三冠牝馬が女性ジョッキーに転生する物語   作:nの者

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さっきのと併せて1話にまとめようかと思いましたが分けました




イチダイジ(夏の競馬場)

 新潟競馬場はうだるような暑さだった。

 ジョッキールームには究極にラフな、ある意味だらしない格好の騎手もいた。

 それは女性ジョッキーも同じことだった。さすがに上半身裸というようなジョッキーはいないが、上はシャツ一枚の格好になっていた。

「蒸し風呂やんなぁ」

「今日は汗取りする必要ないわな」

「にしても今日、えらい人入ってますね」

 モニターを見ながら雑談していた騎手たちに、優花里が割って入って来た。

「そらそうよ。サチコの重賞初勝利を見んと、ぎょーさん集まってんねん。

「一番人気がサッちゃんで二番人気が雪絵ちゃんやろ? そら客入るわ」

「せやな。ま、サチコには悪いけど勝つのはあたしやな!」

「またおもろいこと言いよるなぁ。八坂、新潟の成績どないやっけ?」

「関西ほど良くは無いけど、関東ほど悪くは無い。まあ、トントンやな」

「いうてチョーさんメイチで仕上げてきてんやろ。佐知子も抜かりないやつやし、そうそう取りこぼさへんやろ」

「甘いわぁ。ハチミツにメープルシロップかけたくらい甘いわぁ。ええか、サチコなんてまだデビューして二年目の新人や。いくら新人で最多勝獲ったいうても、いつまでもそんな勢いが続くわけあらへん。二年目のジンクスや。去年は夏に成績グンと伸ばしたわけやけども、今年もそうなるとは限らん。見てみぃ、夏に入ってからのサチコの成績。去年ほど成績伸ばしとるか? ん?」

『――今、一着でゴールイン! マグノーリア快勝! この勝利で君野佐知子騎手は新潟リーディングの松崎騎手に並びました!』

「伸ばしとるなぁ」

 

                  ※

 

 美浦の中堅厩舎所属の2歳牝馬、マグノーリアのデビュー戦を勝利で飾った。翌年のクラシックも視野に、調教から乗せてもらってきた馬の勝利で、手応えは大きかった。

 そんな佐知子だったが、頭はすでに次のレースのことへ切り替わっていた。

 勝負服を着替えてすぐさま次のレースへ向かう。3歳以上500万下。ダートの1800。テン乗りだ。関西の厩舎の馬で、単勝人気は真ん中くらい。脚質も中団に控え、馬群の真ん中から後ろあたりで競馬をする馬だった。

 パドックではかなりイレ込んでいたようで、跨った時も振り落とされそうなほどの勢いだった。どうにかなだめすかして、馬場入場の時には落ち着いて歩けるようになり、ゲートに収まった。

 スタートを絶妙なタイミングで飛び出した。真ん中くらいの枠だったが、押し出されるように先頭に立っていた。この馬の脚質からいって、未知の領域だったが、長手綱で持って佐知子はそのまま行かせた。

 向こう上面で二番手の馬が競りかけてきたので、佐知子は譲ろうと思ったのだが、馬のほうはそうもいかない。抜かせまいと脚を前に出して、ハナを譲らなかった。

 そのまま4コーナーに入り、徐々に後続との差がなくなり、二番手の馬とほぼ並ぶ形になった。肩鞭を入れて合図を出すと、馬もそれに応えたが、外の馬の手応えはまだ余裕そうだった。直線に入り、二番手の馬がスルッと抜け出すと、あとはそれに追いすがるのみだった。最内で粘り込みを図る。

「いけー!」「そのままー!」と、鬼気迫る声がスタンドから飛んでいるのも気にせず、佐知子は追い続けた。前に二頭の馬がいるのを確認し、最後のゴール前でグイと首を押した。どうにか三着を確保した。

 レース後、管理する調教師は佐知子に言った。

「お任せとは言うたけど、驚いたわ。よう前でやれたね」

「スタートが良かったのでそのまま行きました。途中で勝ち馬につつかれちゃった分、最後伸びませんでした」

「いやあ、それでも大したもんや。いつもはゲートで後手踏むんやけど、今日はサッちゃんのおかげかな」

「ありがとうございます。いい馬なので、また機会があればぜひ乗りたいです」

「せやな。考えとく。ありがとう」

 

                  ※

 

 そして再び着替えて次のレースへ。それの繰り返しだ。

 今日は鞍数が多く、メインの関屋記念までの10レース中8レースで騎乗予定があった。

「おーいサチコ、倒れんなや。ほら、アメちゃんやで」

 着替え途中、優花里が佐知子のもとへ姿を見せた。佐知子にペットボトルの水と塩飴を手渡す。

「ごめんなさい優花里さん」

「ええねんええねん、あたしなんて今日はメイン乗るためだけに来たようなもんやし」

 本日二鞍の優花里が笑う。今の開催の三場(新潟、小倉、札幌)で、新潟に腰を据えているのは佐知子とかれん。優花里、美由、雪絵は小倉。ひとみは札幌をメインに騎乗している。今日は女性騎手6人のうち5人が新潟に集まっていた(ひとみは札幌で重賞エルムSに騎乗)。

 喉を潤し、佐知子は元気良く礼を言う。

「助かりました。これでまだまだやれます」

「ほんまにアンタは頑張るなぁ。そいや、さっき一瞬だけ新潟リーディング並んどったみたいやで」

「はぇ? そうだったんですか?」

 夏競馬――福島での成績は低調だったものの、新潟に来てからグッと成績を伸ばし、先週のダート重賞レパードSでも四着に食い込むなど活躍を見せていた。

「さっき松崎さん勝ったおかげで二位に逆戻りやったけどな」

「ていうか、二位なんですか私? そんな勝ってましたっけ?」

「イヤミか貴様ッッ! ま、あれやな、自分の勝ち星くらい把握しときーや」

「えへへ、終わったら次のレースに気持ちが入っちゃうので、あんまり気にしてないです」

「やっぱりアンタは大物やなあ。でも、今日のメインはもらうでー! 覚悟しとき!」

「はい! よろしくお願いします!」

 

                  ※

 

 メインレースの頃にはパドックもスタンドもぎゅうぎゅう詰めも状態になっていた。

 観客の熱気にあてられ、場内もヒートアップしていった。しかし、佐知子は冷静だった。少なくとも、長介の目にはそう映った。

「落ち着いてるな……」

「そうだね。イックンは大丈夫そうだよ」

「いやいや、馬じゃなくてお前のほうだ」

「そう? まあ、人気のある馬に乗るのは結構あるし。あと、これでもアイドルホースだったから」

「自分で言うか、それ?」

「世間一般の評価だよ。へへ、言われて悪い気はしないかな」

 舌を出してウインクをしてみせる、佐知子のいつものくせ。もっとも、こいつはプレッシャーも楽しめるようなやつだからな、と長介は思う。

 彼は右手の拳を佐知子の前に出して、いった。

「重賞初勝利のチャンスだ。サチ、狙っていけよ」

 佐知子もその拳に応えるように、右拳を出した。

「うん。いってきます」

 サーチライト号としてのデビュー戦と同じコースで、佐知子と長介は重賞へ臨む。

 

                  ※

 

新潟 芝・良 天候・晴

GⅢ関屋記念・女性ジョッキー騎乗馬単勝オッズ

 

15 イチダイジ 4.0(佐知子・1番人気)

11 ケモノミチ 4.5(雪絵・2番人気)

02 ストレイカメレオン 27.2(優花里・8番人気)

03 デキチャウモン 41.5(かれん・10番人気)

16 レモンダンサー 141.8(美由・16番人気)

 

 

予想

 

某デスク「状態万全のイチダイジ、新潟リーディング松崎騎手騎乗のガストンロジャーは外せないですね。この二頭は絡めたほうがいいでしょう」

 

某競馬評論家「柊さんのケモノミチ。前走からの上積みも見込めますし、パドックでも非常に艶があって良かったですね」

 

某女性タレント「女性ジョッキーの三連単5頭ボックスでいきまーす!みんながんばれー!」

 

某競馬番組MC「14番のキャットブルース。ハリス騎手とのコンビで、いよいよ本格化してきたなという感じです」

 

某逆神「デキチャウモンですね。間違いありません。木津ジョッキーを信じましょう」

 

君野知恵「馬連⑮-②④⑤⑨⑪」

 

ヌーちゃん「関屋記念? 別に? 進之助の出ないレースなんか興味ないわ。まあ、そうね。せいぜい頑張りなさい」(こっそりイチダイジのがんばれ馬券100円ずつ買っている)

 

 




まだレースしてなくてすみません。。。
果たして誰が勝つのか
まさに今から書きます
次回もよろしくお願いします


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