突っ込まれる前の喰種の話(番外)   作:こしあんあんこ

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久々に番外更新。




 苗木を一緒に育ててみないか、エトの問いは当然ながら穏やかなものではない。呑気に苗木を植えこんで、樹木を育てるわけではないのも知っている。連れ出されたのは何処かの廃墟。喰種が隠れるにはうってつけの、人気のない場所だった。

 

 エトは喰種としての顔を見せている。小柄な体躯に独特のフードに花柄のスカーフ。包帯を巻かれてしまえばもはや誰だか分からない。これが今作家として話題を寄せる人物だとは思わないだろう。こっちだよ、俺の腕を掴んで案内する彼女はまるで幼い子供のようだ。 

 

 入り組んだ廃墟を更に進んでいけば、喰種が部屋に埋め尽くさんばかりに並んでいた。誰もがフードをすっぽりと埋まるように被り、揃いのように骨を思わせる面を全員が被っていた。それ以外を身に(まと)った男が一人、奥に座っていた。白い男だった。白い衣を身に着けている。白以外の色があるとすれば赤いマスクが目立っていた。舌とも思わせる赤い金属製のマスク、そのマスクは顔下半分の全てを覆い隠していた。表情が読めない。さらに横には顔全体が巨大な口を思わせる、奇抜なデザインのマスクを身に付けた、訳の分からない存在もいた。

 

「タタラさん、連れて来たよ」

 

 こっちだよ、そう言わんばかりにエトは白い男に手を振った。エトはタタラと呼ぶ男に声を掛けている。エトの声に気付いたらしい、男は此方を見ている。

 

「ああ、来て」

 

 エトは俺の背を押して進む。押されるがまま、俺はタタラの前に立つ。般若の面越しに、タタラと目が合った。座って見上げられているというのに、威圧感を感じる。血のような赤い眼の色をした男だった。その眼は思案するように伏せられ、顔をようやくまた上がり頷いた。

 

「うん、いいんじゃないかな。目も悪くない。駒は多いほど隻眼の王も喜ぶ」

 

 それに馬鹿じゃなさそうだしね、そう言ってまた思案するよう顔を伏せて黙り込んだ。隻眼の王、エトのことだろうか。疑問が湧いているうちに、男はまた顔を上げてエトの名を呼んだ。なぁに、エトはこの場には似つかわしくない可愛らしいそぶりで、首を傾げてみせた。

 

「こいつはエトに任せるよ」

 

 元々私のだもん、駄々をこねる子供のように頬を膨らませてタタラに抗議する。タタラは特に気にすることもなく、俺はそろそろ行くよと立ち上がる。

 

「ノロ、行くぞ」

 

 誰かの名前を呼んで歩き出す。真横に居た得体のしれない存在がノロと呼ばれるモノらしい。タタラの後に続いて部屋を後にした。

 

「良かった、これで樹も大きな幹に成長する」

 

 これから淀んだ雲を突き抜けて、新鮮な空気をいっぱい吸うの、エトは楽しそうに笑う。顔まで覆われた包帯は彼女の頬と口元の筋肉の動きに従って動く。

 

「エト、隻眼の王は君なのかい?」

 

 珍しいものでも見たようにエトは笑う。また新しいゲームでもしようかでも言いたげな口ぶりで彼女は笑う。

 

「ふふ、問いかけはしないんじゃなかったけ?まあ、いっか、答えてあげる。一つだけ」

 

 私は王様じゃないよ、クスクスと肩を揺らして笑う。だったら誰なんだ、そう言いかける前にその言葉は続けられなかった。包帯に包まれた人差し指が口元に押し付けられる。包帯の感触が、唇に触れる。

 

「内緒」

 

 もう答えっちゃったし、永遠の謎になっちゃったね。エトはステップを踏むように足取り軽く先へと進んでいった。

 

 アオギリの樹に所属し始めて夜の活動時間が増えた。エトに言われるがまま、従った。下っ端の仕事だという人間の解体をしたし、襲えと言われた場所も襲った。人間を殺せとも言われて殺せば、匂いが食欲湧きたたせ、同族喰らいの頻度は更に増した。同族喰らいを繰り返せば赫子は少しずつ鋭く、強く強靭なモノになっていく。纏う赫子も増えてきた。エトはそれをいいことだと言って微笑んだ。打って変わって昼の活動時間は、夜とは違って平和なものだ。エトの命令も平和なものが多い。最近はお菓子も作ってみろと命令されて、スイーツ特集の本やらレシピブックを買い漁る日々だ。それが擬態だと分かっていても、こっちの生活は喰種の世界よりも平和で、退屈だ。あちらの世界はああも血生臭いと言うのに、なんて光に満ちているのだろう。彼女もこの世界に居れば楽しそうに見えた。そう見せているのだろうなと思っていても想像する。こんな退屈な世界で、喰種も人間も、コーヒーを飲み合っていれば。どんな話をするのだろうか、エトも真ん中で仲介しながら笑うんだ、と想像して笑う。エトが仲介なんて、似合わない。何を考えているのだと想像の中で登場した彼女には聞かれたが、内緒だ。だってバレたら怒られるし、恥ずかしい夢だった。

 

 ヤモリが入ってきたのはそれからだ。13区のジェイソン。指を独特の形で鳴らし、強者は絶対だと語る彼もやはり歪んでいた。趣味の部屋を作り出し、頑丈な部下の何人かはその部屋に行っては帰ってくることはない。内部の光景は清掃する下っ端から聞いたが、本当にロクでもなかった。えげつない光景で 嘔吐(おうと)する下っ端が痛ましかった。タタラには良いのかと聞けば、「影響はない、好きにさせておけ」ということだったから俺ももう言うことはない。ヤモリは不思議な男だった、あんな残虐性を見せても彼の部下たちはヤモリを慕っていた。特に、ナキという男はヤモリを【神アニキ】と呼称し慕っていた。言葉も勉強をして来ることが出来なかった喰種らしい部分のあるようで、ナキは絶妙に単語を間違える。それでもヤモリは怒らない。意外だったが彼らは彼らの絆があるようだった。それは塩野やエト、俺とエト、タタラやノロ、エトの3人もそうだ。きっと説明できない関係性があるに違いなかった。だから、ナキがコクリアに収容された時のヤモリはしばらく荒れた。連れていかれたなら取り戻そうと励ませば、ヤモリはいつもの調子に戻ったから少し安心した。エトはエトで今日も楽しそうにノロと一緒に何処かへ行くようだ。マダムに会ってくる、そう言い残して消えていった。

 

 エトは本を書き上げる。【拝啓カフカ】から始まり、沢山の作品を書き上げた。初期の作品は俺も知らないが、寝る間を惜しんで書き上げる彼女はいつ休んでいるのだろうかとすらも思うほど根を詰めて書いている。今度書き上げる作品は【黒山羊の卵】というものらしい。その原稿らしきモノが机に上がっている。興味が出てしまい、持ち上げて捲ってみる。黒山羊と呼ばれている冷酷非道な殺人鬼の女性の息子が主人公で、息子は母親の異常性を嫌悪しながらも、やがて己自身にも残酷な衝動に芽生えつつあることに気付いていく、というのが大まかな話らしい。モチーフは恐らく……。ガチャリ、エトが入ってきた。思考を打ち消す。ああ、と声を上げた。

 

「勝手に読むとは、なかなかムッツリじゃないか」

 

 私は怒っているぞと言わんばかりに頬を膨らませた。悪かったな、わびればエトは仕方ないと俺をあっさりと許した。いいのか、そう訊けばエトはあっさりと意外なことを口にする。

 

「君に最初に読んでもらおうと思っていたのに、酷いじゃないか」

 

「……それは、本当にすまなかったな」

 

 興味本位とはいえ悪いことをしたな、そう思って俯いているとエトは頬を抓る。痛い。エトは俺の反応を面白がっている。

 

「冗談だ、なんにせよ読んだのだから埋め合わせをしてもらおうか」

 

 ケラケラと彼女は笑う。エトは、アオギリの樹の王ではないが、少なくとも彼女は俺の女王様だ。だから機嫌を少しでも直してもらいたかった。何をすればいいんだ、俺の問いに彼女は満足そうに微笑んで、耳打ちし始めた。

 




そういえば、ナキはいつ頃コクリアに収容されたっけ(滝汗)
そろそろ原作かなーって想像してる。
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