千里ってさ、昔っから男運ないよね。友達と同じ男を好きになったり、デート商法に捕まったり
だからなんとなく、今回もそうなんじゃないかなって思ってたけど、案の定だね
「だったら…………いや、なんでもないわ」
なにさ?
「別に……」
…………
「きっと、そういう運命だったのよ。ターニングポイントで、どんな選択をしたとしても、行きつく先は全部同じだった。出会ったからには、別れが必ずある。そうでしょう?」
……うん
そうかもしれないね
けどさ、今さらこんなこと言うと、そんなこと言われなくても分かってるって言われそうだけど、やっぱり言っておくね
『さよならだけが人生だっとしても、さよならの後もずっと人生は続いていく』
どこにいたって、どうなったって、たとえ自分がこの世からいなくなったって世界は続いていくんだ
世界が壊れたって、それで終わりじゃない
壊れた世界でだって、残された人々は生きていかなきゃいけない
途方もない話だよね
たまに、何のために生きてるんだ? なんて思うこともあるけどさ
でも、そんなふうに深く沈んでいたりささくれていたりする時にさ、ささいなことで幸せになれたりするんだよ
ごらん、星がキレイだよ。東京でもこんなに星が見れるんだ。なんだかすごいと思わないかい
千里、この世界もまだまだ捨てたもんじゃないだろ?
光くんって言ったっけ?
彼ほどまっすぐなヒトはいないかもしれないけれど、彼よりも千里を幸せにしてくれるヒトがきっとどこかにいるはずだから
「……煙草、くれない?」
いいの? 事務所NGなんじゃないの?
「いいのよ。もう事務所も辞めるつもりだから」
そっか。それなら、どうぞ
「ありがと」
明日も仕事だよね、お疲れ様。
「――この世界も捨てたもんじゃない、なんて、捨てられるわけないじゃない。はじめて、本気で好きになった人から、本気で好きになってもらえたんだもの。叶わなかったとしても、それってとても素敵じゃない?」
千里……いい歳こいて結構ロマンチストだよね。
「まったくもう……うふふっ」
「ということで今週のWIN5は残念ながら的中なし、という結果でした。アリスちゃんも惜しかったねえ、最終レースが当たってたら的中だったわけでしょお」
「いやー悔しいですね。これは、まだまだ腕を磨いていかなきゃってことですね」
「はい、頑張ってね! ということで今週の馬Timeもそろそろお別れの時間になってしまいました。来週はどんな馬券が飛び出すのでしょうか。注目です。それでは司会の後藤ゴローと」
「アシスタントMCの綾瀬川アリスでした!」
「皆さんそれではまた来週お会いしましょう!」
「ばいば~い!」
※
君野佐知子ですっ!
落馬負傷入院生活、だいたい二週間目に突入!
脚のギプスはまだ外れないってことだったけど、上半身はかなり自由に動かせるようになってきました。全治はおよそ二か月。春のクラシックにはギリギリ間に合うか間に合わないかの微妙なライン。
ひとみさんからもらったハンドグリップで握力を取り戻し、優花里さんからもらったお笑いのDVDを鑑賞し、美由さんから教えてもらったペン習字の練習をし、雪絵さんがオススメしてくれた小説を読みふけり、かれんさんの動画を観ていたら、わりとあっという間に一日が過ぎていきます。
入院生活の不満としては、やっぱり身体が自由に動かせないこと。「動かない」ことがこんなに大変だったなんて知らなかったなあ。
あとはご飯。病院食はやっぱり味気ないというか、そろそろ飽きてきました!
チエが差し入れでお菓子をくれたり、一恵さんがお弁当を持ってきてくれたり、美景ちゃんが葉流の名産のおせんべいをくれたり、そういう食の楽しみが入院生活の楽しみになりつつあります。(もしかして:餌付け)
そして今日の本題です。
今日は光が来てくれた!
なんだか、随分と久しぶりに光に会ったような気がする。なんとなく具体的にいえば人生一回と二週間ぶりくらい。(根拠はよく分からないけど、そんな気がするかな。)
電話やLINEでは連絡を取ってはいたけど、光のほうもだいぶ忙しかったみたいで、直接顔を合わせるのは、これが二週間ぶりかな。
光は、病室のドアを開けるなり――
「あ! 光だ!」
「サチ……」
「久しぶりだね。どう、元気――」
「サチっ!!」
「――ふぇ?」
………………
…………?
……!!
ハッ!
思い出すだけでもちょっと呆然としちゃうかな。
私は、光に抱き締められていた。
光はなんだか苦しそうな顔で、力強く、そして優しく、私の身体を抱きしめていた。
そりゃビックリはしたけど、真剣な光の表情と雰囲気に何も言えなかった。だから、されるがまま受け入れてた。
私は頭が真っ白になったけど、別にイヤな感じはしなかった。むしろ、その逆かな。
「大丈夫?」
「サチ……よかった……本当によかった……」
「光……」
なぜか、今にも泣き出しそうな表情だった。
やっぱり私のせいかな?
心配かけちゃったから、かな。
私は、たくさんの人に心配をかけた。
意識が戻ってから、改めて事の重大さを思い知らされた。
病室で――
チョーさんは何も言わずに頭を撫でてくれた。
ひとみさんは私のために涙を流してくれた。
王子さんからは「みんな待ってるから、早く元気になってね」とエールをもらった。
チエからは泣きながら散々「バカ」「下手くそ」なんて言われた。
お父さんとお母さんは「何があっても支えるから」と言ってくれた。
その姿を見て、私は、なんだか申し訳なくなった。
夢を叶えようと――誰かの期待に応えようとするあまり、どこかで自分自身を大切にする心をないがしろにしてきたんじゃないかと思うと、罪悪感が生まれた。
私は光に声をかけた。
「ごめんね。私――」
「いいんだ。サチ。謝らなくていい」
「――え?」
「こうしてまた会えたんだから、それでいい。とにかく、大事にならなくて良かった。ああ、うん、そうだな、ここで変に焦ったりしないでじっくり治して、また一緒にレースに出よう。メシも食おう。遊びにも行こう」
「え……」
「約束だぞ。"君野佐知子"」
彼――福盛田光のその声に、私はうなずいた。
「――うん。そうだね。ありがとう、光」
再び光の顔を見た。さっきまでとは打って変わって、なんだか大人びたような顔つきに見えた。
すると今度は、光がパッと身体を離す。さっきまでの表情が嘘みたいにテンパってた。ふふふ、変なの。
「あ、あのさ!」
光はそう言って小さな包みを取り出した。
「なんか色々あって、だいぶ遅れちゃったんだけどさ――これ、受け取ってくれないか?」
「え? …………あ! プレゼント!?」
光がうなずいた。
あ~そういえばそうだった。ちょうど落馬した時期と重なってたもんなぁ。何か忘れてると思ってたけど、それかあ。
今回は私だけじゃなくチエと美由さんのアドバイスも受けて選んだわけなんだけど、まだ寮の中で眠っているんだろうなあ。
後で寮母さんに言って光に渡しておいてもらおうかな。
「私、まだ寮の中だ。ごめんね」
ペロリと舌を出して、困ったようにはにかむ。てへぺろ。
「うん。なんとなく予想ついてた」
「で、さてさて、光はどんなプレゼントを選んでくれたのかなァ! ニヤニヤ!」
「あんまり派手なものじゃないんだけどさ、サチに似合えばいいなって思って」
「似合う? ははーん、身につける系のやつだね。サイズ的に時計かアクセサリーの類と見た!」
クイズ番組の司会者と挑戦者よろしく、私達は顔を見合わせて息を呑んだ。
そして、こらえきれなくなった私が笑い出すと、光もそれにつられて顔をほころばせた。
※
あっ!
『その姿を見て、私は、なんだか申し訳なくなった。』
ってさっき言ったけど、そこにもう一言だけ付け加えさせてください。
『そして、私って幸せ者だなあ、としみじみ感じた。』、って。
それが、私の素直な気持ちです! えへへ!
(Re:Searchlight)