三冠牝馬が女性ジョッキーに転生する物語   作:nの者

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【セントライト記念】フォーユアアイズの鞍上

1 名無しの競馬好き
君 野 佐 知 子

2 名無しの競馬好き
ファーwwwwwwww

3 名無しの競馬好き
これは叩きですわ

4 名無しの競馬好き
調教つけとるし人選は妥当やろ

5 名無しの競馬好き
女子力は強化された模様

6 名無しの競馬好き
無難無難アンド無難
中山で手空いてる騎手でフォーユアアイズの背中を知ってる騎手は佐知子しかいない

7 名無しの競馬好き
重賞初制覇決まったな
おめでとうサッちゃん

8 名無しの競馬好き
最後に競り落とされて2着まで見えた

9 名無しの競馬好き
追い切りでも乗ってるし・・・信頼してもいいんだよな?

10 名無しの競馬好き
>>9
郷田Jと大塚Tが信じたサッちゃんを信じろ

11 名無しの競馬好き
怪我せず回ってきてくれたらOK
まあ佐知子だし馬壊すような乗り方はしないだろうけど

12 名無しの競馬好き
>>11
大逃げかましそう

13 名無しの競馬好き
飛んだな(確信)

14 名無しの競馬好き
漢女郷田、後輩の重賞初Vをアシストする

15 名無しの競馬好き
これにはチョーさんもニッコリ

16 名無しの競馬好き
頼むぞ佐知子



フォーアワーアイズ(代打騎乗!)

 大塚保夫調教師から依頼を受けた時はなにかの間違いだと思ったが、そうではなかった。

 ――現役のダービー馬に自分が乗る。

 佐知子はいつになく緊張していた。

 夜の調整ルーム。佐知子は小さなおむすびを静かに食べていた。

 

「はぁ…………」

「サチ、それで足りるのか?」

「ん……あんまり喉通らなくてさ」

「大丈夫かよ?」

「うん。気持ち悪いってわけじゃないから。ただ、なんとなく食べれる気がしなくてね」

 

 向かい側に座る光が心配そうに佐知子の顔を覗き込む。普段の彼女ならば「そんだけ食べて検量パスできんのかよ」と言いたくなるほど旺盛な食欲を見せているだけに、光は心配であった。

 再び、サチが大きくため息をつく。

 

「乗り替わりは何度も経験あるんだけど、今回はさすがにプレッシャー感じるね……」

「いや、でもわかるよ。郷田先輩のお手馬だし。もしおれが乗れって言われても、めちゃくちゃ緊張すると思う」

 

 フォーユアアイズ。

 新馬戦から郷田ひとみが手綱を取り続けてきたダービー馬。朝日杯FSと日本ダービーという二つのGⅠタイトルを獲り、クラシック最後の一冠・菊花賞の大本命とされている馬。当然、世間の注目度も高い。

 

「期待されてる馬だから下手には乗れないし……かといってケガさせちゃったら、それこそ顔向けできないよ。うぅ……ひとみさんに怒られる……」

 

サチの想像の中のひとみ『いいかサチ? アイズは"ダービー馬"で、アタシの"相棒"だ……そのアイズに恥かかせたってことは……分かるよなァ? おい、今すぐ自分サイズの棺オケをもってこい……二度と目覚めないようにしてやるからよォ~~!』

 

「ひ、ひぃいい!!」

「いや、そこまではされないと思うけど……」

 

 ガクブルしている佐知子に、呆れながらツッコミを入れる光。

 さすがにそんなことはされないだろうが、これだけの実績馬――しかも現役で、まだ強くなっている途上の馬に実戦で乗せてもらえる機会など、滅多にない。それにひとみは尊敬するジョッキーで、いつも面倒を見てもらっている大好きな先輩でもある。彼女のフォーユアアイズにかける想いも、佐知子は知っていた。それだけに今回のレースに向けて迷い、悩んでいたのだった。

 

「おれのゼリーやるよ。こういうのなら喉通るだろ」

「……いいの?」

「いいよ」

「ありがと」

「あんまり無理すんなよ。っていっても、今回ばかりは仕方ないか」

 

 光は関屋記念を勝利した後、好調を維持し続けた。新潟でさらに勝ち星を上げ、今では佐知子の勝ち数をわずかに上回っている。重賞勝利で殻を破り自信を持って騎乗できるようになったことで、成績が上昇してきたようだ。

 光からもらったゼリーを食べながら、あることに気づいた佐知子は思わず笑った。光の口元にソースがついてヒゲのようになっていたのだ。

 

「ふふっ、光、ヒゲついてるよ」

「へっ? ヒゲ? えっ、ここ? 取れた?」

 

 佐知子がうなずくと、光は照れたように頭を掻いた。

 

                  ※

 

(うーーん…………)

 

 夜。

 寝床に入ったものの、佐知子はやはり不安を拭い去れなかった。

 一頭のサラブレットには、騎手や調教師、馬主、生産者、厩務員など何人もの人間が関わっている。しかし、レースの時――ゲートが開いた時に馬を導くことができるのは騎手だけだ。騎手はその背に、たくさんの人々の想いを背負わなければならないのだ。

 フォーユアアイズには調教で何度も乗せてもらっているが、彼と実戦に挑んだ経験はもちろんない。実戦時の彼の背中を知っているのは、世界中でひとみしかいない。

 彼の鮮やかな流星を思い出す。凛々しい顔立ち。その瞳は勇気と優しさが見て取れる。

 

「うーん……………すぅ……すぅ」

 

 やがて微睡みの中へ旅立った佐知子は、ある夢を見た。

 そこで彼女はひとりの少年と出会った。

 

                  ※

 

「あれ? ここどこ?」

 

 佐知子は無人の競馬場にいた。観客も馬も騎手も、誰もいない競馬場。

 ジョッキーである彼女にとって、普段は見る事のないスタンドからの景色だった。異様な光景ではあったが、そもそも自身が不思議な存在であるだけにこういった不思議体験にも動じない。

 すると、場内に設置された大型ディスプレイ――ターフビジョンにレース映像が流れた。

 

『強い! 一頭段違いの強さを見せてデビュー戦を飾りました! フォーユアアイズ、鞍上は郷田ひとみ騎手です!』

 

 フォーユアアイズのデビュー戦だった。入線後、水色と白の勝負服に身を包んだひとみが、無事に完走した彼を労わるようにその首を撫でていた。

 その光景をぼんやりを眺めていると、ふと隣に人の気配を感じた。

 

「キミは……?」

 

 見れば、フォーユアアイズの勝負服を着た少年が座っていた。年は自分より幼く、妹の知恵と同じくらいだろうか、と佐知子は思った。

 佐知子と目が合った彼は、白い歯を見せてにこりと微笑みかけると、ビジョンを指差した。

 指差す先を見ると、今度はフォーユアアイズの別のレースの映像が流れていた。右回り――阪神競馬場で行われた朝日杯フューチュリティステークスだ。

 

『直線に入って、早々と抜け出したフォーユアアイズ! リードは一馬身! 外からモトム! シカノグレゴールも追い込んでくる! しかし突き放すフォーユアアイズ! その差を広げにかかる! 後続を振り切って、今、ゴールイン! 無傷の二歳王者が誕生!』

 

 初めてのGⅠタイトルを掴んだレース。

 佐知子は隣にいる少年を見る。艶やかな髪を後ろで結い、前髪の一部は染め抜いたように白くなっていて、まるでサラブレットの流星のようだった。

 晴れやかな笑顔を見るに、相当に彼らの――ひとみのファンなんだろうな、ということを佐知子は直感した。

 しかし、その表情が一転して暗くなった。

 映し出されたのは中山競馬場。曇り空の競馬場は、今度行われるセントライト記念と同じ場所だった。

 

『先頭はモミノキ懸命に頑張っている! しかし外から、外からやっぱりドリームメイカー! 坂を登って先頭に立った! フォーユアアイズはまだ、フォーユアアイズはまだ来ない! ここで突っ込んできたのはフラジールソングだ! しかし、先頭はドリームメイカー! 無敗の皐月賞馬だ、ゴールイン! 勝ったのは、ドリームメイカーと王子進之助!

 ――1番人気のフォーユアアイズは伸びを欠きました。今日をもって、三冠の夢は儚く散りました。果たして、今の郷田騎手の胸中たるや……』

 

 先程までの晴れやかな表情はどこへやら、少年は目を潤ませながら握り拳を両膝の上で震わせていた。佐知子は自然と彼の背中をさすっていた。

 彼の瞳が『ごめんなさい』と謝る子供のように、揺れていた。

 

「大丈夫……?」

「…………」

 

 彼は袖で目元を拭って、再びターフビジョンに顔を向けた。

 

 高らかなファンファーレが鳴り響いた後、ゲートから18頭の優駿が飛び出した。三歳サラブレットの頂点を決める大レース、日本ダービーだ。

 

『ドリームメイカーが来た! 鞭が入って王子進之助六度目のダービーへ飛んできた! 先頭に立った!

 しかし大外から! 大外からここでフォーユアアイズ! 先頭まで二馬身、一馬身、かわしたかわした!

 フォーユアアイズ後続との差を広げる! 二馬身、三馬身! 突き抜けたフォーユアアイズ!

 今! 日本競馬の歴史が変わる! 史上初、女性騎手がダービーを制した! フォーユアアイズ、一着でゴールイン!』

 

 歓喜の瞬間だった。少年は立ち上がって大きく拍手をしていた。その表情は、これまでで一番喜びに満ちていた。

 ふと、佐知子は、彼の胸元に光るものを見つけた。それは二つの黄金色に輝くバッジだった。

 美少年、と呼んでなんら差し支えない彼の横顔を眺めながら、佐知子は何の気なしに尋ねた。

 

「ひとみさんのこと、好きなんだね」

 

 少年は目を輝かせて何度もうなずいた。興奮気味の彼は、佐知子にギュッと抱きついてきた。「やられた~」とふざけたように笑いながら、彼女は少年の身体を抱き留めた。

 温かな体温を感じながら、佐知子は彼に核心的な質問しようとした。

 

「ねえ、聞いてもいいかな? キミは、ひょっとして――」

 

 しかし、その問いは遮られた。

 聞こえてきたのは、泣き声だった。小さな身体が小刻みに震えていた。

 佐知子は、本能的に彼の頭を撫でた。

 

(そっか……不安だよね。そうだよね)

 

 姉のように、あるいは母のように慕うひとみが競馬場にいない。それは、彼にとってどんな出来事なのだろう。

 サチ――サーチライトは、幸運なことにデビューからラストランまで、全レースで長介が手綱を取った。一度もコンビを解消することなく、共に歩み続けてきた。

 今時、デビューからラストランまで、ただの一度の乗り替わりもなく同じ騎手とコンビを組める馬がどれだけいるだろう。

 ひとみはしみじみと言ったことがある。『アイズはアタシをダービージョッキーにしてくれた馬だ。これからずっと恩返ししていかなきゃならねえ。これからも一緒に走り続けたいし、できることならアイズの子供に乗ってまたダービーを勝ちたい』と。今回の乗り替わりについても、きっと、その背中を他の誰にも譲りたくなかったというのが本音だろう。

 佐知子は、少年の顔を見て、その目元に浮かんだ涙を指でやさしく拭いてあげた。

 不安そうな彼の表情に、「私も、光の目にはこういう風に映ってたのかな」と胸の中でひとりごちた。

 そして、確かな口調で、語りかけた。

 

「一緒に戦おう」

 

 今の自分たちにできることは、それだ。

 

「大丈夫。ひとみさんも一緒だよ。3人で、みんなで、一緒にいこう」

 

 大塚調教師をはじめとした厩舎スタッフやオーナーも、彼らの味方だ。

 暫時、佐知子を見つめていた彼は、大きくうなずいて拳を強く握った。その瞳は闘志に満ちていた。

 

                  ※

 

 セントライト記念。

 芝2200メートルで行われる今日のレースは、菊花賞の優先出走権をかけた戦いでもあった。春――皐月賞やダービーで苦渋を飲んだ馬や、夏に一気に急成長した上がり馬が顔を揃えるなか、フォーユアアイズは単勝オッズ1倍台という圧倒的人気だった。

 佐知子は、同馬を管理する大塚調教師と、最後の打ち合わせをしていた。

 

「馬場はどうだ?」

「内外であんまり差はなさそうですけど、直線は内がちょっと荒れ気味かもしれません」

「そうか。なるべく前から離されないように頼む。マークもきついと思うが、多少外を回っても慌てずにいけよ。俺からはそんなところかな」

「はいっ、よろしくお願いします!」

「あと、ひとみから伝言だ」

「ひとみさんから?」

「ああ。『アイズを信じろ』と『楽しんでこい』だ。一つ目に関しちゃ俺も同じ意見だよ」

 

 大塚は、笑って付け足す。

 

「二つ目は厳しいだろうと思ったが、今のお前を見てると、なんだか本当に楽しんできそうな気がするよ」

「そうですか?」

「ああ」

 

 佐知子はきょとんとしながらも、大塚に一礼した。

 

 いよいよフォーユアアイズに跨る。

 厩務員が引いていた時はやや落ち着かない部分もあったが、佐知子が乗ってからの周回はスムーズだった。

 返し馬。休養明けだったが、彼の走りに硬さはなかった。むしろ、夏の間の成長分がきちんと現れているような力強い走りだった。

 

(あとはスタート。何が何でも出遅れだけは避けなきゃ)

 

 フォーユアアイズがゲートに収まる。馬番は7番、15頭立てのちょうど真ん中あたりだった。

 外枠に何頭か逃げ・先行馬がおり、発馬直後に寄って来られる可能性があったので、佐知子は外目から進出してこようとする馬の動きには特に注意していた。

 そして、ゲートが開いた。

 

「あっ!」

 

 佐知子は思わず声が出た。外ではなく内、隣の6番の馬がいきなりモタれて馬体が接触したのだ。外に押し出され、フォーユアアイズは両隣の馬に挟まれるような格好になってしまった。

 スタートダッシュがつかず、出鼻を挫かれた。

 しかし、佐知子は恐ろしく冷静だった。距離ロスの少ない経済コースに入って、レースを進めるようにシフトチェンジした。

 

(私は……アイズを、信じる!)

 

                  ※

 

『――1番人気のフォーユアアイズは後方から三、四番手の位置につけています。1000メートルを通過して、タイムは58秒後半から59秒といったところ。

 先頭は依然として14番ペンサールテック、二馬身から三馬身の逃げ。二番手追走が1番イチネンホッキ。ここで後ろから動いていったのは10番のクラウスヴィグラス。押し上げていって、今、三番手に並んでいきました。ここで3コーナーのカーブです。ジワっと進出してきたのは4番ラーメス。一番人気7番のフォーユアアイズはまだ後方。2番トランジスタもまだ後ろで、人気の二頭はまだこの位置。最内を通って先頭はペンサールテック。二番手に上がってきたのは5番のアオバノウタ。ここで君野佐知子の手が動いた! フォーユアアイズ大外に持ち出して勝負をかけます!

 4コーナーカーブして直線コース! 先頭はペンサールテック二馬身リード、懸命に粘っています! 追いすがるアオバノウタ! 外からはフォーユアアイズ一気に追い上げてきた。さらにその外からトランジスタも来ている!

 残り200を切って、先頭代わってアオバノウタが前に出た! クラウスヴィグラスも来ている! 外からフォーユアアイズだ! フォーユアアイズ! その外から追い上げるトランジスタ! しかし届きそうにない! 二番手争いまで!

 先頭はフォーユアアアイズ! 一着でゴールイン!

 

 フォーユアアイズが、ダービー馬の貫禄を見せつけました! 鞍上は君野佐知子騎手、急遽の騎乗でしたが、見事に、フォーユアアイズの大事な大事な秋初戦を勝利で飾りました。

 そして君野佐知子騎手は、これが、中央・地方合わせて初めての重賞制覇! 去年デビューした騎手の中では、福盛田光騎手に続いて2人目の重賞勝利ジョッキーとなりました。

 最後の二番手争いはアオバノウタ、クラウスヴィグラス、そしてトランジスタが並んで入線。これは、非常に際どい接戦になりました――』

 

                  ※

 

「サチ…………」

 

 テレビの前で愛馬と後輩のレースを観戦したひとみは、どこか安堵したようにつぶやいた。

 スタートでの不利を食らった時は肝が冷えた。どれだけ実績があって能力の高い馬であっても、こうしたアクシデントは起こり得る。

 ひとみは、最悪、無事に二人が回ってきてくれさえすればいいと祈っていた。佐知子にプレッシャーのかかる役目を負わせてしまったことに、負い目もあった。故に、その負担を少しでも和らげてやろうと、彼女は『楽しんでこい』と伝言を頼んだのだった。

 そして、彼女の願いは臨んだ以上の結果となって返ってきたのだった。

 

 そうしていると、佐知子の勝利インタビューが始まった。

 

――フォーユアアイズ号でセントライト記念を見事に勝利しました、君野佐知子ジョッキーです。本当におめでとうございます。まずは今の率直なお気持ちをお願いします。

 

『とにかくホッとしています。プレッシャーには強いほうなんですけど、今日だけはちょっと違いました』

 

――ダービー馬の背中の感触はいかがでしたか?

 

『普段も調教で乗せてもらってはいたんですけど、レースではやっぱり違いますね。ダービーを勝った馬に乗って競馬ができるというのは、とても特別な体験でした』

 

――今日のレース、スタートで不利を受けるという場面もあったんですが、今日の騎乗を振り返ってどうですか?

 

『今日は、運も向かなかったですし、私も、あまり上手く乗れたなという感じはしません。最後直線追い出してから、本当に馬が頑張ってくれたという感じです』

 

――君野ジョッキーは、今回が嬉しい重賞初勝利となりました。今のお気持ちをお聞かせください。

 

『嬉しいです。あ、でも……あまり実感は無いですね(笑) 今日も、自分の力で勝ったというより、勝たせてもらったという感じだったので……。でも、期待に応えることができてよかったです』

 

――それでは最後に一言、ファンの皆さまにメッセージを。

 

『今日はフォーユアアイズという本当に凄い馬で重賞を勝つことができて、最高に幸せです。えーと、今日は私の未熟な騎乗のせいで苦労をかけてしまった部分もあったんですけど、菊花賞ではひとみさんが帰って来るので、大丈夫だと思います。今日乗ってみて思ったんですけど、やっぱりアイズにはひとみさんが乗るのが一番だと思いました。なので、フォーユアアイズとひとみさんのコンビを、これからも応援よろしくお願いします! あ、あと私も頑張ります!』

 

――ありがとうございました。君野佐知子ジョッキーでした。

 

 

 画面の向こう、水色と白の勝負服を着た後輩は弾けそうな笑顔だった。

 ――本当に、大したやつだ。

 彼女に向け、ひとみはつぶやいた。

 

「サチ……ありがとう」

 

 いつの間にか、ほろりと涙がこぼれていた。

 

 

                  ※

 

 

 およそひと月後、京都競馬場。

 ひとみとフォーユアアイズは、菊花賞の舞台にいた。

 単勝オッズは一番人気。絶対的な『一強』として、人々の注目を一身に浴びていた。

 パドックで「止まれ」の合図が出て、ひとみはフォーユアアイズの元へ向かった。ひとみが駆け寄る途中、振り向いた彼と目が合った。ひとみは一瞬だけ頬を緩ませた。

 

「待たせてごめん。よろしくな」

 

 首を軽く撫でて跨ると、一気に身体と気持ちが引き締まる。お互いの息遣いがハッキリと聞こえてくる。

 

「さあ、行こうぜ。アタシたちの走りを見せてやろうじゃねえか」

 

 ひとみがつぶやくと、フォーユアアイズは応じるように小さくいなないた。

 

 ――その日、フォーユアアイズは菊花賞を制し、クラシック二冠を達成した。

 

 




おまけ
グループLINE ~サチが重賞を勝った後のジョッキー女子会~(ひとみはLINEやってません)

お~い!八坂:サチコおめっとさん!

みゆ:わ~いサッちゃんおめでとう!

雪絵:君野さん、重賞初勝利おめでとうございます。

サチ:皆さんありがとうございます!!!!

お~い!八坂:まさかこんな形で重賞勝つとはなぁ・・・世の中わからんもんやね

みゆ:でもそういうものだよねぇ~

サチ:あんまり実感わかないですね・・・

お~い!八坂:最初はそんなもんや。でも後からジワジワくるで~

雪絵:確かに、私も勝った直後はふわふわしていた記憶があります。後日お世話になってる先生や馬主さんと会う時に「おめでとう」と言ってもらって、実感が出てきましたね。

サチ:な、なるほど・・・!

サチ:でも、なんていうか、今回は自分の記録より、フォーユアアイズが勝てたってことのほうが嬉しかったなあ

お~い!八坂:郷田のお手馬やもんな。プレッシャーえぐかったやろ(笑)

サチ:えぐかったです(笑) でも、腹くくってたんで、やり切りました

お~い!八坂:おお・・・やっぱアンタは大物なるわ!

みゆ:ひとみちゃんの様子はどお?

サチ:だいぶ元気になってきて、週末には乗れるみたいです!

みゆ:よかった~

雪絵:オールカマーには間に合うということですね。

お~い!八坂:まあ、郷田も頑張りすぎなところがあったから、今回のがええリフレッシュになったんとちゃう? 知らんけど

サチ:出た!優花里さんの「知らんけど」!

お~い!八坂:これメッチャ汎用性高いんやで? 知らんけど

みゆ:便利~

キドゥ・キャレン:出遅れましたw佐知子くんおめでとう!さすがこのぼくが見込んだ才能の持ち主だよネw!

雪絵:すごいタイミングで割り込んできますね・・・。

お~い!八坂:なに笑とんねん木津

キドゥ・キャレン:( ゚Д゚)

サチ:かれんさんありがとうございます!
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