「アハハッ!そんな事があったのか~!」
キッチンに父さんの笑い声が響く。
「いやいや、笑い事じゃないんだって・・・」
時刻は変わって今は夕方の飯時。
父さんも仕事が終わって帰宅し、今は俺と父母、そして、ラウラの四人で食卓を囲んでいた。
「まったく、人の往来がある場所であんな話を暴露されるなんて、何の拷問だよ・・・」
玄関で母さんが俺との再会に歓喜した後、俺の後ろにいるラウラに気付いて、「この子は?」と聞いてきたのだ。
確かにIS学園の制服を着てないから、突然見かけない女子が俺のそばに立っていたら「誰?」となるだろう。
『?ウィル、その娘は?』
「ああ、紹介するよ。彼女は━━」
『お、お初にお目にかかります!ラウラ・ボーデヴィッヒと申しますっ!』
ビシッ!と、
緊張し過ぎだろ。ただ俺の母さんと初対面で挨拶するだけなのに・・・。
『あら、礼儀正しい娘ねぇ。息子がお世話になっております』
『い、いえ、私の方こそ、ウィルには何度も助けられていますし・・・。それに、その・・・』
『それに?』
ラウラが顔を赤くしてモジモジしながら口ごもる。
何を言うつもりだ・・・?おい、ラウラ、変な事は言うなよ?せめてこう、オブラートに包むように━━
『こ、恋人同士、ですから・・・。お互いに助け合うのは当然と言うか、何と言うか・・・』
『』
オブラァァァトッ!!
え、何これ?何かの羞恥プレイか!?俺にそんな趣味はねぇ!!
『あらあらまあまあ!そうだったのね!ウィル、あなたも隅に置けないじゃない♪ラウラちゃん、続きは家でしましょ?他にも色々聞かせて頂戴!』
いや、あんたは10代乙女かよっ!?何だよその好奇の視線はっ!?て言うか、まだ続くのか!?
なんて事があったしなぁ。
正直とにかく疲れた。今、食卓の椅子に座ってまともに夕飯を食べてるだけでも褒めてくれ・・・。
「ラウラちゃん、お口に合うかしら?」
「はい、とてもおいしいです。ありがとうございます」
「それなら良かったわ。私、ドイツの人の好物なんて分からないから・・・」
「いえ、この食事には家族の温かみがあって・・・。凄く幸せな気持ちです」
「あら、嬉しい事を言ってくれるわね。ラウラちゃん、何かあったら遠慮無く言ってね?だってあなたは・・・ねぇ?」
ニヤニヤしながら俺の方を向いてくる母さん。俺はそれを赤くなりながら、無視して夕食をがっつく。
「照れちゃってまぁ、ふふっ」
「ハァ、好きに言ってくれ。ああ、水水~っと」
「ウィル、水ならここだ」
「ん、ありがとう父さん」
父さんから水の入ったボトルを受け取り、コップに注いでいると、ゆっくりとラウラが席を立った。その顔は何かの決意で満ち溢れている。
「そ、それでしたらっ、お二人に一つだけお願いが・・・」
「「?」」
お願いって何だ?おかわりは・・・まだ、皿に少し残ってるよな。
そう思いながら、ラウラを横目に俺はコップを傾けて喉を潤す。
だが━━
「お義父様!お義母様!ウィルを私に下さいっ!」
ラウラが父さんと母さんに向かってガバッと頭を下げてそう言った。
「ゴブフゥゥゥゥゥッ!?!?」
あまりにも突拍子な発言に、俺は高圧洗浄機の如く水を噴射してしまう。
恐らく、ラウラが初めて俺のベッドに忍び込んだ時以上の威力だろう。咄嗟に首を曲げたので、なんとかみんなにかかる事は無かったが、俺の射線上にあったものはビショビショだ。
うっわぁ、きったねぇ。後で雑巾使って拭かないと・・・。
「・・・ラウラちゃん」
「は、はいっ!」
ラウラの肩がビクッと震える。
「こちらこそウィルを・・・いえ、息子をお願いします」
「うん、そうだね。ボーデヴィッヒさん、ウィルをよろしく頼んだよ」
そう言って、頭を下げるラウラに母さんも頭を下げ返し、父さんも賛同する。
おい、あんたら30%はぜってぇ面白がって乗ってるだろ。
「~~~!!ありがとうございますっ!!」
ワーオ、どんどん外堀が埋めてかれるな。すっげぇ行動力だぜ。恐るべし、特殊部隊隊長!
━━なんて現実逃避してる場合じゃねえ!!
ああ・・・ラウラめっちゃ良い笑顔してて可愛いなぁ。
━━って!これも違うっ!!
「お、おい、ラウラ。そう言う話はまだ早過ぎるだろ━━」
「ん?
「ウィル、今、
「・・・二人共、少し黙っててくれ。OK?」
「「お、OK・・・」」
ギロリと、先程から茶々を入れてくる両親を一睨みして黙らせる。
「?クラリッサは『ご両親へのご挨拶』は早い方が良いと言っていたぞ?」
「
両親が笑いを必死に堪えているのに気付かず、彼は顔も知らないラウラの副官に対して怒りの雄叫びを上げた。
「っと、そうだそうだ!ウィル、せっかくここまで来たんなら、明日は一緒に『ティンダル空軍基地』へ行こう」
大声で叫んだ後、俺が肩で息をしていると、父さんが突然話の話題を変えて話し掛けてきた。
「ハァ、ハァ、ハァ。・・・え?ティンダル?何で俺がそこへ行く必要が?」
ティンダル空軍基地とは、俺が所属している事になっている、ここから東に約19Km行った先の半島に建設された基地だ。
だが、俺がその基地へ行って何の意味があるんだ?
「ああ、それなんだがな。実はウィルのISに搭載されたソフトウェアのアップデートと新しいモードの搭載をしたくて近々ジョーンズ技術中尉と一緒にIS学園に行こうかと思っていたんだ。けど、お前がここを訪ねて来てくれたお陰で予定より早くそれが出来そうなんだよ。で、アップデート云々の機器とかは今、ティンダルに保管してあるから明日行こうという訳だ」
ソフトウェアのアップデートと、新しいモード?ふむ、これで戦いの幅が広がるという訳か。
「成る程・・・。よし、明日、ティンダルへ行こう。特に用事があるわけでも無いしな」
「なら、足は父さんに任せとけ。車で送ろう」
と言う事で、俺は父さんと一緒にティンダルに行く事になったのだが・・・
「あなた、ラウラちゃんをハミ子にする気?私は明日、特別出勤でこの家には誰もいないわよ?」
すっかりラウラを気に入ってしまった母さんが父さんに小声でそう告げる。
「ふむ、確かに義娘を放置するのも気が引けるね。よし!良ければボーデヴィッヒさんも一緒に行くかい?」
ハァ、父さん・・・義娘ってなぁ・・・。まぁ、家にラウラを置いて行くのも気が引けるしな。
「でも私が軍事基地に入っても良いんでしょうか・・・?」
「ああ。兄さんに話は通しておくから、立ち入り制限区域内に入らない限りは大丈夫だよ」
「分かりました。ありがとうございます」
こうして、俺とラウラは明日、ティンダル空軍基地へ出向く事になった。