透き通るような綺麗な金髪をリボンで束ねポニーテールにしている碧眼の少女。
「ア、アイズシャルテさん……!?」
「やぁ、久しぶり……って程でもないか。また会ったねセシリア」
急に立ち上がり大きな声を出すセシリアと、それに親しい態度で返すアイズシャルテにクラスの注目が集まる。
「し、失礼しましたわ……」
「えっと……セシリア、知り合いか?」
クラスの沈黙を破り疑問を投げかけたのは一夏だ。
「ええ、アイズシャルテさんは祖国の代表候補生、その次席ですわ」
「ということは、セシリアのライバル、みたいな?」
「その解釈で概ね合ってますわ、希さん」
「あれ〜?もっちーとおりむーの幼なじみじゃないの〜?」
話の流れを無視して本音が質問する。
「う、うん。転校生がまさか2人いるとは……」
「後にしろお前達。話が時間内に終わらんだろうが」
「すみません……」
朝のSHRが終わった休み時間、新しく決まったアイズシャルテの席の周りは彼女に質問したい女子で溢れていた。
「あいあいは背が高いね〜。何センチぐらい?」
「あいあいか。なかなか可愛いあだ名じゃないか。そうだね……確か前測った時は169cmだったかな?」
「のほほんのあだ名攻撃を受けても平然としている……ただ者じゃないね……」
「判断基準はそこなのか?」
「どうしてここに来たの!?」
「どこから来たの!?」
「縄張りは!?」
「ふふ、元気いっぱいだね。まるで
「ズキューンッ!」パタリ
「グハァッ!」バタッ
「かふっ!」バタンッ
「ああっ、アイズシャルテさんのイケメン攻撃でみんな瀕死だ!」
仕草、口調、表情に置いて溢れ出るイケメンオーラは男である一夏は愚か、ブリュンヒルデである千冬にすら勝っていると言えるだろう。
まさに王子様。それがアイズシャルテ=ダリルベルクの第一印象だ。
「み、皆さーん!起きてくださーい!一限が始まりましたよー!だ、ダリルベルクさんもイケメンオーラを引っ込めてくださーい!」
どうやらいつの間にかチャイムがなっていたらしく、いつまで経っても現実に戻ってくる気配のない女子生徒たちにワタワタと声をかけていた。
慌てる先生にほっこりしたり、いつまでも倒れている生徒の心配をしてみたり。ゆるい時間を過ごすボクたち(希、箒、一夏、)をふと強烈な寒気が襲った。
「「「…………っ!?」」」
嫌な予感を超えた嫌な確信。寒気の理由や出どころはすぐに察しが着いた。
「み、みんな!早く、早く席に着いて!」
「そ、そうだ!まだ間に合う!」
「皆急げ!手遅れになる前に!」
3人の必死な様子に首を傾げる一同と尚も説得を試みる3人の耳に届いたのはやけに響く扉の音だった。
「織斑先生、なんでここに?」
「ああ、少し忘れ物をしてしまってな。それを取りに来た訳だが……この惨状はどういうことだ?説明しろ望月」
「ひっ……は、はい!アイズシャルテさんに悩殺された生徒多数です!」
「訳が分からんな……まあ、私は寛容だからな、3秒は待ってやる。その間に席につけ。さもないとどうなるか、分かるだろう?」
ガタガタガタッ!
「今回は特別に罰はなしとする。二度目は無いぞ」
「「「はいっ!」」」
「それと望月、ダリルベルク。放課後私のところに来い」
「は、はい!」
「了解しました」
「はい、これで授業を終わります。今日はSHRも無いのでそのまま帰って大丈夫でーす」
「「はーい」」
朝の惨劇を繰り返すことも無く、今日の授業が全て終了した。
昔からの癖でどうにも男性的、しかも王子様的な態度をとってしまうのだが、ここまで悪影響がでたのは初めてだ。
「無事終わって良かった……」
「朝は申し訳なかったね。モチヅキさん、だったかな?」
「あ、アイズシャルテさん。希でいいよ、望月って言いにくいでしょ?」
モチヅキ……ノゾミ……。そうか、君が例の2人目か。
しかし何故女子生徒の制服を着ているのか。なにか深い理由や事情があるのだろうか……。触れていいものか、触れないべきか……。
「ノゾミさんか。では私の事はアイシャとでも呼んでくれ。改めてよろしく、ノゾミさん」
「さんは無くていいのに。よろしくね、アイシャ」
少し拗ねたようなノゾミに微笑で返す。
チキンなんて言わないでくれ。自信に対して勇気が足りないだけなんだ。
「さて……」
「はぁ……」
「オリムラ先生のところに」
「行こっか……」
初代ブリュンヒルデと直接話すことが出来る。それはとてもツいている。そう思うのだが、それだけではないようだ。
「嫌だなぁ、怖いなぁ、行きたくないなぁ」
「そんなになのか?」
「そんなにだよ……それにアイシャは今朝の言ってしまえば原因みたいなものだから、どうなるか。あっ、別にアイシャが悪い〜とか、そんなことを言いたいんじゃなくてね?」
「ふふ、ありがとう。大丈夫、分かっているとも」
「流石に組手までは行かないと思うけど……うーん」
「罰則に組手が組み込まれているのか……」
「罰で千冬ねぇと組手をした生徒はその大半が自らここを出て行ったなんて噂も聞くね……」
……何故だろう、体が小刻みに震えてきた。
重い沈黙が二人の間に降りる。
「だ、大丈夫だよ!いざと言う時はボクがごねて何とかしてみせるからさ!」
「ごねて何とかなるものなのか?もっと酷くなりそうなものだが……」
あれこれ話すうちに職員室に着いた。自分の席に座っていた織斑先生に話しかけるとそのままの流れで隣の生徒指導室に案内された。……やはり私はこれからブリュンヒルデ流の生徒指導を受けるのだろうか。
織斑先生の座った椅子の対面に座れと指示され、その通りにする。……また体が震えてきた。
「それで、今朝の件だが……あー。ダリルベルク、そんなに怯えなくていいぞ」
「は、はい!」
織斑先生の表情が険しくなった。何か気に障ることをしてしまったのだろうか?ダメだ、分からない……人生に終止符を打つ時が来たようだ……16年か。短い、人生だった……
「なぁ、希……私はそんなに顔が怖いだろうか?」
「顔というより、雰囲気の方かな〜」
「やはり怖いのか……はぁ、仕方ない。望月、フリーズしたダリルベルクの代わりに今朝の状況を詳しく説明してくれ」
「はい。まずアイシャが……」
千冬ねぇは小さなため息とともに軽く目を瞑り、ボクの説明に耳を傾けた。
千冬ねぇはブリュンヒルデや、今なら織斑先生として話す時、ボクのことを苗字で呼ぶ。
逆にボクを希と呼ぶ時は織斑千冬、ブリュンヒルデでも教師でもない、彼女の素顔。一夏を思うが故に一夏ですらあまり目にできない彼女の比較的弱い部分。
ボクはその事が誇らしい。それはボクを信用してくれている証、そして彼女が一人の人間である証拠だから。
「さ、先程は大変失礼しました!説明のために呼ばれたにも関わらず役割を果たせずすみませんでした!」
「いや、いい。私の日頃の行いが悪かったということだ。時間を取ってしまって悪かったな」
結局最後までアイシャの意識はどこかに行っていた。
うーん、千冬ねぇは生徒に対してかなり厳しめの態度で接するからな〜。結構可愛らしい一面もあるんだけど、それを知ってるのは僕を含めた身内だけだ。
寮に帰る途中ふと気になったようで、アイシャがそういえば、と切り出した。
「オリムラ先生のことを姉のように呼んでいたのは何故なんだ?血は繋がっていないんだろう?」
「あー、そっか。説明してなかったね」
ここまで当たり前のようにそうしてきたからどう説明したものかと頭を回す。
「えっと、一夏が千冬ねぇの弟っていうのは知ってるよね?」
「ああ、知っているとも。2年前の第二回モンドグロッソでのことはニュースにもなっている」
「うん。その時に実はボクも誘拐されてるんだ」
「そうか……すまない、無神経だった」
気にしなくていいよ、とアイシャをなだめる。
それから少し昔話をした。
ボクには姉がいた。名前は望月
第二回モンドグロッソで一夏が誘拐された時近くにいたボクも一緒に連れていかれ2人はそれぞれの姉に対する脅迫材料として利用された。
千冬はモンドグロッソ決勝戦の棄権を、無玄は彼女の研究の情報公開を迫られた。千冬は試合を投げ出し一夏を救出し、連覇を逃した。
一方無玄は要求に応じず、ボクは口封じのため殺されることになった。一夏が連れていかれたところとは別の暗い倉庫の中、大きな男に押さえつけられながら向けられた銃口を、ボクは忘れることはないと思う。
そしてセーフティが解除され本格的に死を覚悟した時、暗い倉庫に光が差した。千冬がボクを助けるためにわざわざ探してくれたのだ。
そうして千冬の手によって助け出され、ボクは千冬を自分の姉のようにしたい、懐いていった。
「そして今に至る、みたいな?」
「……そうか。すまない、辛いことを思い出させてしまったかな?」
同情はいらないという意味を持った視線を向けるとアイシャは本当に悲しそうな顔をしていた。会ったばかりの人間にそんなに感情移入できるなんて、本当にただのいい人なのかなにか裏があって演技をしているか。今は判断出来そうにない。
「いやいやこっちこそごめん、会って1日経ってないのにするような話じゃなかったね」
「ふふ、それもそうかもしれないね。……さっきは本当に助かった、ありがとう
「いやいやそんな。じゃあまた明日会おうねアイシャ」
帰り道、斜めに差す夕日はいつもより暖かく感じた。
「おはよー織斑くん、希ちゃん」
「おはよー」
「おう、おはよう」
投稿して教室に入って早々にクラスメイトの一人が話しかけてきた。
「聞いた?転校生の噂」
「いや、俺は聞いてないかな。希は?」
「いや?全然知らないね。でもなんで昨日と今日で分けたんだろ?」
「どうかされましたか?」
「何の話しをしているのだ?」
一夏の話に混ざりたい乙女2人がやってくる。
「転校生ですか?私とアイズシャルテさんを危惧してのものでしょうか?」
「私が聞いた分によると中国かららしいぞ?」
そのまま世間話が続き、話はクラス対抗戦へと移った。
クラス対抗戦とはそのままクラスの代表同士がISで試合を行うというもので優勝したクラスにはデザート食べ放題パスが与えられる。デザートの食べ放題と聞いて燃えない女子がいるか。否、居るはずがない。
1組の代表たる一夏の背中にはクラスから多大なる期待とプレッシャーがのしかかっている。
「まあ、やれるだけやってみるよ」
「やれるだけでは困りますわ!」
「男たるものそんなに弱気でどうする!」
「絶対に優勝してもらうからね!」
「やれるやれないじゃない、勝つんだよ〜」
クラスメイトの激励(?)を受け、決心したような表情を浮かべる。
「専用機持ちは1組と4組しかいないし、うちはセシリアやアイシャ様がいるから指導役には困らない!これは勝ったね!」
「その情報、古いよ」
声は教室の出入り口の方からした。教室の扉に片膝を立ててもたれかかっていた人物は──
「2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単に優勝できるとは思わないことね」
小柄な身体に勝気な表情、そして彼女のトレードマークのツインテール。
「鈴?お前、鈴なのか?」
「そうよ。中国の代表候補生、凰鈴音よ。ざっと宣戦布告に来たってわけ」
ツインテールが風になびいた。
千冬「そんなに怖かったのか……」