フレイヤ・ファミリアでハーレムを築くのは間違っているのだろうか   作:兵庫人

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炎王

 オラリオの地下に広がる迷宮。迷宮はいくつもの階層があり、現在確認されている最も深い階層は五十九階層までで、迷宮が全部で何階層まであるか知っている者はいない。

 

 地下に広がる迷宮と聞けば、迷宮の内部はどこまでも続く洞窟だと思うだろうが、洞窟のような風景は十階層までで、そこから下の階層に降りると迷宮内部の風景は大きく変わる。常に霧が出ている草原もあれば、密林や火山地帯もあり、その広さはとても地下の空間とは思えないくらいに広大であった。

 

 そして迷宮の四十九階層の風景は「荒野」。どこまでも続いていそうな草木一本もない不毛の荒野で、そこでは二つの集団が戦いを行っていた。

 

 二つの集団のうちの一つは「フォモール」と呼ばれる頭が山羊で体が人間のモンスターの群れ。

 

 もう一つは武装した冒険者の集団で、彼らの後方に掲げられている旗には、「ロキ」と書かれたカードを背にした道化師(トリックスター)の紋章が印されていた。

 

 フォモールの大群と戦っているのは、オラリオの二大派閥の一つであるロキ・ファミリアの冒険者達で、彼らは「未到達領域」と呼ばれる迷宮の五十九階層を目指して遠征をしている最中にフォモールの大群と出会して戦闘に入ったのだった。

 

 ロキ・ファミリアの冒険者達は流石二大派閥の精鋭と言うべきか、フォモールの大群を前にしても慌てることなく速やかに隊列を組むと応戦した。全身を鎧で固めて縦を装備した前衛がフォモール達の突撃を食い止め、その背後で後衛の冒険者達が弓矢と魔法を放って敵の数を削っていく。……しかし。

 

(これは不味いかもしれないな……)

 

 フォモールの勢いは予想以上に激しく前衛が徐々に押されていき、後衛で魔法部隊を率いているロキ・ファミリアの幹部にして「九魔姫(ナインヘル)」の二つ名を持つLv6の冒険者リヴェリア・リヨス・アールヴは、その様子を見て呪文の詠唱を唱えながら内心で呟いた。

 

 リヴェリアも彼女の回りにいる魔法使いのエルフ達も、呪文の詠唱を唱えているが詠唱の完了にはまだ時間が必要としている。このままでは詠唱が完了するより先に、フォモール達が自分達のところに攻め込んでくるとリヴェリア達に焦りが生じたその時、戦場に一人の男が現れた。

 

 

「フレイムバースト」

 

 

 戦場に現れた男がそう小さく呟いた次の瞬間、上空から無数の火の玉が雨のようにフォモールの群れの上に降り注いだ。火の玉はフォモールを次々と吹き飛ばし、燃やし、砕き、ロキ・ファミリアの冒険者達は先程まで戦っていたフォモールの群れが突然の炎の雨によって灰にされていくのを見ることしか出来ずにいた。

 

 そして数秒後。ようやく火の玉の雨が止むと、そこにはフォモールの姿はただの一匹もおらず、あるのはいくつもの大穴が見える焼き焦げた荒野だけであった。

 

「……あれは」

 

 ロキ・ファミリアの冒険者達は最初、一体何が起こったのか分からず呆然としていたが一人の少女、「剣姫」の異名を持つLv5の冒険者アイズ・ヴァレンシュタインは一人の男がこちらに近づいてくるのに気づいた。その男は背中に大きなリュックを背負った、フード付きのローブ姿の魔法使いらしい格好をしており、恐らくは先程の無数の火の玉は彼の仕業なのだろう。

 

 アイズはその魔法使いらしい男のことを知っていた。いや、アイズだけでなくオラリオの冒険者で彼のことを知らない者はいない。

 

 何故ならば彼こそがアイズが目指して未だに至れないでいる高みにいるオラリオで最高位(Lv7)の冒険者なのだから。

 

「『炎王(ムスペル)』ドム」

 

 アイズは自分達の前に現れた魔法使いの冒険者の名前を呟いた。

 

 

 

 

 

 最近の俺は少し機嫌が悪い。何故かと言うとつい先日、主神であるフレイヤ様から一ヶ月程弟と接触してはならないという理不尽な命令を受けたからだ。

 

 最初そんな命令なんか無視して、弟と弟に恩恵を授けてくれた神様に、フレイヤ様が弟の貞操を狙っていることを忠告しようと思ったのだが……よく考えた後に結局俺はフレイヤ様の命令に従うことに決めた。

 

 俺が弟の神様にフレイヤ様の情報を渡した場合、よっぽど薄情な神様でない限り弟を守ってくれるだろう。しかしそうなるとフレイヤ様は、その神様の守護を更に上回る苛烈な強攻策に出るのは間違いない。

 

 気に入った男が関わったフレイヤ様は限度というものを知らない。最悪、弟を手に入れるためにオラリオ中のファミリア全てを敵に回すような事をしても俺は驚かないぞ。

 

 それだったら当面はフレイヤ様の命令に従ったフリをして陰ながら弟を見守った方が、弟とその神様とオラリオの為になるだろう。……ふがいない兄を許してくれ、弟よ。

 

 とにかくそんな訳で弟に会えなくて不機嫌な俺は、迷宮に挑むことにした。イライラした時は迷宮に行くのに限る。

 

 俺は迷宮が大好きだ。迷宮の中でモンスターと戦い、冒険者としての自分の力を確認して、そしてそれを高めていくのがたまらなく好きだ。

 

 最初こそはゲーム感覚で挑んでいた俺だったが、これまでに何度も痛い目に遭ったり時には死にそうになったこともあったので、今では迷宮への挑戦がゲームではなく命懸けの現実であることを充分承知している。それでも俺は冒険者として迷宮へ挑戦してまだ誰も知らない未知を探すことを止められないでいる。

 

 いつもだったら戦友にして恋人の、同じフレイヤ・ファミリアに所属している女性冒険者達数人と迷宮へ行くのだが、先日彼女達と迷宮へ行ったばかりなので今日はソロで挑戦することにした。

 

 そしてソロで迷宮にこもって早三日。気づけば俺は四十九階層まで辿り着いた。

 

 思ったより深く潜ったなとか、そういえばオッタルさんって昔ここまで一人だけのボッチ遠征をしたんだっけとか考えていると、四十九階層の荒野フォモールの大群と戦っている冒険者の集団を発見した。どうやら前衛の冒険者達がフォモールに押されているようだったので、魔法を使ってフォモールの大群を吹き飛ばすことに。

 

 少し話が変わるが、冒険者が神から与えられる恩恵には「スキル」と「アビリティ」といった、魔法とはまた別の特殊能力や持っている技能を高めてくれる力がある。そして俺は魔法の威力を高めてくれるアビリティを複数修得していて、更には詠唱無しで魔法を放てる頭に「レア」がつくスキルを修得している。

 

 詠唱無しで魔法を放てるレアスキル。まさに魔法使いなら垂涎モノのスキルだろう。フフン、このスキルを持っているのはオラリオでも俺だけなんだぜ?

 

 と、何処の誰に向けたか分からない自慢話を心の中にしていると、助太刀をした冒険者達が呆然とした顔で俺を見ていて、その中にいる金髪の美少女なんかは無表情だが強い視線を俺に向けていた……って、彼女って「剣姫」じゃない? というかあの冒険者達ってロキ・ファミリアじゃない?

 

 そういえば少し前にロキ・ファミリアが深層を目指して大規模の遠征隊を出したったって話を聞いた気が……。

 

 もしかして俺ってば、ロキ・ファミリアの邪魔をしちゃった?

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