魔皇が裁く   作:96ごま

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ラバック殿下の転落人生の始まり。


魔皇の誕生

近衛隊に取り抑えられた皇族、ラバックは皇帝殺しの罪人として地下の牢獄に入れられる。しかし無実の彼は抵抗しない。誰にも抗議すらせずただ大人しく従い、無言のまま埃まみれの冷たい監獄の中で何日も寝食を過ごして公開処刑が行われる日を待っていた。

 

皇帝が殺された際はあれだけ狂っていたのに、何故無抵抗なのかと見張りは不思議に思う。光のない目でどこか遠くを見つめて全く動かない今の彼には、昔の明るさもあの事件の瞬間の面影も一切ない。それがとにかく不気味で仕方がなかった。

 

そして空っぽの人形に成り果ててしまった彼は今日も、同じ血筋を持つ皇族からの暴力を無抵抗に受けていた。

 

「おらァッ!!いい加減黙ってねぇで何か喋ろよ優等生!俺らはてめぇのせいで散々周りからバカにされてきたんだぞ!どうせ勝てねぇ、てめぇ以外の皇族は凡才だってな!謝罪の言葉くらい吐けや!なぁ!?」

 

昔からラバックの才能に嫉妬し、逆恨みしていたその青年は横たわる彼の胸ぐらを掴んで顔や胴体を容赦なく殴り続ける。

 

「それともなんだ?お前の大事な弟を甚振れば少しは反省するか?あのガキもお前に似て綺麗な顔してるもんなぁ。そこらの変態にでも頼んでたっぷり可愛がって貰おうじゃねぇか!」

 

「…………せぇ」

 

「あ?」

 

愛する弟を使って脅すと、血を吐いてむせるラバックが数日振りに表情を変え、口を開いた。だが勝者から敗者となった彼の懺悔の言葉を待っていた青年の期待は、すぐに裏切られた。

 

「……五月蝉ぇ。下らねぇプライド傷付けられたからって、キャンキャン吠えてんじゃねぇよ、負け犬が。俺に手錠が無いと勝てねぇような雑魚に、俺は興味ねぇんだよ」

 

「ッ!!てんめぇ…っ!!」

 

今の不利な状況に関わらずまるで見下してるようなラバックの挑発に激昂した青年はその顔を更に強く殴る。しかしそれでもラバックは嘲笑って再び煽り言葉を放つ。

 

「く、ははっ…!無抵抗な奴に勝てて嬉しいか?良かったなぁ、負け犬。これでみんなに知って貰えるぜ?お前はやっぱり実力じゃあ俺に敵わなかったってな」

 

「黙れッ!!!その手錠が無くたって落ちぶれたてめぇになんざ勝てるに決まってんだろうが!!」

 

プライドを深く傷付けられた青年は怒りのままにラバックを床に放り投げ、一旦柵の外に出て手錠の鍵を探す。そして見付け出したその鍵で、彼の手錠を外した。

 

「ほら、これでハンデ無しだ!掛かってきやがれ!俺はてめぇなんかに負けな……ぐッ…!?」

 

正々堂々と戦うつもりでいた青年の腹に、突然強い衝撃が当てられる。

 

「ありがとな、負け犬。おかげでやっと外に出れるぜ」

 

そう、安い挑発にまんまと乗ってしまった彼はラバックの思惑通りに動かされ、利用されていたのだ。それも全て、この監獄から抜け出す為。

 

「いやぁ、本当にあんな安い挑発に乗っちゃうなんて流石だね、あんた。これ正直あのクソ野郎とやり口が似てるからやだったんだけど、使えそうな奴はちゃんと使っておかないとマジでキツかったからねぇ。上手くいって良かった良かった」

 

床に崩れ落ちた青年を他所に、よっこらせ、と年寄り臭く言って重たい身体を起こしたラバックが愉快そうに笑う。だが相変わらず目が笑っていない。

 

「て、めぇ……!まさか、最初から俺を利用するつもりで…!?」

 

「当たり前じゃん。でもさっき言ったやつはちゃんと全部俺の本音だよ。まぁそんな事よりさ……あんた、俺の為に死んでくんない?」

 

「はっ…?」

 

返事も待たずに、ラバックは青年の腰に下げられていた護身用のナイフを手に取って持ち主に突き刺す。

 

赤い色の雫が、刃を伝ってポタポタと床に落ちていく。青年は一瞬わからなかった。自分の身に、一体何が起きたのか。

 

「毎日毎日殴られてた恨みか、って思うでしょ?でも残念ながらそれだけじゃなんだよなぁ、これが。……俺、知ってんだ。あんたが帝都で捕まえてきた女を甚振り殺して遊んでるの」

 

「…ッ!!」

 

くすりと冷たく微笑んだラバックに、青年は酷く戦慄する。罪とわかってやってきた自分の所業が、正義を語る彼に暴かれていたのを知って。そして今、自分が死ぬと悟って。

 

狂ってる。なんの躊躇もなく人を刺したこいつの正義は、やっぱり歪んでる。

 

「悪ぃな。陽の下に戻れなくなった今、俺にはもうこうするしかお前ら悪人を裁く方法がないんだ。目には目を、歯には歯を……悪には悪を、ってな」

 

刺した犯人は自嘲気味に嗤った。しかしその頃には既に痙攣していた青年の身体は動かなくなり、彼の命はそこで途絶えてしまう。

 

目の前の男の死を確認したラバックは静かにナイフを抜く。だが肉を抉る音と感触がその脳に刻まれたというのに、彼の表情は酷薄な笑顔のままだった。

 

「……初めての人殺しが身内なら、ちったぁ正気に戻れるかなって思ったのになぁ。むしろスカッとしてて全然哀しくないや。……やっぱり俺も、もう壊れちまってんだな。ほんと、自分で自分に嫌気が差すよ」

 

昔から関係が悪かった悪人であれど、彼も血の繋がりのある縁者だったのに。彼の死に哀しみを一切感じられない。そこから溢れ出てくる赤い血液が美しく見え、魅入られてしまう。自分も人の道から外れてしまっていたと自覚したラバックは、己の愚かさを心底呪う。

 

「…?何か音がしましたが、どうかされ……ま゛ッ゛!!?」

 

不自然な物音に気付いた監守が彼らの居た牢屋に近付いた瞬間、ラバックが鎧と鎧の隙間にナイフを器用に振るい、喉を斬った。

 

一瞬だった。その見張りが自分の死を認知する間もなかった程に。

 

「ん……。そこそこブランクが長かったけど、案外身体はちゃんと覚えてるもんだな。ま、昔あれだけ師匠達に散々容赦なくボコられてただけはあるか」

 

久々の運動にも関わらず、その身体は師に叩き込まれた技術を全てしっかりと覚えていた。肩を回して解しながらそれを実感した彼は、その監守が所持していた剣を拾って武器をナイフと入れ換える。

 

「やっぱこっちの方がしっくりくるし使い易そうだな。念の為ナイフは予備にしておこう」

 

ナイフを予備の暗器として懐に隠した彼は二つの死体を放置したまま監獄を出て、鼻歌混じりに歩いて宮殿の外を目指す。

 

「~♪」

 

やがて彼が通った道には死屍累累と数多くの亡骸が転がり、それはまるで王の歩く美しい絨毯のように真っ赤な血で染まっていた。故に彼は後にこう呼ばれた。実の親である両陛下を惨殺し、帝国史上最悪の殺戮事件を起こした正義狂いの大罪人__『鮮血の魔皇(まおう)』と。

 




やっとタイトル回収~!

ラバック殿下は退屈凌ぎの趣味と言いつつあのブドーさんや羅刹四鬼からガッツリ鍛練を受けてたので原作ラバ以上に基礎ステータスが高いです。近衛兵相手に無双出来ちゃう。といっても今回は近衛兵が躊躇しちゃってたってのもあるけど。
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