琴葉葵はバーにいる~吸血鬼殺人事件~   作:一条和馬

6 / 15
12月8日〈昼〉

     ●

 

 時刻は15時を少し過ぎた所、私達は目的地であるタカハシ君の実家前へと到着していた。小高い丘を切り開いた高級住宅街、その中の一つがタカハシ邸だった。

 

「うわっ、すっげー金持ち……」

 ギャラ子が間抜け面でタカハシ邸を見上げる。赤い三角屋根に純白な壁。明らかな西洋建築だった。最も、建物に関する知識など私にはさっぱりなので、これがどの国ゆかりの建築様式なのかは理解できない。こういう分野はどちらかというと弦巻姉さん寄りの領分だ。

「きっと生まれた時から何でもあったんだろうな、少年がヒモになるわけだ」

 何やら一人で納得しているギャラ子をよそに、私はフィアット500ちゃんのトランクを開けた。何回も確認したので当たり前だが、備品はちゃんと揃っている。

「ギャラ子、これ持って」

「あ?」

 

 作業着を来た長身の女がのしのしと歩いてくる様は実に圧巻だ。やはり弦巻姉さんじゃなくてギャラ子を選んで正解だったと思う。説得力が段違いだ。

「なんだこれ、芝刈り機?」

 トランクの中を見たギャラ子が露骨に面倒くさそうな顔をする。

「なにさ、鎌の方が良かった?」

 軍手を手渡す。私は自分の分の軍手と鎌、それとビニール袋を取り出した。

「まさかまさか。大変うれしゅうございますよっと」

 

 ここまで来て「やっぱやだ帰る」とも言えないギャラ子は渋々と言った感じで芝刈り機を掴んでくれた。エンジンに車輪と取手を付けただけのシンプルなデザインだが、単純に重い。私ではトランクに乗せるのに相当苦労したものだ。しかしギャラ子は苦しそうな表情一つ見せず軽々と持ち上げる。

「む、結構重いな」

「そういう顔しろよ説得力ないなぁ」

 

 トランクを閉めた私はタカハシ邸の前に向かう。鉄製の重厚な門の横には、最新式であろうインターホンが設置してある。

「あ、ごめんギャラ子。私の髪二つくくりにしてもらっていい?ゴムは私の右ポケットにあるよ」

「えーっ、自分でやれよぅ」

 文句を垂れるので鎌をチラつかせてやる。仕方なくと言った調子でギャラ子は後ろから抱きつく様な姿勢で右ポケットに手を突っ込み、黒いゴムを取り出した。1分もかからずに私の肩まで伸びる髪を二つくくりにまとめる。

 悲しい事に【いつもの三人】の中で私は女子力が最底辺なのだ。料理と身だしなみを姉に任せっきりだったのが不味かった。

 

「ありがとう。ギャラ子お前、一応離れとけ」

「ん?おう」

 素直に門の前から離れてくれた事を確認した私はインターホンを押した。数秒待つとガチャ、という音が聞こえてきた。

 

『はい』

 スピーカーからは落ち着いた女性の声が聞こえてきた。しかしやはり高いインターホンはすごいな、ノイズが全然入ってないじゃないか!

「おはようございます!わたくし清掃業者DSAエージェンシーの鈴木と申します。ご予約を承りましたお庭の草刈りにやって参りました!」

『あの、どこか別のお宅と勘違いしていませんか?』

 

 スピーカーの向こうから怪訝そうな声が返ってくる。当たり前だ、私も初耳だからな。

「あれ?おかしいな……タカハシ様、で間違いないですよね?」

『確かにこの辺りに住んでるタカハシはウチだけですけど……』

「あれ、でも確かにタカハシ様から……あ!申し訳ございません!息子様から言伝を頂いていたのを忘れておりました!『親孝行だ』だそうです!」

『まぁ、あの子がそんな事を!? 今ロックを解除しますね!お庭でお待ちしております!!』

 再びガチャ、という音が鳴り通話が切れる。同時に門から何かが動くような音が聞こえてきた。

 

「やったぜ」

 私はギャラ子にガッツポーズしてみせた。ギャラ子は肩をすくめて応える。

「葵お前さ、これが失敗したらどうしてたの?」

「何も考えてなかった。上手くいって良かったね『黒さん』」

「誰だよ黒さんって……あ、もしかして」

 私の『偽名』の意味に気が付いたギャラ子が声をあげる。嫌な仕事も創意工夫を凝らして楽しく挑まねばならないのだ。

「じゃ、メゾっと仕事しようじゃないか。ちゃんとしないと晩御飯にありつけないよぅ?」

「おい待てあお…みっ、海空来(みくら)!せめてあさみちゃんにしてくれよぉ!」

 文句を言いながら芝刈りを担ぐギャラ子と共に、私はタカハシ邸の門をくぐった。

 

 

 

 

「すいません、どうも私一人だとお庭の手入れも大変で……」

 タカハシ夫人(仮)は落ち着いた雰囲気の、いかにもなマダムであった。大学生の息子を持つ事から相当お年を召されている筈だが、30代と言っても押し通せるような肌の艶があった。四捨五入したら30歳になる私は内心焦る。

「えぇ。確かにこれは我々にお声かけ頂くのも納得です」

 

 タカハシ邸の庭はテニスコート一つ分程の広さがあった。しかし、それは全体の概算だ。家の周りを囲むようにある庭は一面だけ見るとそう広くはない。12月という事もあって庭に植えられた木には緑が乏しかったが、その分無作法に伸びた草が嫌な存在感を醸し出していた。

 

 私はギャラ子改め『黒さん』に指示を出した。芝刈り機で大まかに刈り取って、細かい所は私が鎌で刈り取っていく。

 

 初めは嫌そうな顔をしていた『黒さん』だが、面白い位に草が刈り取れる事にテンションが上がった彼女がノリノリで仕事をしてくれた。おかげで、二時間以上を覚悟していた草刈りの仕事は一時間足らずでほとんど終わってしまった。やっぱ弦巻姉さんじゃなくてアイツを選んで良かったと本気で思う。

 

 

 

お盆を手に「少し休憩しませんか?」とタカハシ夫人が言ってくれたので、私達は少し休むことにした。

 

「……彼女、『黒さん』ですか?」

「えぇ。『黒川』なので『黒さん』です」

「凄い元気ですね」

「えぇ、それくらいしか取り柄がないので……」

 

 縁側でお茶を頂いていた私はタカハシ夫人と共に『黒さん』を眺めていた。一時間ノンストップで草刈りをしていた彼女だが、今は室内から現れた巨大な白い犬二匹に囲まれて大はしゃぎしている。久しぶりに広い庭を駆け回れた犬達は『黒さん』に大変感謝しているに違いない。強面のせいで病院でも「なかなか子どもが目を合わせてくれない」と嘆く彼女だが、動物にはよく好かれるのだ。

 

「そう言えば」

 空になったグラスを縁側に置きながら、私は『本題』に入る事にした。

「ご依頼人様はご在宅でしょうか?」

「息子ですか?すいません、今はここには居らず……ご存じなかったのですか?」

「いえ!……実はですね、本当は今日の朝お邪魔させていただく予定だったのですが、こちらの不手際によってこんな時間になってしまったので、ご電話を……と思ったのですが、ご連絡が付かなかったものですから」

「あぁ!そういう事ですか!申し訳ありません。数日前、息子の住む大学の寮が火事になったらしくて、近くのアパートを借りてるらしいんですよ!」

「そうなのですか!それは初耳でした…」

 

 いや全くだ。私は白いモコモコに襲われる『黒さん』を眺めながら思考する。

 

 タカハシ君はさとうささら氏の前から姿を消したが、どうやらその前後で実家には連絡を入れていた様だ。

 大方、仕送り関係で連絡をする必要があったのだろう。

 単純な資金や食事調達の他、『不在通知』なんて送られてしまったら親の方から警察に連絡をされかねない。

 大学の方は不登校の生徒の親にいちいち連絡する程『過保護』でもない筈だ。

 やはりこれは計画的、かつ自主的に『行方不明』を演出しているのは間違いなかった。

 

「それで、彼は今どこに?」

「何で知りたいんですか?」

 

 折角仲良くなれたと思ったのに、タカハシ夫人がまた怪しそうな顔を見せる。お金持ちというのは胡散臭い業者からの嫌がらせが多いのだろう。疑わしい行動には敏感なのかもしれない。しかし、私の座右の銘は【最終的に成功すれば失敗じゃない】なのだ。

『切り札』として用意したさとうささら氏とタカハシ君のツーショット写真を作業服の懐から取り出し、タカハシ夫人に手渡した。

 

「あら、これは……」

「えぇ、実はこれを事務所に忘れていきまして……。かなり仲の良さそうなお二人だったので、返してあげた方が良いかなと……」

「そうですか。あの子、まだささらちゃんとお付き合いしていたんですね……!」

 何か引っかかる言い方だった。

「それは一体……?」

「……そうですね。少し恥ずかしい話なのですが、私と……『かつての』夫は非常にその、仲が良くなくて……」

「かつての……?」

 私がそういうと、タカハシ夫人は頷き、話を続けてくれた。

 

「えぇ。もう10年くらいになるのですが……お酒を飲み過ぎた彼は赤信号に気が付かず、車に……よくある話です」

「それは、その、申し訳ございません……」

 

 私は努めて『一般的な人』の反応を演じた。平時なら「酒に酔ったおっさんが轢かれる!?超間抜けじゃんサイコー!!」と手を叩いて大喜びするが、そういう冗談が通じる相手ではなさそうだし、何よりそこまで仲良くない。

「いえ、気にしないでください。非常に他人に厳しい人でした……。とりわけ息子には酷く当たり、私は彼との離婚を考えていた矢先の出来事なので……」

「……」

 

 沈黙で応える。しかし頭の中で一つの疑問が解決した。ヒモ糞野郎なのは親父譲りだった訳だ。

 

「あの子、『親父みたいには絶対ならない!』って必死に勉強しましてね、偏差値の高い都会の大学に合格したんです」

「薄井楼大学、ですよね?」

「はい。そこで犯罪心理学を学ぶと。将来は警察官になるんだとも言っていました」

 

 薄井楼ある町は都会じゃねぇぞ。と思ったが、ぐっと堪える。いちいち上げ足を取っていては人には好かれないのだ。視界の端では『黒さん』が白いモコモコを二体同時にワシャワシャと撫でている。

 

「そんな息子が、大学に入ってすぐ『彼女が出来た』と連絡をくれたんですよ。『絶対幸せにしてやるんだ!』とも言っていました。でも、二カ月くらい前でしょうか。あの子。泣きながらね、電話してきたんですよ『ささらちゃんを泣かせちゃった』って。あんなに父親を憎い憎いと言っていたあの子ですけど、小さい頃に夫だけ見ていたので、正しい『男の振舞い方』を知らなかったのでしょう。きっと無意識に、夫の真似をしていたんだと思います。……私、何も言ってあげられなかったんですよ。母親失格ですよね。あの子泣きながら『どうしよう…どうしよう…』って……う、うぅ……」

 

 感情が昂ってしまったのか、タカハシ夫人の目に大粒の涙が流れ始める。いつもなら女性が泣くとすぐ抱いてあげるが、今の私は作業着に身を包んだ清掃業者なのだ。女性に触れたい衝動を押し留めてポケットからハンカチを取り出した。

 

「すいません……。はぁ、息子がね『どうやったら彼女を幸せにしてあげられるんだ』『なんで俺にはあのクソ親父の血が流れてるんだ…』って電話越しに言うんですよ。私も耐えられなくなって一緒に泣いちゃって……。この間の電話ではその話をしなかったので、てっきりもう別れて、寮に居られなくて嘘ついてたのかもとか思っちゃって……」

 

 成程その線があったか。という考えがよぎったが、それ以上に私はタカハシ君に対して非常に『勘違い』をしていた事に反省した。

 彼もまた私と同じく、現状に苦しみながらも必死に生きている若者の一人だったのだ。

 

「……なんか、ごめんなさいね。この写真見てると、なんというか、色々吐き出したくなっちゃったので……」

「いえ、お気持ちは分かります……出来ればその、息子さんのお部屋を見せて頂けることはできないでしょうか?」

「どうしてですか?」

 私は彼を『糞野郎』だと勘違いした己に恥じながら、頭を掻いた。

 

「いえその、そんなご立派な息子さんに、個人的に興味がありまして……」

「あー…ああ!なるほど!海空来さん、惚れたんですね!?」

「うえぇっ!?」

 なんでそうなるんだよ!と叫ぼうとしたのだが、若い女が頬を赤らめて「男の部屋を見たい」は確かにホの字だわな。なので仕方なく話を合わせることにした。

「えっと、その……はい……」

「ささらちゃんがいるのに、全く困った息子です……良いですよ。折角なので『黒さん』もご一緒にどうぞ」

 

 

 黒さんって誰だっけ?と思ったがそこで犬と戯れているギャラ子の事だった。

「ではお言葉に甘えて……。ギャ……黒さーーん!ちょっとーーーー!!」

「……ん、あっ、はいはい」

 顔や服を犬に舐められてベトベトになった『黒さん』がのしのしと歩いてくる。モコモコ二体も当然の様に着いてくる。

「どうした?」

「タカハシ君の部屋見せてくれるんだって。ちょっと見に行こうよ」

 

 

 

 

 タカハシ君の部屋は屋敷の二階にあった。「こちらです」と通された木製のドアの向こうには、六畳程の洋室があった。

 

 床には青色のフローリングが綺麗に敷かれ、向かって右側には今は使われていないであろうベッド。毛布は柔らかそうで、今飛び込んだら間違いなく三日は熟睡できる自信があった。遠く山が見える窓を中央に、左側には学習机と本棚が一つ。心理学関係は勿論の事、法律関係の本も多く並んでいた。その下にはジャンプの単行本も並んでおり、彼が勉強一本ではない、ごくごく普通の少年時代を送っていたのが伺えた。

 

「あまり面白くない部屋でしょう?」

 流石に触れられないので目を皿にして観察していると、タカハシ夫人が微笑を浮かべた。が、私は感銘を受けていた。なんたって〈きづな〉の私の部屋と違って床が見えるのだ!これだけで私がタカハシ君に人間的に敗北しているのが実感できる。ごめんよタカハシ君。『糞野郎』は私だったわ……。

 

 一通り部屋を見せてもらった私達はタカハシ夫人に礼を言い、庭掃除を再開した。

 

 

 

 そして17時。私は泣きながら犬との別れを惜しむギャラ子を引っ張りながら、フィアット500ちゃんの元へ戻った。

 

 

 

 

「しかしギャラ子、お前。草刈りの才能あるな」

 帰りの車の中、私はギャラ子に声をかけた。後部座席にテニスコート一つ分の雑草が『相乗り』しているせいで、車内全体に大地の匂いが蔓延していた。〈きづな〉の大家さんはビックリするに違いない。

「よせよ恥ずかしい」

「ホントだって。職に困ったら、二人で清掃業始めるか!」

「現に職に困ってるのはお前の方だろ!」

「はっはっは!こりゃ手厳しい!」

 

 ラジオを聞きながら談笑していた私達だったが、高速に乗って風景に変化が無くなった頃に、私は『本題』について話す事にした。ラジオの音量を小さくすると、ギャラ子が察して私の方に顔を向けてくれた。

 

「所でギャラ子。どうだった?」

「ん?ヒロとユキか。ありゃ相当愛されて育ってるぜ」

「誰が犬の話しろっつた前髪エグゼイド!タカハシ君の部屋だよ」

「部屋ァ?」

「『吸血鬼』。何かそれっぽいのあったか?」

 

 そう、私がタカハシ君の実家に用事があったのは、彼の現在地を知るのと同時に〈結月堂〉での不可解な行動を確かめる為でもあったのだ。実家の部屋に一冊でもあれば……と思ったが、そういったものは見受けられなかった。隠している可能性もあったが、タカハシ夫人から聞く『タカハシ君』像からは、そういった隠し事をするようには思えない。

 

「あー、そっちね。なかったよ。おばさんの後ろでコッショリベッドの下も覗いたりしたが、エロ本一冊もなかった。一応壁や天井も見たが、ポスターみたいなのを貼った形跡もなかったよ」

「怪しい所洗ってくれてありがとうギャラ子。やっぱ弦巻姉さんじゃなくてお前選んで正解だったわ」

「へへ……」

 私は素直に褒めることにした。ギャラ子は照れ隠しにタバコを吸い始める。

 

「でもよ、マキでも男の部屋に行ったらまずエロ本探すだろ」

「かもね。でもあの人、そういう所どんくさいから」

 コソコソしようとして顔からこける弦巻姉さんを想像して、二人で笑った。

「〈吸血鬼〉の方はダメだったけど、肝心のタカハシ君の現在地は分かった訳?」

「うん、お前が犬と一緒に最後の芝刈りしてる時に聞いた。少なくとも薄井楼の近くにいるのは確かだそうだ。変に離れると親に怪しまれるしな」

 私は作業着の左ポケットに入れていた走り書きのメモをギャラ子に渡した。

 

「汚ったねぇ字だな。えっと……『C』に『201』?」

「宅急便の伝票無くしたみたいでな。これだけしか聞き出せなかった。だが、薄井楼周辺で頭文字が『C』のアパート201号室…これがわかれば問題ない。そこがタカハシ君の潜伏先だ」

「大学近くのアパートつっても結構な数あるぞ。駅を挟んだ南北入れると更に数は増えるぜ」

「片っ端から回ってもいいけど、ここは〈ミライノタクシー〉のセイカちゃんからの電話待ちかな。タクシーを降りた場所さえ分かれば選択肢はグッと狭まる筈だ」

 

「……すげぇな葵。探偵みたい」

「違う。私はただの無職だ」

「事務所開設して本業にしたらいいのに」

 本気で感心したらしいギャラ子の言葉に、私はため息をついた。

「あのねギャラ子」

「おう」

「事務所開設するじゃん?」

「うん」

「捜査資料とかファイリングしないといけないじゃん?」

「仕事だからな」

「面倒じゃん?」

「まぁな」

「単純に事務所の維持費もかかるし、確定申告とかあるじゃんじゃん?」

「自営業の辛い所な。義務教育でやってほしかった」

「わかる。で、一番の原因」

「おう」

 既に日が傾き始めた空に目を向け、私は言った。

 

「私は、朝に、弱い」

 

 

 

 理由は分からないが、下りは上りよりも若干早く移動できる。

 ラジオを垂れ流しながら高速を走る事2時間。ようやく見知った愛しき我が『町』へと戻ってきた。

 ガソリン代に高速料金、作業着代etc.と金がかかる事が最初から分かっていれば、さとうささら氏から前金2万とか言わずに10万円頂いていたのに。と、思う。

 

「そういやさ、これからどうすんの?」

 狭い車内であくびをしながら、ギャラ子は私に問いかけてきた。

 

 時刻は19時。〈ARIA〉がお酒を出すのが21時。弦巻姉さんが大学を出て〈ARIA〉に着くのはいつも22時以降。狭い〈東風〉は今行っても席が取れる筈もない。これも全部ギャラ子の草刈りが優秀過ぎたせいだ。なので私は脳内葵ちゃん会議の結果を素直に口にした。

「どうしよう」

「何も考えてねぇのかよ。……それにしても臭いな」

「草だけに?」

「るせぇ。あーあ、せめて着替えだけでもしたいぜ……」

 

 信号が赤になったので停止した。目の前には〈藍川〉にかかる橋がある。

 私はギャラ子の顔を見ようと左に視線を向けた。そこである建物を発見した。

「〈ホテル・サウダーデー〉……」

 

 所謂『ラブ・ホテル』と呼ばれるものだ。確か『黄金の外見』を売り込みにしていたが近隣住民の猛烈な反対で黄色いペンキに落ち着き、『黄金』の話題性で客を取ろうという当初の目論見が外れた〈ホテル・サウダーデー〉は赤字ギリギリという話だ。剥がれた黄色いペンキすら塗り直せない所からもどれだけ業績が苦しいのかが伺える。どこも大変だ。

 

 しかし、私達が一番必要なのは『着替えられる部屋』と『汗を流せるシャワー』だ。

そして正直、一日中ずっとギャラ子と一緒にいた事で己の中のレズが疼いて仕方がない。

 

「ねぇ、ギャラ子」

「…負けた方が、〈ARIA〉で奢りな」

「今日はずっと私に付き合ってくれたからな。先にタチってくれて良いよ」

「年下の癖に余裕みせやがって。見てろよヒンヒン言わせてやるぜ!」

 

 流石、察しが良い女だった。信号が青になる直前に方向指示器を点滅させた私はフィアット500ちゃんを左折させて〈ホテル・サウダーデー〉へと向かう。

 

 

 

 【勝負】の内容は簡単だ。今回は譲ったが、いつもは最初にじゃんけんで【受け責め】を決める。タイマーを二つ用意し、『受け』側のタイマーだけ起動するのだ。で、一回『果てる』事にチェンジ。最終的に長く耐えた方が【勝利】という訳だ。

 

 

 

 で、私は恥ずかしながらじゃんけんがすこぶる弱い。

 

 しかし、ギャラ子との勝負は常勝無敗だった。

 

 〈ホテル・サウダーデー〉の一室で、全裸のギャラ子がヒンヒンと鳴いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。