俺は楽しく神さまになる!   作:火群 鯨

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昼間に投稿したと思ったらできてなかった…こりゃまいったね。


堕天のオレとあの日の少女

 

「やり、直し…だと!?」

 

「飛ぶのを禁止する為の雷じゃ。それをお主は避けまくりおって!」

 

「し、しかし登り切った…!」

 

「知らん。駄目な物はダメ」

 

武神は頑固として断った。取りつく島もない。

全身が軋むのも忘れる怒りを覚えた。

 

「ルールを破ったことへの謝罪はする…登り直す必要があるなら一度降りよう!!だが、オレには今…ッ!いま必要なんだ!!」

 

殆どない視界に佇む小さな白い存在に歩み寄るが脚がもつれ倒れ伏せる。それでも諦めきれず手を伸ばした。

 

「……ふむ。お主が必死なのはわかった」

 

「ならーーーーー」

 

「半分でどうじゃ?」

 

半分。あの長い塔の半分。無理だ。考える余地もない。そも登り直すことも不可能だとわかっていた。しかし虚言を吐いてでも少女を助ける必要があった。仙豆を貰い一度降り、少女さえ救えれば自分の身が朽ち果てようがべつに良かった。

 

「ーーー」

 

もう言葉にならない。目の前が真っ暗になった。絶望の二文字が体を支配する。もう気合や根性の感情で体を動かせない。

感情も体も動かせなくなったら脳を働かせる気もしない。

 

「黙るな」

 

武神言った。有無を言わせぬ静かながらも厳しい一声であった。

しかしそれすらも今のコカビエルに伝わっているのかは定かではない。

だが、武神カリンは続ける。

 

「即答できぬ奴が人を助ける?救う?塔に登り傷付いただけで何でもできると思ったのか、自惚れるなよ小僧…!お主が助けるのはお主の勝手、お主がここに来るまでに傷付いたのもお主の勝手ッ!なのに最後の最後で儂頼み?そこで甘んじるな」

 

カリンはコカビエルの拳が握り締められるのをみた。だが、まだ足りない。ここを乗り切れない者ならとてもじゃないが与えられない。

かつての大英雄の言葉を借りるなら『まだだ』。

 

「聖書の神を裏切り、同胞を裏切り、人を愛すとほざくなら…遠き地まで足を踏み込んで救うとほざくのなら…!最後まで何故粘らない!仙豆を何故奪わない!お主が手を伸ばすのは儂ではないーーーー仙豆じゃ!」

 

「ーーーッ!」

 

「欲で堕天した者が強請るな……堕天使であるなら堕天使らしく勝手を貫け」

 

今の状態のコカビエルが仙豆を奪える可能性などない。かと言ってまた半分登り切るのも無理だろう。

 

『カリン…カリンよ』

 

「こ、この声は神さま!?」

 

「神…だと?」

 

ここに来て第三者。しかも武神カリンが神と仰ぐ者。かつてみたドラゴンボール伝説には存在しなかった。全世界の神の頂点の強さが武神カリン。その武神より上。世界の神々はその信仰を集め、崇められる為にその存在を地上に現した。人はそれを記録して神々は恐れ崇められる。

 

故に神は強大な存在として降臨を続けることができる。それは聖書の神も同様だ。だからこそ奇跡を使いシステムを組み、天使を遣わせた。

逆に無名の神の力は強大とは言えない。だが、武神カリンが言う『神さま』とは存在すら知らない。どんな書物にも記録にもお伽話にすら武神カリンの上は出てこない。そも、神が神さまと称える存在だ。喉が一気に渇く。

 

もしかすると、人は…いや神ですらも自分が思っている以上にちっぽけな存在なのではないか。世界には我々では知覚出来ない恐ろしい何者かが全て支配しているのではないか。そう思えてしまったらゾッとしかしない。

 

「い、一体何用でしょうか…」

 

『そこの堕天使。コカビエルと言ったか?』

 

「ーーーー!」

 

「これっ!答えぬかっ」

 

「は、はい。オレの名はコカビエルです」

 

『……コカビエルか。なるほど、カリンよ。仙豆をくれてやれ』

 

「しかしーっ」

 

『よい、ワシから一粒くれてやる』

 

一粒。ここに世界の主である神の意地の悪さが見て取れた。

それはカリンにも分かったのだろう。少し考えたと思えばコカビエルに振り向き言い放った。

 

「神さまのご厚意じゃ。一粒だけやろう」

 

『では、健闘を祈るコカビエルよ』

 

それを最後に気配が消えたのか、カリンも落ち着きを取り戻し仙豆の入った壺に歩む。脳裏では神さまの言葉の意味を考えてた。

 

神さまが気にかけたのはこの長い年月の中でただ一度キリ。そう、大英雄にして一番弟子であったアルケイデス唯1人。つまり、神さまはこの小僧に自分には見えぬ何かを感じ取ったとでも言うのか。

 

そう思えば、自分は期待していた。

カリンにとってアルケイデスは稀にみる大英雄だった。それが初の到達者だったが為に自身の試練の基準が高くなったこともあったが、それでもその難度を落とす事がなかったのは、再びあの大英雄のような存在が現れるかも知れないと言う期待に他ならなかった。

 

しかし人はいつしか自身の能力を伸ばすことを辞めて、役割に特化した物を造るようになり、神秘など今や遺物であり聖書の神が贈った神器が主流となってしまった。今や、神秘の片鱗を持つ者達はそれこそカリン塔の町に存在するかつての英雄たちの子孫のみ。

そんな時代に久しく現れた男は堕天使。人外と言えども登り切ってしまったことに対してカリンは期待してしまったのだ。あの大英雄のように。

 

「今回は儂が期待し過ぎた。再度登れとはもう言わん。ホレ、仙豆一粒じゃ」

 

コカビエルの手の上に仙豆を落とした。

コカビエルがそれを握り締め震える。別に歓喜で震えている訳ではない。その理由などカリンにも分かる。

 

(神さまも意地が悪い。塔を降りる余力のない相手に仙豆一粒。自分に使えば少女は救えず、少女にと取っておけば帰還できるかも怪しい)

 

その通りにコカビエルは『神さま』と呼ばれる上位存在に対しての意地の悪さに憤慨していた。けれどもそれ以上にカリンの眼に映し出さずとも分かる失望に憤りを感じていた。

 

「……がう」

 

「なんじゃと?」

 

「違うだろう…!アンタの言葉を返してやる。オレに期待したのは、アンタの勝手…。ならーーならッ…オレが立ち上がることを勝手にオレじゃないアンタが決めるなよ。アンタが言った様に、オレはオレの欲を貫かさせて頂く!」

 

握り締めた仙豆を自分の口に含む。どの道一粒貰った所で此処からこの傷で帰るのは無理なことだった。最低二粒必要なことに気付いたのは冷静になったからだ。

 

「武神カリン。オレは仙豆もう一粒、アンタから奪い取る」

 

堕天使の象徴。黒く染まったその象徴が広がる。視界は開け、眼の前にいる武神カリンの姿を漸く見捕らえる。猫の姿の神に一欠片として油断はない。元より時間もない。

 

「ーーーニャ、にゃははは!!お主の開けた目はそんな眼だったか。OK。ならば、お主に期待して試練をくれてやる。ホレイッッ!!」

 

だが、同時に神代から最強を誇るカリンに対して油断するしない等は些細な変化にすらならなかった。コカビエルは吹き飛ばされるかのように投げ出され、塔から落とされた。

 

「もう一度登ってきなさい。その時はーーー」

 

辛うじて聞こえたのはここまで。

 

「儂のこの期待、裏切ってくれるなよ?」

 

どう足掻いても謎の力に押され続けて下へ下へと離される。既にカリン塔の頂上部は見えなくなり、雲の下へと追い出された。

そして、まもなくして地上へと落とされた。

 

「クソッ!クソッ!クソ…!クソ…ッ!!」

 

カリンが制御したのか、傷一つなくコカビエルは大の字になって地面に倒れていた。暫しして周囲の家々から人が集まってくる。勿論、あの時の男もだ。

 

「よう…ギリだが、少女は生きてるぜ。天使さまー天使さまーってよ。ホラ、寝てる暇なんてありゃしねぇ。さっさとしな」

 

「…………仙豆はない」

 

「は?」

 

「ないんだよ!貰った一粒はオレが…オレに使った!クソォ…」

 

情けない。一撃与える処の話ではない。それ以前の問題だ。武神カリンの期待など自分には荷が重かった。役者不足もいい所だ。これでは少女に合わす顔がない。あれだけの啖呵切って置いてこのザマ…武神カリンが言ったことは正しかった。

 

「オレは…自分勝手なクソ野郎だ……」

 

「おい、なに馬鹿言ってやがる。さっさと行くぞ」

 

この男は何を言っている。もうないと何度言えばいい。嗚呼、少女に謝罪をしなければならない…そう言うことか。

 

「チッ…!こっちも暇じゃねぇんだよ。その手に持ってる仙豆、さっさと食わせに行くぞ馬鹿が」

 

男の言う通り手の平に仙豆が一粒。これは現実かと二度見までして確認するがやはり仙豆がそこにあった。しかし、何故?そう考える前に体は動いていた。兎にも角にも少女の元へとと起き上がる。

血相を変えた自身を不思議そうに男は少女の居る家へと案内した。

どうにも少女は偉く厳重に隠されたようで幻影の扉、隠し部屋を通り遂には地下へと潜った。

 

「まあ、俺達は戦闘狂揃いだからな。こうでもしねぇとあんな娘は身が保たないと魔術士連中に言われたんだよ。おっと、着いたぜ…ここだ」

 

ーーーーこれで少女を救える。

 

ふとその時、武神カリンの最後の言葉が思い出される。

 

『もう一度登ってきなさい。その時はーーー』

 

この手にある仙豆の理由を聞く為に、少女を救えた礼を言う為に、そして武神カリンが神さまと崇める何者かの存在を知る為に、もう一度登ってみよう。

 

「その時は言葉の続きを聞いてみたいものだ」

 

堕ちた天使は扉を開く。そして、手にした仙豆を少女へと。

 

▽▽▽▽▽

 

かつてマッチ売りの少女がいた。その少女が何もない空間へと言葉を投げかける姿は度々見られ、それは聞いたある小説家はそれを元に一つ物語を描いた。

 

英雄の子孫が住うカリン塔の麓にある町では、かつて少女だった女性が暮らしていた。他の気性の荒い女性や偏屈な女魔術士と違い、お淑やかで大人しかった彼女は男共の胸を鷲掴みしたらしい。

 

「おやすみなさい」

 

「………」

 

返事はない。少しだけ、女性は寂しそうに微笑んだ。

その傍らには当時と変わらない木彫りの天使像があったのだった。

 

 

そしてまた、歴史は刻まれる。三大勢力は遂に衝突を迎える。そして、物語が始動する。天上から眺める神は果たして……

 

 

 

 

 

 

 




これにて【昇り堕ちた天使編】しゅーりょー。
やっぱり最後までシリアスできない。
そして遂に知れた謎の存在【神さま】。
一体何者なんだ!?ええ、そうです。彼が主人公してないオリ主ですっ!

次章【三つ巴の大戦】決闘スタンバイ!

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  • オリ主、誰それ?いりませんねぇ〜
  • は?いるだろバーロー
  • どっちでも良いのでオリ主だせ

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