三冠牝馬が女性ジョッキーに転生する物語   作:nの者

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サチの先輩にあたる女性騎手が登場します

先輩はゴリラ系女子です


アコガレノセンパイ(怪物女性ジョッキーの覇道)

 糾弾だ。

「サチ……オマエこの(笑)ってのはどういうつもりだ?」

「えっ! あっ、その部分はカットしてくださいってお願いしたのに!」

「おい、まずはアタシの質問に答えてもらおうか。そんなにアタシがカラオケで女性ボーカルのバラードをしっとり歌ったら面白いのか?」

「いやー、それは、その、話の流れといいますか、取材を盛り上げるためというか……」

「アァン?」

 

 凄みながら、むにゅっとモチモチした頬をつまむ。RPGゲームのスライムモンスターよろしくぬっと伸びる。

 

「ご、ごめんなひゃい」

 

 ちょっと面白い。先輩を話のダシに使った報いを受けてもらう。もうちょっとむにゅむにゅしてやろう。

 

「…………」

「ひとみしゃん……」

「…………」

「あの…………」

 

 無心で柔らかい頬に触れていると得も言われぬ多幸感が湧いてくる。

 目の前のサチは小動物のように怯えている。コイツがハムスターかそんな生き物だとしたらアタシはなんだろう。やっぱりゴリラか?

 ふと、自分の二の腕と彼女の二の腕を比べてみる。

 サチもそれなりに筋トレで鍛えているが、まだまだほっそりとしている。女性の、少女の腕といってもいい。

 対するアタシはどうだろう。ゴツイ。なるほど。「オトコ女」「メスゴリラ」というヤジが飛んでくるのも仕方ないといった貫禄だった。もっとも、自分で望んでこうなったのだから悲壮感などない。あってたまるか。むしろ達成感に満ちている。男の騎手にも力負けしないパワーが備わったのだから。

 

「…………」

「えっと、そろそろ……」

 

 うおっ。

 不意に我に返ってきた。にしてもこいつの頬はヤバいな。脳内麻薬だ。ある意味クスリに匹敵するかもしれない。

 

「ま、まあーアレだ。こういう時は一応断りを入れるとか、事後報告でもいいから誠意を見せとけってこった」

「はい」

「わかりゃいいんだ」

 

 名残り惜しくも手を離す。代わりに頭を撫でてやるとこれまた小動物めいてニコニコとしていやがる。

 

                  ※

 

 アタシは騎手の中では「怖い系」のキャラだ。「怪物系」とも言われてる。もっとも、アタシ自身が望んでそうなったんだから願ったり叶ったりだ。

 女だからという理由でナメられるのが嫌だったし、媚びるようなマネは絶対にしたくなかったからだ。

 だから競馬学校では男子同様丸刈りにしていた。デビューしてからも徹底して女性らしさを排除し続けた。そうした女性らしさは「甘さ」、「弱さ」になると思っていた。デビューしたての時期は散髪代がもったいなかったので、週に一度髪を自分で切った。今でも髪型はベリーショートで、しょっちゅう男と間違われる。

 元々体力には自信はあったが、トレーニングで身体もいじめ抜いた。食事もきっちりカロリー・栄養管理をして、常にレースに向けて準備をしてきた。

 結果はデビュー年から出た。天才・王子進之助と末永長介が打ち立てた新人騎手の最多勝利記録を抜いて、重賞も制覇した。とはいえ、煩い外野の連中から散々文句やお世辞を言われた。3年目には平地GⅠ勝ちを収めると、さらにおべっかを使ってくるやつが増えたが、そういう連中の相手をするのは時間のムダだ。とにかくジョッキーとしての高みに登り詰めることがアタシの目標だ。

 歳を重ねるにつれ、いつしかアタシも先輩という立場になった。まだ尻の青いような新人どもを、先輩として導くのもアタシの役割になっていった。

 そんな時に、アタシはサチに出会った。

 とにかく不思議なヤツだった。後輩にも女のジョッキーはいたが、みんな栗東所属でそこまで深く絡んだことはなかったから、アタシにできた初めての女後輩みたいなモン。

 大概の新人は初対面でアタシの顔を見るなりビビっちまうんだけど、サチは最初からニコニコしていた。聞いてもいないのに馬のことや厩舎のことをべらべらと話してくるし、アタシに対してもあれこれ聞いてきた。

 

『うわっ! すごい固い! 普段どういうトレーニングしてるんですか?』

『冬場ってインナー何枚くらい着てます?』

『ひとみさんって美人ですよねえ。背も高くて、クールで、まつ毛も長くて、モデルさんって言われても違和感ないですよ』

『カラオケ行きましょうよカラオケ!』

『リンゴ食べます?』

 

 サチは忌憚なく、先入観なく、自分の意見を言った。昔通っていたフリースクールでの日々が自然と思い起こされた。

 チャラチャラしたやつは男女問わず嫌いだが、女で嫌いなのはあからさまに媚びてくるようなヤツだ。だが、サチの言葉は違和感も嫌悪感もなくすっと入って来ることが多かった。

 少なからずサチのことは嫌いじゃなかったし、どっちかっていえば、気の合うヤツだと思った。

 そんなある日、とあるレースの後でシャワーを浴びに行った際、たまたまサチの姿が目に入った。

 同じレースを走っていたのだが、サチは珍しい形で勝利を挙げていた。

 一位入線した馬が直線で斜行し、二位入線した馬の進路を妨害したとして降着処分。繰り上がりで勝った馬に騎乗していたのがサチだった。

 突然前にいた馬が目前にモタれてきたら、わりと経験のあるジョッキーでもビビる場面だろう。そこで諦めてしまうヤツもいるかもしれない。ただ、サチは冷静に進路を探し、最後まで追い続けた。

 

『怖くなかったのかよ?』

 

 壁越しにそう尋ねてみた。

 すると、サチはシャワーを止めて凛と答えた。

 

『怖くないことはないですよ。でも、馬がまだいけそうだったので、行かなきゃと思ったんです。手応えもよかったし』

 

 事も無げにそう言ってのけるサチに、ちょっと呆気に取られた。

 

『結構伝わるんですよ、騎手の考えてることって。迷ってるな、とか、自信がありそうだな、とか』

 

 そして、どこかで聞いたことのある話だということにも気付いた。

 そうだ、末永先生のところの馬に乗せてもらった時だ。あの人も似たようなことを言っていた。

 あの師匠にしてこの弟子あり、と言ったところなのかもしれない。

 

『馬が諦めてないのに、騎手が諦めちゃったらダメじゃないですか』

 

 この次のレース。4コーナーでの落馬もあり、荒れたレースになった。最後の100メートルで先頭にいたアタシの馬は、サチの馬にかわされてしまった。

 祝福の言葉でもかけてやろうかと思ったが、それは憚られた。サチはレースになるとスイッチが入るタイプで、彼女はこの後のメインに自厩舎の馬で出走することになっていたからだ。普段から調教をつけている馬らしく、えらい集中していた。そして、サチはこの馬でこの日の3勝目を挙げた。

 その日、アタシはちょっとだけこの後輩の底知れなさがおっかなくなった。

 

                  ※

 

「ひとみさん! ひとみさん!」

 

 調整ルームの自室で明日の出走表を眺めていると、サチが部屋に飛び込んできた。

 手には『晴駿』があった。表紙は……こっ恥ずかしいことにアタシだった。

 確か上半期シーズンの総集編みたいな企画でインタビューを受けたヤツだ。だけど表紙だなんて聞いてねえ。

 

「ここに書いてあること、ホントですか?」

「ハァ?」

「だから、この『思い出のサラブレッドについて』ですよ」

 

 あー、そういえば聞かれたな。インタビューの後の端のほう、アタシの簡単なプロフィールと一緒に載っている部分だ。

 サーチライト、という馬。アタシが生まれて初めて観戦したGⅠを勝った馬の名前だ。

 

「そうだけど、そうがどうかしたか?」

「えっと、その、なんでこの馬が好きなのかな~と思いまして」

「別に大した理由なんてねえよ。ガキの頃に生でGⅠ勝つとこ見て、走る姿がカッコよかったから好きになったってだけ。牝馬だけど、男馬相手に退かねえでバチバチやり合ってるところとか、子供ながらスゲエと思ったよ」

「そ、そうだったんですねぇ~!」

「だから、死んじまった時はショックだったな……」

「…………」

「だけど、やっぱり好きだよ。アタシにとって特別な一頭さ」

「ひとみさんっ……!」

 

 急にどうした?

 なんでオマエが照れてるんだ?

 

「なんだよ?」

「さあ、どうぞ! 私を、その……サーチライトだと思って飛び込んできてください!」

「……いや、別に」

 

 なぜかサチが両手を広げて「来てください」と構えている。「コイツは何を言っているんだ?」という言葉が喉から出かかる。まあ、サチのド天然はいつものことなので軽めに流しておく。

 するとサチのほうがアタシのことをむんずと捕まえに来た。抵抗するのも馬鹿馬鹿しいと思って、なすがままでサチに抱き締められる。

 

「私もひとみさんのこと好きですよ?」

「あー……アタシは、そこまで。そこそこっつう感じだわ」

「ぶーぶー! それだと不公平です!」

「知ったことかよ!」

 

 ……これまで、こんな風にじゃれ合う相手なんていなかったな。アタシ自身がそういう道を選んできたってのもあるけどさ。

 だけど、不思議と嫌な感じはしなかった。鬱陶しいと思うことは多々あれど、嫌いにはなれないヤツだった。そう言う意味じゃ、今は割と楽しく過ごせてるのかもな。

 この日からさらに三割増しでサチがベタベタしてくるようになったが、実害は特になかったのでそのままにしている。

 

                  ※

 

『晴駿』より「キシュのホンネ」 君野佐知子騎手について

 

「とても礼儀正しい。競馬に対する姿勢も真摯。聞いた話では某アイドルの歌と振付を完コピしているらしいので、是非騎手クラブの新年会でコラボしたい。」(栗東・中堅騎手)

 

「サッちゃんが来てくれたおかげで郷田が五割増しくらい優しくなった。ありがとう。」(美浦・ベテラン騎手)

 

「多分信じてもらえないだろうけど、この前調整ルームの脱衣所でサチと「キャッ」「あ、ごめん」ってイベントが発生した。マジで。

でもその時裸だったのは俺。サチじゃなくて俺。つまり「キャッ」って言ったのは俺。俺が「キャッ」って言った。フル○ンで。俺が。 」(君野騎手と同期の新人騎手)

 




もし女性騎手がリーディングに絡むとなったらこのぐらいやらなきゃなのか・・・?
まあこの世界の女性騎手は「やりすぎやろ!」なくらいめっちゃ活躍してますが(笑)

現実では女性騎手への新減量制度が適用になりましたが、はてさてどうなるんでしょうか
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