フレイヤ・ファミリアでハーレムを築くのは間違っているのだろうか   作:小狗丸

4 / 4
Lv7

『『……………』』

 

 ロキ・ファミリアの冒険者達は、自分達に助太刀してくれたのがフレイヤ・ファミリアに所属している冒険者のドムだと気づくと緊張した表情となった。

 

 ロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアは敵対はしていないが、それでもダンジョン内では同じ獲物の取り合いから敵対していないファミリアの冒険者同士の戦いが起こる事は珍しいことではない。更に言えば先程まで自分達が苦戦していたフォモールの大群をたった一撃の魔法でまとめて吹き飛ばした事も、ロキ・ファミリアの冒険者達がドムに対して警戒する原因の一つとなっている。

 

 ドムとロキ・ファミリアの冒険者達がしばらくの間見つめ合う形になっていると、やがてロキ・ファミリアの陣営の奥から一人の少年らしき冒険者が現れた。

 

 冒険者の名前はフィンといい、ロキ・ファミリアの団長を務めている小人族(パルゥム)でLv6の冒険者で、外見こそは少年に見えるが実際の年齢は四十に達していた。

 

「やあ、ドム。こんな所で会うなんて奇遇だね」

 

「ええ、そうですね」

 

 他のロキ・ファミリアの冒険者達が緊張した顔をしている中、フィンはにこやかにドムに声をかける。そしてそれに彼も表情を変える事なく返事をして、その声音に敵意は全く感じられなかった。

 

「それでドム? 一体どうしてこんな所にいるんだい?」

 

「? 冒険者は迷宮を探求するものでしょう?」

 

 フィンの言葉にドムは一瞬何を言われたか分からないという表情を浮かべたが、背中に背負ったリュックを見せて答える。その冒険者としたは至極当たり前で、駆け引きや謀が感じられない返答に、心のどこかで「ドムがここに現れたのはフレイヤを初めとする他の神々の差し金では?」と考えていたフィンは苦笑を浮かべて肩をすくめる。

 

「そうだね。冒険者は迷宮を探求するものだよね。……とりあえずはお礼を言わせてほしい。ドム、君のお陰で僕達はそれほど被害を出さずにフォモールの群れを撃退できた」

 

「いえ、気にしないでください。俺の方こそフィンさん、ロキ・ファミリアの戦いに横槍を入れてすみませんでした」

 

 フィンとドムとの会話を聞いて、他のロキ・ファミリアの冒険者達もドムがこちらに敵意を持っていないことを理解して胸を撫で下ろす。そんな時、一人のロキ・ファミリアに所属している冒険者がドムに話しかけた。

 

「おい、種馬野郎。いつもの取り巻きの女達はいないのかよ?」

 

 ドムに声をかけたのは狼人(ウェアウルフ)族でLv5の冒険者であるベートで、種馬野郎というのは何人もの恋人がいてハーレムを作っているドムを呼ぶ時の呼び名であった。

 

「ベート」

 

「いいですよ、フィンさん。今日は俺一人だけだよ。それと彼女達は俺の取り巻きなんかじゃなくて、恋人達だ」

 

 乱暴な物言いのベートをフィンは止めようとするが、ドムは特に気にした様子も見せずにベートに答える。そんなドムの態度か言葉の内容のどこに苛立つ点があったのか分からないが、ベートは不機嫌そうな顔となって吐き捨てるように言う。

 

「ハッ! だったらさっさと地上に戻ってその恋人達と乳繰りあってろ! 俺達は遠征の途中なんだ。お前は邪魔だから早く消えやがれ」

 

「ベート! 言葉がすぎるぞ!」

 

 ベートの乱暴すぎる物言いに、彼と同じ所属であるロキ・ファミリアの冒険者達ですら顔をしかめ、フィンが先程よりも激しい口調で諌める。しかし言われた本人であるドムは相変わらず気分を害した様子もなく涼しい顔をしていた。

 

「……そうだね。確かにこれ以上ロキ・ファミリアの邪魔をするわけにもいかないな。フィンさん、お邪魔してすみませんでした。遠征、頑張ってください」

 

 ドムはフィンにそう言うと、あっさり背を向けて上層への階段がある方向へと向かっていった。その背中からはここまで来れたことへの未練など全くなく、むしろいつでもやって来れるという余裕が感じられて、ベートはドムの背中を忌々しげに睨み付けていた。

 

(まあ、ベートが苛立つのは無理もないか……。ここまで冒険者としての格の違いを見せつけられたらね)

 

 フィンはドムの背中を睨み付けているベートを横目で見ながら内心でため息を吐く。

 

(まさか、初めて『階層主』を倒してからたった一年で、単独でここまで来れるようになるなんて……。相変わらず凄い成長速度だよね、ドムは?)

 

 この迷宮には「階層主」と呼ばれる特定の階層のみに出現する特殊なモンスターが存在する。階層主はその名の通り、自分がいる階層を支配している強大なモンスターで、たった一匹で数十人の冒険者の集団を全滅させることもできる非常に危険な存在であった。

 

 そして今フィン達がいる四十九階層は「バロール」という階層主が出現することがあり、今から一年ほど前にここでロキ・ファミリアを初めとする複数のファミリアの冒険者達による合同パーティーでバロールの討伐戦が行われた。その合同パーティーの中には、当時Lv6になったばかりのドムも参加していた。

 

 魔法使いであるドムの役割は当然ながら後方からの魔法による砲撃。ドムと同じくバロールの討伐戦に参加していたフィンはそこで初めてドムの本気の、先程フォモールの大群を吹き飛ばしたのとは比較にもならない魔法を目にした。

 

 ドムが「詠唱してから」放った魔法はバロールの体の大半を焼き、様々な魔法や呪いの力を有する魔眼を潰し、バロールの戦う力のほとんどを失った。フィンやドムを初めとする冒険者達は最終的にバロールに勝利したが、この勝利に最も大きく貢献したのがドムの魔法であったのは誰から見ても明らかであった。

 

 この功績によりドムはLv6になったばかりだというのにLv7に昇格して、「炎王(ムスペル)」という二つ名を神々から与えられたのだ。

 

 それから一年経った今、ドムは一人でこの四十九階層に苦もなく辿り着くまでに成長していた。その成長ぶりを見て何も感じない冒険者はいないだろう。フィンの隣にいるベートは特にそうだ。

 

 ベートは言い方こそ悪いが強くなろうとする意思が人一倍強く、今もドムに乱暴な物言いをしたのだって彼が嫌いだからではなく、自分とドムの力の差に苛立っていたからであった。それを理解しているフィンは横目でベートを見てから視線をドムが消えていった方へ向け、心の中で呟く。

 

「あれがLv7、オラリオで最高位の冒険者か。遠いな……」

 

 フィンもオラリオで数人しかいないLv6の冒険者として今まで活躍してきた自覚も誇りもあるが、それでも一年前の出来事と今日一人で四十九階層まで到達したという実績から、自分達とドムに大きな差がある事を思い知らされて思わず呟くのだった。

 

 

 

 

 

 思わずロキ・ファミリアに助太刀をしたが、それはやっぱり余計なお世話だったようだ。フィンさんは感謝の言葉を言ってくれたけど、ロキ・ファミリアの幹部であるベート君は不満を隠す事なく文句を言ってきて、恐らくは彼の言葉がロキ・ファミリアの本音なのだろう。

 

 とりあえず今日のところはベート君の言う通りダンジョンを出ることにした。これ以上ロキ・ファミリアの邪魔をしたら彼らと戦う事になるかもしれないからね。

 

 オラリオの二大派閥であるフレイヤ・ファミリアとロキ・ファミリア。この二つはいつか雌雄を決するべくぶつかり合うかもしれないが、それを決めるのは互いの主神であるフレイヤ様と神ロキで、俺の独断で戦争の口実を作るわけにはいかない。

 

 ……まあ、フレイヤ様だったらもし戦争の口実を作ったとしても、それはそれで面白いと笑ってすませてくれそうだけど。

 

 それにしてもベート君ってば、もう少し言い方を優しくできないのかな? いくらなんでも乳繰りあうだなんて、せめてデートって言ってほしいのだけど。……でもデートか。それもいいかもしれないな?

 

 考えてみればここのところ彼女達とは一緒に迷宮に行くだけだったし、ここら辺でデートに行くのもいいかもしれない。幸い、四十九階層に行くまでにモンスターから大量の魔石やドロップアイテムを手に入れることができたから、これを売り払えば皆とちょっと豪華なデートができるだろう。

 

 そうと決まると俺は急ぎ上層を目指し、四十九階層に来た時よりも短い日数で迷宮を出ることができた。そして俺は迷宮を出てすぐに魔石とドロップアイテムを換金すると、フレイヤ・ファミリアのホームに戻り恋人達の元に向おうと思ったのだが……。

 

「ドム。単独で四十九階層まで到達できたそうだな。どれだけ力をつけたのか確認してやる」

 

 と、ホームの入り口で待ち構えていたオッタルさんに捕まり、そのまま模擬戦をすることに。

 

 いや、ちょっと待って? 俺が望んでいるのは恋人達との出会いやデートであって、オッタルさんのような武人からの模擬戦のお誘いはノーサンキューなんですけど?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。