三冠牝馬が女性ジョッキーに転生する物語   作:nの者

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サチの家族構成は父、母、サチ、妹です

私は競馬ゲームはウイスタ遊んでます



キングオブジョッキー(競馬ゲームにおける諸事情)

タイトル:キングオブジョッキー4

平均☆ 4.3

『実在の競走馬、騎手、調教師なども登場する、ジョッキーシミュレーションゲームの王道!

プレイヤーはデビューしたての新人ジョッキー。競走馬に騎乗し勝ち星を増やしていき、大レースで勝利し、世界No.1ジョッキーを目指します。

ご要望に応えて国内レースだけでなく、海外のレースや障害レースも実装。

レースでは本物の競馬さながらの臨場感を意識しつつ初心者にも楽しめる操作システムを確立しました。

中央で、地方で、トップジョッキーを目指すもよし。

年代を選択し、あの名馬や名騎手と対戦するもよし。

オンラインで全国のユーザーと対戦するもよし。

楽しみ方は自由自在!

競馬会のキング、王子進之助騎手も太鼓判!

パッケージ版、ダウンロード版に加え、アプリ版も絶賛配信中!

あなたも今日からジョッキーライフ!』

 

                  ※

 

 調教を終えて美浦の寮に戻った佐知子は、妹から連絡が入っていることに気づいた。

 数回のコール音の後に、妹は開口一番言った。

『お姉、朗報だよ』

「どうしたの?」

『〝キングオブジョッキー〟って知ってる?』

「うん。競馬のゲームでしょ」

『そう。パッケージ版ダウンロード版に加えてスマホで手軽に遊べるアプリ版も絶賛配信中のアレだよ』

「それがどうかしたの?」

『この間大型アップデートがあったの。去年の成績をシステムに反映させたりデータを追加したりしたんだけど、なんと、新しく実装された騎手の中に……お姉がいたんだよ!』

「お、おお~!」

『さっすが新人最多勝! ちなみに去年デビューの新人の中で実装されたのはお姉だけだよ。ちなみにあの福神漬だか福笑いだかいうヒトはいなかった。格の違いを見せつけたね!』

「福盛田、だよ」

『まあなんでもいいや。てなわけで是非ともお姉にも始めてもらいたいと思ってさ、招待しといたからダウンロードして始めてね』

「私が?」

『当たり前じゃん。いい? 騎手の中にはね、競馬ゲームでイメージトレーニングをしているヒトもいるんだよ。ていうかいるよね?』

「永吉さん、とかかな」

『でしょ? ということでこのゲームを通して騎手としての腕を磨いてほしいんだ』

「……本音は?」

『石が欲しい! ガチャ回したい! 今しか手に入らない限定SSRが来とるんじゃあ~!』

「はぁ、そんなことだろうと思った」

『あ、でもねでもね、これほんとに面白いから息抜きにちょうどいいんじゃないかなーと思ってね。あ、あと似た感じのゲームでね――』

「わかったわかった」

『ほんと!? あぁ~ありがたや~! お姉あいしてる!』

「まったく、調子いいんだから。あ、でも私ゲームあんまり得意じゃないよ。知ってるでしょ?」

『うん。スマ○ラでボコボコにしまくったの覚えてるもん。まあ、飽きたら削除しちゃってもいいから、よろぴくー』

「はいはい。夢中になるのはいいけどほどほどにね」

『わかってるって。じゃあねー』

「うん、またね」

 

                  ※

 

「また負けた……」

「ど、どうした?」

 昼時、ズーンという効果音が鳴りそうなほど項垂れる佐知子に、長介が思わず声をかけた。

 佐知子は持っていたスマートフォンの画面を向けた。〝2着〟の文字が表示されている。

「ナシオボトルネック、うちの管理馬だった馬か」

「はい……」

 長介はナシオボトルネックのことを思い出す。あれはユニークな競走馬だった。

 調教師としてスタートしたばかりの時分に任せられた牡馬だった。とにかく気性が荒くなだめすかすのに苦労した。

 彼の経歴をざっというと、ダートの新馬戦から3連勝して挑んだ初重賞では壁に跳ね返されて大敗。以後は低迷する時期が続き、勝利が遠ざかった。そして元いた厩舎の解散に伴って長介の厩舎にやって来たのだ。転厩してしばらく経ったある日、彼は久々に勝利を収めた。そこからはどうしてかキレのある走りを取り戻し、重賞で立て続けに2着3着と好走。かと思えば次のレースではあっさり負けるなど、好走と凡走を繰り返すようになった。結局、4勝のままで引退したが、7歳までしぶとく走り続けラストランの重賞でも掲示板をきっちり確保していた。重賞未勝利ながら獲得賞金額は結構なものになったはずだ。

「お前がゲームやってるなんて意外だな」

「私だってゲームくらいするよ。あんまり得意じゃないケド」

 キングオブジョッキーでは史実馬に乗ることもできる。かつて無敗で三冠を達成した歴史的サラブレッドや、マイル界の絶対王者、恵まれない血統を撥ね退けて血を遺したグランプリホースなど。『もしあの馬に乗ることができたら』と挙げ出したら枚挙に暇がないだろう。

 その中でいえばナシオボトルネックは実績も知名度も劣る。重賞勝ち無しのダート馬をわざわざ好んで育成する理由は、その馬が長介の管理馬であることに他ならなかった。

「みてみてチョーさんのグラフィック、そっくりだよね」

「いうほど似てるか?」

 

 ゲームの世界は膨大な『もしも』を実現する。

 キングオブジョッキーに関していえば、『もしあの名馬がケガをせずに走り続けていたら』『もしあの馬同士が対戦したら』『もしあの馬が海外レースに挑戦していたら』『もしあの騎手があの馬に乗ったら』などを叶えることができる。

「このゲームだと私、凱旋門賞二着した後にジャパンカップ走って、有馬記念走って、結局引退しちゃうんだよね」

 現実では、凱旋門賞で惜敗した直後に陣営は来年の凱旋門賞へ意欲を見せた。もっとも、サーチライト号が急死したことでその夢は果たされなくなっていたのだが。

「もしあのまま走ってたら、ジャパンカップいって休養だろうな。明けたら海外のレース使ってから凱旋門賞行くつもりだったって幸野さんは言ってた」

「……行かせてあげられなくてごめんね」

「いいって。気にすんな」

 もし、サーチライト号が翌年の凱旋門賞に出走していたら。もし、無事に引退して繁殖入りできていたら。その仔に自分が乗れることができたら。そんなことを考えたこともあった。

 すると佐知子はスマホを手から離した。

「もうお終いか?」

「うん。ゲームは一日一時間って決めてるから」

「えらく節制できてるじゃないか」

「えへへ」

 長介は考える。もし自分が騎手を続けていたらどうなったのだろうか。八大競走を制覇し、リーディングジョッキーになり、絶頂ともいえる時期に、彼は己に騎手としての――人としての在り方を問うた。そうせざるを得ない〝事件〟が起きたからだ。

 

『私に言わせれば、先輩は騎手に向いていません。絶対的に、絶望的に、希望的に。ですから、別の職業に就くことをお勧めしますよ。ほら、言うじゃないですか、転職するなら早いうちに越したことは無いって。年を取ってからの転職は大変ですからね。え? ああ、そうですね。ですけど1000勝しようが2000勝しようが、本当に騎手という職業に向いているかどうかなんてこれっぽっちも解らないじゃないですか。向いていなくても1000勝や2000勝できるジョッキーもいるかもしれないじゃないですか。え、〝そんな人はこれまでいなかった〟? はあそうですか、でもこれから先、そういう方が現れるかもしれないじゃないですか。『いない』と言い切れないからには、『いる』可能性を捨て去ることはできないんですよ?』

 

 ――――――

 

 このゲームに彼女の名前はどこにも無い。『いない』と定められた、存在を許されない者に『もしも』は無いのだ。

 

 ――――――

 

「チョーさん?」

「……ああ、どうした?」

「大丈夫?」

「少し考え事をしていただけだ。お前の騎乗依頼を捌くのは、なかなか骨が折れる」

 一年目でそれなり成績を残し、二年目の佐知子には前以上に依頼が来るようになった。見た目での華がある女性ジョッキーを乗せて注目を浴びたいという馬主もいるが、彼女の力量を信頼している馬主もいる。また、かつてトップジョッキーだった長介と縁のある馬主や調教師からはよく依頼が来る。長介がGⅠを勝たせて種牡馬入りした馬の産駒に佐知子が乗ることもしばしばあった。

 もし騎手を続けていたら、長介は王子のような競馬界のレジェンドになっていただろうか。ゲームの中の長介のように。

 それは本人にも解らなかった。

 

                  ※

 

 場面転換。

 佐知子がキングオブジョッキーを始めた影響か、美浦の若い騎手の間でこのゲームがちょっとしたブームになった。

「光もやってるんだよね?」

「ああ。でもこれでサチにまた差つけられたな」

「どんなもんだい。っていっても、ステータスは最弱だけどね」

「でも特能は1コついてるじゃん」

「特能?」

「特殊能力のこと」

 ゲーム中、騎手の基本パラメータ(脚質適性、パワー、折り合いなど)は1~100までの能力値によりS~Fのランクに格付けされる。それとは別に特別な効果を発揮できる特殊能力が存在する。大レース、クラシック、道悪、新馬、イン突き、コーナーリング等々。ちなみに大騎手・王子進之助はほとんどの特殊能力をコンプリートしている。

 佐知子は、夏の活躍が「夏女」という特殊能力で反映されていた。

「あ、それならチョーさんは「牝馬」「クラシック」「海外レース」「大レース」とかついてるんだよね」

「あれだけ活躍したら、そうだろうな」

「ふふーん」

 上機嫌になった佐知子を見て、光は頬を緩めた。

「そうだ。光はどんな騎手でやってるの?」

「ああ、俺は――」

 と、スマホをタップしたところで、彼は手を止める。なにやら汗をかいている彼を、佐知子は不思議に思った。

「どうしたの?」

(……サチでゲームしてるって言っていいのか? どうなんだろ? いや逆の立場だったら俺はまあ嬉しいけど、サチはどうなんだろう。もしかしたら引かれるかな……)

 ぶつぶつと脳内で唱える光をよそに、佐知子は自分のプレイデータを見せた。

「じゃじゃーん! エディットで光つくったんだ」

「……え?」

「妹が光の名前をぜんぜん覚えてくれないから、ちょっと悔しくってね。見返してやりたくて」

「サチ……」

「まあオンライン対戦ではボロボロに負けちゃってるけどね。あっ……迷惑だったかな?」

 光は首を大きく左右に振った。照れくささはあったが、素直に嬉しかった。

 

「――お互い様だね」

「なんか、恥ずかしいな」

「あはは、でも気持ちは分かるよ。私もチョーさんでプレイしたデータあるし」

 

                  ※

 

 後日、佐知子は再び妹と通話をしていた。

「かくかくしかじかなんだ」

『まさかそんなにバズるとは思わなかったわ……ちなみにウチのお姉は三冠ジョッキーになったぜ』

「すごいなぁ」

『まあ楽しんでもらえてるようで何よりかな。てことで本題なんだけど』

「なに?」

『またまたオススメの競馬ゲームがあるんですよ』

「またまた来たね」

『というわけでタイトル、ドン!』

 

タイトル:Kガールズ!~ボーイ・ミーツ・ヒロインジョッキー~

平均☆ 3.5

『競馬+学園恋愛シミュレーション+リズムゲーム。

女性だけの騎手養成学校に唯一の男子生徒としてやって来た主人公。個性豊かなクラスメイトたちとレースで切磋琢磨し、トップジョッキーを目指すというのがシナリオモードの骨組みです。

ヒロインたちの好感度やレースでの成績による多数のルート分岐があります。

一定以上の好感度でヒロインとのレースに勝利して告白をするルート、

学内でリーディングを獲得してハーレムを築くルート、

主人公がケガのために騎手を諦め、ヒロインを支えるために厩務員を目指すルート、

突如宇宙から襲来した競馬星人と戦うルート、などなど。

多種多様なストーリーが楽しめるのが魅力です。

物語を彩るヒロインジョッキーたちには豪華声優陣を起用!

今なら無料10連ガチャをプレゼント!

〝ステッキを振るって、恋は走り出す。〟

(ケイバ)ガールズたちとのスクールライフをご堪能あれ!』

 

「おお……これはまた、なんというか」

『ちなみにジャンルは音ゲーだよ』

「そうなの!?」

 




おまけの騎手紹介

永吉真琴 男 栗東・フリー

関西リーディングでは常に上位を確保する中堅実力派騎手
騎手クラブの関西支部長を務める
競馬界きってのゲーマー
「Kガールズで好きなヒロインはハルヒ。強気なんやけど、しおらしさもあって、曲もいい。トゥルーエンドは泣きました」

ちなみに既婚者


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