空港内に入り、しばらく歩き続けると、ロビーから外へ出た先に丁度良いタイミングでバスが停車しているのが見えた。
「お?丁度良い、あのバスに乗るか」
空港の出入口にあるバス停に向かってどんどん歩いて行く。
「待てウィル。どこか空港を出た先に行く宛でもあるのか?泊まる部屋ならここのを借りれるだろう?」
そのままバスに乗ろうとするウィリアムをラウラが引き止めた。
彼女の反応は当然だろう。ウィリアムはまだラウラに言っていない事があったのだ。
「あ、そういや言った事が無かったな。実はこの空港から比較的近い所に『パナマシティ』って町があるんだがな・・・そこって俺の地元なんだよ」
「は?」
ラウラが口をあんぐりと開けたまま固まる。
その顔を見て一瞬吹き出しそうになったが、俺はバスの停車駅が表示されたパネルを指差しながら言葉を続けた。
「このバスの行き先の内にそのパナマシティがあるんだが、せっかくだから家族に顔でも出しておきたくてな。今更訊くのも何だが、ラウラも一緒に来るか?」
ウィリアムの言葉を聴いたラウラは、しばらく脳内処理が追い付かずその場で固まっていたが、ある結果に行き着く。
ウィルが実家の両親に会いに行く。
+
私も同伴。
↓
これ
↓
お義父様とお義母様っ!!
∥
ご両親に認めてもらえれば、ラウラ・ホーキンスorウィリアム・ボーデヴィッヒっ!!!
「あー、別に無理にとは言わんぞ?態々疲れた体に鞭打ってまでついてくる必要は━━」
「も、勿論!私もついて行こう!」
「そ、そうか」
「ご、ご両親へのご挨拶は早い方が良いとクラリッサも言っていたしな」
「ん?何か言ったか?って、顔赤いぞ?フロリダは10月でも陽射しが強い時があるから熱中症には気を付けるんだぞ?」
俺は、突然大きな声で話したり、かと思えば顔を赤くしたり声が小さくなったりするラウラを心配して水を差し出した。
「な、何でも無いぞ!ああ、何でも無い!さあさあ、そうと決まれば早くバスに乗るぞ!」
「え?お、おい、分かったから押すなって!転ける転ける」
ウィリアムは何が何だか理解出来ずにラウラによってバスに押し込まれた。
しばらくバスに揺られていると、だんだんと見慣れた景色が視界に映り込んでくる。
言わずもがな、パナマシティ市内に入ったのだ。バス停までは後少しなので、俺は横の席で寝息を起てているラウラを揺り起こす。
「ラウラ、もうすぐバス停だ。そろそろ降りる準備をしてくれ」
「ん?んぅ・・・ようやく着いたのか・・・」
ラウラがまだ眠そうな目を擦って窓の外を見る。そこには二階建ての平たい家々が広い庭を挟んでいくつも並んで建っていた。
「ここがウィルの住んでいた?」
「ああ、懐かしい俺の故郷だ」
ラウラの問いに答えるウィリアムの顔はとても嬉しそうに微笑んでいた。
『パナマシティです。お忘れ物の無いようご注意下さい』
「フゥ・・・、やっと着いたなぁ、懐かしい香りだ。さ、家はすぐそこだから行こうぜ」
そう言いながら、ウィリアムは懐かしのホーキンス家へ。ラウラはまだ見ぬ未来のお義父様とお義母様の住まう家へ向けて歩を進める。
「ふふ、はしゃぎ過ぎだぞ、ウィル」
そう言ってウィリアムを嗜めるラウラだが、彼女のテンションもかなりのものだろう。
「半年以上も離れていたらこうもなるさ。そういや、あいつらは元気かな━━」
「あーー!!ウィルじゃねえか!!」
「何だって!?」
「うおっ!ほんとだ!」
「しかも横に可愛い娘を侍らしてやがるっ!」
近くで聞き慣れた喧しい声が聞こえる。声の方に顔を向けると、そこには懐かしい四人組がこっちを向いて立っていた。
「よお、久しぶりだな!マイク、ジョニー、アレックス、それと・・・ええっと?」
「ジミーだよ、ジミー・カーター!このやり取り何度目だよっ!」
「アッハッハッハッ!何を今更言ってやがる。この挨拶がデフォルトだろ?なぁ?マミー」
「ジミーだっ!!俺はミイラ男じゃねえっ!!」
この懐かしいやり取りもいつ以来だろうか?ラウラそっちのけで話し込んでしまう。
「おいおい、ウィル。横の女の子がさっきから付いてこれて無いみたいだぜ?」
と、マイクがラウラを見ながら俺にそう告げてきた。
いかんいかん、つい自分の空間に入ってしまったようだ。
「悪いなラウラ。紹介するよ。横から順に
“マイク・ジェンキンス”。俺の家の近くに住んでいて、小さい頃から面識がある。所謂幼なじみってやつだな。
次に“ジョニー・テイラー”。ジョニーは根っからのロシア・・・と言うよりソ連好きでな。色々と曲解してる節もあるが・・・。因みにこいつの家系は代々長男にジョニーと名付けるらしい。
そして“アレックス・ウォーカー”。親が雑貨店を営んでる。趣味は映画観賞で、俺もアレックスに勧められてハマった映画は多い。
最後に“ジミー・カーター”だ。実は射撃が巧いという特技を隠し持ってるんだが・・・まあ、こいつは基本的に弄られ役だな」
「おいっ!?」
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。名前から分かるかも知れんがドイツ人だ。よろしく頼む」
「「「よろしく」」」
一通り自己紹介を終えたところで、ニヤニヤした顔でマイクが口を開いた。
「ところで聞くが、お二人さんはどういったご関係で?」
そう質問してきた。
顔は相変わらずニヤニヤしたままだ。
こいつ、絶対に分かった上で聞いてきやがったな・・・。
「あー、それは、だな━━」
「ウィルは将来、私の伴侶となる男だ」
「」
俺が慎重に言葉を選びながら説明しようとした矢先に、ラウラがめっちゃドヤ顔で俺の腕を抱きながらそう言い放った。
「「「おお~~!!」」」
「この野郎、久しぶりに会ったと思ったら俺達より先に可愛い娘をゲットしてやがって。この、この~」
そう言いながら肘で小突いてくるマイクだが、少ししてからピタリと止めて後ろにいる三人の元へと歩いて行き、何やら話し合いを始めた。
「おい、あいつどうするよ。あんな可愛い彼女までつくりやがって・・・!処すか?それとも処すか?」
「いや、ここはシベリア送りにして、そこで針葉樹を延々と数え続けさせてだな・・・」
「裏切りやがったな。妬ましい・・・!」
「ここは俺をからかってきた分も含めて裏切り者のあいつに裁きの鉄槌をだな・・・」
聞き耳を立てると、とてつもなく不穏な話し合いが聞こえてきた。何か一人だけ関係無い事でも怒っているが・・・。
流石にヤバいと思った俺はラウラの手を取って家路を急ぐ。
「お?何だウィル。もう行くのか?」
俺の事を処す処す言っていたマイクがこちらを振り返る。
「あ、ああ、長旅で少し疲れたしな。じゃあな」
「そうか・・・。と言っておりますが如何なさいましょう?同志ジョニー」
「決まっているだろう?同志マイク。
粛清だ。残念だよ、“元”同志ホーキンス君」
「裏切り者に制裁をッ!」
「この怨み、ハラサデオクベキカ・・・」
背中がゾワリと鳥肌を立てる。
四人全員はいつものような笑みを浮かべいたが、その顔には影が射しているのに加え、双瞳からはハイライトが消えており、口からは物騒な言葉を吐いていた。
「ヤッベ!?ラウラ、しっかり掴まってろよ!」
「な、何!?」
言うや否や、俺はラウラの背中と膝裏に手を回して抱き上げた後、全力で逃走した。
「あ!逃げやがったっ!しかもあれは・・・お姫様抱っこだと!?ちょっと待てやゴルァ!!」
まるでジャパニーズマフィアのように舌を巻きながら怒号を上げて、血走った眼で追い掛けてくるマイク。
「
なぜかロシア語で「万歳」と叫びながら、某赤い国の兵士達のように突撃してくるジョニー。
「野郎ぶっ殺してやる!!」
ナイフを構え、凄まじい顔芸と共に襲い掛かって来そうなセリフを放つアレックス。
「ハハッ!どこへ行こうというのかね?」
閃光で眼を潰されて「目がぁぁ!!」と叫びながら海に落ちて行きそうな奴の言葉と共に走ってくるジミー。
俺は、この四人を相手にリアルでエキサイティングな鬼ごっこをした末に、ようやく懐かしの我が家へとたどり着いたのだった。
「ハァ、ハァ、ハァ。よ、ようやく撒けたか。
ったく、あいつらめ・・・。ラウラ、大丈夫か?降ろすぞ?」
「う、うむ・・・」
そろそろ腕の限界を迎えそうなので、ゆっくりとラウラを地面に降ろす。
「いやぁ、悪いな。あいつら気の良い奴らなんだが、ちょっと色々とな・・・」
「そ、そうか・・・」
さっきからラウラの顔が猛烈に赤い。理由は恐らく先程のお姫様抱っこが原因だろう。だが、あれは非常事態だったんだから仕方が無い。良いね?
「スゥー、ハァー。よし」
緊張した面持ちで玄関のインターホンにゆっくりと指を伸ばし、ボタンを押す。
毎週この日は母さんの仕事が休みだから、たぶん家にいるはずだ。
「はいはい、どちら様で━━ウィル・・・?」
家の中から声が聞こえた後、玄関のドアが開いて中から母さんが出てくるや否や、俺を見て目を丸くしたまま固まった。
「あー、ただいま?」
なんとも変な挨拶と共に、俺は約七ヶ月ぶりの我が家に帰宅した。