三冠牝馬が女性ジョッキーに転生する物語   作:nの者

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ワンスインアライフタイム(思い出の関屋記念)

『サマーマイルシリーズ第二戦、関屋記念です。

 

 スタートしました。最内1番サイバーロードラン出遅れ、最後方からの競馬になりました。7番のミノベソルファもダッシュがつきません。さあまず出て行くのは、外から16番レモンダンサーと小中、スーッと上がっていって先頭に立ちます。その後ろにつけましたのが8番のオマージュ。続いて三番手に2番ストレイカメレオン、6番のサーファークインも前目。その直後に11番のケモノミチと柊雪絵はこの位置。半馬身切れて内に4番ユウダチ。外には10番のツバキロマンティカがいて、中団馬群インコースに3番デキチャウモン。12番のヒゲミッシング、14番キャットブルースと続きます。9番ガストンロジャーと松崎卓篤がその後ろ。一馬身離れて1番サイバーロードラン。内に二頭、13番ブギウギセレナーデ、15番イチダイジ並んでいます。君野佐知子の手はどこで動くのか。その後5番のトビウオバタフライが虎視眈々。最後方が7番ミノベソルファ別所。こういった隊形で第3コーナーから4コーナーへ、一団になって進んでいきます。

 先頭は依然としてレモンダンサー。追いかけるオマージュ以下、徐々に進出を開始しています。

 長い長い直線コースに入って、先頭はレモンダンサー。各馬広がってきました。外に持ち出してケモノミチ、柊雪絵が勝負を仕掛ける。ストレイカメレオンも追ってきた。インコースではユウダチ。

 イチダイジはまだ後方! ガストンロジャーはちょっと前が開かないか苦しいか! ここでレモンダンサー後退! 先頭代わって緑の帽子、ケモノミチだ!

 残り200を切って追い込んできた! イチダイジ、一気に前をとらえるとらえる! ケモノミチとイチダイジ、二頭の競り合い。

 イチダイジかわしたか、ゴールは目の前だ! ここでなんと大外からサイバーロードランが突っ込んできた。飛び込んで、わずかにサイバーロードランだ! ゴールイン!

 

 一着はサイバーロードラン。長い直線、最後のひと伸びで、二歳以来、二度目の重賞タイトルを掴みました。鞍上は福盛田光ジョッキー。嬉しい重賞初勝利です。

 二着は写真判定のようです。11番のケモノミチと15番のイチダイジが横一線。四番手でゴールしたのが内4番ユウダチ。五着に9番ガストンロジャーでした』

 

 

                  ※

 

 

 福盛田光は馬上で呆然としていた。

 無理もない。敗戦に直結しかねない出遅れをしでかし、夢中で馬を追い続けていた彼には、現在の光景はにわかには信じられない。一瞬のように感じられた一分三十秒と少し。直線に入ってから無心で追い続け、前で競り合っていた二頭を、わずかにアタマひとつ分かわしたゴール板前。

 早まる鼓動とともに震えが止まらない。重賞は、昨年初めて騎乗して以来一度も連対はなし。初優勝が、こんな形で巡ってくるとは。

 心ここにあらずといった様子の彼は、自分の名を呼ぶ声に気づいた。

「光! 光ー!」

「サチ……」

 並ぶように近寄ってきた佐知子とイチダイジ号。ゴーグルを外した佐知子は「おめでとう」と言って、手を伸ばしてきた。光は半信半疑ながらも、その手にタッチした。

 佐知子の目は笑っていた。清々しさもあった。尋ねるまでもなく、彼女は心から自分を祝福してくれている。サチはそういうやつだ、と。

 それだけに、光は自分の涙腺が緩みそうになるのを必死にこらえていた。同期で一番上手いと言われた佐知子に対し、同期で一番下手だと自覚していた光。

 やっと、ほんの少しだけでも、自分はサチに追いつけたんじゃないか、と光は思えてきた。

「光くんおめでとう」

「福! やったな!」

 関東の先輩ジョッキーたち―ー有力馬に騎乗していた内川や伊福部といった面々も、馬上から祝福の言葉をかけた。光は馬上から礼を返した。

 激走で自分に初めての重賞タイトルをくれたサイバーロードランのたてがみを撫でる。彼は『ピークを過ぎた馬』と言われ、1年以上勝利から遠ざかっていた。彼に勝利をプレゼントできたこともまた、光にとっては嬉しいことだった。

 

 検量室前に引き揚げてからも、光は多くの祝福の言葉を受けた。

 オーナーや関係者はもちろんのこと、サイバーロードランを管理する調教師だけでなく、師匠である野々口調教師や日頃世話になっている調教師からも、「おめでとう」と声をかけられた。

 騎手仲間からも改めて声をかけてもらった。関東の騎手を中心に、関西の騎手たちも、彼を祝った。優花里からは「ようやった少年! インタビューびしっと決めてきーや!」と背中をバシーンと叩かれた。

 もっとも熱烈だったのは佐知子だった。検量室で感極まって抱擁してきた彼女を、光は拒むこともなく応じた。「感動した」「すっごく嬉しい」と興奮気味に語る彼女を見て、光はちょっと冷静な気持ちになっていた。そのため、インタビューや表彰式は思いのほか落ち着いて臨むことができた。

 

                  ※

 

 その日の晩、佐知子とひとみの電話。

「ということで、負けちゃいました」

『惜しかったなー、でも、良い騎乗だったぜ』

「はい。私も届いたと思ったんですけど、ダメでした……」

『にしても福盛田も大したヤツだよなー。あんな腹くくって乗れる若いやつが何人いることやら』

「はい、自慢の同期です」

『オマエ、なんか嬉しそうだな』

「そうですか?」

『ああ。顔が想像できるよ』

「えへへ、かもしれません」

『サチも頑張れよ。いいか、チャンスの前髪はガシっと掴まなきゃいけねえ。毟り取るつもりでいけ』

「……ひとみさんが言うと、チャンスの神様がちょっと可哀想ですね」

『アァン?』

「な、なんでもないでーす!」

 

 




レース後コメント

1着サイバーロードラン
福盛田光騎手
「とても嬉しいです。枠が決まった時点では前のほうで進められたらと思っていましたが、スタートがつきませんでした。ですが、かえって腹をくくれました。直線は必死で追いました。最後のひと伸びは馬が頑張ってくれました。このような機会をくださった関係者の皆さまや、ここまで支えてくれた仲間や家族に、心から感謝しています」
「(君野騎手とは)「おめでとう」と声をかけてもらいました。ちょっとジーンときました」

野々口徹調教師
「結果論ですが、出遅れたことでかえって馬群に包まれることなくリラックスして走れたのかもしれません。長く良い脚を使えて、持ち味が出たと思います。
 年齢でズブくなってるところはありますけれど、まだまだ良い動きをしてくれています。秋は大きなタイトルを狙ってみたいです」
「(福盛田騎手について)まだまだこれからのジョッキーですので、着実にステップアップしていってほしいと思います」

2着イチダイジ
末永長介調教師
「展開は悪くなかった。終いの脚も切れていた。2着という結果は残念だが、次につながるレースだった」

3着ケモノミチ
柊雪絵騎手
「前走よりも感触は良かったです。最後に並ばれても食い下がっていましたし、この馬の競馬はできたと思います」

君野知恵
「まーた余計のことをしてくれたなこの福寿草ゥ~! こいつはメチャゆるさんよなああああ」

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