男の娘は男性操縦者に入りますか?   作:畑煮丸太

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3話 玉砕!そびえる大きな壁

「(ISを動かせるとは言っても所詮は男性、なんてことはありませんわ)」

 イギリスにいた頃、身の回りには自分に気に入られて甘い汁を吸いたいだけの男しかいなかった。

 たとえISを動かせるとしても染み付いた負け犬意識が簡単に抜けない。

「(さっさと片付けて大人しくなって頂きましょう)」

 先程自分が勝ったら学園を出ていってもらうと言ったが、セシリアにそんな気はなかった。

 終わった後、出ていきたくないと態度を翻した所で赦してどちらが上かを思い知らせればそれでいいのだ。

 

 試合開始のブザーが響く。

 それと同時に希が物凄い勢いで突っ込んできた。

「(なるほど。先手必勝、瞬時加速(イグニッション・ブースト)ですわね。いいセンスですわ)」

「ですが!瞬時加速はいい狙撃の的でしてよ!」

 瞬時加速は1度放出したエネルギーを吸い込みもう一度利用するという性質上、途中で進路を変更することは出来ない。

 右手の鈍器のような武器は恐らく近接用。このスピードから考えてもこの機体はスピードタイプなのだろう。

「(まずは機動力からですわ)」

 前傾姿勢によって背中から見えているウィングスラスターに狙いを定め、勝利を確信して引き金を引く。

 

 しかし

「なっ……!」

 メイン武器のビームライフル《スターライトMK-II》から放たれたビームが希の機体を捉えることは無かった。

「回避した……!?ぐぅっ!」

「流石はイギリスの候補生、手応えが浅い。でも──」

 通り過ぎたあとこちらを振り返り、薄い笑みを浮かべながら希は呟いた。

 

「──やれそうかな」

 


 

「(あっぶなー!もうちょっとで正面衝突する所だった!)」

 右手に持っている打撃武装『名状しがたきバールのようなもの』をしっかりと握り直す。

 セシリアの言った通り、正面から飛び込む瞬時加速は回避できないただの的だ。

 でもそれが()()()()()()()()()()()

 相手が瞬時加速と見間違うほどの急加速。超がつくほどのスピードタイプであるクトゥルーだからこそできた芸当だ。

「癪ですが、私に一撃与えたことは褒めて差し上げます」

「へぇ、認めちゃうんだ」

「故に、力の差というものを貴方に教えて差し上げますわ。ティアーズ!」

 ブルーティアーズのスカート状になっている部分が6つに分離し、セシリアの周りに漂う。

「さぁ、踊りなさい。私とティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 


 

 BT兵器『ブルーティアーズ』。パイロットの脳波でコントロールするビット型兵器で、ファンネル辺りをイメージするとわかりやすいかもしれない。

 セシリアがそれを出した途端、希は防戦一方を強いられることになった。

「っ!」

 今も避けきれなかったビームが肩の装甲を掠め、少しのダメージを受けた。

「(全然近づけない、手数が違いすぎる!)」

 近づこうとするとそれを阻止するようにビームを放ち、回避した先にさらにもう1つのビットから狙う。さらにその足止めに合わせて本人から本命の射撃。

 戦闘経験の差が如実に出ていた。埋めようのない差が希の前にそびえる。

「実力差は明白、まだ続けますか?」

「っ!当然!負ける訳にはいかないからね!」

 徐々に追い詰められているという事実は焦りを産み、焦りはミスを産む。

「ぐぁっ!」

 遂にセシリアが放ったビームがクトゥルーの装甲の無い部分を捉え絶対防御が発動した。

 絶対防御とは、装甲やエネルギーシールドで防ぎきれなかった攻撃からパイロットを守るための機能で、発動にはかなりのSEを消費する。

 今のダメージでクトゥルーの残りSEが50%をきった。

 ……一か八か、突っ込むしかない。

「はああぁぁ!」

 今度こそ本当の瞬時加速で突進する。

 ただの加速が瞬時加速に見えるほどの速力を持つ機体が瞬時加速をするとどうなるか。

 答えは簡単、人の反応速度の限界に迫る。

 受けるセシリアはもちろんのこと、攻める希も気を抜けば絶対防御のお世話になる。そうなればクトゥルーの残りSEは今度こそ危険域に入ってしまい、希の負けがほぼ確実になる。

「(速……避……無理!!)」

「喰ぅらええぇぇ!」

 回避不能、当たれば大ダメージ不可避。そんな中でセシリアは全力で自ら後ろに飛び退った。


「ふむ、悪くない判断だ」

「こんな時白い賢者とか出来たらいいなって思いますね」

「……?何を言っている、山田先生?」

「あ、いえ気にしないでください」


 バックステップで勢いは多少緩和されたものの今のダメージは小さくないはず。

 それに、近づけたのならビットを無効化することも出来る。

 ブルーティアーズに搭載されているビット兵器には明確な弱点がある。かなり集中力を必要として自分とビット同時に動くことが難しいのだ。

 実際にこれまでの試合でもセシリアは4つのビットを使っている時、自分はほとんど動いていなかった。

 つまり、ビットを使わせたくないなら動き続けなければならない状況を作れはいいのだ。

「捕まえたよ、セシリア・オルコット」

 一定以上の距離を開けないように小刻みに突進と反転を繰り返す。

 少しずつセシリアのSEを削っているとは思うが、決定力が足りない。流石は代表候補生、避けられたり、当たっても上手いこと急所を外される。

 早く決めないと先にこっちのSEが切れかねないし、なにより。

「(うぅ……頭痛い……)」

 クトゥルーの3つの大きな欠点、その2つ目。高い性能を引き出す代わりにパイロットの脳に大きな負荷をかける。

 思考を乱す痛みは今も増大し、さらに続くと戦いに支障をきたすだろう。

 思い切ってもう一度瞬時加速で突っ込むか……そう悩んでいた時のこと。

「ッ……!?」

 急に左方向からビームが飛来したのだ。

「私を常に動かし続けることでビットを使用できない状況を作る。実にいい作戦ですわ」

 僅かに高度が下がった希を見下ろしセシリアは言葉を紡ぐ。

「とてもよく観察なさっているのですね。そうですわね、確かに私は4機のビームビットと同時に動くことは出来ません。ですが、2()()()()()()()()()()()()

 

 頭痛とこれまでの前提を覆されたことにより視界の端が暗く歪む。

 コンディション、残りSE、作戦的有利の全てにおいて上をいかれてしまい戦況は圧倒的不利、いやもはや絶望的と言える。

 

「(負ける……?ボクが……?嫌だ……いや、ダメだ……ボクは負けちゃいけないんだ……あいつは一夏を馬鹿にしたんだ。千冬ねぇと比べて劣っていると断じ、一夏を捨てたアイツらと同じように……一夏は弱くなんかない。一夏は劣ってなんかない。一夏はこんな権力で上がってきたような屑とは違う。一夏は誰よりも強くて誰よりも優しいんだ。一夏は、一夏は、一夏は……!)」

 

「ようやく壁を感じましたか。極東の男は私の祖国の殿方より鈍く頭も弱いのでしょうか。さて、再度問いますわ」

 そこで一度言葉を止め、トーンを落とす。

「まだ、降参しないので?」

「ぁ、あぁ……と、当然だ……ボクは、負けられ、ないんだ」

「そうですか。では、もう片方とともにIS学園(ここ)から出て行ってくださいな」

 ビットから放たれたビームが4方向から希を強かに打ち据える。

 SEこそぎりぎり残ったものの、その衝撃で希は意識を失い、重力に引かれて落下していった。

 


 

 ここは、何処だろうか。

 どこまでも続く平地に薄く水が張られ、それが快晴の空を反射する幻想的な空間。そこにボクは横たわっていた。

 ボクにこんな景色の記憶はない。

「ああ、嬢ちゃん。目ぇ覚ましたか」

 声がする方向に顔を向けるとそこには()()()()()()。永遠に続く青空も、それを映す水面も。そこだけ人型に切り抜かれたがごとく、何も無かった。

「君は……?」

「俺か?俺はクトゥルーだ」

 それはボクの専用機と同じ名前を名乗った。

「気づいたと思うが正しくはクトゥルーのISコア、その中身だ。なあ、嬢ちゃん」

 そこでそれ──クトゥルーはしゃがみこみ、ボクの目を近くで覗き込んだ。

「力が、いるんじゃねぇのか?」

「ちか、ら?」

「そうだ。あのウザってぇパツキンを叩きのめすだけの力だ」

 それは、ボクが1番欲していたものだが、負けてしまった今となってはもうあっても虚しいだけのものと成り下がってしまった。

「でも、もう……」

「そういやここの説明をしてなかったな」

 クトゥルーは立ち上がり僕の方を見ながら手を広げる。

「ここは俺が演算して作り出した仮想世界。外の世界とは時間の流れ方が違うのさ」

「……!……ってことは」

「あぁ、その通り。まだ試合は終わっちゃいねぇのさ!」

 なら、今から戻ればまた試合を再開でき、勝てる可能性があるのだ。

「でも、なんで急に?」

 そう、これまで全く使用できなかった単一仕様、それを急に使えるようにするというのは少し違和感がある。気を失っている今、ISの稼働率は低くなっているはず。

 くるりと後ろを向き、空を見上げながらクトゥルーはかたる。

「気を失う前、嬢ちゃんはとてもいいもんを見せてくれた。一夏ってヤロウのために必死こいて嬢ちゃんは戦った。他人のために全力で戦う。あぁ、いいね、とても綺麗で感動的だ」

 そこでこちらを振り返り、とても冷たく覚めた声で呟く

「だが、んなもんはつまんねぇ。綺麗事で欲望が満たせるかってんだ。その点嬢ちゃんはどうだ?嬢ちゃんは()()()()()()『一夏のために戦った』」

 一転今度は楽しそうに話す。

「あぁ。良い、佳い!最っ高だ!自分の欲を、自分を確立するために他人のために尽くす。あぁ、あぁ。なんて、なんて最っ高に……歪んでやがる!創作の中には居ただろうよ。でもよォ、それを現実で目にするたぁ俺はついてる!いや、目はついてねぇか!ハハハッ!」

 一言も返せない。弾丸のように降り注ぐ常軌を逸した言葉に圧倒されているのもあるが、それ以上にその言葉が的を射すぎていた。

 クトゥルー(コイツ)は、僕の中身全てを理解している。これまで表に出すことのなかった、ブラックボックスを。

「そんなボクを気に入るなんて、君も人のこと言えないんじゃないかな?」

「ハハッ!それもそうか!」

 なんだか背負っていた荷物が無理やり地面に叩き落とされたかのよう。他人の手でというのが不服だが心が軽い。

「それじゃ、ボクは戻らないと。ワンオフ、本当に使えるんだよね?」

「おぅ!説明書はアタマに送っといてやる、好きに暴れて来い!」

そしてボクはクトゥルーの仮想世界を後にした。戻り方?知らない、勘だよ勘。

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