突っ込まれる前の喰種の話(番外)   作:こしあんあんこ

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L 11 エルエルフさんからのリクエスト。エト視点の主人公についてです。


リクエスト1

 同族喰らいの野良猫が紛れ込んだ、そんな噂が耳に入ってきたのは間もなくのことだった。猫と称される程に小柄な子供が、私とさほど変わらない子供が、私と同じように同族喰らいをしている。そんな事実に興味をそそられた。興味が湧いたらいつだってやることは変わらない、直接会いに行く。そう決めてからは行動が早かった。噂の出所を探り当て、喰種が死んだ場所を手当たり次第に歩き回った。子猫の爪痕は小さいながらも深く残っているようで足跡を追うのは容易かった。

 

 そして出会った、真下では子猫が同族の死体を喰らっていた。服はボロボロで髪は毛先が黒ずんで野良猫と称されるにはふさわしい身なり。少年だった、喰種の血で口元を汚し、顔をしかめて喰らう姿が哀れで笑いすら出てきてしまいそうだった。ねぇ、声を掛けてみればこちらを見上げている。ポカンとした表情が印象的だった。

 

「それ、美味しい?」

 

 少年が持つ喰種の腕を指さして訊く。回答は不味いと話し首を振っていた。うん、知ってる。飛び降りて少年の傍にあった臓物を拾い上げる。もしかしたら美味しいのもあるのかもしれない、あり得ない想像をしながら食べてみれば、いつも通りの不味い味が口内に広がった。不味いね、同意して投げ捨てた。

 

「……君は?」

 

 何者かを当然ながら問われた。ただ教えるだけではつまらない、考えて思いつく。ここは一つゲームをしようじゃないか、と思いついて声を掛ける。

 

「そうだ、当ててみて」

 

 ヒントを与えて答えを待つ。ジッと見つめられて、互いの眼がかち合った。その直後何かに気付いた様子で求めた答えを導き出した。はい、正解。楽しくて笑っていれば、困惑した様子が見てとれた。手遊びをしながら詳細を語る。

 

「私は 喰種(グール)と人間の間に出来た子、だから隻眼」

 

「ぐーる?」

 

 本当に分からない様子で首を傾げている。あれ、私も同じように首を傾げた。

 

「あれ?喰種って知らないで育てられたの?喰種って私達みたいに眼が赤くて、人間を食べちゃう種族のこと。人間以外は食べられないの」

 

 先程投げ捨てた臓物とは違うモノを拾い上げて、食べて見せつける。喰種はこれ以外食べられないよ、と言うように見せつけて教え込む。生唾を呑む様子で此方を見ている。同じものを食べているのに、美味しそうに見えるのだろうか。食べながら、聞いてみた。

 

「あなたはどうして知らないの?」

 

 全部、答えてくれた。部屋から出してもらえなかったことから今までのことを全部、全部。なんてことは無い、何処にでもある不幸な喰種の話だ。それでも聞いてしまうのは何故だろうか。教養は身についているようで、他の喰種よりも話が分かりやすかった。私は両親の残したノート、少年は親から与えられた本。読み物で学んだ環境は何処か私と似通っているようにも思えた。まるで二人だけ同じ世界に取り残されたような思いだった。

 

「それなら仕方ないね、だったら教えてあげる」

 

 何処か私に似ているせいなのか親切心が湧いた。一から全部教え込む。喰種を教えた、世界を教えた、世の中を教えた。私達を認めない、理不尽なセカイ。喰種と人間から生まれた副産物でしかない私。……私は、父のように逃げたくはなかった。少年も似たような思いを持ったのだろうか、眼の中に強い意思を感じ取った。いいだろう、私は手を差し伸べた。少年は喜んで私の手をとった。

 

――この日から、野良猫は私のモノになった

 

 私のモノになった以上、汚い身なりは許さない。環境も住む世界も丸ごと変えてやった。無理やりにでも人間社会に引きずり込んだ。抵抗は無かった、ただ与えられる餌を雛鳥のように歓迎する少年がそこにいた。それが何とも心地がいい。何でも言うことを聞く人形が可愛くて仕方がない。手伝え、そう命令すれば少年は喜んでそれを受け入れた。

 

――エト、君がそう言うなら従おう。やれというのなら、やり遂げよう。待てと言うのなら、いつまでも。行けと言うなら何処へでも。殺せと言うのなら殺そう。死ねというなら、いつだって死んでやる。理解もしよう、理由も問わない。何処までもついていこう。君は、俺の王様だ

 

 胸がすくような思いだった、少年はなんと一緒に堕ちてくれるのだ。デートにでも誘われたような胸の高鳴りを感じる。救いなどとうに諦めていた、救いなどいらなかった。救いなんて、馬鹿にされているとすら思っていた。助けを求めてすらいないのに。なんて酷い侮辱、なんて酷い屈辱。そんな醜い独善、必要ない。信頼して背中を預けたいとも思えない、なんだそれは、馬鹿馬鹿しい。間違っていると止めて欲しいとも思っていない。自分を見てくれる人も、欲しくはない。きっとそれは物語のように素敵なことなのかもしれないけれど、もうそんなモノで満たされるとは思っていない。夢見る少女時代はもうとっくの昔に終わっていた、……本当に、反吐が出る。

 

 ……でも、間違っていると分かっていても、何も聞かずに受け入れて、理由も聞かずに飲み込んで。全てを包み込んで一緒に堕ちてくれるなら、それはなんて幸福なことなのだろうか。私のこれからすることも認めて容認してくれて、許容されて甘やかされるならきっと何処へでも行けるし何にだってなれる。ついてきてくれるなら、私は思い切り間違っていられる。仲良く一緒に間違えて笑い合う、まるで親に怒られない子供同士の遊びのようで。……何よりも素敵なことだった。

 

――性別が違う、……女王様さ。従ってくれるなら仕方ない。その命尽きるまで使わせて貰おうか

 

 どんなモノよりも魅力的な誘い文句。私は少年がますます好きになった。まるで自身の心に石が投じられたようだった。静かに揺れていた心の水面に石が投げ込まれ、興味と言う波紋を湧き立たせ、大きく揺れ動く。心の中の水面は溢れ出していた。溢れ出した水面の水は苗木を育て、大樹に育ちきっていた。それは興味本位。既に成長しきって、立派な執着に成り果てていた。少年もまた同じ思いを抱えているに違いなかった。考えるだけでゾクリとした暗い愉悦に襲われて気持ちが良かった。そこまで入れ込んでいる事実に自分自身驚いた。

 

 それからはいかに少年を私の手元に置くかを重視した。必死に彼を仕込んだし彼の偏食を変えようともした。それでも偏食は変えられなかったが、彼は人を食べるようにはなったからそれで満足だった。ちょうど付き人が欲しかったからこれを機会に少年に命令しながら付き人としての仕事も教え込んだ。担当の塩野に無理やりにでも納得させた。塩野は私の正体を知る人間だ、喰種の正体を知られるのは致命傷に近いが、それでも私は塩野を気に入っていた。少年は私に忠実だ、塩野を殺すに違いない。殺されたらそれまでだがきっと塩野を殺したら少年にあっという間に興味をなくすとも思えた。危ない導火線に火を付けたい衝動で塩野と少年を会わせてみる。初めは塩野の胃袋を掴ませることから始めさせた、付き人ならある程度調理の技術を持ってほしいなという思いもあったのだが、塩野は美味しいと言うので試みは成功だったと言える。少年の努力家なところがいじらしい。実際に会わせてみれば面白い展開になった。塩野は相変わらずだし少年は殺意に満ちていた。ギャップ的な光景が本当に面白い。しばらく様子を見た。結局のところ、少年は殺さなかった。最後にはぐったりした様子で少年は私を見ていた。何故殺さなかったか訊いてみれば、「料理を振るまえしか聞いていない」と言う意外な返答を返される。どこまでも命令に忠実だ。健気で愛らしさすら感じた。

 

 日数は重なり年月が経つ。少年は私と同じように成長して、気付けば同じ筈だった身長が越されていた。生意気だとも思ったが発育を止めろと命令出来る筈もなくて、見上げるのが日常と化した。なるほど、見上げるのも悪くはない。アオギリの樹にも巻き込んで、これからどうなるのか。……まったく、興味が尽きない。新作も出せばサイン会やらに連れまわされる付き人の苦労を想像する。どんな顔をするかが楽しみだ。命令を耳打ちしながら私は悪巧みを思案する。計画は今も付き人と一緒に遂行中。良い拾い物だった、私はただただ満足していた。

 




今回はリクエストに応えさせて頂きました。キャラ視点で動かすのはあまりしてこなかったので楽しかったです。L 11 エルエルフさん、読んでいただけたら嬉しいです。


今も活動報告にて喰種世界にいた頃の話限定でリクエストを受け付けます。感想にはリクエストを書かないでください。お願いします。
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