じゅーにがつ なのか
きょー は あさから あおい おおいそがし 。
おとなり の ひと に うるさい よ って ちゅうい してきた ん やて。
かお しらん け ど とて も こわ い ひと やった 。
はんせー して しずか に してくれる いうてた から よかった わ 。
で おひる から ひとさがし 。
だいがく いって このひと しらんかて まわった ん やて。
おしゃべり な おばちゃん が いえ おしえてくれた らしい よ 。
ええ ひと やん 。
ゆうがた かえって きて おむらいす つくって くれ てん 。
でも あおい きょー は よる おしごと て そと いっちゃた 。
うち は いま でも あおい だいすき 。
やけど あおい は どうやろ 。
あした でーと いく ねん て 。
あした は ごはん つくって くれない ん かな 。
さびしい な。
(琴葉茜の手記より抜粋)
●
「よう」
ギャラ子が〈ARIA〉に現れたのは午前10時少し前。私がフレンチ・トーストの到着を待つために新聞を開いていた時だった。芸能欄【音街ウナ新作シングル『天国の君へ~I LOVE YOU~』が100万ダウンロード突破のメガヒット】の記事を読んでいた私は新聞を下ろし、向かい席に座ったギャラ子の方を見た。
ギャラ子は医者という事もあって、オフの日にはコートの様な丈の長い服を嫌う。白衣を連想してしまうからだそうだ。これにより日本女子の平均身長より高いギャラ子は服の選択肢を更に狭める。冬の仕事帰りや遊びに行く時は大抵、ジャンパーにジーパンの男子スタイルが基本だった。
しかしどうだろう、目の前の彼女は紺色のセーターと黒いロングスカートに身を包んでいた。首周りの黄緑色のスカーフも素敵だったし、肩掛けの黒い鞄もオシャレだ。心なしか、化粧もいつもより気合いが入っているように見える。片方だけ耳に掛けた髪が元来スレンダー美人である彼女を更にセクシーに見せる。
私は素直に思った事を口にした。
「あの……どちら様ですか?」
「あ?似合ってないなら素直にそう言えよ」
口を開いたらいつものギャラ子だった。
頬を赤らめながら視線を合わせてない所を見るからに、少なくとも自分では『似合ってない』と思っているらしい。さらけ出された耳が真っ赤になり、それを手で隠した。爪は短く切りそろえられ、赤色のネイルがキラキラと輝く。
「なんだギャラ子か。ごめんよ。突如現れた美女をどう口説こうか迷ってた」
「くっそ、なんで浮かれんだろうなぁオレ……」
ギャラ子がそう呟いたのは、ひとえに私の服装に原因があるのだろう。なんたって昨日と同じくシャツ+ズボンにカーディガン、今は預けているがコートの普段着スタイルだからだった。
「そう言うなよギャラ子。ほら、今日のカーディガンは紺色だぞ?ペアルックじゃん私達」
「納得いかねぇ……」
非常に不機嫌になったのか、ギャラ子は鞄からピアニッシモ・プレシアとライターを取り出し、火を着け吸い始めた。軽いタバコ吸いやがって。そんなの無いのと一緒でしょうに。
「ギャラ子。私、今から朝食なんだけど」
「それがどうしたヘビースモーカー」
どうやら取り付く島もないらしい。仕方なく新聞に目を落とすと、フレンチ・トーストとコーヒーを手にIAさん……ではなく弦巻姉さんが現れた。彼女は学業の傍らここでたまにアルバイトをしているのだ。ウェイター姿が妙に板についている。
「葵ちゃんお待たせー。うわっ、ギャラ子ちゃん今日良い感じじゃん」
「お前もオレをバカにするのか?」
「やだなぁ、そんな訳ないじゃんマジでイケてるって。で、ギャラ子ちゃんもトーストいる?」
「……いや、メシは食ってきた。コーヒー頂戴」
「はいよー」
弦巻姉さんがカウンターの奥へと消えると、今度はIAさんが現れ、ギャラ子の横に座った。私は目の前の健康志向を一撃で粉砕するような身体に悪いフレンチ・トーストを頬張り始める。美味いなぁ。
「やっほーギャラ子ちゃん。今日は葵ちゃんとのデートでキメキメだねぇー」
「そうなんだけどよォ、見ろよ葵の格好。普段着だぞ普段着。ちょっとオシャレしたオレがバカみたいじゃん」
「あれ、今日のデートは午前中に服を買いに行くってONEちゃんから聞いたけど」
「なんだって! マジか葵!?」
食事中に話しかけるとは無粋な奴め。とりあえず私は左手の親指を立てて肯定のジェスチャー。ギャラ子に笑顔が戻る。
「そうだよなぁ、よくよく考えたら葵いつも似た格好だもんな!」
「ギャラ子ちゃん、葵ちゃんに可愛い服選んであげてねー」
「よっし任せろ!な、IAちゃんは葵にどんな服着せると一番似合うと思う?」
そこから20分程、ギャラ子とIAさんによる『琴葉葵ファッションショー』の妄想が始まった。特に興味のなかった私はゆっくりとフレンチ・トーストを堪能し、皿を空にしてからコーヒーのお代わりを頼んだ。私の分と、ちゃっかり自分の分のコーヒーを用意した弦巻姉さんが隣に座り適当な雑談に華を咲かせていると、『フリフリレースのドレスを着せよう』という呪文と共にギャラ子とIAさんの会話が打ち切られ、私の方に視線を向けた。
「待たせたな」
「私はスカートなんて穿かないぞ。絶対だ」
「明日からスカートしか選べなくなる様なコーデ考えてやるぜ」
朝食代を払い終わった私とギャラ子は、IAさんと弦巻姉さんに見送られて〈ARIA〉を出た。弦巻姉さんとは夜にまたここで集合して飲む約束をした。向かう先は〈きづな〉から少し離れた所にある駐車場。愛車であるフィアット500ちゃんに乗り込んだ私は助手席にギャラ子を招き入れ、エンジンを入れた。
「バットマンってさ、なんでアベンジャーズに呼ばれないんだろうな?」
「テメェ今度その話題を振ってみろ。二度とその口聞けなくしてやる」
ギャラ子が私のフィアット500ちゃんのダッシュボードを改造した、バットマン専用棚のコミックを読みながらそんな事を言ったものだから、私はつい強く反論してしまった。日本人にはジャンプとサンデーの違いは分かってもマーベルとDCコミックの違いは理解できないらしい。
「悪かったって、そう怒るなよ」
対してギャラ子は事の重大さを理解してないのだろう、会話を早々に打ち切ってコミックに視線を落とした。
彼女が持つ【バットマン・ゴッサム・バイ・ガスライト】は19世紀ゴッサムを舞台にバットマンが暴れる公式IF世界の話だ。本編の様な超化学ガジェットでの派手な戦いはないが、スチームパンク風にアレンジされた装備達はオシャレ度が別作品と比べても群を抜いている。しかしギャラ子はこの素晴らしい芸術センスには無頓着なのか適当に読み進めてしまうのだ。これでは私と轡を並べてハービー・デントの素晴らしさを語り合う未来は夢に等しい。仕方なく私はフィアット500ちゃんの運転に集中する事にした。
私の住む町は駅を中心に南北に広がる。〈ARIA〉や〈東風〉、〈きづな〉に〈結月堂〉と私の活動圏のほとんどは南側に集中しているが、ギャラ子の勤める〈実乃村医大付属総合病院〉や弦巻姉さんが通う〈薄井楼大学〉は北側にあるのだ。今回はそのいずれにも用事がないのでスルーし、私は車を北に走らせていた。駅から15分真っ直ぐ直進すると横幅20メートル越えの一級河川〈藍川〉へと出る。橋の中心がちょうど町の境目だ。橋を渡り切った辺りでギャラ子が窓の外を見た。
「お、こっち側にくるのは珍しいな」
「うん。寄りたい服屋と目的地がここにあるからね」
信号が赤になった。停車する前の車と若干車間距離を開けて、私もフィアット500ちゃんのブレーキを踏む。
「言っちゃ悪いがよ、ここからこの町の服屋に行こうと思ったら相当遠回りじゃねぇか?品揃えに関しても駅前の店とそう変わらんぜ?」
「良い店見つけてね。それに、折角のドライブ日和に近場で済ますの勿体ないじゃん?」
「それは言えてるな」
内ポケットからピースの箱を取り出し、一本口に咥える。火をつける前に信号が青になった。
「ギャラ子ォ。火ィ」
「ったく」
渋々と言った調子で鞄からライターを取り出したギャラ子が私のタバコに火をつけてくれた。大手コンビニに標準で置いてあるだろうタバコの中でもニコチンとタール量がぶっちぎりに多い煙が私の灰を満たす。ギャラ子も自分のタバコに火をつけた。車内が二人のタバコの煙で充満する。ギャラ子はまたコミックに目を落とした。
「吸いながら読むのは良いけど、私のバットマンに灰落とすなよ」
「わーってるって」
目的地手前まで来たので、私はフィアット500ちゃんを右折させた。
「葵。なぁ、おい」
最初の目的地である『服屋』の駐車場に到着した。のは良いのだが、ギャラ子はとても不機嫌そうな目で私を睨みつけている。高校時代、たったのこれだけで当時一番不良だった生徒を半泣きにさせたギャラ子の目は年季を増して更に破壊力を増していた。私でも少々チビリそうだった。
「何?」
しかし負けてなるものか。吸い終えたタバコを灰皿に突っ込みながら、ぶっきらぼうに答えてやる。
「お前、今日『デート行こう』っつったよな?」
「うん」
「お前、『服選ぼう』つったよな?」
「そうだね」
「普通さ。常識的に考えてさ。女子二人がデートで服選ぶのにさ。こう、あるじゃん?」
ギャラ子はなんとか言葉を選んでいるようだった。しかし私は回りくどい言い回しは好きじゃない。はっきりと目の前の『服屋』を見つめながら、私は口を開く。
「なんだよ、女子二人がデートでワークマンに来ちゃいけないのかよ」
「いい訳ねぇだろうがバーロォー!作業服買いに来たわけじゃねぇんだぞ!?」
「バカはお前だよギャラ子。ワークマンに服買いに来たつったらお前、作業服しかねぇだろうがよ」
「そうかそういう事か!葵お前!お前最初っからオレを騙すつもりだったな!?」
「騙してないよ。言ってなかっただけ」
「それを『騙す』っつーンだよバカぁ!!」
目じりに涙を浮かべるほどに叫んだギャラ子はドアを開けた。タバコの煙が充満する車内に新鮮な空気が供給される。
「帰る!!家で寝てた方がまだマシだ!!」
「まぁ待てって」
フィアット500ちゃんから出て行こうとするギャラ子の足を掴む。ストッキング越しでもすらっとした、しかししっかりと筋肉のついた肌触りのいい太ももの感触が伝わってくる。
「触るな変態」
「聞いてくれギャラ子。詳しく話したいんだ、頼む」
「……チッ」
中身は良い子のギャラ子は助手席に再び座ってくれた。腕を組んで露骨に不機嫌さをアピールしてくる。
「騙したのは悪かった。こうでもしないとお前は断ると思ったんだ」
「……そりゃ、あんな言い方してなきゃオレも断るかもしれなかったけどさ、長い付き合いじゃん。ちゃんと事情説明してくれりゃオレも着いてきたさ。そんなにオレ信用ないか?」
いや単にからかっただけだよ、と言おうにもギャラ子はマジで私との『デート』を楽しみにしていたのだろう、目じりの涙が怒り以外も含まれているのを察してしまった。だからはぐらかす事にした。
「なんでだろうな……私、ギャラ子の事が好きだけど、ほら、私ひねくれ者のクソ女じゃん?素直に頼もうとしたんだけどきっと、その、プライド的なそんな感じのものが邪魔しちゃったんだと思う……」
私は胸の前で組んでいたギャラ子の腕を掴み、両手でしっかりと握った。そして真っ直ぐ、ギャラ子の目を見据える。瞳の向こうには青い髪の詐欺師の顔があった。
「頼むギャラ子。私には、お前が必要なんだ。お前じゃないと、ダメなんだ!」
なんて歯の浮く台詞だろうか。こんな言葉を生きている内に吐くとは思わなかった。しかしあながち嘘ではない。ギャラ子がいないと今日の『予定』に差し障るのは紛れもない事実なのだ。
暫く見つめ合っていると、ギャラ子が先に折れた。
「……あぁくそ、分かったよ!手ェ貸すよ!それで文句ないだろ!?」
「流石ギャラ子!愛してる!!」
「やめろ狭い車内で抱き着こうとするなァーッ!!」
私の愛の抱擁を全力で拒否するギャラ子だったが、その顔に既に涙はなかった。
最低限必要なのは二人分の作業着だけだった。残りの『道具』は〈ARIA〉で朝食を済ませる前に知り合いからレンタルしていたからだ。私は作業着売り場を適当に物色。ずっと見ていると目がイカれそうなオレンジ色の作業着を二着、それぞれMとLを見つけて買い物籠に突っ込んだ時、後ろにいたはずのギャラ子が消えている事に気が付いた。興味なさそうだったし、もしかしたら店の前でタバコを吸っているのだと思っていた私はレジへと向かう。作業着売り場はレジから一番遠い場所にあったので必然的に他のエリアを視界の端に捉えながら移動すする羽目になるのだが、警備員用の道具が置かれているエリアで、警棒を子どもみたいに振り回すバカを見かけた。見ない振りをしてレジに向かおうとしたら、そのバカが私を見つけた。
「おい葵見ろよ!警棒だ警棒!ちゃんと光るぞ!オレ初めて持ったわ!」「カラーコーンがいっぱいだ葵!地面に置いてないから汚れてない!一度やってみたかったんだよ両手につけてドリルゥ~」「なぁ葵見ろって!祭りの法被だ!こんな所に売ってたんだな!ん?なんで12月にも置いてるんだ?ま、いっか!」「葵ー!!」
「うるせぇ黙れぇーーーーーーーーッ!!」
平日の昼間からワークマンのど真ん中でバカ騒ぎする20代半ばの女子二人は、果たして他の人の目にはどう映ったのか、私にはわからない。知りたくない。頼むから教えないでくれ。
「……」
「……」
ワークマンから出た私とギャラ子はフィアット500ちゃんの中に戻ってきた訳だが、変な沈黙が車内を支配していた。二人揃ってペアルックの作業着を着こみ、帽子を目深にかぶる姿はシュール極まりない。
「何だよコレ間抜けな誘拐犯みたいになってんぞ」
ギャラ子が怪訝な様子を見せる。胡散臭さに関しては私も感じているが、それでも押し通さねばならないのだ。
「安心してくれギャラ子。私達が今から行うのは立派な慈善事業だ。法に触れる様な事はしない」
「当たり前だ。そっちは無職かもしれないが、オレは医者だぞ」
「大丈夫心配すんなって。とりあえず先にコンビニでコーヒーとタバコ補充しよう。目的地は遠いぞ」
「じゃあ今着替える必要なかったじゃねぇか……」
項垂れるギャラ子を横目に、フィアット500ちゃんは再び町を駆け始めた。
目的地までは高速に乗って東に約三時間。そう言うとギャラ子がまた機嫌を悪くした。
「で、どこ行くんだよ。あ、嘘つくなよ」
「タカハシ君の実家だよ。昨日調べた住所とグーグルアースで目的地周辺の調査は完了している。私に抜かりはない」
「ほんとかねェ……」
一時間程高速を走ってから、道中のパーキングで小休憩。トイレと食事を済ませ、再び二人旅に戻る。
「おい葵。さっきから追い抜かされまくってるぞ」
「隣は追い越し車線だからな」
「もっと飛ばせないの」
「相棒を悪く言うな。この子だって必死なんだぞ」
「車が?」
「今時人間同士のカップリングに拘ってるとか化石も良い所だぞギャラ子」
「そんなもんかねぇ……」
「葵。この車さ」
「うん」
「長距離移動向いてないよ。ケツが痛てぇ」
「車高低いから天井近いしな」
「そうだよ。なんでこれチョイスしたんだよ。ホンダのネクサスとかにしろよ」
「お前が欲しいだけだろふざけんな」
「〈ARIA〉、毎朝行ってんの?」
「毎朝行ってんの。メニューも固定よ」
「……あのさ葵。友人というか、医者の観点から言わせてくれ」
「おう」
「お前、多分味覚障害患ってるよ」
「あの激甘フレンチ・トーストの事言ってんの?分かってるに決まってるじゃん」
「お前絶対長生きしないぞ……」
「そういやギャラ子。最近どうなのさ仕事」
「どうって何さ」
「法医学者としての仕事だよ」
「オレが暇ってことはな、人が死んでないって事だよ」
「でもアレじゃん。司法解剖できる奴って日本でも限られてるじゃん」
「そうだな。今でも『解体待ち』の列がある訳だ」
「なんで暇なの?」
「……隣町に腕利きの人がいてオレの存在が霞んでるの。これで満足か中退」
「ありがとう二浪」
「……弦巻姉さんさ」
「おう」
「なんであんなにおっぱい大きいのかな?」
「………なんでだろうなぁ。でもアイツ、母親も巨乳らしいしなぁ」
「私をロリ巨乳の沼に叩き落した元凶だからな」
「何だお前、マキの母親知ってんのか」
「幼なじみだよ知らない訳ないじゃん。数年会ってないだけで弦巻姉さんの胸凄い事になったのも知ってるからな。やっぱ遺伝なのかな」
「…普通さ、バストDって巨乳だよな」
「うん。大きいよギャラ子のおっぱい」
「でも男ってこれを『小さい』とか『普通』とか言うよな」
「そうだよね、死ねばいいのにね」
「やめろ誰が解剖すると思ってるんだ。……でもさ、マキ隣に並ぶとそう思われるのも納得だよな」
「遺憾ながらね」
「……大きいの、良いよなぁ」
「いいねぇ……」
「揉みたいよなぁ」
「揉みたいねぇ……」
「帰ったら、揉むか」
「うん。更に大きくするお手伝いしてやろう」
「「……はぁ」」
「なァ、これならマキ呼んでも良かったんじゃね?」
「そう思うけどさ、流石に二人分給料は出せないよ」
「なんだ、お小遣いくれるのか!?」
「うん。それに見合う仕事はしてもらうけどね」
「そうか。じゃ、この陰鬱なドライブも少しは有意義になるってモンだな!」
「移動中に時給は発生しないよ」
「ブラック企業め」
「保険も効かないからな。そこんトコよろしく」
私の懇切丁寧な企業方針の説明はお気に召さなかったのか、ギャラ子は車のラジオに手を伸ばした。丁度昼の番組の代わり時だった。よく舌の回るパーソナリティーが番組に当てられたお便りを読み上げ、それに対してコメントしていく。行きつけの美容院がラジオを垂れ流しにしているせいか、どうも普段聞かない私には『ラジオ=美容院』という変なイメージがあった。しかしギャラ子は気にしていない様子。ラジオの声に耳を傾けつつ、ボーっと外を眺めている。
お便りを一通り答え終わると、リクエスト曲を流す時間になった。今日のリクエスト曲は今絶賛話題の大人気アイドル、音街ウナちゃんの新曲『天国の君へ~I LOVE YOU~』だった。普段は明るいポップな歌ばかり歌う彼女にしては珍しく、とても静かで悲しい曲だった。
「この曲ってさ」
ウナちゃんの歌が終わった辺りで、ギャラ子が不意に喋り出した。山が近くなってきたからか、少し遠くに聞こえる。
「んー?」
「なんか、悲しいよな」
「そりゃそうだよ」
私は頷いた。そして昔見た新聞の記事を思い出す。
「なんでもウナちゃん、一年前に小学校の時からずっと仲良しだった友達を亡くしちゃったみたいで、その子の為に作詞した曲なんだって」
「小学生の時から…って事は単純計算で5年以上の付き合いはあったんだな。あの年でそんだけ付き合いのある子と別れるのは悲しいよなぁ」
「そうだなぁ」
いつになく感傷的になる私達。
この曲は『天国に行った大切な友へのメッセージ』であると同時に、私達に『今ある友情愛情の大切さ』としみじみと、しかし心の奥底まで訴えかけてくるのだ。
「なんか、こういうのはダメだなオレ達」
「うん……」
大人になると涙もろくなるというが、これは人生経験が豊富であればあるほど、ちょっとしたことで心が揺れるらしい。そして私達は人生経験が豊富なので心へのダメージが非常に大きい。ギャラ子は二浪した時の辛さと友人からの励ましでも思い出しているのだろう。私は大学を辞めた時のイザコザと、姉を看病して生きる今の介護生活が脳裏に響く。早く元気になって欲しいのは本心だが、もしこのまま続くならどうしよう、という不安もある。
このままウナちゃんの歌の感傷に浸ると目的地に着くころにはず精魂尽き果てているかもしれない。現に今にも泣きそうだもん。
「ダッシュボードの下にCDケースあるよ。ギャラ子適当に見繕って」
「おう。テンション爆上がりするヤツ選ぼう」
そう言って選んだ一枚のCDをデッキに挿入する。ギターによる派手なイントロが流れてきた。BARNABYSの【スキマミマイタイ】だ。ドライブ中にテンション上げるには最高の曲じゃないか!
高速を降りるまでの時間、私達はテンションの昂る様な曲を連続でかけ、車内アカペラカラオケを堪能した。