魔皇が裁く   作:96ごま

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紆余曲折を経て、腐った帝国から去り世界各地に旅立っていた彼らが帰ってきた。

始動編第一話。時間を一気に飛ばして原作軸突入です。


-追記-

サブタイトルが仮名のままだったのを忘れていたので変更しました。内容自体は変わってないのでご安心を。


始動編
宣戦布告


__数年後、帝歴1024年。帝都近郊の街道に、とある一つの馬車が走っていた。

 

その馬車に乗っているのは、引退後隠居生活を送っていた帝国の元大臣チョウリとその娘、スピア。だが国を憂いて毒蛇の巣(帝都)を目指していた彼らは、予期せぬ刺客に襲撃された。

 

「また盗賊か!?治安の乱れにも程がある!」

 

彼らの前に立ち塞がる三人の男は盗賊……否、彼らは帝国の軍人。エスデス軍の幹部である三獣士だ。

 

「……ダイダラ」

 

「おう」

 

指揮官と思われる老紳士、リヴァの指示に従って前に出た特攻隊長の巨漢、ダイダラ。彼は背負っていた斧の帝具、二挺大斧『ベルヴァーク』を掲げたかと思えば、親子と護衛十数人以上に向かって薙ぎ払おうとする。

 

が、しかし。周囲に放たれたベルヴァークの斬撃は何者かに防がれた。

 

「ッ!!?今俺の攻撃を防いだのは誰だ!?何も見えなかったぞ!?」

 

「よぉ帝国軍。あんたらの依頼人は誰だい?……って、聞かなくてもわかるか」

 

突然の出来事に狼狽えたダイダラ達の目の前に、仮面で顔を隠した黒ずくめのマント姿の少年一人が忽然として現れる。

 

どこから出てきたのかわからない少年は口角を上げて両手を複雑に動かす。するとそこから何やら光に反射するものが見えた。

 

「糸…?帝具使いか!」

 

「って事はてめぇがナイトイドか!漸く会えて嬉しいぜ!」

 

「ナイトレイド?……ああ、それって確か最近帝都で騒いでるって噂の暗殺者集団さんだっけ?悪いけど俺ら(・・)は関係ないよ」

 

悪徳商人や残虐な役人を狙って近頃帝都を脅かしている帝具使いの暗殺者集団、ナイトレイド。その実は反乱軍の暗部である。だが糸を操る帝具を扱う少年は三獣士が待ち伏せていたその標的ではなかった。

 

「えぇーっ!!?ナイトレイドじゃないの!?じゃあ誰なのお前!?僕らのお仕事の邪魔しないでよ!」

 

やっと真の標的と戦えると思っていたのに、と残念がる子供のような容姿の軍人、ニャウが苛々した様子で邪魔者の正体を問う。

 

「誰って……俺らはただの通りすがりの魔皇軍(・・・)さっ!」

 

語尾と同時に鋭く頑丈な糸を放つ少年。それを見て咄嗟に斧を二挺に分けたダイダラは苦戦しながらも向かってくる糸を次々に弾いていく。

 

「くっ…!魔王軍だぁ?聞いた事のねぇ組織だな」

 

「あら残念。ま、軍っつってもたった数人しか居ねぇけどな。でも帝国の奴なら俺自身の名前は知ってる筈だぜ。『鮮血の魔皇』、ってな」

 

「!!魔皇だと…!?貴様、まさか……!」

 

流れ弾の糸を手刀で防いでいたリヴァが最後まで言葉を口にする直前。背後に居た何者かが拳で彼を貫く。

 

「がふッ…!まだ、一人……潜んでいたの、か…!?」

 

「敵は一人だと思ったか?残念だったな、おっさん。今ここに居る俺らはてめぇらと同じ三人(・・)だ」

 

さっきまで気配がなかったのに、一体どこから…?そう疑問に思った彼らは知る由もない。魔皇と似た格好をしたその第三者が、帝具を使って瞬間移動していた事を。

 

「リヴァ!!?貴様よくも…っ!!」

 

「あっはは!そうやって怒ってる時程油断してる奴ってそうそう居ねぇよな~!」

 

リーダーが殺られて激怒するニャウが縦笛の帝具を構えようとするが、後ろから、今度は無邪気に笑う少女の声が。

 

本能的に命の危機を察知した彼は少女の攻撃を間一髪で回避し、体制を整えるべく後退していく。

 

「チッ!最後の一人か…!ダイダラ!敵の二人は格闘家だ!相性的にお互いの対象を変え……」

 

「無駄だよ」

 

「えっ…?」

 

冷酷に嗤った魔皇が、ニャウの首に糸を巻く。そして、

 

「う、ガッ…!?ア゛、ッ゛…!」

 

ギリギリと引かれる糸が軋み、標的の喉に深く食い込む。そのまま息が出来なくなったニャウは宙に吊るされ、窒息死してしまった。

 

「ッ!!(こいつら、二分もせずにリヴァとニャウを…!?)」

 

最強の上司も認める実力の持ち主が短時間で二人も倒された。親しい仲間だった彼らの仇を見たダイダラは、復讐心よりも先に恐怖心が芽生える。

 

一人でこいつらには絶対に勝てない、殺される。自分達は狩る側ではなく狩られる側だった。彼らこそが捕食者だ。戦闘狂と自負している彼でさえも、そう確信して死に怯えてしまう。それ程、その三人の脅威は恐ろしいものだった。

 

「た、助けっ…!」

 

「今更命乞いは聞かねぇぜ、エスデス軍。こちとらてめぇらの働いてきた悪事は既に把握済みなんだよ。言い訳なら地獄の閻魔様に言いな!!」

 

「ぐあ゛ァ゛ッ!!」

 

糸を束ねて出来た槍が、ダイダラの腹に突き刺さる。そしてその体内で一本一本に解けた槍の糸は全て心臓に向かい、冷徹に。無慈悲にそれを砕いた。

 

「三獣士……。あのエスデス軍の中でも特に強いって噂だったけど、シュラ兄のシャンバラ使って奇襲仕掛けちまえばこの程度か。つまんねぇな」

 

「つーかラバ、なんでアタシの獲物まで狩っちゃったの!?アタシだけ誰も殺れてねぇじゃん!!アタシも一人くらいは殺りたかったのにぃーーっ!!」

 

「あー、悪ぃ悪ぃメズ姉。だってあのチビ、俺とは相性良いから勝てるみてぇな事言おうとしたからさぁ…ちょっとムカついちまった。……それより」

 

返り血一つ浴びずに三獣士の処刑を終えた魔皇が、不貞腐れる仲間の少女メズを軽くあしらってからスピアに振り向き近付く。いつの間にか腰が引けて座り込んでいたスピアはそんな彼に一瞬肩を揺らしたが、

 

「……お怪我はありませんか?お嬢さん」

 

視線を合わせようと目の前で屈み、仮面を外した魔皇の素顔。それは緑の髪と瞳が特徴的な美形の少年だった。その柔らかい微笑みに、命を救われた彼女は不覚にもドキリとしてしまう。

 

「は、はい。おかげ様でなんとか……。た、助けて下さってありがとうございます…!貴方達にはなんとお礼をしたら…!」

 

「礼などいりませんよ。今回はこちらが勝手に関与しただけですので。まぁ、強いて言うのであれば……礼とは少し違う気がしますが、お二人方には未来の帝国を支え続けて欲しい、ですかね」

 

謙虚に礼を断った代わりに、民の為に戦おうとしている親子を応援する魔皇。先程の恐ろしさとは打って変わって優しいその態度は、まるで別人のように見えた。

 

だが年頃の乙女のスピアからすると彼はまさにピンチを救ってくれた格好いい王子様のようなもの。彼が魔皇などとおぞましい異名で敵に呼ばれていた事なんてすっかり忘れて惚けてしまっている。

 

「貴方はもしや、ラバック殿下…!?やはりまだ生きておられたんですね…!」

 

「……お久しぶりです、チョウリさん。昔から尊敬している貴方とまたこうしてお逢い出来て光栄です」

 

魔皇の素顔を見たチョウリが感激した様子で自ら彼の元へ向かう。その会話を聞いて、スピアもハッと我に返った。

 

「ラバック殿下って……あのラバック様ですか!?」

 

「様…?ああ、はい、ラバックは俺ですけど……なんでそんな嬉しそうなんです?俺を知ってるという事は、数年前の事件もご存じなのでは…?」

 

意外な反応をされて少し戸惑う魔皇ことラバック。彼のもう一人の仲間、シュラも若干引き気味である。しかし彼女は遠慮なくぐいぐいと詰め寄っていく。

 

「もちろん存じております!ですが私は父上のお慕いする理想家のラバック様が悪事に手を染めてなどいないと信じて……」

 

「……いいえ。信じて貰ってるのに申し訳ありませんが、俺はあの時、大きな罪を犯しました。理想はまだ追い求めていても、今もやっている事は悪と全く変わりません」

 

真っ直ぐな目で信じてると言ってくれたスピアからの信頼を、ラバックはバッサリと切り捨てる。その返事を聞いて、純粋な彼女はショックを受けてしまう。しかし、

 

「ですが、正義と悪とは紙一重。誰かが正義を振るえば、悪が傷付く。果たしてそれは本物の正義でしょうか?否、正義というものは悪なんですよ。つまり、悪だけが悪を裁ける。悪を傷付け悪を貫き通す事こそが、俺の正義であり信念。それが弱き民への救いに繋がるのであれば、俺は魔皇(魔王)らしく喜んで世界の敵となります」

 

「!!?世界の敵、ですと…!?」

 

クスリと不敵に微笑むラバックが語る信念は、チョウリの知る昔の彼とは全く違う。噂に聞いた通り、本当に変わり果ててしまっていた。ドス黒い何かを感じさせるその不気味な笑顔に、彼を慕っていたチョウリもスピアも身震いする。

 

「……ふふっ。そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。愛しき民を想う貴方達には将来平和になったこの国を任せたいですからね、危害を加えるつもりはありません。……まぁ、俺達の邪魔をしなければ、ですけど」

 

「なっ…!?」

 

歪んだ正義に囚われた魔皇からの脅し。余計な事はするなと親子に威嚇する彼を幼馴染みの二人は諌めようともせず、興味なさげに見守るだけ。

 

二人はただ、彼と共に過ごす時間が退屈しないから。様々な苦楽を共有したいから、彼に付いているだけ。それ以外に、この愚かで愛しい弟と一緒に居たい理由などない。

 

「そんなバカな…!貴方は、反乱軍に所属しているのではないのですか…!?我々のような反帝国派の人間に危害を加えるのは、将来我らを必要としてくれている反乱軍すらも敵に回すという事ですよ!?」

 

「はて、俺達が反乱軍に属しているといつ言いました?我々は反乱軍になんて組していませんよ。皇族だった俺が巨大な組織に入れば大きな存在として良いように持ち上げられ、自由に身動きも取れずにあの傀儡共と同じように利用される末路を辿るだけ。……俺は、愚かな父や弟とは違う」

 

「っ!!」

 

ここには居ない家族に対する軽蔑の目。誰よりも思慮深く聡明な魔皇は、反乱軍に属していなかった。事件後何度もスカウトされてきたが全て応さずに追い返している。

 

だが異国に旅立つ前。地方の小規模基地に立ち寄った際に彼は、皇帝一族だからこそ知る宮殿内の貴重な情報を交換材料にして現在所持している帝具、千変万化『クローステール』を受け取っていた。だから反乱軍とは完全に敵対したいわけではない。

 

「彼らには帝具の件などでお世話になりましたし、来たるべき決戦の日には師匠……ブドーやエスデスの足止めをして頂きたいので、なるべく協力関係でいたいんですけどね。今回は帝国への挨拶代わりも兼ねて反乱軍に一つ借りを作ってやりましたが……これは警告です」

 

反乱軍はあくまで敵の戦力削りに使える駒の一つにしか過ぎない。民に寄り添う巨大組織すらも利用しようとする魔皇は憎しみの殺意を表す。

 

「あいつは……オネストは俺達魔皇軍、『ワイルドハント』の獲物だ。反乱軍や他の奴らからの横取りは絶対に許さない。帝国側の皆さんに、そうお伝えして下さいね。帝都で俺達の存在が認知されれば、反乱軍の耳にもいずれ届くでしょうから」

 




三獣士を瞬殺してチョウリ親子と兄貴生存ルート直行で革命軍優勢になったけど第三勢力として独立しちゃってる魔皇様ご一行。あちらの作品ではワイルドハントの原作組が出てないので、こっちでは少しくらい活躍させたいなーと思いまして。割とみんな好きだし。まぁ革命軍とは協力関係でいるつもりではあるから多分大丈夫やろ(適当)

因みにダイダラさんの台詞が『魔皇』ではなく『魔王』になってるのはわざとです。魔皇を知らないキャラがその名を口にする際は大体そうだと思って下さいな(逆に言えばそれ以外はただの誤字)

あと原作ラバックくんはやるときゃマジでイケメンだからあの軽薄さがなけりゃ普通に女の子にモテると思うのよね……。まぁ僕はそこも含めてラバックくんの事が大好きだけど。目指せ年上キラー!!←
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