「ふぅ、暑い暑い・・・」
そう言いながら、俺は
「そんな厚着をしていたら暑いに決まっているだろう。お義父様も別に私服で良いと言っていただろうに・・・」
「俺が気になるんだよ。周りは軍服なのに、そこに私服がいたら浮くだろ?ただでさえ自分が所属する基地だってのに」
やはり所属している基地に行くならそれなりの格好にするべきだと、自己の判断でこの支給されたユニフォームを着て来た訳だが、こういう日に限って気温が高くなっており、俺はすっかり暑さに滅入っていた。
因みに今の俺の服装は、上下が灰色をしたタイガーストライプ迷彩のABU、靴はセージグリーンのコンバットブーツだ。
ABUなんて普段の生活では着ないような服だが、軍靴であるこのコンバットブーツは何気に普段靴として愛用していたりする。
着脱のしにくさと重量が短所ではあるが、足回りがガチッと固められているこれはどこか落ち着くし、耐久・耐水性に優れ、それでいて結構好みのデザインなのだ。
「お前は変なところで真面目だな」
「そいつは悪ぅござんしたね。これでもドイツ軍程お固くしているつもりは無いぞ?」
「確かに我がドイツ軍は規律に厳しいと自負しているが、お前のそれは━━」
クゥ~~・・・
ラウラが何かを言おうとした時、随分と可愛らしい音が聞こえたあと、彼女は顔をうっすらと赤く染めて固まった。
「・・・くっ、ふふふっ、規律が厳しいドイツ軍の少佐殿も空腹には敵わなかったようだな」
「わ、笑うな!」
「はいはい、食堂はもう少しだから、それまでその腹の虫を抑えといてくれよ?」
「くぅ~!ウィル、覚えてろ・・・!」
赤くなりながら睨んでくるラウラを横目に、俺は基地の食堂へと向かって歩を進めて行った。
▽
食堂
昼時を過ぎて人気が少なくなった食堂にて、俺とラウラは適当な席に座ってジョーンズ中尉がオススメしていたハンバーガーを頬張っていたのだが、これがまた実に美味い。彼が俺達に勧めただけの事はあって、味は某チェーン店にも負けない程だ。
横の席ではラウラが美味そうにバーガーにかぶりついていた。
「あら?ホーキンス君じゃない」
丁度バーガーを食べきった時、後ろから声を掛けられた。その声を聞いた俺とラウラが振り返ると、そこには二人の女性が立っていた。
「ああ!ミューゼル大尉とバーク中尉、お久しぶりです!」
「久しぶりね、ホーキンス君。元気そうで何よりだわ」
「よお、ホーキンス。お前何でここにいるんだ?」
「はい、実はISの件で少し用があったので」
「ほーん、そうか。ま、相変わらず元気そうなツラしてるって事は学園の生活は順調そうだな。ところで、お前の横で立ってるそいつは誰だ?」
バーク中尉が不思議そうな顔をして、俺の横で立っているラウラの顔を見る。
「初めまして、ラウラ・ボーデヴィッヒです。彼とはIS学園の同期です」
「ん?ボーデヴィッヒって・・・」
「あなた、ドイツの代表候補生の子ね?お会いできて光栄だわ。私は“スコール・ミューゼル”。で、横にいる彼女は━━」
「“オータム・バーク”だ。よろしくな」
ラウラとミューゼル大尉、バーク中尉が互いに自己紹介を終えたあと、俺は彼女達との間柄を説明する為に口を開いた。
「二人には、俺がまだISに乗り始めたばかりの時に指導をしてもらっていたんだ。ミューゼル大尉はIS乗りで、バーク中尉は戦闘機のパイロット。どちらもかなりの凄腕だ」
この時、俺はラウラの方を振り向いて話しており、完全に気を抜いてしまっていた為、ミューゼル大尉がニヤッと笑ってから一瞬で距離を詰めてきた事に気が付かなかった。
「特にミューゼル大尉には学園に入学するその時まで━━」
視界が真っ暗になったあと、ムギュッと何かに頭を固定された。
「勝てなかったから━━・・・へ?」
「な、なっ!?」
「やれやれ・・・この光景も久しぶりだな」
「うふふ・・・相変わらずの反応ね♪」
・・・ふむ、状況を整理しよう。俺は今、何者━━いやミューゼル大尉に抱き付かれており、その豊満な胸を押し付けられている。
ああ・・・しまった・・・。この人、よく俺に抱き付いてはからかってくるのをすっかり忘れてたよ・・・。
因みにバーク中尉曰く、彼女なりのスキンシップだそうだ。
そう言えば学園にもいたよなぁ~、同じような事を友達にしている『さ』から始まって『し』で終わる生徒会長が。
「ウィル、これはどういう事か説明してもらおうか・・・うん?」
「」
だからラウラ、頼むからそんなドスの効いた声を出すのは止めてくれ。決して
大尉?あなたラウラが怒ってるの絶対分かってますよね?さっきからプルプル震えて笑い堪えてるの諸分かりですよっ!!
「そうか、だんまりか・・・」
ち、違うんだ!抱き締められているせいで息をする事も、ましてや話す事も出来ないんだっ!ちょっ、大尉!いい加減に離し━━ダメだこの体勢じゃ力を入れられない・・・!
「ふ、ふふふ、ふふふふふ・・・浮気・・・浮気・・・」
こ、殺される・・・!!た、大尉、マジでそろそろ離して下さい!このままだと、俺どっちに転んでももう一度神様に会う事になりますから!!
「おいスコール、その辺にしておいてやれよ。ここを窒息殺人の現場にでもする気か?」
「あら、少しやり過ぎちゃったわね」
そう言って、ミューゼル大尉は腕の力を緩めて俺を解放した。
ああ、空気ってこんなに美味かったっけか?酸素が肺に入って来る感覚が実に心地良い!
「ば、バーク中尉、ありがとうございます・・・」
「あ?ああ、気にすんな。スコールのそれは今に始まった事じゃねえからな。ほらスコール、行くぞ。遅れたら基地司令にどやされちまう」
「残念、もう少し遊びたかったのに。それじゃあね、ホーキンス君、ボーデヴィッヒさん。
・・・あ、そうだ、ホーキンス君」
去り際にミューゼル大尉は何かを思い出したようにこちらを振り返ってきた。
「はい?」
「良ければ、
うふふ、と笑いながらミューゼル大尉はバーク中尉と共に食堂を出て行き、そこには俺とラウラだけが取り残される。
た、大尉ぃぃぃ!!あんた爆弾に火を着けて行ったなぁぁぁぁ!!
「ウィル、婚約者の前で堂々と浮気とは良い度胸だな」
「待てラウラ、俺は浮気なんてしてないし、するつもりも無いぞ」
そもそも、まだ婚約はしていない、というツッコミは控えておくとしよう。
下手な事を口走ったら何をされるか分かったものじゃない。
このあと、頬を膨らませてへそを曲げるラウラを宥めるのに四苦八苦するウィリアムだった。