いったい何が・・・ひっ!?」

 

「どうしたガンナー!いったい何が━━」

 

ガンナーの反応を訝しんで、車長が外部視認用カメラの画面を覗く。

そこにはコロコロと虚しく転がって行く大きなタイヤが四つと、散り散りに逃げて行く兵士達。

 

「「」」

 

━━そして左目に眼帯を着けた少女と画面越しに目が合った(・・・・・・・・・・)

 

「━━ハッ!?が、ガンナー!この距離じゃ25mmは使えん!同軸機銃(コアキシャル)を使え!」

 

「り、了解!」

 

指令通りに同軸機銃を発射するが、機銃と一体化している25mm砲の砲身を掴まれ、目の前の黒いISとは別方向に火を噴いていた。

少女は唸りを上げる砲搭を片腕で固定したまま、もう片方の腕から展開した薄紫色のブレードを振り上げ、合金製の砲身をまるで暖まったバターでも切るかのように切り落とした。

 

「ほ、砲身を根元から・・・!?」

 

「始めから勝ち目なんて無かったんだ・・・!」

 

完全に自分達が詰んだと理解した乗員達はハッチから大慌てで這い出て、何度か(つまず)きながら逃げて行った。

 

「ああ!IFVがやられた!」

 

「もうダメだぁ・・・お終いだぁ・・・」

 

「勝てる訳が無い・・・!」

 

「くっ!ただでさえISが相手なのに、装甲車まで無力化されては牽制すら出来ん!下がるぞっ!」

 

そう言って、正門の守衛達は基地の方へと後退して行った。

 

 

「よし、相手はかなり混乱してるな、まさかISが攻めて来るとは思うまい。基地からの攻撃は激しいが正門はもう機能していない」

 

ウィリアムは、騒ぎに気付いて下から必死に攻撃をしてくる兵士達を見下ろしながら上空を旋回していた。

 

「ウィル、装甲車を無力化した。これで彼らが安全に通れる筈だ」

 

装甲車の車輪と砲身をプラズマ手刀で切り落とし、完全なオブジェに変えたラウラが無線で撃破報告をしてくる。

正門付近は、死人の出ない一方的な蹂躙劇となっていた。他の兵士は戦意喪失、自分達が生き残るので必死だ。勿論、命を奪うつもりなど毛頭無いが・・・。

 

「ナイスだラウラ!」

 

ラウラに向けてサムズアップした後、俺は三人の乗る車へと近づき、ハンドサインで『行って良し』と伝える。

俺達IS組が態と目立つように暴れて敵を釘付けにし、その騒ぎに乗じて秋山さん、アーノルドさん、ルーカスのチームが基地に侵入してリッチモンド氏を救出する算段だ。

作戦通り、敵は完全に俺達に集中していた。

俺のハンドサインを確認した秋山さん達は、ボロボロになった正門を抜けて行く。

それを確認した後、死傷者が出ない程度に基地の車両や設備に攻撃を加えていった。

 

 

「急げ!スティンガーと予備の弾倉を忘れるなよ!」

 

「クソッ!ブラックシープ隊はまだか!?」

 

「もう間も無く到着するようです!」

 

「分かった、それまではなんとか耐え切るぞ!お前達の班は向こうへ、俺達はこっちだ。よし、行け!」

 

「残りの無人ターミネーターを配置につかせろ!エンジン不調のやつも全部だ!飛べなくても戦力にはなる!」

 

「了解!・・・ズールー1より格納庫。ターミネーターを発進させろ!文字通り全てだ!」

 

『了解、離陸可能な機は直ちに上げます。残りは陸上で?』

 

「そうだ、頼んだぞ!通信終わり」

 

兵士達はこちらに気付かず、バタバタと忙しなく走って行った。

 

「・・・行ったか?和也」

 

「ああ、周りには誰もいない。行くなら今の内だな」

 

「了解だ。行くぞルーカス君」

 

「うん」

 

そう言って、三人は素早く基地内を走って行く。

しばらく走っていると、重装備の兵士二人が小さな掘っ立て小屋の扉の前に立っているのが見えた。

 

「あれだけの騒ぎが起きているのにあいつらは何を・・・?いや、あの先に重要な何かがあるのか?」

 

「ああ、あの歩哨は周りで騒ぎが起きているからこそ、態々あそこに立っているんだと思う」

 

「と言う事は・・・」

 

アーノルドと和也が顔を見合わせ、頷く。

 

「「恐らく、あの部屋の中にリッチモンドさんは居る」」

 

「あそこにパパが・・・!」

 

言うや否や、三人は静かに、そして素早く物陰に隠れながら兵士達の元へと近付いて行き・・・

ドカッ!

 

「がっ!?」

 

「っ!?お、おいどうし━━」

 

ドカッ!

 

「ひでぶっ!?」

 

気付かれないように兵士の背後に忍び寄った和也は目の前の兵士の首筋に手刀を浴びせ、無力化。横ではアーノルドが相手の後頭部を殴って気絶させていた。

ヘルメット越しに殴って気絶って、いったいどんな馬鹿力なんだよ・・・。

 

「ルーカス君、もうこっちに来て大丈夫だ」

 

兵士のポケットから鍵を探り出しながら、物陰のルーカスに手招きをする。

少しすると、ズボンの後ろポケットから小さな鍵が出てきた。恐らくこの小屋の鍵だろう。

 

「よし、鍵があった。アーノルド、ルーカス君、行くぞ」

 

そう言って、兵士が持っていたタクティカルナイフ二本を拝借した後、ドアの施錠を外して勢い良く開ける。

 

「なっ!?貴様は!?」

 

室内には見張りと思われる兵士一人と、椅子に縛り付けられた状態のアランがいた。

相手はこちらとの距離からナイフでの応戦が適当と判断し、ホルスターからナイフを抜いて斬り掛かってくる。

 

「このっ!」

 

「フッ!」

 

首筋を狙った斬撃をしてくるが、上半身を後ろに少し傾け、それをかわした。

 

「ハンッ!一度は護衛対象を奪われた負け犬じゃねえか」

 

「そうだな、一度はお前達にしてやられたな」

 

心理戦が目的なのか、話し掛けてくる兵士に和也はナイフを構えたまま返答する。

 

「まさか、取り返そうってか?」

 

「ああ、今度はこっちがやり返す番だ。ここまでガバガバのセキュリティだったぜ?どうぞ通って下さいってか?」

 

「・・・その減らず口を黙らせてやるっ・・・!!」

 

激昂した兵士が今度は首を狙った突きの攻撃をして来るが、ヒラリとそれをかわし、攻撃が空振った兵士のナイフは壁に刺さる。和也はその隙を逃さず壁に刺さったナイフを蹴って更に深く刺し込んだ。

 

「っ!?し、しまった━━グッ!?」

 

そのまま、動揺する兵士の首裏をナイフの柄で殴って気絶させる。これで見張りの兵士は全員無力化し終えたようだ。

 

「ルーカス・・・?それに二人も・・・っ!?後ろだ!」

 

「ぐ、ぐ・・・お前ら、あの時のぉ・・・!」

 

そう言って、外で気絶させた筈の兵士の一人がフラフラと立ち上がりながら腰からピストルを抜いて構える。

ガスッ!!

 

ア゜っ!?

 

ルーカスが近くにあった廃材の中から引っ張り出したパイプで兵士の股を思い切り殴り、今度こそ完全に無力化した(落とした)

 

「う、うわぁ、何て言うか、うわぁ・・・」

 

「う、む、これは・・・」

 

「ルーカス・・・」

 

あまりの惨劇に和也とアーノルドは冷や汗を流し、父親であるアランでさえ、顔が引きつっていた。

 

「パパ!!」

 

ルーカスが脱兎の如く父親の元へと走って行き、冷や汗を流していた二人も気持ちを切り替える。

 

「リッチモンドさん、ご無事ですか?」

 

「今、この縄を切りますので動かないで下さいね」

 

アーノルドが周囲を警戒し、和也はルーカスとアランのやり取りを安堵した顔で見ながら、先程拝借したナイフで器用に縄を切っていく。

 

「よし、切れた!」

 

「ああ、ありがとう。ようやく手が自由になったよ。ホーキンス君とボーデヴィッヒ君は?」

 

「今、彼らが敵を惹き付けてくれているんです。そのお陰でここまで来れました」

 

「そうだったのか・・・。彼らにも君達にも本当に迷惑を掛けたな・・・」

 

「リッチモンドさん、和也、そろそろ行こう。ここも次期ヤバくなる」

 

アーノルドがそっとドアを開けて外を警戒しながらそう告げる。

 

「そうだな、話は後だ。ここを脱出しよう!」

 

そうして、無事にアランを救助した和也達だが、一つ問題が起きる。

出口までの最短ルートに敵が対空陣地を築き、空に向けて発砲を繰り返していたのだ。

 

「クソッ、仕方ない。少し遠回りにはなるがあっちから行こう」

 

そう言ってアーノルドが指差すのは、他の建物より大きく、長年の直射日光で所々劣化している建物だった。

 

「そうだな、見つかって蜂の巣にされたくないなら、あの道しか無いな。リッチモンドさん、ルーカス君。行こう」

 

「分かった。ここは君達に任せる」

 

兵士達の怒声や銃声をBGMに四人は静かにその場を駆け抜けて行った。

 

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